天祢涼「謎解き広報課」あらすじとネタバレ感想

天祢涼さんの「謎解き広報課」のあらすじと感想をまとめました。

東京から自他ともに認める田舎町・高宝町の役場に就職した新人広報マンの新藤結子が、広報紙を作りながらぶち当たる数々の難問を解決し、次第に広報紙を作る面白さややりがいに目覚めるというストーリーです。1つ1つの謎解きも面白いですが、短編ごとにちりばめられた伏線が最終話で見事にきれいに回収されているのがこの本の醍醐味だと思います。

スポンサーリンク

「謎解き広報課」書籍概要

田舎の町役場に就職した、都会育ちの新藤結子。やる気も地元愛もゼロの新人が任されたのは広報紙づくり。取材するのは、名産品、豊かな自然、魅力的な住民、そして「謎」―。広報紙は町を変えられるか?「来年で仕事を辞める」と心に決めながら、取材と締め切りに追われる結子。ある日、町立病院の院長から「難病で死んだ息子を記事にしてほしい」と頼まれるが、死因に不審な点があることに気付く―。仕事熱が高すぎる上司・伊達、暴言連発の町長・鬼庭、東京から左遷されてきた新聞記者・片倉たちに囲まれながら、事件解決に奔走する彼女の公務員生活1年目。クセモノ公務員が勢揃いのお役所ミステリー! 「BOOK」データベースより

  • 謎解き広報課(2015年5月/幻冬舎)
  • 謎解き広報課(2018年1月/幻冬舎文庫)

五月号 こんなの、公務員の仕事じゃない!

東京から東北地方の「なにもない田舎」高宝町(こうほうちょう)役場に就職した新藤結子は、広報課に配属され広報紙の編集担当になった。大学時代にバスケ部にいたこともあり体力をかわれての事だろうと考えたが、1年後には東京に戻ることを決め夢も希望もなく高宝町に引っ越してきた結子にとっては不本意な配置でもあった。上司の伊達は町民にこの町を愛してもらえるようにと広報紙を一新し、名前を「こうほう日和」とし「今月のこだわり」という特集を新設すると、結子に防災をテーマにページを作るよう言いつけた。伊達からは最初から取材を一人でこなすよう言われ、何度も赤字で埋まった記事の書き直しをさせられ「今月のこだわり」の原稿の催促もされる。毎日残業続きのなか、自主防災組織の体験訓練に参加し記事を書くことになった。

「第九自主防災会」は高宝町に3つある防災組織のなかで唯一活動しており、創設から現在にい至るまで会長を務めているのが70歳を超えてもかくしゃくとしている田村幸太郎だった。第九自主防災会は3年前に田村が愛妻を亡くしてから休止していたものの1年前に再活動していた。何とか体験訓練を終えた結子は、年配者は惰性で参加している様子がうかがえるが意外にも若者3人の動きが積極的だったのに驚く。だが取材で理由を聞くと女の子にモテるためという一種の婚活が動機だった。呆れる結子に対し若者達は、田村も昔防災会を作ったのをきっかけに奥さんと結婚したと主張し、今でも田村は若々しくツイッターで若者の流行やファッションについての呟きもあるという。

取材で田村は、火事で家族を失った親友が自殺したのをきっかけに防災組織を立ち上げたと語った。防災会の若者達の恋愛や結婚感について、女は男なしでもたくましく生きていけるが男はその反対だからというような趣旨で話す田村に対し、結子は思わず女性も大好きな人には寄り添って欲しいと反論してしまった。取材を終え役場に戻った結子のところに、田村から電話が入った。自主防災会を解散するので取材はなかったことにしてほしいという寝耳に水の話だった。このままでは「今月のこだわり」のために取材したことが全てダメになったしまうと危機感を覚えた結子は、第九自主防災会を存続させるため公民館で碁を打っているメンバーの所へ向かった。彼らによると第九自主防災会は奥さんを亡くした田村のためにやっていた活動らしく、昨晩田村が防災会を解散すると言う挨拶に回っていたという。奥さんを亡くし会を休止するくらい意気消沈していた田村が立ち直ったのは、配偶者に先立たれた人々のセルフヘルプグループに参加したためだった。グループの集まりのため田村は東京まで足を運んでいた。なので突然の会の解散の理由は分からないという。

また若者の一人・屋代は、若者と積極的に交流を始め会を存続させるつもりだった田村が突然解散を宣言したのは結子が何かしたに違いないと責めてくる。役場に戻った結子は、取材で撮った写真をチェックしていた伊達から、田村の写真と一緒に映っているシーサーの置物が最近発売された沖縄限定品だということや、田村が廃品回収の相談にやってきたことなどを聞くと、結子が取材中に思わず発した「女性だって好きな人に寄り添ってほしい」という言葉に何やら納得した風の田村の様子などと組み合わせて、突然の自主防災会解散の理由に思い至ると急いで屋代に連絡を取った。

