秋吉理香子『灼熱』あらすじとネタバレ感想

秋吉理香子さんの「灼熱」のあらすじと感想をまとめました。

ミステリーというよりサスペンスものです。夫を亡くした咲花子が、夫殺害容疑が掛かったものの罪に問われることもなかった久保河内英雄に復讐するため、整形して英夫の妻になって……というストーリー。咲花子の英雄に対する心のゆれ動きが面白く一気読みしてしまいました。

最後に明かされる事件の真相にも驚かされます。

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「灼熱」書籍概要

医者である英雄と一見、幸せな結婚生活を送る絵里。しかし彼女の本当の名前は咲花子といい、英雄が元夫を殺した証拠を探していた…。一年半前、咲花子は刑事から当時の夫が転落死したこと、何件もの詐欺を働いていたことを知らされる。詐欺師の妻として彼女自身もマスコミに叩かれる中、夫殺しの容疑者だった英雄の不起訴が確定。希望を失った彼女は、自殺サイトで知り合った絵里という女性と自殺を試みるのだが…。「BOOK」データベースより

  • 灼熱(2019年7月/PHP研究所)
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PHP研究所
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あらすじ

絵里が英雄と結婚して3日目、英雄のために朝食を作り、洗濯をし、部屋の掃除をし、訪問診療の仕事に出かける英雄を見送る……英雄の姿が角を曲がって見えなくなった途端、絵里の顔から笑顔が消えた。英雄の通帳、年金手帳、クレジットカードの明細、それらを1ページずつスマホで撮影していく作業は思ったより手間がかかったが、忠時を殺した証拠を見つけるためには必要な作業だった。

絵里こと咲花子の夫・川崎忠時がマンションのベランダから転落死したのは、1年半前のことだった。警察から連絡を受け、その時咲花子は初めて夫が製薬会社を退職し、内緒で借りたマンションで詐欺を行っていたことを知る。夫はターゲットに合わせて様々な詐欺商品を売りつけており、英雄もその被害者の一人だった。忠時の転落死を発見し通報したのが医者である英雄だった。日中、英雄と忠時が口論しており、事件当夜の英雄の行動が怪しいことから、警察は英雄の忠時に騙されたことを憤っての犯行と考えていた。

だが3千万もの金を払ったにも関わらず英雄は詐欺に合ってはいないと主張し、また他の被害者たちも元本や配当金が振り込まれたため被害届を取り下げるつもりだった。つまり忠時に対する詐欺は立件できず、英雄が忠時を殺す動機もなくなった。英雄が起訴されることはなかった。

咲花子は幼い頃閉鎖的な田舎で父親と暮らしていたが、父親がひき逃げされたのをきっかけに親せきを頼って東京に出てきた。中学卒業後は住み込みのバイトをこなしつつ定時制の高校に通い、そこで忠時と出会う。忠時も咲花子も天涯孤独だった。忠時の詐欺がマスコミにすっぱ抜かれて以降、亡くなった忠時にも妻であった咲花子にも味方は誰一人いなかった一方、英雄には救う会まで出来た上に不起訴。絶望した咲花子はネットで佐藤絵里と出会い、一緒に自殺することにした。だが山中でテント内での練炭自殺を決行したものの、どういう采配か咲花子だけが生き残ってしまった。咲花子は復讐を終えたら戻ってくることを誓い、絵里の顔そっくりに整形して身分を手に入れると英雄に近づき、自らプロポーズして英雄の妻に収まることに成功した。忠時と暮らしていた自宅も何もかも「咲花子」の存在は捨てた。

英雄には先天的な心臓病を患っている亜希子という妹がいた。今は入院中だが、退院後は自宅で24時間の介護が必要となる。一度殺人容疑が掛かった人間だと絵里のプロポーズを断った英雄が結局結婚を決意したのも、亜希子の世話を考えてのことだった。英雄への憎しみはともかく、絵里は亜希子に対しては本心から妹のように思い可愛がっていた。まめに病院に顔を出しお喋りをする。亜希子から見せてもらった大学時代の英雄の写真は今とは全然違い、いかにも金持ちのボンボンで遊び人風のイケメンだった。亜希子は明るくて努力家だった。何年もかけて中学、高校を卒業し、在宅でできる仕事をするため病院に来るボランティアの学生からプログラミングを学んでいくつかアプリも作ったらしい。絵里と亜希子の関係は良好だった。

