本格ミステリ作家クラブ『ベスト本格ミステリTOP5』あらすじとネタバレ感想

「ベスト本格ミステリTOP5」のあらすじと感想をまとめました。

新しい作家さんを探すのにアンソロジーは最適です。今回は初めて読む作家さんばかりだったので期待も高まるところです。

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「ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選004」書籍概要

  • ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選004 (講談社文庫/2019年6月)

夜半のちぎり 岡崎琢磨

新婚旅行先のシンガポールで長沼の妻の茜が殺害された。扼殺したうえで海に放り込まれたらしい。目撃情報のあったサメに噛まれたのか耳たぶが欠けていた。

茜は同じ会社の二年下の後輩で、もともと長沼は茜の同期の紗季と付き合っていた。だが長沼の執着が怖いと振られ、同じ時期にフリーになった茜と意気投合して付き合いはじめ結婚に至った。紗季も長沼の同期・川島と交際をし結婚した。長沼と川島はお互いをいけ好かない相手として認識し、茜と紗季も同じような関係だった。つまり長沼と紗季は、お互いがお互いの相いれない相手と結婚したことになる。おまけに紗季は、茜が新婚旅行先を職場で触れ回っていたせいか時期をかぶせて自身の新婚旅行先を選び、4人はシンガポールで顔を合わせることになった。

旅行最終日、紗季に呼び出された長沼は茜が寝ている隙に部屋を抜け出し密会した。戻ってくると茜の姿は部屋になく、ホテルのスタッフに問い合わせている最中に女性の遺体が発見されたという連絡があったのだ。現場で茫然とする長沼のところに、川島と紗季もやってくる。茜が殺されたことを告げると、川島はガムを噛むのを止めるほど驚いていた。紗季は、茜が前の男と別れるために長沼に近づいたことを同期はみんな知っていたと告げるが、茜の前恋人の名前までは興味がなかったらしく知らなかった。

長沼は、恋人と別れすぐに別の男と付き合うという紗季と茜の行動が鏡に映ったようにそっくりなことに気づく。つまり茜の前の男は……そこで長沼はシンガポールが非常に法律に厳しい国であることを思い出した。

 

ごみのポイ捨てや唾吐き行為で罰金になる国では、ガムも禁止とのことです。そんななかで川島が噛んでいるものが最後に分かりぞっとしました。

透明人間は密室に潜む 阿津川辰海

透明人間病にかかると全身が透明になってしまい、服や化粧、投薬で非透明化をはかるしか手段がなかった。そんなところにこの病気の権威・川路教授の新薬開発にまつわるニュースが飛び込み、透明人間病にかかり透明であることを肯定したい彩子は、教授を殺害する決意をした。夫にばれないよう透明化する体を化粧などでごまかし、教授のいる大学までのルートを念入りに調べ、当日を迎えた。

ハプニングがあったものの全身透明化した彩子は教授の殺害に成功し、新薬に関するデータなの消去なども行った。だが教授の研究室から逃げようとする前に、妻の行動に不信感を抱き探偵に調査を依頼した夫と探偵が研究室に乗り込んできた。いくら透明になったからとはいえ、物理的に壁をすりぬけて逃げる事はできない。出入口をすべてふさがれてしまった室内で、彼らの隙を見て逃げ出すため、彩子はある場所に身をひそめることにした。

教授は顔を切り裂かれ、包丁が突き立てられている体は全裸という無惨な状態で発見された。包丁は2本突き立てられたものの、片方は柄が折れて刃の部分だけ体内に残されていた。

一方探偵は、見えないものの彩子が室内にとどまっているのを確信して出入口を目張りし、夫、学生2人とともに部屋を4分割して一人ずつに担当を割り振った。そのうえでキャビネットのガラスを割って床にガラス片をばらまいて彩子が動けばすぐに発見できるように手配すると、棚の上などに隠れていないか調べたがそこに彼女はいなかった。

全ての逃げ道をふさいだ後、探偵はある場所をそっと探る。意外な場所に彩子は隠れていた。

 

透明人間が密室で隠れる場所はどこかという特殊設定なので、まずは舞台設定を理解しなければならないという小難しい短編ではありましたが、意外なところに身を潜めていました。まさに捨て身ですね。彩子が隠れていた場所よりも、犯行動機の方により驚きを感じました。透明人間ならではの動機でした。面白かったです。

顔のない死体はなぜ顔がないのか 大山誠一郎

絞殺されたあと顔を殴られて潰され、指紋も焼かれた「顔のない」女性の遺体が河川敷で発見された。女性の身元は、交際相手の男性が出した捜索願の特徴から、村野琴美かと思われたが確証はない状態だった。琴美は一人暮らしで彫金師をしていた。交際相手とは彫金の教室で出会ったという。また離婚歴があり元夫が子どもの親権を持っていた。

ニュースを見た元夫と、琴美の従妹だという幸子が警察に連絡をしてきた。幸子は確認した遺体の特徴から琴美で間違いないだろうといい、元夫は何となく違う気がするという。遺体の身元確認のために幸子、琴美の子どものDNAのサンプル採取を頼んだところ、幸子は応じたが元夫はかたくなに拒絶した。