 

結子の機転によって広報紙で屋代達若者の気分を盛り上げ、無事に第九自主防災会の存続がきまりました。

六月号 「聖地」があると言われても……

観光課の羽田茜から「今月のこだわり」で町の名所を取り上げて欲しいという声を聞き伊達が採用した。茜によると女性に人気のゲーム「ラブクエ」の背景に、高宝町が使われているのではないかと思われる箇所があるというのだ。ゲームのイラストレーターのエル森宮は、背景画を描く時は必ず実在の場所をモデルとして数日間滞在して作業するため、彼に話を聞くことができれば記事になる。早速ゲーム会社に取材依頼の電話とFAXをし、結子はそれ以外の名所として餡子本舗への取材に向かった。外観は素通りしてしまいそうな古い建物だが店内は明るく清潔感があり、どぶろくを使った名物の「こうほう饅頭」は思わずお土産に3箱も買い込んでしまうくらい美味しいものだった。またりんご園の取材では、栽培に不利な土地柄にも関わらずりんごを愛し情熱をかけて育てている良い取材ができた。

だが目玉となるエル森宮からは、高宝町をモデルにした事実はないとして取材を断られてしまう。茜に見せて貰ったゲームの背景と高宝町の景色の比較画像はほぼ一致している。留守中に断りの連絡を受けた結子は、役場に戻ってすぐにエル森宮に連絡を取った。エル森宮は単なる偶然だとして改めて取材を断ると、留守の結子に代わって断りの電話を受けた茜に対して一度断ったのになぜまた電話をしてくるのかと苛立ちをぶつけていた。

高宝町の財政再建を公約に掲げ当選した町長・鬼庭が広報課に姿を見せると、町の出身の宮守商事の社長が「こうほう日和」にスポンサー広告を出してくれることになったとねじ込んでくる。紙面の構成に関わる重要事項なので上司に話してほしいという結子に対し、鬼庭は広報紙の担当としての自覚が足りない、このままでは廃刊は避けられないと好き勝手言い帰っていった。茜が上司命令で「ラブクエ」の背景の場所を実際に確認しにいくことになったと結子に同行を求める。細い山道を20分ほど登っていった先に、ゲームと同じ祠がある場所に到着する。改めてゲームの背景そっくりだとカメラを構えながら位置調整のため後ずさっていた結子は切り株に足を取られて転んでしまうが、そのおかげでエル森宮がこの場所をモデルにしたと確信した。再びエル森宮に電話をすると、嘘をついていたことを認めたものの高宝町のようなド田舎は「ラブクエ」のイメージにそぐわないので取材を受けたくないと話した。だがそんな理由で取材拒否は納得できないという周囲の声もあり、エル森宮が宮守商事の社長の孫だという情報を得ると、町長を通して改めて取材を申し込むことにした。

その後、別の取材を通して結子が足を取られて転んだ切り株が最近伐採されてできた物だと知った結子はふと違和感を覚える。また宮守商事の社長から町長を通じて取材拒否の連絡が届いた。町長から直々にその電話を受けた結子は、緊張のため乾いた喉を潤そうとペットボトルに手を伸ばした時ようやく違和感の正体に気が付き、エル森宮が頑なに取材を受けようとしない本当の理由に行き着くと、取材をさせてもらう予定だったエル森宮の講演会会場へと行き短時間の面会にこぎつけた。

 

結子の推理した内容をエル森宮は認めたものの、町長の乱入で「今月のこだわり」での当初の目論見は失敗に終わり改めて紙面を練り直すことになりました。だが結子が推理の過程で見つけた案が採用され、更に新連載を始める目途も付きました。

九月号 主人公は、わたしじゃなかった

9月号の「今月のこだわり」は高宝火礼祭(こうほうかれいさい)を取り上げることになった。毎年盛り上がる地域の祭りで、城山町の広報担当・東志麻子も取材に来るらしく、高校までは写真部だった結子のカメラの腕を褒めどんなカメラを使っているのか知りたがった。カメラのSDカードの写真をパソコンにコピーし、まとめて消去している結子の所に新しく赴任してきた日京新聞の片倉がやってくると不愛想な挨拶を済ませて帰っていった。茜によると、片倉は「日京グループ史上最大の問題」を起こして左遷されてきたという。他地域の広報担当や新聞記者が尋ねてきたことで一流の広報マンになりつつあるお祝いと暑気払いを兼ねて、伊達・茜・結子・片倉で飲むことになった。

