秋吉理香子『機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト』あらすじとネタバレ感想

秋吉理香子さんの「機長、事件です!」のあらすじと感想をまとめました。

晴れて国際線の副機長となった間宮治郎の初フライト、日本-フランスの4日間を4つの短編で繋いでいます。読んでいると一緒に空を飛んでいるような空気に浸れるおすすめの一冊です。

「機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト」書籍概要

国際線女性機長の氷室翼を探偵役に、新人副機長の間宮治郎を語り手としたフライトミステリー。「氷の女王」「クリニャンクール事件」「修道院の怪人」「機上の疑惑」の4作品を収録した短編集。

  • 機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト(2017年3月 KADOKAWA)
機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト / 秋吉理香子 【本】

氷の女王

副操縦士として間宮治郎が国際線初フライトでコンビを組む相手は、その美貌と厳しさからアイス・クイーンと噂される女性機長の氷室翼と、人懐っこいが非常に優秀な第二機長の幸村操雄だった。成田を発ちフランスのシャルル・ド・ゴール空港を目指すニッポン・エアライン二〇五便内で、ある事件が起こった。ファーストクラスのカップルがプロポーズにと準備していた指輪が無くなり、探しても見つからないとチーフパーサーの多岐川が治郎に相談してきたのだ。カップルの男性は機内に泥棒がいると怒り、寛ぎモードに入ったのか機内で提供されるジャージにスッピン姿の女性は酷いと泣き出す。休憩に入っていた氷室とともに指輪の行方を探しはじめた治郎たちは、ある女の子が幽霊を見たと泣いているところに出くわした。

 

フランスへと向かう機内で起きた指輪の紛失事件です。登場時には派手な格好できめていた女性が、ほぼ全身真っ黒の服装で化粧を落として別人のようになっているのに治郎は内心驚いていました。カップルの様子、出会った女の子の話をきいた氷室がある推理をし、チーフ・パーサーの多岐川の協力を得て無事事件は解決しました。

一話目とあってかフライトシーンに多くページが割かれており、ミステリー部分よりそちらの方を楽しんでしまいました。普段は乗るだけの飛行機の裏側では、こんなやり取りをしているのかもと、次に飛行機に乗るのが楽しみになる短編でした。

クリニャンクール事件

フランスでのステイ1日目、幸村たちに誘われた治郎は、氷室、多岐川の4人でクリニャンクールの蚤の市にきていた。多少のぼったくり価格で銀のスプーンやフォーク、ゆびぬき、テディベアなどお土産を買い込んだ治郎は、対照的にさまざまなサービスを受けた幸村たちからモテオーラがないと言われてしまう。その上強引な占い師の老婆に人間関係のスキルが欲しいと言ったところ、願いはかなうと言われ水晶のブレスレット(?)を高額で購入してしまう。押し売りだと呆れる氷室とブレスレットの効果があるかどうか賭けた治郎のところに、突然プードルを連れた女性がやってきた。プードルが治郎から離れないため4人はその女性・アンジュとお茶をすることになる。アンジュがテディベアを気に入ったため治郎は買った店に案内したが、記憶違いなのか店は見つからず、治郎は自分のテディベアをアンジュにあげた。

夕食のためいったん荷物を置きに部屋へと戻る3人をロビーで待っていた治郎の所へ、ホテルのコンシェルジェが近寄ってきてホテルのレストランの無料券をプレゼントしてくれた。また自分たちもパイロットをしているという3人の外国人男女に声をかけられ、一緒に食事をすることになった。次々に治郎の元に人が寄ってくる。これは水晶のブレスレット効果ではないか氷室との賭けに勝ったつもりになった治郎だったが……。

 

もちろん水晶のおかげではなく裏がありました。治郎が何気なくとった行動がもとでパリ市警が出動する大事件へと発展していたのです。蚤の市で消えてなくなった店、強引な押し売り老婆、次々と治郎の所へやってくる外国人……同業という気安さからか、のほほんと会食を楽しむ3人とは別に、氷室だけがあることに気づきました。

