青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』あらすじとネタバレ感想

青崎有吾さんの「ノッキンオン・ロックドドア」のあらすじと感想をまとめました。

ホームズ&ワトソンの探偵コンビはよく見ますが、こちらは探偵&探偵のコンビとなっています。不可能専門の倒理と不可解専門の氷雨が共同経営する探偵事務所「ロッキンオン・ロックドドア」に舞い込む様々な事件を、不可能(HOW)と不可解(WHY)の2つの観点から解き明かしていく連作短編集です。

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「ノッキンオン・ロックドドア」書籍概要

密室、容疑者全員アリバイ持ち、衆人環視の毒殺など「不可能(HOW)」を推理する御殿場倒理と、理解できないダイイングメッセージ、現場に残された不自然なもの、被害者の服がないなど「不可解(WHY)」を推理する片無氷雨。相棒だけどライバル(!?)な探偵ふたりが、数々の奇妙な事件に挑む!「BOOK」データベースより

  • ノッキンオン・ロックドドア(2016年4月/徳間書店)
  • ノッキンオン・ロックドドア(2019年3月/徳間文庫)

ノッキンオン・ロックドドア

インターホンのついていない探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」では、客は素手でドアをノックするしかない。相棒である倒理のアイデアを最初反対していた氷雨だが、ノックの音で来客がどういった類のものかが分かるので今では気に入っていた。今回の客は年配の女性・霞蛾水江、仲介屋である神保の紹介で、不可解で不可能な殺人事件の依頼に来たという。

水江の夫・英夫は有名な画家で自宅の屋根裏部屋にアトリエを構えていた。朝の9時、水江と二十歳になる一人息子の竜也が朝食をとっていたところ、画商の三越が英夫との打ち合わせのためやってきた。徹夜でアトリエに籠っている英夫を呼びに竜也と三越が階段をのぼり屋根裏へと向かったところ、強めにノックをしても返事はなく部屋は施錠されていた。室内からしか開けられない鍵だが、掛け金を回して受け金にはめる簡易なものだったので竜也がドアの隙間に物差しをさしこんで掛け金を押し上げ開錠した。中には背中にナイフを突きたてられ、うつ伏せで死んでいる英夫がいた。警察によると死亡推定時刻は深夜1時頃、部屋への出入りはドア以外ない密室殺人だった。また壁に飾られていた英夫の描いた6枚の風景がが壁から外され床にばらまかれていたうえ、一枚だけ真っ赤に塗りつぶされていた。

早速霞蛾邸へと向かった倒理と氷雨は、大学時代からの知り合いである警部補の穿地決と会う。2人は屋根裏部屋の検証を始めた。倒理は密室の謎を解くため部屋やドアの辺りをルーペで調べ始め、氷雨はなぜ6枚の絵が額から外され1枚だけ塗りつぶされていたのかという謎に挑む。絵はそれぞれ5mm程度のベニヤ板に貼られている。怨恨に見せかけた保険金殺人の可能性もと頭を悩ませている氷雨に対し、倒理は密室の謎が解けたという。ルーペを渡されドアの前の床を見た氷雨は、三越らが強めにドアを叩いた際にドアから剥がれ落ちたらしき白いペンキの粉を発見し悔しさを噛みしめる。氷雨にも犯人と、6枚の風景画の謎が解けた。三越と竜也からそれぞれ体重を聞き出した2人は、穿地に犯人の名を告げた。

 

図解されてようやく密室を作った方法が理解できました。犯人の動機がかなり歪んでいます。

髪の短くなった死体

探偵事務所の女子高生アルバイト・薬子が茹でてくれた蕎麦を食べていた倒理と氷雨の所に、仲介屋の神保が仕事を持ってやってきた。依頼人は下北沢の賃貸マンションのオーナー。内容は所有しているマンションで起きた不可解な殺人事件の解決だという。

