テーマは名探偵、『7人の名探偵』のあらすじとネタバレ感想

「7人の名探偵」のあらすじと感想をまとめました。

それぞれの作家さんが生み出した名探偵たちが登場する短編集かと期待が高まります。私自身は、

  • 麻耶雄嵩さんの「メルカトル鮎」シリーズ
  • 有栖川有栖さんの「火村英生」シリーズ
  • 法月綸太郎さんの「法月綸太郎」シリーズ
  • 綾辻行人さんの「館」シリーズ

しか読んだことがありません。新たな名探偵を開拓するのにもアンソロジーは最適です。

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新本格30周年記念アンソロジー「7人の名探偵」書籍概要

「名探偵」をテーマに7人の作家が書いた短編集。

  • 7人の名探偵(2017年9月/講談社ノベルス)

 

麻耶雄嵩「水曜日と金曜日が嫌いー大鏡家殺人事件ー」

スマホを水没させた挙句山で遭難した私こと美袋三条は、ようやく見つけた屋敷に助けを求め人心地つくことができた。そこは二年前に亡くなった大鏡博士の屋敷で、命日に追悼のため彼が育てた4人の養子と弔問客を招く日でもあった。10年前、博士は4人の孤児達に楽器と、社会に出ても困らない知識と教養を与え、十分な資金とともに独立させたあとは新しく雇い入れたメイドと2人だけで屋敷で生活していたという。

屋敷内でくつろぐ美袋は、切り立った崖にたつ鳥の観察小屋へと向かう黒ずくめの人物を目にし、5分後ほど経って出てきた姿に違和感を覚える。その後、養子の紅一点、小野セレナーデが温泉で殺されているのが発見された。メイドを連れて怪しい人物が出入りしていた小屋へと向かった美袋は、血が飛び散った壁と血まみれのナイフを見つけたものの、肝心の遺体(もしくは負傷体)はどこにもいなかった。ナイフの血はセレナーデの血と一致したが、壁の血は別人のものだった。突然屋敷に現れた客・美袋はうっかりナイフに素手で触っていたこともありおおいに疑われているところに、メルカトル鮎がやってきた。

 

自分は短編向きの探偵だと自称するメルカトルが、さくっと複雑な事件を解いていきます。メルカトル鮎シリーズを久しぶりに読んだのですが、美袋に対する毒舌と雑な扱いは相変わらずで安心しました。ラストのセリフがらしくて笑ってしまいました。

山口雅也「毒饅頭怖い 推理の一問題」

落語「饅頭怖い」で見事饅頭を独り占めした鷽吉は30年後、遊井大拙として財を成し楠木流軍学を継承していた。だが5人の息子はどれも出来が悪く、還暦の祝いの席で大拙は大番頭に店を任せ5人には勘当宣言をする心づもりだった。だが5人の不徳を言い募り、いよいよ勘当をという場面で好物の饅頭を口にした大拙は倒れそのまま死亡した。餡に毒が入っていたのだ。

死ぬ間際に嘘つきが2人いると言い残した大拙の言葉に従い、岡っ引きの半竹は、与力の藤波、同心の山之内、医師の藪野、道絡師(寺の住職)らとともに5人の息子の話を聞き嘘つき2人を見つけることになった。

 

大拙の死の調べに藤波という大物が出張ってきたことに驚く半竹でしたが、嘘つき2人を見つけ出した道絡師から意外な真相を聞きます。嘘つきを当てるパズルと大拙を毒殺した犯人当てという2つがあり、ラストのオチも落語らしくて面白かったです。

我孫子武丸「プロジェクト:シャーロック」

推理小説好きの警視庁総務課の木崎は、ふとした思いつきから「帰納推理エンジン」通称「シャーロック」をプログラミングし誰でも手が加えられるよう公開した。世界中から手を加えられ犯罪に関するあらゆるデータが蓄積されて成長したシャーロックは、とうとう定石から外れた推理さえも当てるまでになり、各国の捜査当局ですら捜査の参考にするようになった。そんななか木崎が殺された。鑑識の長沢は木崎のパソコンを調べ、彼がシャーロックの生みの親であることを知ると木崎がパソコンに残したデータの解析に没頭した。そしてパソコンの奥深くに隠されていた木崎の日記を発見、とんでもない秘密を知ってしまった。その後仕事に出て来なくなった長沢を心配して見舞いにきた同僚に慰められ元気を出したかに見えた長沢が、翌朝自殺しているのが発見された。

 

ホームズが活躍していればそのうち「彼」を作る人も現れるよね、という話でした。電脳世界での名探偵を扱った短編でしたが、彼自身が謎を解くわけでもなく、むしろ災いの箱の蓋を開けた話でした。ネットが発達していけば、いずれこういう世界が訪れるのかもしれません。

