秋吉理香子『絶対正義』あらすじとネタバレ感想

秋吉理香子さんの「絶対正義」のあらすじと感想をまとめました。2019年冬にテレビドラマ化もされている作品です。

「正義」こそがすべて、「正義」だけが守るべきルールという女性を巡る、なんともぞっとする話です。行き過ぎた正義は暴力にもなるというのをまざまざと感じさせられた1冊でした。

「絶対正義」書籍概要

  • 絶対正義(2016年11月/幻冬舎)
  • 絶対正義(2019年1月/幻冬舎文庫)

 

4人の女性のもとに高規範子から招待状が届いた。だが範子は5年前、4人が殺したはずの女性だった。

一体誰が何のために招待状を寄こしたのか。

登場人物

  • 今村和樹:フリージャーナリスト。
  • 西山由美子:離婚して2人の息子を育てている。
  • 理穂・ウィリアムズ:アメリカ人男性と結婚後、日本で事業を興す。
  • 西森麗香:女優
  • 高規範子:「正義」だけが基準。結婚して娘を育てている主婦

和樹

高校に入学してまもなく、和樹、由美子、理穂、麗香の仲良し4人グループは、いつも一人でお弁当を食べているクラスメイト・高規範子が気になっていた。声をかけたのをきっかけに5人でつるむようになった。

おとなしい見た目の範子は、行動、成績ともに生徒の規範となるような優等生で、ルールに違反する行動に対しては一切の妥協を許さない性格だった。

隠れて喫煙を行っていた生徒を教え諭した教師、注意だけで済ませた警察官すら許さず、教育委員会やマスコミを巻き込んで世論に叩かせ、対応した教師を退職、警官を懲戒処分、校長、教頭を辞職に追い込み、喫煙した生徒を停学、彼らの所属していた部活動は甲子園やインターハイへの出場権を失うという事態になっても、正しいことをしただけと平然としている範子に対し、和樹は違和感を覚えるようになったものの、由美子たち他の3人が範子を称えているため、仲間外れにならないよう迎合していた。

高校を卒業し大学へと進んだ和樹はジャーナリストの道を歩みはじめた。フリーになって以降はますます仕事に没頭し、高校時代の友人たちとも疎遠になりながらも、出版した本は映画化されるなどしステイタスを築き上げていた。

同窓会をきっかけに5人は再び会うようになった。範子は相変わらず正義を遂行しており、それは和樹にも平等に向けられた。それに助けられる場面がある反面、重箱の隅をつつくような違反行為を逐一咎められることも多く、範子に対する負の感情は高まりつつあった。

ある日、範子が賞にノミネートされた和樹の本と、その本を書くにあたって参考にした30冊もの文献をすべて詰めたスーツケースを携え家を訪れた。適正に参考文献が利用されているのか検証するらしい。また和樹の行った取材が正しかったのかどうか、実際に取材相手に会って話も聞いてきたのだと言う。範子は多少強引だった和樹の取材が間違っていたと断定し、取材相手や賞の事務局に報告すると決めた。取材相手は、精神的苦痛を受けたとして和樹に対し訴訟を起こす気でもいるらしい。

そんなことをされてはノミネートは取り消されるばかりか、仕事がやりにくくなる。今後和樹の本を出版してくれる会社もいなくなるだろう。

範子の正義が他人の人生を狂わせる。過去何度となくその場面を目の当たりにしてきた和樹は、とうとう矛先が自分に向けられたのを思い知った。

和樹の内心などつゆ知らず、範子は軽やかな足取りで帰っていった。

 

由美子

何事にもおっとりとしている由美子は、範子が小さな違反すら見逃さない姿を格好いいと思っていた。高校卒業後は短大に進み、就職、結婚、子育て。家のことに協力的でない夫に不満はあったものの、順調満帆にいくかと思われた由美子の生活は、夫がリストラにあったことで一変した。自分の能力に対しプライドの高い夫は再就職もせず、子どもの世話や家事にも一切協力せず、ただ家にいるだけの穀潰しとなり果てていた。

子どもたちは自分が守らなければならないという一心で生活の一切を担っていた由美子は疲れ切っていた。そんなある日、ベビーカーでラッシュ時の電車に乗らざるを得ず周囲からの冷たい視線に耐えていた由美子は、偶然会った範子に助けられた。ベビーカーでもラッシュ時に電車に乗る権利はある、由美子は何一つ間違ったことはしていないと毅然と周囲に言い放つ範子に、周囲は気まずそうにするだけだった。

由美子から話を聞いた範子の介入によって夫が再就職を決め、生活はらくになった。範子に感謝する由美子だったが、羽振りの良かった夫が実はすでに仕事を辞め借金を積み重ねていたことを知り、子どもを連れて家を飛び出した。離婚をするつもりであることを範子に話したあと、内緒にしていたマンションに夫が乗り込んできた。範子から教えてもらったのだと言う。

範子からの入れ知恵で離婚はできないこと(法的に離婚する事由がない)、夫の借金は夫婦の借金として由美子にも返済義務が生じる事、離婚するなら由美子の方が有責になることなどをぺらぺらと夫に告げられ、茫然とする。

おまけに夫婦喧嘩の際に思わず由美子が子どもに言い放った言葉が虐待だと範子に断定され、離婚調停をするなら夫側の証人になると言われてしまう。どんなに由美子が懇願しても、範子は正しいことをしているだけだと取り合わない。

味方だと思っていた範子は、由美子の味方ではなかった。範子は友達だから由美子を助けてくれていたのではなく、ただ己の正義のまま行動していただけだった。

いつもの女子会のあと、5人は範子の希望で山へリンドウの写真を撮るために範子の車でドライブに行くことになった。運転は麗香、助手席に範子。麗香のスピード違反を咎めた範子が「正義こそこの世で一番正しい」と言った瞬間、由美子の頭は真っ白になった。

