青崎有吾『早朝始発の殺風景』あらすじとネタバレ感想

青崎有吾さんの「早朝始発の殺風景」のあらすじと感想をまとめました。

高校生を主人公とした5つの短編をまとめたものです。それぞれが独立した話なのですが、舞台設定が同じだったり登場人物がゆるやかにリンクしているので、ちょっとした繋がりを見つけるのも楽しい一冊です。

殺人事件は出てこないので、そういうのが苦手な人にも読みやすい短編集となっています。

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「早朝始発の殺風景」書籍概要

始発の電車で、放課後のファミレスで、観覧車のゴンドラの中で。不器用な高校生たちの関係が、小さな謎と会話を通じて、少しずつ変わってゆく―。最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。「BOOK」データベースより

  • 早朝始発の殺風景(2019年1月/集英社)
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早朝始発の殺風景

午前5時30分、横槍線・鶉谷駅にやってきた啄木駅行きの始発に乗り込んだ加藤木は、がらがらの7号車に一人だけ座っていたクラスメイトの女子高生・殺風景と目が合った。苗字が珍しいから覚えているだけでたいして話もしない殺風景のそばに座ることになり、お互いになぜ始発に乗ったのかを探り合うことになってしまった。加藤木はある漫画連載の最終回が載っている今日発売の雑誌をコンビニで立ち読みしたかったから、殺風景は連休明けから10日連続で始発を使っており、立ち読みよりずっと大事な用があるからと話す。

お互いのスマートフォンを交換すると、映研部長の加藤木は早朝からの撮影をサボって始発に乗っていることが分かり、ほとんど電話しか使っていないらしい殺風景は最近休んでいる叶井との頻繁な通話履歴と、料理のレシピらしき皮を剥くだのブツ切りにするだのといったメモアプリの記録くらいしか見つからなかった。だが写真の風景から啄木町の自然公園へ行くことが殺風景の目的だと分かる。殺風景の鞄からのぞいていたジップロックや軍手を目にした加藤木は、殺風景が始発で自然公園に通い続けているのは、ある人を探しているからだと言う。

一方殺風景も、加藤木のことが良く分からないといいつつも、乗り降りに便利な1号車を使わずわざわざ7号車に乗ってきたことから、加藤木が始発に乗り込んだのはアリバイ作りのためだと指摘する。

 

殺風景は友人のために、加藤木は自分の正義のために始発に乗って高校のある啄木町へと向かっていました。殺風景の目的を知った加藤木は、その後殺風景に協力して始発に乗り続けたようです。

メロンソーダ・ファクトリー

水薙女子高の同じクラスの仲良し3人組、真田・詩子・ノギちゃんは、恒例のファミレスでのお喋りに花を咲かせていた。ドリンクバーでは詩子は必ずメロンソーダを飲む。お代わりもメロンソーダで、それしか飲まない。真田はアセロラソーダ、ノギちゃんはダイエットコーラを選んだ。のんびりしている詩子は、ストローを忘れたと言ってコップからそのままメロンソーダを飲んでいた。

本日の話題は、学園祭で着るクラスTシャツの図案について。デザインと発注を3人が担当することになったため、まずはデザインを決めなければならなかった。候補はクラスメイトから挙がってきたA案と真田が作ったB案の2つ。A案はクリーム色をベースにした茶色い鹿のキャラクターを描いたものでクラス担任の口癖をうまく盛り込んだ身内ウケのデザイン、B案は緑色のTシャツに赤い葉っぱをペイズリーっぽく重ねたジャングルをイメージしたデザイン。てっきり自分の味方をしてくれると思っていた詩子は、A案を推した。