だが茜と伊達の余計な気遣いで片倉と二人きりで飲むことになった結子は、上司を欺いてある記事を世に出したという史上最大の問題の真相を聞くと、結子自身が高宝町にやってきた理由を口にする。自分の頑張りが周囲から疎まれる結果になったことに落胆し、今後は淡々と何にも頑張らずに過ごしていくつもりでいた。結子は飲みすぎて記憶を無くす前、努力を続ける才能はあるという片倉の言葉を聞いた。

祭り当日、結子は取材にやってきた志麻子から、昔伊達が作っていた広報紙「こうほう日和」がコンクールで最優秀賞を2回受賞したことを聞く。当時の広報誌はデータ化してネット環境から隔離したパソコンで保存してあるが、伊達の設定したパスワードで保護されていて結子は見たことがない。志麻子が見せて欲しいと伊達に頼んでも時代遅れだからと断られたらしい。祭りの様子をひたすらカメラに収め祭りの実行委員会本部に行った結子は、茜に交通渋滞の誘導を頼まれ志麻子にカメラを預けて現地に向かった。30分ほどで応援に駆け付けた職員と交代して本部に戻ってくると、カメラは「結子がどんな写真を撮ったのか見たい」と片倉、片倉と2人で飲んだ店の店主の手へと渡っていた。結子の元に戻ってきたカメラは電源を入れたが動かない。役場の備品で元々調子の良くなかったカメラだが、今回はおそらく電池切れだろうと予備の電池を取りに行きカメラに入れ替える。電源を入れて確認した結子は、液晶に映る「写真は記録されていません」というメッセージに驚く。結子の撮った写真は全て消えていた。

ショックのあまり茫然としたまま伊達に電話すると、消えてしまった写真は戻ってこないので紙面については明日相談することにし、今晩はまっすぐ家に帰って休めと言われる。写真ならテレビ局や志麻子も撮っているので譲ってもらえれば済む話だと諭される。だがそれでは結子の気が済まなかった。写真はカメラ本体ではなくSDカードに保存するようになっていたので、たとえカメラが壊れたとしてもSDカードのデータまで消えるはずがない。つまり誰かが故意に写真を消したのだ。容疑者は、結子のカメラを操作して写真を見ていた志麻子、片倉、店主の3人。順番にカメラを触っていた時の状況を聞いた結子は、ある人物に目星を付けて推理で追い込んでいった。結子のカメラから写真を奪った人物はじっくりと結子に包囲網を狭められ犯行を白状したが、証拠は消され肝心の写真も戻ってこない。

ふらふらと役場に戻った結子は、志麻子が見たがっていた伊達の広報誌が保存されているだろうパソコンの前に座った。パスワードは拍子抜けするほど簡単に突破でき、当時賞をとったという伊達の広報誌を見て結子は感動する。そこからヒントを得た結子は、消えてしまった写真の代わりになるある案を思いついて実行に移した。

 

9月号も無事に発行され重版がかかるくらい好評を得ました。結子の写真を消した犯人は、ある目的を達成するためにわざわざ結子のカメラに細工したのですが、失敗に終わったようです。

十二月号 新しい景色は見えたけど

9月号の高宝火礼祭をきっかけに町中に「こうほう日和」が知れ渡り、町民からの問い合わせも増えた。頑張らないと決めていた結子も広報紙を作る面白さにハマりつつあった。そんな時、町立高宝町病院の院長・芦名真から難病で亡くなった息子・昌史を「こうほう日和」で取り上げてほしいという依頼を受けた。伊達が凄腕の広報マンだったことは知っていたが、町長の鬼庭もかつては同じ広報マンだったこと、伊達と鬼庭が幼馴染で役場の同期だったことも聞き驚く。何せ結子の前では、鬼庭は露骨に伊達を無視するような態度を取っていたからだ。12月号では「高宝町10大ニュース」を取り上げることに決まっていたが、同時に昌史のことも取り上げたいと熱弁を奮う結子に対し、伊達は昌史のことを悲劇として泣かせる道具にするのではなく、別の切り口で町のことに繋げるのを条件に許可した。

芦名夫妻、昌史とも難病のことを周囲に伏せていたらしく、病死したことは知っていたが心臓の難病「A」だったことは誰も知らなかった。昌史の母で芦名の妻・麻里は新興宗教の「お光教」を熱心に信仰していた。お光教は死後の世界が存在するものとし、自他問わず「死」を心安らかに受け入れることとしている。にも関わらず、昌史の葬儀で麻里が号泣していた姿に引っかかりを覚えたと話す人も何人かいた。昌史の一番の親友は、昌史から心臓病を患っていることを打ち明けられおり亡くなる一週間前も薬を飲んでいたことは知っていたが、難病Aのことはやはり教えて貰っていないとショックを受けていた。昌史とその両親は、家が病院というのを隠れ蓑にし慎重に病気を隠していたことが取材でうかがえた。