英雄との結婚生活は偽りだらけだった。プロ並みの腕前を持つ絵里の料理に毎回英雄は感激し心の底から絵里を愛しているのに対し、絵里は英雄の忠時殺しの証拠を掴むためだけに義理の夫婦生活を維持している。だが夏の暑さで絵里が脱水を起こしかけ気を失ったのを、帰宅した英雄が気づいて手当てしたのをきっかけに絵里の心の変化が表れ始めた。憎しみの対象だった英雄に優しさや安心感を感じ始め、退屈でしかなかったデートや食事を楽しく思っている。決定的だったのは、バイク事故を起こし心肺停止に陥った人を蘇生させ、周囲の人たちに手際よく指示を与えて救急車を呼ぶ姿を目の当たりにしたことだ。懸命に人の命を救おうとしている英雄に、本当に人を殺すことができるのだろうか。

英雄に惹かれていることを自覚した絵里は、忠時殺しの証拠を探すのをやめた。英雄は無実だと信じ始めている。そんな時、亜希子の退院が決まった。見舞いに行くと亜希子は既に退院のための荷造りを始めていた。絵里は、忠時殺しの容疑がかかり連行される前の英雄が亜希子に預けたノートパソコンの存在を知り、自宅に持ち帰る。保存されていたファイルの一つから、忠時が英雄に対して行ったであろう人工心臓の詐欺パンフレットや専門的な資料が見つかった。製薬会社に勤めていたとはいえ忠時が医者を騙せるような精巧なパンフレットを作れたはずがない。英雄は忠時の詐欺の共犯者だったのではないかと絵里は考える。また他のファイルからは、川崎咲花子の行方を専門家に依頼して探しているようなメールのやり取りが見つかる。英雄は今でも定期的に咲花子の行方に関しての連絡を受け取っている。なぜ英雄は咲花子を気にしているのか。

亜希子の退院を知った英雄は喜んでいたが、同時に様子がおかしくなっていった。さりげなくノートパソコンの存在を気にし、絵里と英雄の最初の接点についても疑問を持ち始め追及してくる。「絵里」の存在自体を疑っているのか鎌をかけてきた。英雄は絵里の正体に気づいているのかもしれない。絵里の正体が英雄の存在を脅かす咲花子だと知れたら、英雄が取る行動は一つしかない。咲花子を排除することだ。英雄はどこまで気づいているのか、英雄に対しどう振舞えばいいのか。緊張感に包まれた絵里は、ベッドの下にアイスピックを忍ばせた。

亜希子が退院し3人での生活が始まった。豪華な朝ごはんに感激している亜希子に向かい絵里は外出する旨を伝えると、密かに引っ越し先を見つけることにした。今すぐにでも荷物をまとめて久保河内家を出たかったが、部屋を借りる手続きに数日はかかるという。夕方戻ってきた絵里を出迎えた亜希子が、英雄のノートパソコンの話題を口にした。パソコンは起動させると閲覧履歴や使用者の顔などが亜希子に送られるようソフトが仕込まれていた。絵里がノートパソコンを調べていたことや、通帳などをスマホで撮影していたことも全て亜希子に筒抜けだった。亜希子は、あなたはいったい誰なのかと絵里を追及してきた。

まとめ

亜希子は英雄がいなくなると生きていくのが難しくなるだろうと思います。そのため英雄が人を殺したのを隠し続け、絵里がその証拠を探そうとやってきたのだと結論づけると、アイスピックをもって絵里に襲い掛かってきました。

絵里をかばった英雄は負傷し、手術を受けている最中、咲花子(絵里)は英雄から託された手紙を読み、英雄が何をしたのか、なぜ英雄と忠時が結託したのかなど一連の事件の真相を知りました。それは思いもかけない衝撃的なものでした。

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英雄との間には一応の決着はついたのですが円満とは程遠いもので、今後の咲花子達の身の振り方が非常に気になります(そこはあいまいに終わりました)。絵里として生きるのか、咲花子に戻るのか。何となく絵里として生きそうな気もしますが、そうすると本物の絵里が見つかったらどうなるのか…などちょっともやもやする部分も残ります。