思わずなぜなのかと問う真田に対し、詩子はいいにくそうにB案は分かりづらいような…と口ごもる。B案をベースにA案の鹿を盛り込むのはどうかというアイデアにも詩子は首を縦に振らなかった。でも真田の絵は好きだという。気まずい雰囲気になった頃、ドリンクバーのお代わりのためノギちゃんが席を立った。詩子は幼い頃からマイペースだった。クリスマス会ではつまらなさそうにしているし、啄木町の自然公園に写生に行った時は一人だけマンホールを描いていた。メロンソーダ、アセロラソーダ、カルピスウォーターと3人分のジュースを手に戻ってきたノギちゃんが詩子にストローはいるかと聞くと、詩子は今日はストローの気分じゃないと答える。

詩子が手洗いのため席を立つと、ノギちゃんが真田にアセロラソーダを飲むよう促し、ある程度飲んだところでストップをかける。そしてメロンソーダとアセロラソーダのコップを並べ、アセロラソーダのストローをメロンソーダへと移した。0.2%が多いか少ないかと尋ねてきたり良く分からないノギちゃんの行動に首をかしげる真田に対し、ノギちゃんはそのまま見ていてと言った。詩子が手洗いから戻ってくる。テーブルの上の並んだ2つのコップに気づいた詩子は、体を凍り付かせると動揺したように制服のスカーフをぎゅっと握りこんだ。

 

詩子がA案にこだわった理由をノギちゃんが解き明かす話でした。最終的に真田がB案にちょっとした手を加え、デザイン案は無事に決まりました。

夢の国には観覧車がない

フォークソング部の3年生追い出し会は、幕張ソレイユランドで行われた。3年の寺脇は1つ下の葛城と乗りたかったと胸の内で思いながら、なぜか後輩の伊鳥と観覧車に乗る羽目になっていた。ソレイユランドに着いた途端、伊鳥がお土産を買いたいと店に直行しなかなか戻ってこない間に、全部で14人いる部員たちはそれぞれでグループを作って分散していった。素直に待っていた寺脇と伊鳥があぶれ、伊鳥の希望で観覧車にのることになった次第だった。直径170mの大観覧車は伊鳥によると一周22分かかるらしい。今回ソレイユランド行きを企画したのは伊鳥だった。なぜディズニーではなかったのかと問う寺脇に、夢の国には観覧車がないからだと伊鳥が答える。

どんなお土産を買ったのかと尋ねると、向かいに座っていた伊鳥は寺脇の隣に移動し目覚まし時計を手提げの中から取り出した。長い時間かけて選んだのはこれかと思う寺脇に、ふいに伊鳥が葛城のことを好きなのかと尋ねてきた。寺脇の態度は分かりやすかったらしい。葛城は高所恐怖症だから観覧車には乗れないと言うと、伊鳥はこれからどうするのかと問いかけてくる。学年が違ううえ第一志望の大学に合格したら寺脇は東京で一人暮らしを始める。葛城との接点も切れてしまう。結論もでないまま寺脇が考え込む。観覧車に乗りたがったわりに、伊鳥は景色を楽しむ様子もない。なぜなのかと考え今までの伊鳥の不自然な行動から、寺脇は自分と二人きりになりたかったのではと思いつく。

だがまもなく2人が乗ったゴンドラが終点に近づこうとしていた時、寺脇の視界にあるものが入ってきた。そして伊鳥の本当の狙いが分かった。完全犯罪で自分の手を汚さずに自分を殺すつもりだったと言う寺脇に対し、伊鳥は殺すつもりではなく救うつもりだったと答え、伊鳥が知っている事実を寺脇に説明しはじめた。

 

青春ですね。この件をきっかけに仲良くなったのか、寺脇の受験が終わった後、伊鳥と2人でディズニーに遊びに行っているようです。

捨て猫と兄妹喧嘩

水薙女子高1年生のあたしは、近所の啄木高校に通っている1つ上の兄貴を呼び出していた。中学の時に両親が円満離婚したため、実家には父と兄が、家を出た母とあたしはマンションで暮らしていた。鼻をぐずぐずさせているあたしは兄貴からの風邪かとの問いかけに首を振ると、膝にのせていた段ボール箱をテーブルに置き中を開けた。まん丸い茶色の猫が眠っており、そばにはトイレ用の砂や餌用のトレー、キャットフードの缶詰が6つあった。箱の側面には「オスです。一歳。去勢済み。三種混合予防接種済み。病気等ありません。おとなしいです。拾ってやってください。すみません」と書かれたメモがセロテープで貼られていた。