有栖川有栖「船長が死んだ日」

免停をくらった火村の運転手を務めて兵庫の山奥を回ってロッジに一泊したアリスは、翌朝ロッジからほど近い村で殺人事件が起こったことを知った。被害者は村出身者で、船を引退して戻ってきた元船長、晩酌しながらベッドでひと眠りしているところをナイフで突かれたらしい。容疑者は彼を巡って争っていた2人の女性、槌井須美代と橘美潮、美潮の夫の橘信武の3人。犯行時刻と思われる時間帯のアリバイはなく、村に唯一ある監視カメラには船長の家から持ち出したと思われるブルーシートをすっぽりと被って歩き去る犯人と思しき姿のみだった。

 

兵庫県の事件ということでお馴染みの樺田警部や野上刑事も登場します。火村やアリスとは良好な関係と言い難い野上さんですが、結構2人との息もぴったりで微笑ましいです。小さな村で起こった突発的な事件だったためか大がかりなトリックはなく、船長の家に貼ってあったポスターが燃やされていた謎について、火村と野上の冷たい視線にも負けずアリスが奮闘していました。野上さんと3人で仲良くつまんでいた大蒜チップスが美味しそうです。実在するのかな。

法月綸太郎「あべこべの遺書」

青年実業家の益田のマンションから薬剤師の一ノ瀬が転落死したが、部屋に残されていた遺書は益田のものだった。一方、一ノ瀬のマンションからは益田が服毒死した状態で見つかり、一ノ瀬の遺書が残されていた。益田の秘書の里西京佳は遺書の内容について思い当たることはないと言ったが、死んだ2人はある女性を巡って激しく対立していたことが分かる。その後、転落した一ノ瀬は他殺だと判明し、京佳が益田の依頼で彼のマンションに潜んでいたところに一ノ瀬が訪れ、もみ合いの末転倒した一ノ瀬が頭を打って死亡したことが京佳自身の口から語られた。

 

憎み合っていたライバルの家で自分のものではない遺書を残して相次いで死んだ2人、という謎を抱えて戻ってきた法月警視に、綸太郎が安楽椅子探偵で推理していきます。タイトルからしてややこしそうと思っていたら、案の定、読み進めながら頭の中がこんがらがりましたが、今回もまた読み応えがありました。

歌野晶午「天才少年の見た夢は」

戦争放棄を掲げた国で戦争が起きてしまった。ぼくこと遠山は、新型の爆弾から非難すべく施設の先輩に連れられて地下のシェルターに逃げ込んだ。先輩の月夜のほか、透視能力を持つ結唯、語学に明るい真凛、目が見えないが味覚が敏感なことり、パソコンに詳しい八塚、植物オタクの桝元、名探偵の藍と、施設にいる人間は特殊な能力を備えている。ぼく自身は絵が少し上手なくらいだけど、ルームメイトの天才プログラマーの中山を含め多くの仲間は研修旅行先で犠牲になった。

八塚がハッキングした情報通り、新型の爆弾が落とされ地下シェルターは一時的に停電した。予備電源はついたもののネット通信は遮断され、真凛は情緒不安定に陥り、藍は眠ったまま動かなくなった。被弾の翌朝、真凛が首を吊って死んでいるのが見つかった。自殺らしい。更に翌日、月夜が真凛の横で首を吊って死んでいた。貰い自殺かと思ったぼくだったが、八塚が月夜の首に手の指の後を見つけ、犯人探しが始まった。

だがその後も次々と仲間が殺されていき、藍が目覚めた時にはぼくしか生き残っていなかった。次に死ぬのはぼくだと思いながら、目を覚ました藍と対峙する。

 

名探偵として藍が出てきますが、いくつもの難事件を解決したという実績はあるものの、今回の事件を解決した素振りはありません。後日、国の偉い人(?)が、地下シェルターで起こった話を振り返っているなかで、真相らしきものが明かされます。叙述トリックでした。

綾辻行人「仮題・ぬえの密室」

新本格30周年企画の鼎談で顔を合わせた我孫子、法月、綾辻は食事の後、綾辻家に集まることになった。妻の小野冬美とともに、彼らが学生時代に所属していた京大ミステリ研で、当時誰かが書いて披露したという「幻の犯人当て作品」について、誰がどんな内容のものを書いたのか話し合うことになった。だが「ぬえの密室」というタイトルに行きついたところで議論は終了した。その後、とある人物との出会いを通して「ぬえの密室」が幻作品として封印されたいきさつを思い出したのだった。

 

とある人物は有栖川さんで、本編中に麻耶さんの名前も出てきます。名探偵を生み出した作家たちの学生時代の思い出話などが、「幻の犯人当て作品」の忘却部分を推理しつつ語られていました。綾辻さんを含め実在する作家さんたちが登場人物になっていますが、どこまでが事実でどのあたりに脚色が加えられているのかは分かりません。楽屋落ちですね。サービス満点で登場する作家ファンの方なら楽しめると思います。

 

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「名探偵」がテーマということなので探偵らしきものが登場すればOKなのでしょうが、せっかくなので全ての短編でその名探偵が謎を解くという王道が読みたかったです。企画ものということで色々飛躍したのでしょうか。