相沢沙呼『卯月の雪のレター・レター』あらすじとネタバレ感想

相沢沙呼さんの「卯月の雪のレター・レター」のあらすじと感想をまとめました。

日常のちょっとした謎が明らかになる話を集めた短編集でした。5つの短編すべてが女性一人称の主人公のせいか、全体的に可愛らしい雰囲気の本でした。

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「卯月の雪のレター・レター」書籍概要

妹思いの姉に冷たくあたるようになった、高校生の妹の変化と不可解な行動の理由とは。クラスで嘘つき呼ばわりされている小学生の女の子が、教育実習生にある事件を目撃したと言うのだが、はたして本当か。祖父に届いた手紙を巡る謎を女子高生が追う表題作ほか、揺れ動く少女たちの心と、温かさや切なさに満ちた謎を叙情豊かに描く全5編。青春ミステリの名手が贈る珠玉の短編集。「BOOK」データベースより

  • 卯月の雪のレター・レター(2013年11月/東京創元社)
  • 卯月の雪のレター・レター(2016年3月/創元推理文庫)

小生意気リゲット

高校生の妹シホとの二人暮らしは順調に進んでいた。けれど一月ほど前からシホの様子が変わり、姉であるわたしに対して不愛想、ぶっきらぼう、冷たくなった。家でもほとんど会話もなく、外で何をしているのかも分からない。それまでは仲が良く、アルバイトをしたいと言っているシホに履歴書の書き方を教えていたのに、大好きなハンバーグを作っても半分しか食べてくれなかったうえ、ハンバーグは好きじゃないと言われてしまった。

妹との生活のため、わたしは大好きだった絵を諦め働いている。少ししかお小遣いを渡せないせいか、叔父から内緒でかかってきた電話で、わたしはシホが叔父にお金を借りたことを知った。両親がいなくなり叔父夫婦の家で暮らしていたシホと、私の就職を機に暮らし始めたのは間違いだったのかもしれない。シホは叔父の所にいた方が楽しく暮らせたのかも。友人の電話で、わたしはシホが学校近くのコインランドリーを使っていることを知る。家の洗濯機は壊れていないのになぜ? 叔父に借りたというお金、遅い帰宅時間、きつい匂いの香水、コインランドリー……シホはいったい何をしているのだろう。

妹のことが分からない。今の生活を、シホのことを手放した方がいいのかもしれない。そんなことを考えながら買い物帰りに公園を見ていたわたしは、唐突に気が付いた。そして禁止されているシホの部屋に忍び込むと、目当ての物を見つけ出した。

 

姉は妹のために行動し、妹は姉に嫌われたくなくて行動していました。妹想い、姉想いの姉妹の話です。

こそどろストレイ

大雪が降り積もり歩きにくい中、サキと加奈は同級生の黒塚百織(しおり)の家へと遊びに行った。黒塚邸は漫画や映画の中でしか見ることがないような豪邸で、長く続く塀沿いに歩いてようやく正門に辿り着く。雪に足を取られて加奈が何度も転ぶ中、サキは「かおり、しおり、さおり、こたろう」と呪文みたいな言葉を口ずさむ。

百織の小学生の妹・沙織と4人でたこ焼きパーティーでたこ焼きを焼いていると、父親が姿を見せた。最近近所で泥棒被害が起きているので気を付けるようにという。たこ焼きを食べ終えた4人は、次にボードゲームをすることになり、沙織が蔵にしまってあるというゲームを取りに行った。ゲームは6人まで遊べるようになっていたので姉の圭織(かおり)にも声をかけてはどうかという加奈に対し、沙織は圭織のことが嫌いだという。沙織のせいで母親が死んでしまったので圭織が沙織を嫌っているからだと主張する。

その後、泥棒の話を気にして蔵にあるという花器を見に行った百織が、なくなっているのに気が付いた。父親によると今朝はちゃんとあったという。雪の上についた足跡は、ゲームを取りにいった沙織、花器の確認に行った沙織と父親が往復する足跡しか残されていなかった。状況から犯人は沙織では?とサキは考えるものの、花器はサキでも手が届かない高い棚に置かれていたため小学生の沙織が持ちだせたとは思えない。周囲に梯子や踏み台になるようなものはなかった。泥棒はどうやって足跡を残さず蔵まで行き花器を持ち去ったのだろうか。