役場の健康福祉課に寄ったあと、難病Aを記事として取り上げたことのある日京新聞の医療部の記者を片倉に紹介してもらった結子は、取材中の違和感をもとに芦名夫妻のついた嘘を暴いた。当初の希望通り特集することはできないが、昌史の死を健康診断受診の呼びかけと組み合わせて記事にすると伝えた結子だったが、地域医療が医師不足資金不足で立ち行かないところまで来ている、設備はもちろんのことスリッパを買い替えることすら難しく、広報紙の発行のために組まれている年間300万の予算があれば、パートの医者が一人雇えると医療を取り巻く厳しい現実を突きつけられる。広報紙を作るお金があるならこちらに回してほしい……遠回しの芦名夫妻からのメッセージを受け取った結子は、打ちのめされて役場に戻った。

今までになくやる気になって取り組んだ12月号だが、2つ予定していた「今月のこだわり」のうち1つがまるまる没になってしまった。

 

町民から存在を認められ、広報紙を作ること=人に喜んでもらえると頑張りはじめた結子でしたが、広報紙に否定的な意見があることも知ったのでした。

一月号 『こうほう日和』は必要か

12月号は可もなく不可もない面白みのない内容になってしまった。鬼庭に呼び出された結子は、1月号の「今月のこだわり」に高宝町の財政問題を取り上げるよう言われる。高宝町が多大な借金を抱えておりこのままでは財政破綻を招くという内容らしく、元広報マンらしく鬼庭の作成した企画案は凄いものだった。鬼庭の指示に従って取材を進めた結子は、町の人たちがお金に困っており、この先はもっと不景気になると考えていることを知る。若者を中心に人口流出は止まらず税収は減る一方、働く場所がなくなるので更に仕事を求めて人が都会に出ていくという絵にかいたような悪循環にはまっている。

12月号の取材のこともあり結子は「こうほう日和」作りに迷い始めていた。そんな時鬼庭から出された「今月のこだわり」のタイトルが『こうほう日和は必要か』だった。こうほう日和不要論を特集して廃刊への機運を高め、3月をもって廃刊。その後は行政からのお知らせに特化したものを希望世帯にのみ配り、基本はメールやSNSでの配信にして予算を浮かせるらしい。新人の結子を広報担当に抜擢したのもゆくゆくは廃刊に持ち込むためで、伊達はもともと廃刊派、逆に廃刊廃刊と事あるごとに口にしていた鬼庭が存続派だったことを知らされる。

伊達に鬼庭から聞いた話をぶつけると廃刊派なのを認め、何の先入観もない真っさらな状態の結子に「こうほう日和」を担当させ、必要かどうかを判断させようとしたと説明する。途中結子がやる気を出したのは誤算だったが、そのうち広報紙の存在に疑問を持つと思っていたと言う。結子は鬼庭と伊達の手のひらで上手に転がされていただけだった。

年末を控え1月号の最後の取材も終えた結子のもとに、過去に取材をさせて貰った人たちが次々に訪れ「こうほう日和」をきっかけに良い方向に向かっているという近況と感謝の言葉を告げてくる。彼らと相対しているうち結子の心が決まった。やはり「こうほう日和」は必要だ。芦名院長にインタビューを申し込むと「今月のこだわり」に彼の意見を載せることにした。廃刊派の意見だけを載せるよう求める鬼庭は、反対か賛成かあいまいな芦名の意見に難色を示したもののどうにかチェックをクリアした。

年が明けて1月号の発刊日、顔を真っ赤に染めた鬼庭が怒りながら広報課に飛び込んできた。町民から「こうほう日和」の存続を望む電話が何本も入り始めたからだ。結子がある手を使って鬼庭を出し抜き、廃刊の機運を高めるどころか存続の声を出しやすい紙面に作り替えたためだった。結子の使ったトリックに気づかないはずがない伊達のところへ向かうと、なぜ気づかないフリをしたのか彼の真意を問いただした。

 

廃刊派を口にした伊達でしたが、結局は彼自身も「こうほう日和」を愛していたという話でした。

□□

文体の印象から軽めのミステリーかと思っていましたが、なかなか手の込んだ読み応えのあるミステリーでした。この作家さんの他の本も読んでみたいです。