4人だけの劇団「キクラゲ」は、お金を出し合ってマンションの一室を稽古場として借りていた。一番若手の西辺憲がリーダーの善田に、稽古場の衣装と機材を楽屋まで車で運ぶよう頼まれた。荷造りはミカがする予定で部屋の鍵はそれぞれが持っている。だが稽古場のドアは少し開いており、梱包前の段ボールが玄関前に放置され、奥の洗面所の方から水音がする。恐る恐る覗いた西辺は、シャワーが出しっぱなしの浴槽内で下着姿のミカが死んでいるのを発見した。死因は細い紐状のもので絞めたらしく、首の周りにぐるりと跡が残っていた。10時頃に近所のコンビニでミカが飲み物を買っている姿がカメラに映っていることから、殺されたのは10時から11時頃と思われる。そして不可解なことに、長く伸ばしていたミカの髪の毛がうなじのあたりまでばっさりと切り取られ持ち去られていた。

現場には穿地がいた。浴槽に浸かるミカは痩せ型の女性だった。服が重なっている順番から死後脱がされたものではなくミカ自身が脱いだものだと見抜いた倒理は、ミカには昼間からいちゃつくような相手がいたのではないかと口にする。その後同じ劇団員の奥寺幸次と付き合っていたことが判明し、そのせいで劇団の空気が悪くなっていたことが分かる。奥寺は小柄で中性的な容姿、残る劇団員は年齢的にギリギリセーフのツインテール・古井戸さわ子。ミカの死亡推定時刻、3人ともアリバイがあいまいだった。

順調に推理を進めるものの、髪の毛が切られた理由は解けない。その後駅前のゴミ箱から被害者の物と思われる髪の毛の束が見つかった。髪の毛を凶器にしたのではないかという2人の意見で3人の手のひらが調べられたが、いずれも異常は発見されなかった。推理は振り出しに戻ったものの、梱包用のビニール紐が現場にないことに気づいた倒理はあることに思い至り、今回の事件は氷雨ではなく自分の領分だと言う。事件の全容が分かった。

 

犯人は犯行の証拠が見つからないよ巧妙に演じていましたが、倒理によって犯行の手順を見抜かれました。なぜ髪の毛は切られたかという謎は、今回の事件のメインともいえるトリック部分だったため確かに倒理の領分(HOW)でした。

ダイヤルWを廻せ!

亡くなった祖父が遺した金庫を開けてほしいと長野崎仁志がやってきた。中には古雑誌マニアの祖父が集めた雑誌しか入っていないが、遺書の通りにやっても金庫は開かないため、暗号だと仁志は言う。同じ日、一人暮らしをしている父が家の横手の路地で死んでいるのが発見され転倒死と言われたが納得していない女性・島津奈津子が依頼にやってきた。奈津子は父親は誰かに殺されたのだと言い張った。ちょっとした言い合いの末、金庫の暗号時を氷雨が、一人暮らしの老人の死亡事件を倒理が担当することになった。

氷雨には助手として薬子が付いた。仁志の祖父の家へ行くと、遺品整理にきたという建設現場の作業員をしている叔父と出くわす。問題の金庫は想像より本格的で高さ1m弱、横幅・奥行とも60cm少々で右側にノブのような取っ手があり、ドアには2つのダイヤル錠が上下に並んでいた。遺書には開錠番号が記されているがその通りに回しても全く開く気配がない。薬子と2人で思いつく数字を次々と試してみるものの歯が立たなかった。そのうち氷雨は喜寿の祝いに撮ったという家族写真の中に、倒理の依頼人の女性を発見する。念のため仁志に確認すると、祖父の死因は家の横手の路地で転倒して頭を打ったのだと返ってきた。

一方、倒理は事故現場に公休日だという穿地を呼び出し事件のあらましを聞いていた。死因は近所の自販機まで煙草を買いに杖を突いて歩いていたところ足を滑らせて転び、運悪く石に頭をぶつけたと思われる転倒死。事件当日に変わったことといえば亡くなったとされる午前2時頃、断水が起きていたくらい。だが倒理は杖の先に路地の土がついておらず綺麗だったことから、誰かに路地まで運び込まれたと考える。穿地から亡くなった老人が古雑誌を集めていたことを聞いた倒理は、老人の自宅へと入り込み建設現場の作業員をしている男の制止を振り切って2階へと駆け上がった。そこには金庫の暗号に挑戦している氷雨たちがいた。