騒ぎを聞いて顔を出した圭織に話して聞かせると、彼女は数日前に花器を割ったのは自分なので足跡がないのは当然といい、”自首”をして警察沙汰になる前に事件は解決した。だがサキは、今朝花器を見たという父親の話との矛盾や、圭織と沙織がお互いから嫌われていると思い込んでいることなどから、犯人は小太郎で花器を持ち去ったのは沙織だと結論づけた。

 

圭織は沙織を庇うために自分が割ったと嘘をついたのでした。伏線は張られていて見破りやすいのですが、叙述トリックでした。

チョコレートに、躍る指

事故が原因で入院しているヒナは、常に孤独の中にいた。見舞いに来た私に、最近あまりお見舞いに来てくれなくなった、スズがいないと退屈と言う。きちんとリハビリを続ければ歩けるようになると言われたけど、無理なことは分かっているとヒナは呟く。私は唇を開くものの言葉は出ず、サイドテーブルのキーボードに言葉を打ち込んでヒナに尋ねる。ユリがメールしても返事が返ってこないと心配していたと。返事はない。ヒナは私が想像している以上の寂しさと闘っていた。

人見知りの激しい私とヒナの距離が近づいたのは、私の入院先に親に連れられてヒナがお見舞いにきてくれたのがきっかけだった。ヒナはお菓子作りが好きで、私にチョコレートを作ってきてくれた。入院中は毎日が退屈で寂しくて仕方がなかった。あの時と同じ気持ちをヒナは今抱いているのかもしれない。

ヒナが学校から姿を消して2か月が経つけれど、彼女のことを気にする人はいなかった。ヒナは深海さん以外の人と打ち解けようとせず、周囲からは空気の読めない友達がいない子だと認識されているからだ。私は深海さんについてヒナに打ち明けられずにいる。本当のことを知った時、ヒナは私を許してくれないと思う。久しぶりに訪れた病院でヒナのお母さんと会った。ヒナが完治する可能性は十分にあると話してくれる。それを聞いた私を絶望感が襲い、泣きじゃくりたくなった。唇からヒナの名前が出てくる。声が出た。

バレンタインの日だった。病室で眠っていたヒナは目を覚ますと私に向かってスズのチョコレートが食べたいなという。それを聞いた私は泣きながらヒナの名前を繰り返し、全てがヒナにバレてしまった。事故に遭い、一か月の間意識を取り戻さずその後も後遺症が残ってしまったヒナに、深海さんのことも私のことも。

 

一人称で、ほとんどのことが隠されたまま話が進むので、ヒナがなぜ入院しているのか、完治するかもしれない後遺症とはどんなものなのかと想像しながら読むのですが、最後にその想像を覆えずものが待っていました。なるほど、どうりで曖昧なまま話が進んだわけです。叙述トリックものでした。

狼少女の帰還

琴音の母校の小学校での3週間の教育実習が始まった。数日が経つと何人か目立つ子があらわれる。中でもすらりとした体型の大人びた印象の子は片桐まいなという女の子だった。指導教員の坂下によると、母親がモデルをやっており本人もクラスで慕われているという。また逆に落ち着きがなく、授業中に教室内を動き回ったり鼻歌を口ずさんでいる佐伯咲良という子もいた。そのせいか咲良はクラス内でも浮いており、その様子を気にかけているうちに琴音は咲良の面倒を見る役目になっていた。

給食中、まいなと何かあったらしく外に飛び出した咲良を追いかけた琴音は、咲良から、まいなの家に遊びに行った時、お手伝いさんが泥棒をしているのを見ちゃったと言われる。まいなは咲良の嘘だからと言い周りもまいなに同調していた。坂下は学級指導に熱心ではないようで、咲良に真剣に付き合うと疲れますよと言うだけだった。