ペット禁止のマンションで猫は飼えないから、兄貴の所で飼ってほしいと相談するあたしに、兄は驚いたように固まった後うちは無理だと拒絶し、どうして見つけたり拾ったりするんだ、元の場所に捨ててこようという兄と兄弟げんかに発展してしまった。目を覚ました猫の鳴き声でいったん冷静になった2人は、ジュースを飲みながら猫を捨てた元飼い主の人物像について想像を膨らませる。人慣れしている猫は、キャットフードの缶を食べると兄の足元へといき寛ぎ始めた。兄の所で飼えないのかと再交渉を始めたあたしに、兄は猫アレルギーだから駄目だと言うと、父親が再婚するかもしれないと告げた。再婚相手が重度の猫アレルギーらしい。

再婚すれば今よりももっと会う機会が減るとしみじみするあたしに、唐突に兄が猫を引き取ると言い出す。自分の部屋で隠れて飼うらしい。あたしも1か月くらいなら隠れて飼えると今度はどちらが猫を引き取るかでけんかする。さっきとは真逆だとテーブルに置いた元飼い主のメモを眺めていたあたしは、ある違和感に気が付いた。頭の中で一つ一つ追いかけていくうち、ある結論に達する。飼い主が誰だったのか分かった。

 

兄弟が交代でエサをやりにくるそうで、猫は空き家になったマンションに野良として棲むことなったようです。何だかいい感じ(?)でまとまっていますが、地域猫になったわけでもなさそうですし、兄弟の出した結論にもやもやしました。

三月四日、午後二時半の密室

水薙女子高の卒業式の日、クラス委員の草間は、風邪で式を欠席した煤木戸の家に卒業証書とアルバムを届けにきた。煤木戸は良く言えば嘘や慣れあいを嫌い、常にはっきりと物を言う人、悪く言えば空気が読めない困った人だった。インターホン越しに合鍵の場所を聞き彼女の部屋へと上がった草間は、ベッドでスマホを操作していた煤木戸に届け物とお見舞いのプリンを渡す。彼女の部屋は整然としてほのかに石鹸の香りがする。

煤木戸家は4人家族で、両親は仕事、姉は彼氏とインド旅行中だった。ほとんど交流のなかったクラスメイトとの会話はぎこちなく、一緒にプリンを食べながら草間は煤木戸の風邪が本物かどうか疑っていた。煤木戸の看病をやや強引に手伝いながら密かに様子をうかがう草間に、熱が出ていたのは事実で、さすがに仮病を使ってまで卒業式を休んだりしないと煤木戸は言う。そのうちやることも話題も尽き、少し眠りたいという煤木戸の言葉をしおにお暇することになった草間は、彼女のある行動を思い出し部屋中をじっくりと観察する。手掛かりはそこらじゅうに散らばっていた。草間は、煤木戸が嘘をついていると言った。

 

ちょっとした女心からの煤木戸の行動でしたが、急ごしらえだったためかたくさんのボロを出し草間に見抜かれてしまいました。卒業式が終わりクラスメイトではなくなった後に生まれる友情もいいものですね。

煤木戸の秘密を解く伏線が細かくあちこちにバラまかれているのですが、書ききれないのではしょりました。

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最後に登場人物たちのその後の様子などを描いたエピローグが書下ろしでついていて、誰がどのように繋がっているのかが分かるようになっています。殺風景さんは加藤木の協力のもと、見事に本懐を遂げたようです。早朝始発に乗る理由もなくなったわけですが、お互いに理由を作って今まで通り一緒に始発電車に乗るようです。青春です。

日常系ミステリーとしても青春ものとしても面白い一冊でした。