アンソロジー小説『猫が見ていた』あらすじとネタバレ感想

猫尽くしの短編集「猫が見ていた」のあらすじと感想をまとめました。

収録されている7作品が猫がテーマなのです。ミステリー縛りではないようですが、これは読まないわけにはいかないです。有栖川有栖さんの短編目的で読み始めたのですが、猫尽くしで満足の一冊でした。

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「猫が見ていた」書籍概要

現代を代表する人気作家たちが猫への愛をこめて書き下ろす猫の小説、全7編。作家の家の庭に住みついた野良猫。同じマンションの女の猫が迷い込んできたことで揺れる孤独な女の心。猫にまつわる名作絵本に秘められた悲しみ…ミステリアスな猫たちに翻弄される文庫オリジナルアンソロジー。巻末にオールタイム猫小説傑作選も収録。「BOOK」データベースより

  • 猫が見ていた(2017年3月/文春文庫)

マロンの話 湊かなえ

野良猫だった薄茶トラのマロンが、ある家のプランター内に落ち着き、次第に家族たちに存在を認められ家猫になるまでの話。家族と猫との距離が近づいていく様子や、小説家をしている母親の体調がマロンやマロンの息子のミルたちと暮らすことによって回復したという流れを、ミル視点で描いている。

 

猫好きや隠れ猫好きだった家族のマロンに対する優しさにほっこりする話でした。

エア・キャット 有栖川有栖

アリスは、一緒に飲んでいた先輩小説家の小夜子に火村が関わったある事件について話をする。密室殺人と言われて現場に出向いた火村とアリスだったが、裏口が開いているという普通の殺人事件だった。被害者の男は定年退職後一人暮らしをしており、空気猫・昔飼っていた猫が今でも生きて一緒にいるかのように暮らしていた。読書が趣味だったという男の書庫には、夏目漱石や森鴎外の本が並んでおり、特に「吾輩は猫である」は何度も読んだようで傷みも激しかった。

書庫を眺めていた火村がふと「三四郎」を手に取った。中から殺害前日の書店のレシートが出てきて、そこで偶然再会したという知り合いが犯行を認め事件は解決した。火村の下宿先に立ち寄ったアリスは、雑誌を借りて帰るために本が詰まっている部屋へと入ったところ、机の下から火村が書いたと思われる紙切れを見つけた。その紙切れにはこう書いてあった。「三四郎」まるで事件の手掛かりをあらかじめ知っていたようなメモに、火村は微かに笑うだけだった。

 

事件の手掛かりを予言していた火村、という謎でした。実は謎でも何でもなく、猫好きゆえの行動の結果というオチが付いていました。すでに瓜太郎、小次郎、桃という3匹と暮らしている火村とその大家の時絵さんですが、それでもまだ愛情の余裕があるくらいの猫好きな火村准教授だったというほのぼのした一幕でした。

泣く猫 柚月裕子

17年前に会ったっきり音信不通だった母が亡くなり、警察から連絡を受けた真紀は遺骨を引き取りに母の暮らしていたアパートに来ていた。男が出来ては真紀を捨て、別れては養護施設に引き取りに来るという繰り返しに真紀が切れて以来のことだった。母の同僚だったという女性が弔問に訪れた。翌日には故郷の菩提寺へと行くので他に母の死を知らせる人間はいるのかと尋ねた真紀だったが、女性の返事はいないだった。だが帰り際、弔問客はいたと思い出す。玄関ドアをカリカリと引っ掻く客・野良猫だった。近所の野良猫にエサをやって可愛がっていたらしく母の部屋にはキャットフードが置いてあった。

母のようにはなりたくないと気を張っていた真紀だったが、やってくる全ての野良猫にマキと名付けていたという話を聞き、頬を涙が伝う。

 

何度も子どもを捨て、男にも捨てられて酒で体を壊して亡くなるような母親でも、母親なりにたった一人の娘に愛情を持っていたようです。

「100万回生きたねこ」は絶望の書か 北村薫

編集をしている美希は、担当の作家に見込まれてソフトボール同好会に入っていた。だが担当作家は古希の祝いに野球がしたいという。何とか相手チームを手配し、元高校球児だという別会社の編集をピッチャーに迎え入れ体裁を整えてぶっつけ本番の試合に臨んだ。結果は上々、試合後の飲み会も盛り上がった。酒宴の席で昔読んでいた絵本の話になった。「100万回生きたねこ」が忘れられたないという美希に、ピッチャーの手塚は、あれは絶望の書だと思うと返してきた。捻くれた嫌なやつという印象を持った美希だったが、父が倒れて入院した際、子どもの頃家に「100万回生きたねこ」が置いてなかったことを尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。それは手塚の言う「絶望の書」とも通じる内容だった。

 

