秋吉理香子『婚活中毒』あらすじとネタバレ感想

婚活にまつわるミステリー短編集「婚活中毒」のあらすじと感想をまとめました。結婚相談所、婚活パーティー、婚活番組、親による代理婚活と、一言で婚活といっても色々な種類があるのだなと分かるのと同時に、人のドロドロした部分が露骨に現れる婚活という舞台の裏側を見せつけられた気持ちになります。

「婚活中毒」書籍概要

「理想の男」「婚活マニュアル」「リケジョの婚活」「代理婚活」の4作品を収録した短編集

  • 婚活中毒(2017年12月/実業之日本社)
created by Rinker
¥1,430(2020/10/27 08:11:29時点 楽天市場調べ-詳細)

理想の男

あと半年で40に手が届くといったタイミングで恋人に捨てられた沙織は、お見合い相手もおらず母の勧めで結婚相談所に登録することにした。バス停から200段もある階段を上った先にあった結婚相談所は小さいながらも地域密着型でケアの細かさが売りだった。紹介相手に全く期待を抱いていなかった沙織にオーナー社長の女性が紹介したのは、これ以上の好条件はないというくらいの素敵な男性だった。男性も沙織に好意を持ってくれたらしく交際は順調に進んだ。だが好条件の男性が今まで独身でいたことが気になった沙織がこっそり調べてみると、彼は過去に3人の女性を相談所から紹介されており、その3人ともが全員死んでいたことが分かる。だが周囲は不幸な事故だと信じており、女性の死と男性との関連を疑っているものは誰もいなかった。疑心暗鬼にかられた沙織の不安を増長させるかのように、男性の不審な言動がまるで殺人鬼のように沙織の目に映る。相談所のオーナーなら紹介した3人の女性のことを詳しく知っているに違いないと思いついた沙織は、200段の階段を上って相談所へと向かった。

 

普通の生活の中でもなかなか出会わない好条件の男性を紹介された女性の話です。あまりにも見た目も中身も条件も良すぎて今までずっと独身をとおしていたのが不思議なくらい……逆になにか裏があるのではと疑ってしまう気持ちは分かります。思いもかけないラストが沙織を待ち受けていました。

婚活マニュアル

独身だった友人が孤独死をしたことで結婚を意識しはじめた圭介は、書店で婚活マニュアルを手に取った。その中に書かれていた街コンに興味を持った圭介はバーベキュー婚活に参加することにした。2対2の男女4人で最初の40分が固定となるバーベキュー婚活で、圭介と同じ席になった女性は対照的な2人だった。参加者の中でも断トツの美人の愛奈と、彼女の職場の先輩だというぽっちゃりブスの靖子。ほぼ全員の男が愛奈を狙う中圭介も例外ではなかった。頭に叩き込んだマニュアルを思い出しながらバーベキューに臨んだ圭介は、みごと愛奈とカップルになった。だがその後の交際で愛奈の金遣いが荒い事、高級なものばかり好み庶民的なものを提案すると不機嫌になる事、ごちそうしても感謝してくれない事などが続き段々と圭介の精神と財布が疲弊してきた。愛奈が仕事仲間とするというクリスマスパーティに圭介を誘ってきた。だが費用は全て圭介持ち。靖子と企画を立てることになった圭介は、愛奈の第一希望・スイートホテルでお泊りパーティーは叶えられないと零す。そんな圭介に対し、靖子はお金がかからず派手に見えるパーティー案を考えてくれたり、紅茶を奢っただけで喜んでくれたりと素朴な一面を見せる。愛奈との付き合いに疲れ果てていた圭介は、将来を考えるなら愛奈ではなく靖子ではないかと思い始める。

 

女性の外見に惹かれていた男性がわがまま三昧の女性に見切りをつけ、容姿は普通以下でも中身の良い女性に目を向けるという心の流れが良く分かる話でした。あと靖子の実家が料理店ということで胃袋も掴まれていましたね。一見ハッピーエンドのように思えましたが、靖子には靖子なりの婚活マニュアルがあったようです。婚活って怖いです。

リケジョの婚活

リケジョの恵美は婚活番組で流れた男性・舘尾典彦に一目惚れし、金銭的負担をして顔とプライバシーと恥をさらすというリスクしかない婚活番組に参加することにした。舘尾のデータを自作の婚活ツールに逐一入力して管理し、万全の対策を練って撮影日を迎える。舘尾は一番人気で彼の元に集う女性は恵美を含めて13人、確率は7.69%だった。フリータイムで2人が脱落、これで11人、恵美が選ばれる確率は9.09%に上がった。その後のお宅訪問では再び13人の女性が舘尾の家に集まった。舘尾と話をするのを他者に譲った恵美のターゲットは、舘尾の両親だった。家族の心を掴むのも婚活のうち、偶然姿を見せた舘尾の甥っ子に恵美が作ったロボットのおもちゃをあげて懐かれ、両親の心証も非常に良い。翌日の最終フリータイムで舘尾は、4人の女性と一人ずつ2人きりで話がしたいという。その中に恵美が入っていた。確率は25%まで上がった。いよいよ告白タイム、今回は女性が男性に告白することになっている。花束を持った恵美はまっすぐに舘尾へと向かった。

 

本人にストレートにアタックしつつデータを駆使してジワジワと外堀を埋め着実に確率を上げていく恵美が怖いです。ミステリーというよりサスペンスの世界です。本文は最終的に50%に上げたところで終わったのですが、ターゲットを仕留めるまで恵美の婚活は続くのだろうなと思うと、今回の本の中で一番ぞっとする話でした。理系の人全てがこういう思考回路だとは思いませんが、婚活において理系パワーをつぎ込むとこうなるのかという恐ろしさを感じた話でした。

代理婚活

35歳になっても結婚する気配のない孝一に代わって、過保護の妻・郁子が代理婚活に参加することを思いつき益男も渋々一緒に会場に行くことになった。代理婚活は親同士が子どもに代わって行うお見合いとなる。代理婚活後、次々とお断りがくるなか人気の高かったセレブなピアノ教師・葉子から孝一を気に入ったという返事がくる。親と子どもの3対3で初めての顔合わせをした益男は、葉子の母・久恵に惹かれている自分を自覚した。孝一がまるで乗り気でない中、何とか久恵との接点を持ちたくなった益男は、孝一をどうにか言いくるめようとしつつ、郁子には孝一が乗り気のように装い、葉子たちに対してはあの手この手で孝一の不在の理由を作って孝一抜きの家族交際を続けていた。とうとう孝一に成りすまして葉子にメールを送ってしまい、孝一抜きで結婚や同棲の話まで飛び出し生きた心地がしない益男に、何かと理由を付けて葉子に会わない孝一に業を煮やした妻の郁子は故意に相手を騙す「荒らし」の話をしはじめる。葉子の父親からも不審な目で見られていた益男は、自分の行いに耐え切れなくなり郁子に告白しようとしたその時、代理婚活パーティー主催会社から、荒らしの件でと電話が入った。益男は覚悟を決めた。

 

代理婚活をきっかけに益男の熟年離婚……というストーリーを想像しながら読み進めていたら、ラストは思わぬ展開になりました。今作品中、唯一の明確なハッピーエンドではないでしょうか。とはいえ益男が一人勝ちのような気もして、一緒に喜ぶ気持ちにはなれませんでした。むしろ最もモヤモヤ感の残る話となりました。

 

□□

婚活が舞台ということで、特に殺人事件が起こることもないだろうと気楽に読み始めましたが、なかなか一筋縄ではいかないストーリー展開で読み応えがありました。さすが秋吉理香子さんです。