警察は遺体の歯の治療跡から身元を特定することにした。遺体の歯と該当するカルテから、身元は村野琴美で間違いないとされた。その後、歯科医師と琴美が浮気をしていたことが明らかになり、琴美と姿かたちがそっくりの幸子との入れ替え殺人が疑われたものの、歯科医師によってきっぱりと否定された。その後歯科医師が何者かに襲われた。

犯人は歯科医師を昏倒させたものの止めは刺さずに逃げた。一見盗られたものは何もないかに見えたが、ある刑事が「奪われても気づかないある物」が犯人の狙いだったと話し始める。

 

琴美と歯科医師を襲った犯人は誰という問題もありますが、最大の焦点は、なぜ犯人は琴美の顔を潰したのかということでした。身元を分からなくするためなのですが、なぜ身元を分からなくする必要があったのかを考えていくと意外な動機に行き当たりました。

シンプルなようでいて考えられた結末だったと思います。読み応えのある短編でした。

首無館の殺人 白井智之

元々の主が妻の不貞に憤って首を切り落としたという話から首無館とよばれる曰くつきの建物の本館に3人の男が住み込んで、別館にいるある女性の世話をしていた。彼女は部屋に閉じ込められなぜか太らされ巨体に成長していた。そこに「妻殺し研究会」の女子高生3人が調査で訪ねてくる。男たちは3人を別館の部屋に一人ずつ閉じ込めた。その後、道に迷ったという男がやってきて勝手に本館に入り込んだため殺してドラム缶に詰めた。

その夜、閉じ込められた一人、しずくは施錠されていたドアが開いていることに気づきぺこちゃんと再会する。ぺこちゃんも気づかないうちにドアの鍵が開けられていたという。もう一人の女子高生、さくらこは熱を出して寝ていたため逃げ出すことができない。しずくとぺこちゃんが外に出ると、本館と別館の間の雪の上に吐瀉物が撒かれていた。そして窓から本館1階に3人の男たちの首が並べられているのを発見した。男たちは首を切られただけでなく、腹部も切り裂かれて辺りは血の海だった。

閉じ込められていた別館の巨体の女性・しおりんと合流したしずくとぺこちゃんは、惨殺死体と吐瀉物にまみれた現場で、犯人が誰なのか検証を始める。

 

本館と別館の間に吐瀉物以外、足跡等はない。本館にいたのは男4人で、3人は首を切られ腹部は切り裂かれていた。もう一人は屋上のドラム缶の中で遺体で見つかった。女子高生3人としおりんは別館にいた。犯人はどうやって雪で閉じ込められた本館から逃げたのか。

犯人と密室の謎を解くのが本題なのでしょうが、とにかく描写がグロすぎて気持ち悪くなりました。ちょっと作風が無理です。

袋小路の猫探偵 松尾由美

童話作家の家へと打ち合わせに行った編集の田宮宴は、道中に不思議な光景を見た。その話をすると、飼い猫らしきハチワレと童話作家(本業は実業家らしい)の秘書・丸山は興味を抱いたので、宴は一部始終を語ることになった。

編集長の下手くそな地図を頼りに駅から作家宅へと向かっていた宴は、案の定、道に迷った。

行き止まりに突き当たり戻ろうと振り返った時、ドクロのイラスト入りのTシャツに黒っぽい破れたジーンズ、黒い革バッグを小脇に抱えた若い男とすれ違った。男も袋小路の行き止まりに気づき、くるりと戻り走り去っていった。宴が袋小路から出る間際、警官が走ってきて宴が戻ってきた行き止まりの道へと入っていった。その時、宴はドクロTシャツの男の違和感に気が付いた。抱えていたバッグは女物だったのだ。ひったくり犯が逃げていった方向を警察官に教えてあげようと袋小路へと振り返った宴は、いるはずの警察官の姿がこつぜんと消えていることに驚いた。

袋小路の突き当たりは高い塀ではばまれ、両側はそれぞれ二階建てのアパートとテラスハウスが建っており通り抜けるような隙間はなかった。

宴が別の担当作家にその話をすると、興味を持った作家が警察署長に話を聞きにいってしまった。だがそのひったくり犯は、ちょうど近くにいた署員が追いかけすでに捕まっている、特に何も問題は起きていないことを聞かせてくれただけだった。

話を聞き終わった丸山は、宴に現場で何か気づいたことはなかったか問う。宴が袋小路に入る前にはなかったが、出る時にはテニスボールが転がっていたことを話すと、丸山はおもむろに警察官が消えた理由を話しはじめる。

 

宴と丸山とのやり取りの最中に、猫がしょっちゅうニャンニャンと口を挟んできています。宴にはただの飼い猫のように映っていますが、実はその猫こそが探偵で秘書の丸山は通訳係だったという設定のようです。

消えた警察官の謎は、発想の逆転を狙った心理トリックでもありました。なるほど。面白かったです。

 

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他の著書も読んでみようかなと思う作家さんに出会えるので、アンソロは新規開拓にいいですね。その分、落差が激しいですが。