「100万回生きたねこ」の新しい解釈、という話でいいのでしょうか。有名どころにも関わらず「100万回~」読んだこと長いのでいまいちピンときませんでした。

凶暴な気分 井上荒野

ペット禁止のマンションでこっそり猫を飼っている女性が、飼い猫を探していた。猫の名前はヒカリ。その子がマンションの玄関先に座っていたのだ。飼い主がドアを開けた隙に出てきてしまったらしい。自分の部屋へとヒカリを連れて帰った茉莉子は、しばらくしてからヒカリを返しに行こうと思っていたが、佐々木からの電話でその気が失せた。

茉莉子は佐々木の愛人だった。身の丈に合わないこのマンションも、フリーライターとしての仕事も佐々木が用意したものだった。だが妊娠を告げたあとの煮え切らない佐々木の態度はある意味予想通りだった。

仕事で茉莉子は、大賞以外は全て佳作になる自費出版社のコンテストに応募してきた作者と会うことになった。佳作をエサに上手に作者のお金を出させて出版にこぎつけるのだ。だが待ち合わせにやってきた女性を見て茉莉子は驚く。ヒカリの飼い主だった。彼女は茉莉子が同じマンションに住んでいることは知らないようだった。茉莉子と同い年で、就職もせず親の援助でマンションの最上階に住み禁止のペットを飼っている女性。親切ごかして一緒にヒカリを探すふりをする茉莉子だったが、佐々木からの子どもは無理だという留守電を聞いてヒカリを飼い主の所へ返しに行くと、お金のために出版を持ちかけただけで本当は賞に値する価値の小説ではなかったとぶちまけた。

 

うまくまとめられませんでしたが、自分の境遇やヒカリの飼い主の言動などにささくれ立つ茉莉子の感情に、共感できる短編でした。

黒い白猫 東山彰良

台湾で刺青店が立ち並ぶあたりに9歳の「ぼく」は暮らしていた。ぼくは、金さえ貰えれば誰にでも刺青を彫るという連中とは違い、むしろ諭すニン姐さんが好きだった。ニン姐さんは黒猫に「小白」と名付けていた。もともとは白猫だけどニン姐さんが刺青で真っ黒にしたのだと嘯く。黒い方が生きやすいからと。

娼婦と名高いある少女が、ニン姐さんの黒猫を探しているらしい。そしてようやく探し当てた。少女はニン姐さんに刺青を入れてほしくて、飼い猫の小白を探していた。他の猫にバレないよう白猫を黒くしたと言う話に感銘を受け、自分の顔に刺青を入れてほしいと依頼をしにやってきた。ニン姐さんに追い出されその少女がどうなったのかは分からないけど、ぼくは目元に猫のような隈取をした女の子の噂を聞いた。

 

黒猫になって生きやすくなりたかった少女の話? だったのでしょうか。

三べんまわってニャンと鳴く 加納朋子

あるスマホゲームに重課金していた「僕」は、突然の配信終了に腹を立て、復讐のため無料ガチャでレアキャラをゲットしてアカウントごと売り飛ばそうと、レアキャラを出すまでアカウントの削除とゲームのダウンロードを繰り返していた。

行きつけの美容院でも「三べんまわってニャンと鳴く」のCMで有名になったゲームアプリを操作していると、美容師が話しかけてきた。自分は引きが良いから一度ガチャを引かせてほしいと言われ、ダメ元でスマホを渡したところ1回でレアキャラを引き当てた。彼女はそのレアキャラの猫が、可愛がっている妹分の猫・ハッチにそっくりだと喜ぶ。

売り飛ばす予定だったアカウントだったが、ゲームにはまりレアキャラにハッチの名前を付けて可愛がり、自分自身で決めていた課金をしないという禁を犯してハッチを育てていた。そのうちボイスが実装され、ハッチは問いかけに対しごく簡単な返事をするようになりますます可愛く思えていた頃だった。

再び美容院でスマホゲームのハッチを自慢していると、美容師の声が落ち込んだ。高齢だったハッチが死んでしまったのだと言う。僕は、彼女にアカウントごとハッチを譲った。規定違反だがもともと売り飛ばすつもりだったものだ。スマホのハッチに話しかけ冷たくあしらわれて笑う彼女の様子に、僕も心から笑った。

 

全てが平均以下で自分の存在を失敗作だと話す両親の会話を中学生の頃に聞いてしまった僕と、捨て子で今の両親に引き取られたという美容師の女の子の、ちょっと不器用なコミュニケーションに心温まりました。

 

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本物の猫、絵本の猫、ゲームの猫と本当にバリエーション豊かな猫アンソロでした。

私の中で一番思い出に残る猫ミステリーは、赤川次郎さんの「三毛猫ホームズ」シリーズです。子どもの頃ホームズを飼いたいとどんなに思ったことか。懐かしく思い出しました。また一から読み直したくなりました。