本格ミステリ作家クラブ『ベスト本格ミステリ2018』あらすじとネタバレ感想

「ベスト本格ミステリ2018」のあらすじと感想をまとめました。

とはいえ、先に「ベスト本格ミステリTOP5」を読んでしまっていたので、最初の5作品がまるまるTOP5だったことに驚きました。発行順でいえばこちらの2018が先なのですが、知らずにTOP5を読んでしまったので、何だか損をした気分になりました。情報収集は大事ですね。

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「ベスト本格ミステリ2018」書籍概要

ベスト本格ミステリ2018 (講談社ノベルス/2018年6月)

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夜半のちぎり 岡崎琢磨

ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選004」を参照

 

透明人間は密室に潜む 阿津川辰海

ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選004」を参照

 

顔のない死体はなぜ顔がないのか 大山誠一郎

ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選004」を参照

 

首無館の殺人 白井智之

ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選004」を参照

 

袋小路の猫探偵 松尾由美

ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選004」を参照

葬式がえり 法月綸太郎

「小豆とぎ橋」で「杜若」という謡曲を歌うと災厄に見舞われると言われていた。そこで豪胆な侍が度胸試しで「杜若」を大声で歌ったものの何事も起こらない。笑いながら家へ戻ったところ門の前で見たことのない女がおり文箱を渡すとぱっと消えてしまった。文箱には血塗れの幼い子どもの生首が収められており、あわてて家へと入った侍は、頭をもぎ取られた我が子の死骸を発見した。という怪談話の続編を友人の桜内から聞かされた。葬式帰りの酒席でのことだ。

その出来事から15年ほど後、傲岸不遜な侍を懲らしめてやろうと友人たちが小豆とぎ橋で杜若を歌うという肝試しを持ちかけた。その際、友人たちは悪戯を仕掛けることにした。上役の娘を嫁にもらったものの子どもがない侍を驚かすため、妻そっくりの文楽人形の首を用意して血糊で汚し手桶に入れ、門の前で待ち構えて侍に渡すというものだった。

侍は渡された手桶を確認したがなにぶん暗くてよく見えない。妻が物音を聞きつけ玄関先で出迎えた時、侍はあっと驚き腰を抜かした。そこでようやく手桶の首が人形だと気づいたらしい。侍はその後しばらく城での勤めを休み、心配と反省をした友人らが見舞いに行くとすっかりやつれた状態で寝込んでいた。そしてまもなく庭の木で首をくくっているのが発見された。

というものだった。友人達の悪戯のショックで寝込んでしまった侍が最後に自殺したという続編に肩透かしだという俺に対し、桜内は「何事も起こらないのが一番恐ろしい」とぽつりとこぼした。

酔いつぶれた桜内をタクシーで家に送り届けた俺は、自宅へ向かいながら怪談の続編の真意に気づいて悪寒を覚えた。それはまさに今、闘病中の妻が発作を起こして倒れているのを見捨てて葬式へ向かった自分自身と重なるのだった。

 

続編の肝試しを受けた侍は、友人らが悪戯を仕掛けることは承知のうえでした。それを利用し事前に妻を殺害していたのです。手桶の文楽人形の首どおり家で妻が殺されているところが友人たちの前で発見されれば、侍は犯人とはならず怪談(幽霊)のせいとして処理されるという計画でした。だが殺したはずの妻が生きて姿を現した。侍にとっては何よりの怪異でした。

昼間のうちに冷たくなっている筈の妻のいる部屋に明かりがついているのを、最後に「俺」は見ました。

カープレッドよりも真っ赤な嘘 東川篤哉

特定の球団ではなく無節操に貴重なお宝ユニフォームばかりを強奪していくという事件が起きていた。ニュースを知った「俺」は、それを利用してカープファンの高原を殺害することを思いつき、早速ネットオークションなどを探してカープのお宝ユニフォームを手に入れた。

ユニフォーム強奪がとうとう殺人事件に発展した。警視庁の若手刑事・つばめは、警視であるスワローズファンの父とともに野球ファンが集まるというベースボールバーへと聞き込みに向かった。被害者は高原雅夫。お宝ユニフォーム強奪に遭い抵抗したところを刺されたらしく、脱ぎかけのカープの真っ赤なユニフォームと年季の入った赤い帽子を被っていた。

