テレビドラマ原作アンソロジー『このミステリーがすごい!三つの迷宮』あらすじとネタバレ感想

「このミステリーがすごい!三つの迷宮」のあらすじと感想をまとめました。

3つの迷宮とあったので、3つとも密室殺人物かと勝手に勘違いしていましたが、「密室での殺人方法」「密室内で誰が殺したのか」「突然消えた弟の謎」と特にこだわってはいないようでした。初めて読む作家さんもいましたがどれも面白かったので、また読書の幅が広がりそうです。

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「このミステリーがすごい!三つの迷宮」書籍概要

密室で大学教授が突然死を遂げた。果たして単なる病死なのか(喜多喜久「リケジョ探偵の謎解きラボ」)。海上で殺害されたデベロッパー企業の社長は、周囲の誰からも恨まれていた(中山七里「ポセイドンの罰」)。父親が連れ帰ってきた少年が、“冬”のない温かな家庭に影を落とす(降田天「冬、来たる」)。人気『このミステリーがすごい!』大賞作家3名の手による、書き下ろしミステリー・アンソロジー! 「BOOK」データベースより

  • このミステリーがすごい!三つの迷宮(2015年/宝島社)

リケジョ探偵の謎解きラボ 喜多喜久

懇誠リサーチに勤める江崎のところに、ある保険金の支払いについての調査依頼が届いていた。亡くなったのは大学教授の鷹野隆三、内側から鍵が掛かっていた部屋の中で心臓麻痺を起こしたというものだった。保険の契約は亡くなる3か月前、1億円の保険金を妻で准教授の美鈴が受け取るという内容だった。美鈴は、隆三が亡くなった夜は学生たちとカラオケをして過ごしており家を空けていた。隆三の部屋の鍵は美鈴が依頼した鍵会社の人間の手で開けられた。また保険契約時に提出された健康診断書に問題はなかった。

どこか「仕組まれた感」のあるこの案件が気になる。江崎が会社から一番近い定食屋「マル喜」へと昼食に行くと、タイミング良く友永久理子がいた。久理子は近所の大学の理学部で助教をしている、いわゆるリケジョだ。個人情報を隠して調査の概要を話すと、久理子はあっさりと鷹野教授のことだと見破ったうえ、江崎が保険金殺人を疑っていると指摘した。鷹野の事件は同業のため偶々知っていただけだという久理子は、十分な情報があり美鈴の思考をトレースできれば真相は分かると思うといい、江崎が美鈴に話を聞きに行くのを知り同行を願い出た。

美鈴の使ったトリックを解明してくれるものだと期待した江崎だったが、久理子はips細胞から心筋細胞を作る時のコツを美鈴から教えてもらうと、満足して帰ろうとする。事件のことは何も分からないという久理子に強引に隆三の部屋を見てもらったが、新たにはドアと床の間に1cmくらいの隙間があることくらいしか分からなかった。

大学やマンションの管理人などから、鷹野夫妻の夫婦仲はあまり良くなく度々諍いが起こっていたことが分かる。また美鈴が研究に使う試薬会社の若い男と抱き合っているところを見たという学生の証言も得られた。美鈴の不倫相手と思われる男はギャンブルに金を注ぎこむ典型的なダメ人間で、美鈴は男に金を渡していたと思われる。鷹野教授の死は病死ではなく計画的な殺人事件と考えたもの手段もアリバイも全く崩せない。だが久理子は、美鈴の思考をトレースし彼女が使った殺人方法も分かったと言った。

 

美鈴が隆三を殺したのは冒頭で分かっていたので、「アリバイも完璧な妻が密室内でどうやって夫を殺したのか」という謎を解くものでした。江崎は共犯を疑っていましたが、美鈴の単独犯でした。

ポセイドンの罰 中山七里

「工藤コーポレート」が優秀な社員たちをねぎらうために貸し切ったクルーズ船での宴の最中、社長の工藤良市が殺害された。船上にいたのは工藤の他は成田光樹、広沢邦雄、三峰遥子、高瀬美波の4人の社員とクルーズ船の会社から派遣され操舵を担当した楢林だけだった。4時間の東京湾クルーズを終えた楢林が船内に向かったところ、4人の社員たちは酔いつぶれたのか深い眠りについていた。楢林に起こされた成田、三波が工藤のいる個室を開けると、そこに手足をビニール紐で拘束された工藤が、胸にアイスピックを突きさされた状態で絶命していた。工藤と4人の社員からは同じ睡眠薬が検出されており、彼らが持ち込んだ酒からも同様の薬が検出された。