休みの日、大学の研究室で友人たちとその話をしていると、何が盗られたのかと先輩の稲村が尋ねてくる。なぜ窃盗と判断できたのかが重要だという。質問の意図が分からないまま一人で遊んでいた咲良に聞いてみると、ハンコと通帳だと返ってきた。咲良の言葉はしっかりとしていて通帳に書かれていた銀行名も正しかった。誰も信じてくれなかったけどちゃんと見たと咲良は繰り返す。咲良が嘘をついているようには思えなかった。

稲村にその話をすると、教育実習生が手伝いに駆り出された先日の運動会にまいなの保護者が来ていたかどうか尋ねられた。まいなの母親は琴音でも知っている有名人なので、来ていなかったのは覚えている。そう伝えると、稲村はなぜまいなが咲良を嘘つき呼ばわりしたのか説明が付くという。あくまで考え方の一つだと前置きしたうえで、稲村は自分の推理を話して聞かせた。

 

まいなの家庭の事情に絡む話なので、まいなは咲良のことを嘘つき呼ばわりしても隠し通したかったようです。今回は謎の部分だけを取り上げましたが、本筋は教育実習です。

卯月の雪のレター・レター

活動的で家にあまりいない姉と違い、私は幼い頃から本ばかり読んで過ごしている子だった。母方の祖母の7回忌の法事に向かった日、私は一つ下のいとこの千尋と久しぶりに会った。千尋は来年の春からは私と同じ高校に通うことになったようで、高校の様子が知りたいと幼い頃と同じように人懐こく話しかけてくる。千尋も姉と同じく活発なタイプで、本をよく読んでいる私なら解けるかもといい、死んだ人から届いた手紙の話を始めた。

1か月ほど前、6年前に亡くなった祖母から祖父宛に手紙が届いたという。差出人は「鈴子」とだけ書かれていた。レイコは祖母の名前なので間違いないと千尋は言い、母に聞いたばかりの私も頷いた。手紙は筆を使って流麗な文字でしたためられていた。時代がかった言い回しで、若かりし頃の2人が別れた後、祖母が祖父に向かって最後のお別れの手紙を書いたと読めるものだった。文面の「彼の日」「卯の雪」など所々意味の分からない言葉もある。千尋と2人で首をかしげているうち、法事が始まる時間になった。法事では千尋や私、姉が幼い頃に遊び相手になっていたという啓介さんという人物もいた。啓介さんの祖母は、私の祖母の妹だった。思い出話をしつつ法事はつつがなく終了した。

その後、千尋に呼び出され買い物に付き合っているうちに手紙の話になった。千尋は、祖母と祖父はかけおちしたとか結婚前に一度別れる出来事があったなどと色々アイデアを出すものの、結局どういうシチュエーションで書かれた手紙なのか分からずじまいだった。祖父に直接訪ねればと聞くと、手紙を盗み読みしたのがバレるからダメだと言われてしまった。

気まぐれで街でギターを弾いている岬さんという女性がいる。なぜだか彼女には自然と悩み事を打ち明けてしまう不思議な雰囲気があった。千尋が送ってくれた手紙の写真を見せて事情を説明すると、岬さんは話を聞く限り不思議なことはないと言う。6年経って送られてきた理由に答えが隠されている気がするとのことだ。手紙を書いたものの理由があって送れなかったのを、誰かが代わりに送ってきた可能性が一番高い。岬さんが「鈴子」をスズコと呼んだのをレイコだと訂正すると、突然祖父の名前は分かるかと尋ねられる。そして祖母に姉か妹がいないか、いれば名前も調べてほしいと言われる。母に電話をかけて確認した私は、返事を聞いて愕然とした。

 

普段それほど交流はないとはいえ、実の祖父、祖母の名前を知らないという主人公にまず驚きでした。そういうものですかね? あと私も「鈴子」はスズコと呼んでいたので、主人公たちがなぜ悩んでいるのか分からず置いてけぼりをくったような話でした。

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日常系の謎を扱いつつ主軸は主人公たちのセンシティブな心の動きや葛藤にあったので、悩むより先にすぱっと白黒はっきりさせたいタイプの私にとっては、いまいち相性が良くありませんでした。