気が付いたら由美子は後ろの席から手を伸ばし、範子の首を絞めていた。そして何故か理穂が範子の腕を押さえ、和樹が足を押さえている。車が止まった時、範子は動かなくなっていた。だが突然息を吹き返しヨロヨロと車を出ていく。

逃げる範子を追いかけるように、麗香が車を発進させた。ドンという嫌な音が山中に響いた。

 

理穂

アメリカの大学に進学し、アメリカ人の夫と結婚した理穂は、日本でインターナショナルスクールを夫婦で経営し成功していた。順調な理穂の人生だったが、二人の間に子どもができないのが悩みで、不妊治療を行うもののうまくいかない。子どもを欲しがっているアメリカ人の夫は、養子を引き取って育てる事にも他人の卵子を使って子どもを産むことにも抵抗がないが、理穂は自分のDNAを引き継いだ子どもが欲しかった。

そんな時、会社の従業員が金庫からお金を持ち逃げした。理穂は経理に明るく不正にも厳しい範子に頼み、理穂の会社で働いてもらうことにした。範子の評判はとても良かった。保護者からの問い合わせにも丁寧に対応し、納得のいくデータも示す、クレーマーにも理路整然と話をする姿勢に、理穂の夫も当然のごとく範子を信頼した。

だが範子の正義は副学長である理穂に対しても平等に行われた。部屋で個人用の携帯電話を充電していたら業務上横領といわれ、飲み会に出ないという社員に再度誘いをかけると労働基準法違反だという。だんだんと範子の行動が疎ましく感じられるようになってきた。

ある日夫がとんでもない提案をしてきた。範子の卵子を貰えるよう手配したのだという。他人の卵子は嫌だと理穂はいうが信頼できる範子の卵子ならいいだろうという理屈で、すでに範子との間に合意はとれており、理穂が拒否できる余地はなかった。範子に卵子提供をやめて欲しいと頼んでもダメだった。子どもを望んでいる理穂の夫の権利を守るのだという。

女子会のあとの山へのドライブ中、4人で範子を殺した。その時になって初めて、4人ともが範子を嫌っていたことを知った。全員が、自分以外は範子を尊敬していると思っていたのだ。

4人で口裏を合わせることを決めると、範子の遺体を車に乗せて崖の上から落とした。

範子の夫から彼女が家に帰ってこないという連絡を受けたもののうまく受け流した。そして5年の月日が経ち、招待状が舞い込んだ。遺体が見つからない限り大丈夫と踏んだ4人は、招待状は何者かの宣戦布告と受け取り、指定された会場に乗り込むことにした。

麗香

芸能人の麗香は高校を休みがちで、それほど範子との接点はなかった。だが範子のノートや、休憩時間や放課後に範子が授業の要点を教えてくれたおかげで無事に卒業することができた。卒業後も範子に助けられることが多く、麗香は正義感が強い範子に感謝していた。

麗香には秘密の恋人がいた。彼には妻子がいたが、妻は8年前に病気で倒れて以来昏睡状態のまま入院していた。妻の両親はずっと看病を続けてきた彼に感謝し、これからは自分の幸せをと麗香との仲を喜んでくれ、麗香もお見舞いに行くなどして妻の両親とも友好な関係を築いていた。

ある日の女子会で、麗香は自分の奇妙な三角関係のことを範子に話した。範子は自分の味方をしてくれると思っていた麗香に対し、彼女は不倫は間違っていると切り捨てた。範子の判断基準は友情ではなく、違法か違法でないかだけだった。

麗香と恋人との関係を彼の子どもたちにも教えるというし、自ら言うことはないが誰かに聞かれたら麗香のことは正直に話すと宣言までする。こんなことがマスコミに嗅ぎつけられたら、麗香もプロデューサーをしている恋人も全てを失う。どんなに麗香が頼んでも、範子が翻意することはなかった。

山中で逃げようとした範子をはね、息の根を止めたのは麗香だ。

招待状に記されていた場所へと赴いた4人は、自分たちの目の前に範子が立っていることに衝撃を受けた。

 

まとめ

4人の前に現れた範子は、彼女の娘の律子でした。中学3年生になった律子は、範子の高校時代にそっくりの容姿に育っており、これは「思い出の会」だと説明します。

範子は毎年遺言を更新しており、その中に自分の葬儀をしない代わりに楽しいパーティーを開いてほしいと書いていたそうです。新聞記事などには敏感になっていた4人が知らないうちに、範子の遺体が見つかっていました。山梨の山中の崖から落とした車と遺体は、神奈川へと流れそちらで発見されていたとのことです。

招待状は範子の遺言にのっとって、範子の夫と律子が用意したものでした。範子の死が事故死で処理されたことを知った4人は安心してパーティーを楽しみました。

ですが最後の最後、宴たけなわの頃、範子の車から見つかったドライブレコーダーの上映という、大勢の招待客の前でとんでもない爆弾が落とされることになったのです。

 

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最後はどう決着をつけるのだろうと楽しみに読み進めていたら、正義の連鎖というおそろしいラストが待っていました。

それにしてもこの4人、高校時代はともかく、社会人になって経済的にも精神的にも自立しているにも関わらず高校時代のメンタルを引きずって仲良しグループを維持するというのも、よく分かりません。自分の意志で、範子と距離を置くために仲良しグループとつかず離れずの関係を作るというのも普通に選択肢としてあったかと思います。

正論は逃げ道をなくして人を追い詰めるというのがありますが、まさにその通りのことが起きた「絶対正義」でした。