4人と楢林のうちの誰かが犯人だと母神響子は全員から話を聞くが、楢林以外の4人全員に工藤を殺害する強い動機があった。それどころか工藤良市は学生時代から素行が非常に悪く、警察が証拠を掴めず起訴に至らなかったものの工藤が関係した事件の被害者は何十人にも上り、中には自殺をしたり人生をめちゃくちゃにされた女性も多数いた。社内でも工藤をよく思わない人間が多く、同僚に工藤を殺した殺人犯がいたとしても平気な人間は多くいるとまで言われる人物だった。聞けば聞くほど工藤の悪い話ばかり出てくる。

工藤コーポレートから話を聞いた帰り道、美波が自殺を図ったと連絡があった。目撃者によると何の躊躇いもなく突然橋から身を投げたのだという。彼女は工藤の被害に遭って以降鬱を発症しており、5年が経った今でも薬を処方されていた。その薬が工藤と4人から検出された薬と一致した。事情聴取で美波の触れられたくない部分に触れてしまった自分が彼女の自殺へと追い詰めてしまったのだと罪悪感に苛まれる響子のもとに、工藤の検視結果が届いたと連絡が入る。工藤の死はおおむね検視官の見立て通りだったが、一か所だけ気になる箇所があるという。それを聞いた響子は犯人に行き当たり、証拠を求めて動きだした。

 

被害者より加害者の方が極悪人だったという後味の良くない話でした。最後に実行犯とは別に、裏で糸を引いていた人物の存在もでてきます。被害者は多くの人間から眠っている間に死んだ(苦しまずに死んだ)ことを悔やまれるほど他人恨みを買っていたようです。

冬、来たる 降田天

姉の春菜の葬儀が始まる。享年83、春菜の妹で智秋の姉、夏依と同じで寝付くこともなくあっさりとした亡くなり方だった。棺の中の穏やかな表情の春菜を見、智秋は昔、母が亡くなった時のことを思い出す。その時の春菜は険しい表情で棺で眠る母を見下ろしていた。

春菜、夏依、智秋の3姉妹のところに弟の冬留がやってきたのは、戦争が終わってまもなくのことだった。すっかりやつれた様子で家に戻ってきた父は、3歳の男の子の手を引き、戦死した親友の息子で今日からうちの子だという。だが春菜は、冬留の耳や手の爪が父そっくりなことに気づいていた。何も言わないが母も気づいているようだった。すぐに冬留と打ち解けた夏依や智秋と違い、春菜は弟を可愛いとは思えなかった。そのうち父が亡くなると母が働きはじめた。だが女一人では生活は苦しい。ある日母の日記を見つけた春菜は、母が冬留の母親のことで葛藤しているのを知る。そして母に頼まれて冬留にサイダーと睡眠薬を飲ませた翌日、冬留は忽然と姿を消した。母が冬留を殺したと考えた春菜は以来母に対して冷たく接するようになった。

母が亡くなると、冬留を名乗る青年が現れた。冬留は幼い頃の数年間、この家で3姉妹と過ごした思い出を口にするが、春菜は頑として男を冬留と認めず詐欺師呼ばわりする。だが夏依は、母が冬留を殺したというのは春菜の誤解だという。成長しお洒落に興味を持ち始めた夏依が母の化粧道具入れを開けていたところ、母が隠していた日記を発見した。そこには冬留が東京で実の両親と暮らしているのを案じている内容だった。日記からは、冬留が父の弟の子どもであることが分かる。だが父に弟はおらず、親せきに鎌をかけると叱られた。そのことから夏依は、父には一族から縁を切られた弟が存在し、冬留は今はその両親のもとにいると考えた。誤解を解いた春菜は冬留の存在を受け入れた。

だが智秋は、目の前にいる冬留が偽物であることを知っている。なぜなら母が病気を患って入院しているのを見舞っている際、冬留の両親が一度だけ訪問したのに居合わせたからだ。そこで智秋は彼らから、たまに東京に出ていた母が冬留と会っていたこと、冬留が母にとても感謝していることなどを聞いた。そして今の冬留の現状も。智秋は母の葬儀に訪れた冬留の友人かもしれない人物に偽物であることを知っている旨を告げ、そっと帰した。その後、冬留から外国で仕事をすることが決まったというはがきが届いたきりだったが、春菜も夏依もあの日の青年が冬留だと信じたまま亡くなった。たとえ偽物でも、彼がきたおかげで、春菜の誤解は解け、お互いの胸の内を吐露して険悪だった春菜と夏依の関係も元に戻った。

暗くて寒いから冬は嫌いという春菜の孫の結衣に、智秋は春菜も夏依も父も母も、私たちは全員冬が好きと返した。

 

冬留に対してそれぞれが抱えていた思いや葛藤などが、だんだんと明らかになっていくという春の木漏れ日みたいな話でした。

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新規作家さんを開拓できるのがアンソロの良いところです。収穫ありで嬉しいです。