合流した2人は情報交換し合い、もし老人が殺されたとすればこの金庫のある部屋が現場だと考える。全体的に埃っぽい部屋で金庫の上は埃もなく綺麗なことに気づいた氷雨は、スマホで金庫の画像を検索する。そして金庫の正しい開錠方法を知った。

 

金庫のドアを開ける過程で、殺人事件だと判明し犯人も明らかになりました。お互い得意分野が異なるため、ライバルとして意識している場面も見受けられる2人ですが、名コンビなのが改めて分かる短編でした。

チープ・トリック

穿地からの協力要請で現場へと出向いた倒理と氷雨は、本物のメイドがいる屋敷に着いた。被害者は湯橋甚太郎、一か月ほど前に大規模な個人情報流出事件を起こした花輪ゼミの重役で、流出に噛んでいたのではないかと目されている人物だった。湯橋は自宅の書斎で窓の外からの狙撃を受け死亡した。明らかにプロの仕事と思われる。湯橋は周囲に命を狙われていると漏らしており、外出時にはボディガードを付け、書斎には分厚い遮光カーテンを引き絶対に窓から1m以内には近づかないという用心深さだったにも関わらず、窓際で狙撃されたとしか思えない角度で一発で胸を撃ち抜かれていた。当時家には湯橋と妻、住込みメイドの近衛がおり、妻と近衛がリビングにいたところ2階からドサリという音がしたため近衛が様子を見に行って仰向けに倒れている湯橋を発見した。

誰がトリックを仕掛けたのかは分かっていると穿地は言い、狙撃場所と思われる所に残されていたチープ・トリックの「今夜は帰さない」の歌詞が書かれたメモを2人に見せた。美影の仕事だった。カーテンで室内の様子が分からないにも関わらず狙撃手は一発で湯橋の心臓を撃ち抜いたトリックを解明できないまま翌朝になり、氷雨は一人である中古書店へ向かった。倒理も穿地も知らないが美影はその中古書店の常連だった。美影は、今回依頼されたのは不可能犯罪ではなく不可能狙撃だったことで(殺しさえすれば手口はどうでもよかった)、どうやって湯橋が殺されたのかという謎は偶然が重なったためと被害者の倒れ方のせいだとヒントを残して去っていった。

事務所に戻った氷雨は、薬子が作ってくれたパエリアを食べつつ事件の事象を一つ一つ頭に思い浮かべていく。ふいに頭の中が晴れた。

 

人工的にトリックを作り出していたのではなく、用心深い湯橋の行動や屋敷の様子を観察したうえで狙撃ができるある一瞬を狙ったものでした。倒理、氷雨、穿地、美影は大学時代同じゼミに在籍していたようです。

いわゆる一つの雪密室

仲介屋・神保の紹介で2人は雪深い岩手の山奥で雪の密室の謎に挑んでいたが、張り切るのは不可能専門の倒理ばかりで、氷雨は温泉に入りたいとぼやいていた。被害者は茂呂田勝彦、雪が降り積もる空き地の真ん中に横たわり胸には包丁が突き刺さっていた。倒れた後にもがいたのか茂呂田の周囲だけ雪の表面が乱れており赤い血が滲んでいる。第一発見者が撮影した写真によると、茂呂田の工場がある空き地の南側から茂呂田の倒れている場所までは、被害者のものである一筋の足跡しかついていなかった。凶器の包丁は茂呂田の家にあったもので指紋は消されており、当日の気象状況などから雪が止んだ後の出来事だという。

茂呂田は住み込みの従業員2人と暮らしており、発見者は住み込み従業員の1人だった。空き地を挟んで北側には茂呂田の弟の家があり、事件の夜は茂呂田の家で茂呂田、弟、従業員2人で酒を酌み交わしていたものの、最近の兄弟仲は良くなく案の定激しい罵り合いが始まり、従業員らが殺してやると激昂する茂呂田を羽交い絞めにして殴り合いに発展しそうなところを止め、お開きになった。凶器の包丁を見たのは、つまみのサラミを切るのに使った後食洗器にかけたのが最後だという。また弟は茂呂田の家で飲んでいる間、一度も席を立たなかった。