高原は一人で静かに飲む客だったらしい。常連客の話では、高原は赤い帽子は被っていたもののカープのユニフォームを着ている姿は見たことがないという。

三人のサラリーマン、「日ハム」「オリックス」「西武」によると、「オリックス」がメジャー移籍したイチローを褒め称えていると、高原に大したことはないと嫌味を言われたらしい。また「西武」がサッカーの浦和レッズファンだと知ると、自分もそうだと返事があったらしい。だがファンの割には浦和レッズには詳しくなさそうだったという。

いちいち野球談議に首を突っ込む父に邪魔されつつも、話を聞き終わったつばめたちが店を出ようとした時、真っ赤なユニフォームに身を包んだ赤い眼鏡、赤い髪、赤いカチューシャに赤いカクテルを飲んでいた女性が、なぜ肝心なカープファンの自分には声をかけないのかと呼び止めてきた。

 

熱烈なカープファンの女性によって、誰からもカープファンだと見なされていた高原が実はカープファンではないことが次々に証明されていきました。鮮やかでした。そしてカープファンではない高原が、カープファンらしい行動をとったことを証言した人物に一気に注目が集まりました。

使い勝手のいい女 水生大海

年の瀬も押し迫った頃、「使い勝手のいい女」と言われたことがある葉月の部屋にかつての恋人・智哉がやってきた。図々しく部屋に上がり込んではお腹が空いたと冷蔵庫のものを食べ、柳葉包丁を研いでいた葉月に、昔葉月が実家から送られてきたブリを捌いて一緒に食べたのが美味しかったなどと好き勝手している。

智哉は見た目が良い分浮気癖があった。葉月と付き合っていた時の最後の浮気相手が加奈で、葉月は友人と恋人を同時に失った。加奈と付き合っている筈の智哉が部屋にやってきた目的は、葉月のお金だった。頼めば何でもやってくれると思っているのだろう、情に訴えて金をせびる智哉の頭に、葉月はシチューボウルを振り下ろした。

翌日アルバイト先のホームセンターで出刃包丁を買って帰った葉月のもとへ加奈が姿を現した。強引に部屋に上がり込んでくると、部屋が寒いといって勝手に暖房を入れようとするわ、終電前に帰れと促してもタクシーを呼べばいいと返し、挙句には泊まっていくと言い、智哉が葉月に会いに来たのではないかと疑っていた。同棲をしていた加奈と智哉だったが、銀行を辞めて加奈の実家で次々と事業を起こしたものの全て失敗し、総額1千万ものジュエリーを持って逃げたらしい。

加奈がいる間はバスルームで作業ができない。バスルームに近づかせてもいけない。智哉は来なかったと誤魔化したものの、葉月は智哉が手土産に置いていったポインセチアの鉢植えから気づかれないか気が気でなかった。

翌朝、2人分の朝食の支度をしていると警察が訪ねてきた。話があるという。

 

葉月はポインセチアの鉢の中に、智哉から渡された指輪を隠していました。加奈からジュエリーを持ち逃げした話を聞き、その一つだと思って見つかるのを恐れていました。智哉からも加奈からも都合よく使われた慰謝料代わり、くらいの気持ちだったようです。智哉の遺体は見つかりました。

この短編のテーマが「どんでん返し」だったようで、智哉殺害については意外な展開になりましたが、一番最後、葉月が貰った指輪にもどんでん返しが仕掛けられていました。二重のどんでん返し、油断していたところにラストの一文が効きました。

掟上今日子の乗車券 第二枚 山麓オーベルジュ『ゆきどけ』 西尾維新

一日ごとに記憶がリセットされる探偵・掟上今日子は営業活動の旅行中だった。宿泊先のオーベルジュで相席になった男性は裁判官で、事件で一番大事なのは「動機」なのだという。そしてすでに決着のついたある「動機がマイナスの事件」について話し出す。

非常に仲の良い高3の兄と小5の妹がおり、兄は妹を溺愛していた。ある日妹が殺害され、兄が逮捕された。妹が殺された時刻、兄は大学受験の真っ最中だったが、調べを進めると別人が兄と偽って試験を受けていたことが判明した。兄は受験会場を抜け出し妹を殺害していたのだ。