アンジュが連れていたプードルの名前が可愛いです。ボンボン(キャンディーという意味)。パリジェンヌとお茶できるなんて羨ましいです。

修道院の怪人

ステイ2日目はモン・サン・ミッシェルへ見学に出かけることになった。留学経験のある多岐川の提案で人の少ない午後の時間帯に到着した4人だったが、目的地はあいにくの天候で雨と霧に覆われていた。一人だけ何の準備もしていなかった治郎は観光地価格のレインコートを買い羽目に陥る。客が少ないため治郎たちを最後にモン・サン・ミッシェルは閉められた。中にいるのは、日本人ツアー客の6人とフランス在住の百合、治郎たちの4人だけだった。最後尾を歩いている治郎たちは男の悲鳴を聞いた。続いて修道院の回廊を走ってやってきた人物・上村は、ここに男が逃げて来なかったか尋ねてきた。自分と似た背格好の男を追ってきたという。上村の手は血で汚れていた。回廊に面している中庭で、ツアー客の一人・亜由美が胸を刺されて死んでいるのだ。トイレに行っていたという夫、上村と一緒にツアーに参加したみどり、ビデオで撮影しながら観光していた豊田夫妻、初めて来たというモン・サン・ミッシェルで靴擦れを起こした百合、この中に犯人がいると氷室は言い、上村の証言をもとに男性らのアリバイの検証を始めた。

 

軽めのフライトミステリーかと思っていたら殺人事件が起こってしまいました。本当はトイレではなく煙草を吸うためテラスにいたという夫以外誰一人嘘をついていない状況で、犯人と思しき第4の男の正体を探していきます。容疑者と目される男たち全員にアリバイがあるなか、氷室はあるモン・サン・ミッシェル内で起きたある気象状況に気が付き、事件を解決へと導きます。航空気象を知り尽くしている彼女ならではの推理でした。

機上の疑惑

シャルル・ド・ゴール空港を発ったニッポン・エアライン二〇六便は、順調に成田空港を目指していた。機内には東京国際ピアノコンクールに出場するため、パリに留学中の鈴懸麻紀のほか竜崎良彦、井出ゆかりらが搭乗していた。休憩に入りコーヒーを貰おうと多岐川のいる所へいった治郎たちのところへ麻紀がやってきた。苦しいと呟き倒れてしまう。機内に医者は搭乗していなかった。呼吸困難に意識障害、困り果てた治郎たちはひとまずの処置として酸素吸入を行おうとするが氷室に止められる。倒れた原因が分からないまま酸素吸入するのは危険だという。氷室と治郎は麻紀の病気の原因を探ることになり、彼女の荷物や食べた機内食を調べ始めた。アレルギーを引き起こすようなものや毒物は見つからなかった。また多岐川を通じて機内での目撃者を探したところ、麻紀が竜崎から何かを受け取り飲んだことが分かった。竜崎と井出を呼んで話を聞くと、前日のパーティーで麻紀がアルコールを摂取したこと、睡眠薬が欲しいと言われたがライバルを蹴落とすため意地悪してカフェイン剤をあげたことなどを告白した。麻紀の手荷物から彼女に不釣り合いなダイバーウォッチを見つけた治郎の功績により、氷室はようやく麻紀の体調不良の原因にいきついた。

 

病気の原因が分かったことで適切な処置がほどこされ、麻紀は意識を取り戻し話ができるまでに回復しました。エコノミークラス症候群はよく聞きますが、そういう病気も機内ではかかることがあるのですね。勉強になりました。4日間のフライトで治郎は機長としての氷室だけでなく人間的にも惹かれていっているようで、幸村がプライベートでは「翼」と氷室のことをファーストネームで呼ぶことや、ホテルでは同じ部屋で過ごしたような親密な会話を耳にして色々反応しています。生真面目で優秀なオタク気質な男子校出身者の治郎、高嶺の花に最後は認められたようで良かったです。

 

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シリーズ化してほしいくらい面白い短編集でした。今回は新米副機長の治郎視点でのストーリーでしたが、機長の幸村やチーフパーサーの多岐川視点も面白そうです。

副機長としての腕や才能は認められたようなので、たくさんの経験を積んで早く氷室と対等になれる日がくるといいですね。