宿泊先の宿で温泉に浸かりながら事件について、どういうトリックを使ったのか話し合っていたが、突如氷雨が「明日の朝には帰れそうだ」と言う。今回は倒理の領分だと思っていたが、どうやら不可解専門の氷雨の方が先に謎を解いたらしい。

 

岩手土産として、倒理は15万する牡鹿の頭のはく製を、解決報酬を全額投入しローンを組んで購入したようです。

十円玉が少なすぎる

1月が半分すぎ正月気分が抜けても事務所に客はなかった。薬子の料理を堪能しつつ酒を飲み始めた倒理と氷雨は、薬子に何か日常の謎はないかと言い始めた。2人に無理難題を押し付けてみたくなった薬子は、路上ですれ違った男が言っていたセリフを口にする。『10円玉が少なすぎる。あと5枚は必要だ』30代くらいのスーツを着た普通の会社員風の男の、スマホで話している言葉の一部だけが聞こえてきた。その男は赤地に黒のドット模様のちょっとおしゃれなネクタイをしていた。

早速男のセリフから2人は推理を展開しはじめる。推理は転がり続け、最終的に「2人の男が邪魔な存在となったある主婦を探すため、少ない手掛かりからリストアップした住所に公衆電話から片っ端に電話をかけるために10円玉をたくさん必要としていた」という結論に落ち着いた。真面目に推理を聞く薬子に対し、2人は自分たちの推理が全部当たっていたら依頼人はもっと増えているとゲラゲラ笑い出す。酔っ払い達の他愛ない推理ゲームだったのだ。

そんな時穿地が事務所にやってきた。主婦の絞殺体が見つかった事件が少々面倒なのだと言う。どうやら主婦は別の殺人事件の目撃者になってしまい口封じのために殺害されたと思われる。事件のあらましを聞いた3人はきょとんとする穿地に、犯人は片方が赤地に黒のドット柄のネクタイをしている2人組の男だと伝えた。

 

推理の過程とオチが最高でした。

限りなく確実な毒殺

元衆議院議員・外様が次の選挙で返り咲くためパーティーが催された。会場に現れた外様は何人かと挨拶を交わした後、秘書に促されてスピーチのため壇上へと向かう。その際、給仕係の女性が持つトレーに並ぶ10個ほどのシャンパングラスから一つを取ると、1/3ほどを一息に飲んだ。秘書が作成しているという原稿通りにユーモアを交えながらスピーチを進めていた外様だったが、突然苦しみだす。倒れた外様は救急搬送されたものの6時間後に死亡した。こぼれたシャンパンからは致死量を超えるロミオトキシンが検出された。ロミオトキシンは摂取して20~30分後に急激にマヒが起こる神経毒で、外様が苦しみだしたのはスピーチ前に飲んだシャンパンから15分ほど経った頃だった。

パーティーの様子を映したビデオを穿地に見せられた2人は、シャンパンに毒を入れたトリックについて考えることになった。トレーに残っていたものを含め会場内の全ての食べ物・飲み物について調べたところ、毒物が入っていたのは外様の飲んだシャンパンだけだと分かった。穿地と2人の意見は、無差別ではなく外様を狙った犯行で一致した。現場にはチープ・トリックの歌詞が書かれたメモが残されていたという。美影の犯行だった。

パーティー会場のホテルの従業員、外様の秘書らに話をきいた2人は、秘書の浦和が犯行・証拠隠滅ともに可能で動機もある真っ黒な人物だと断定した。だが衆人監視下にいる外様に毒を飲ませた謎が解明できない。事務所でトリックについて話をしているうち、氷雨の何気ない一言をきっかけに倒理が閃いたらしい。毒はシャンパンに入れられていなかった。

 

事件解決後、美影と会った氷雨は4年前の謎は解けたのかと尋ねると、解けていないのは氷雨だけかもと返されます。倒理が夏でもタートルネックで首を隠している理由も、同じゼミの4人のうち美影が道を違えたのもこの辺りに原因がありそうです。

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読みやすく、展開がスピーディーで面白かったです。美影と、倒理がタートルネックで隠している首の傷跡との関係も匂わせるだけではっきりとしていませんし、続編が気になりすぎる一冊です。