秋吉理香子『サイレンス』あらすじとネタバレ感想

秋吉理香子さんの「サイレンス」のあらすじと感想をまとめました。

田舎と都会の人間の価値観の違いなどが分かりやすく描写されていて、文中にあった「異星人」という言葉がまさにぴったりな内容でした。

結婚の挨拶のために島に戻ってきた深雪と婚約者の俊亜貴は、吹雪で閉ざされた島から無事に東京に戻ることができるのかといったサスペンス調の一冊です。

「サイレンス」書籍概要

  • サイレンス(2017年1月/文藝春秋)
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あらすじ

新潟からフェリーで2時間の所にある人口300人足らずの「雪之島」が、深雪の故郷だった。アイドルを夢見て大学進学と同時に上京した深雪だったが、現実は甘くなかった。

ほどなく夢は破れ、大学卒業後、深雪は芸能事務所のマネージャーとして売り出し中のアイドル・宮原かおりの世話をしていた。

深雪には大手広告代理店の恋人・俊亜貴がいたが、付き合って6年、彼の口からは一度として結婚の話が話題に上ることはなかった。適齢期も過ぎそうになる深雪は、女友達らに発破をかけられたこともあり俊亜貴に結婚か別れかの選択を迫った。俊亜貴の返事は結婚だった。

 

年末年始に結婚の挨拶のため三年ぶりに雪之島へ戻ることになった深雪は、あまり結婚に乗り気ではなさそうな俊亜貴の態度に不安を抱きつつも、フェリーの中で指輪を渡されほっとする。雪之島の住人たちは、全員が顔見知りで、家族も同然といったつきあいの田舎特有の結びつきのある島だった。

東京にいる時は俊亜貴に対して気を使う深雪が、故郷では生き生きとした表情を見せて同級生たちと楽しそうにし、置いてけぼりを食う俊亜貴を思いやることもない。深雪の父親にはあからさまに歓迎されていない。本家と分家の関係に非常に重きを置く縁戚関係にはまるで相容れない。住人達から品定めをされているような状態で、仕事モードでそつなくこなすものの、俊亜貴はさっさと東京へと戻りたかった。唯一話が通じるのが、青年会で島おこしに力を入れている深雪の幼馴染・達也くらいのものだった。

もともと俊亜貴は宮原かおりと付き合っているが、マネージャーである深雪の、かおりの恋愛関係に関する管理が非常に厳しかったため、かおりの入れ知恵でまず深雪を篭絡することにしたのだ。職業柄アイドルと付き合うのはご法度だったため、隠れ家としてマンションを購入した。また奔放な性格のため、何に使ったのか分からない借金が積み重なっていた。深雪との結婚を決めたのは、彼女の貯めた結婚資金が目当てだった。年明けにはかおりとのサイパン旅行を予定している。さっさと挨拶を済ませて、俊亜貴は東京へ戻りたかった。

 

田舎のしきたりと俊亜貴との間で板挟みになっていた深雪は、結婚の申し込みの席で父親が皆の前で俊亜貴の借金をばらしたこと、夜遅くまでかかった親戚中への挨拶回りで疲れ果てていた。深雪も知らなかった借金の話を、島の誰かがこっそり調べて父親に進言していたことに憤るものの、深雪の親族に気を遣わない俊亜貴の態度にも腹を立て、その日は終わった。

 

翌朝、部屋から俊亜貴の姿が荷物ごと消えていた。深雪が電源を落として充電していた携帯を確認すると、事務所の社長から何十件もの着信があった。何事かと思う深雪の耳に、社長は宮原かおりのスキャンダルが一般人のSNSですっぱぬかれて大騒動になっていることを喚きたてる。ツイッターに上がっていた写真はかおりと俊亜貴だった。削除しようにも間に合わないほど情報は拡散されていた。かおりのマネージャーとしてやらなければならないことが山のようにある。深雪は東京へ戻るためフェリー乗り場へと向かおうとするが、車のエンジンはかからず、歩いていくことにしたものの雪にはばまれて道に迷ってしまった。

 

かおりとのことが世間にバレ俊亜貴は絶体絶命の状態だった。深雪の携帯に東京へ戻ることをメールした俊亜貴もフェリー乗り場へと向かう途中、雪に足を取られて途方に暮れていた。そこに救いの神・達也が車で通りがかった。フェリー乗り場へと送ってくれると言う。天候が悪くかったが、船は無事に出港した。

 

事態の収拾のために何としてでも東京へ帰らなければならない深雪だったが、まれにみる悪天候続きでフェリーは欠航したっきりだった。困り果てる深雪に、従兄弟の娘・本家の一人娘の風花が、島の守り神「しらたまさん」に深雪が島から出られないよう毎日お願いしているのだという。風花は深雪に懐いていた。このまま島に残り、達也と結婚すればいいのにという。

まさかと思うものの実際に深雪は島に閉じ込められたきりで、俊亜貴とも連絡が取れない状態が続いていた。

フェリーが欠航で東京に戻れないという何度目かの連絡を事務所に入れた深雪は、正月を返上してお詫びやかおりの代わりのタレントの確保に駆けずり回った社長や専務の態度から、自分がもう用無しと見なされたことを感じ取り、辞職を申し出た。

ぷつんと何かが切れたように、執着していた東京への未練が消えた。

 

まとめ

数年後、深雪は一度も東京に戻ることなく島にとどまり、達也と結婚し子どもを授かっていました。風花がしらたまさまに願ったとおりになりました。田舎の分家の嫁として周囲に可愛がられ、深雪は幸せに暮らしているようです。

俊亜貴は東京に戻った後雲隠れしたのか、誰も居場所を知りません。人気上昇中のアイドル・宮原かおりはTVから姿を消しひっそりと引退しました。

その後、達也の案で始まった雪室(冬の間に雪を保管して天然の冷蔵庫として使うほか、春から夏にかけて観光等に有効利用する)の土台として固く均した雪の下に、俊亜貴のものと思われる携帯電話が氷漬けになっているのを深雪は見つけます。おそらく俊亜貴は東京に戻っていません。

最終章は達也の妹、かつての深雪のように東京での暮らしに執着する弥生が、深雪のたどったものと同じルートを進むだろうという予兆を感じさせつつ終幕しました。

 

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ミステリー要素は俊亜貴の行く末くらいでしたが、それもある人物によって殺されていると仄めかす程度で、犯人が逮捕されたり断罪されることはありません。

謎解きはさらっと流す程度でしたが、脈々と続く島の因習みたいなヒタヒタとした恐ろしさを感じる一冊でした。