だがアリバイは崩れても、兄が妹を殺害する動機が全くといっていいほど見つからなかった。調べれば調べるほど2人の仲は親密だったと分かるだけだった。結局裁判では、成績が伸び悩んでいた兄が、受験のストレスで八つ当たり気味に妹を殺したという何ともすっきりしない判断を下さざるを得なかった。いったい、兄はなぜ妹を殺したのか。

話を聞いた今日子は、兄にはごくありふれた犯行動機があったと口にする。男の話の中に2つの重大な犯罪があり、それが動機を推測する手掛かりになったようだ。

 

たしかに犯行動機はごくありきたりなものでした。既に決着がついた事件について、聞いた話の範囲で推測した犯行動機という制限はつくものの、八つ当たりで殺したというよりもよほど説得力もあり納得がいく動機でした。

虚構推理 ヌシの大蛇は聞いていた 城平 京

人とあやかしの間に立って繋ぐという巫女の役目を負う琴子は、ある山奥の主である大蛇に呼び出しを受けた。大蛇は自分が祀られている沼で起きたある事件について、納得のいく説明が欲しいのだという。

ある日、沼で男の刺殺体が浮かんだ。殺されたあと沼まで運んで遺棄されたらしい。まもなく山のふもとに住む谷尾葵が逮捕された。殺害動機もはっきりしており本人も自供を始めたらしい。大蛇が知りたいのは、葵が男を沼に捨てる際、「うまく見つけてくれるといいのだけれど」と呟いた真意だった。

大蛇は人を食うと言われており、葵はその伝説を信じ、男の遺体を見つけた大蛇が食べて隠してくれるのを期待したのではないかと琴子は提案したが、それなら「うまく食べてくれるといい」と呟くはずだと却下される。

5年前、葵の恋人が別の女と心中しているのが見つかった。だがそれは吉原という男の仕業で、自分の横領が葵の恋人に見つかったため、告発される前に罪をなすりつけて殺害したのだ。その後立て続けに不幸に見舞われた吉原は、不幸の元凶だと考えた罪を懺悔すべく恋人の弟や葵に連絡をとった。吉原は、葵が沼に遺棄した男だった。

琴子は、葵が真犯人(例えば恋人の弟)をかばっているのでないかと推理する。沼に遺棄したのは主である大蛇に雨ごいをして雨を降らせ、犯人の痕跡を消してしまうため。沼を汚された大蛇が怒り狂って雨を降らせることを期待し、「うまく見つけて…」と呟いたのだと提案した。だがその場合「うまく怒るといいのだけれど」になる。

第三の推理として琴子は、「葵の探し物を警察に見つけてもらうため」を口にした。

 

男を捨てた沼に殺害に使った凶器も捨てたと供述すれば、大蛇の伝説を信じているような口ぶりの精神的にあやしい葵の犯行をより強固に確定するため、警察は沼をさらってでも凶器を見つけようと躍起になるはずで、実際にその通りのことが起きていました。

葵の真の狙いは、恋人が起こした心中事件のあとに沼に遺棄したある物を警察に探してもらうことでした。そのために警察の目を沼に向ける必要があり、吉原を沼に捨て、「うまく見つけて…」という呟きにつながったのでした。

評論「吠えた犬の問題」ワトスンは語る 有栖川有栖

ある作家に憑依したホームズの右腕、ジョン・H・ワトスンが、ホームズの本当の敵はモリアーティー教授ではなく、作者のアーサー・コナン・ドイル卿だったという自説を、ホームズの活躍を描いた数々の小説を例にとって証明していくという話。「バスカヴィル家の犬」の評論としての作品。

 

2017年のNHK BSプレミアムで放映された「深読み読書会」で取り上げた『バスカヴィル家の犬』について有栖川さんが披露した解釈をブラッシュアップしたものだということです。

 

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初めて読む作家さんから好きな作家さんまで、読み応えのあるアンソロでした。

シリーズもののキャラが登場すると、そこからまた読書範囲が広がるのも楽しいところです。