青崎有吾「裏染天馬」シリーズ第3弾『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』あらすじとネタバレ感想

青崎有吾さんの「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」のあらすじと感想をまとめました。

今回は短編ということもあり、柚乃以外が主役の話も交じり楽しい一冊となっています。シリーズを追うごとに柚乃が細身で色白の文学少女的見た目のアスリート(卓球部)という最初のイメージからどんどん離れていっている気がしないでもないです。

「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」書籍概要

夏祭りにやって来た、裏染天馬と袴田柚乃たち風ヶ丘高の面々。たこ焼き、かき氷、水ヨーヨー、どの屋台で買い物しても、お釣りが五十円玉ばかりだったのはなぜ?学食や教室、放課後や夏休みを舞台に、不思議に満ちた学園生活と裏染兄妹の鮮やかな推理を描く全五編。『体育館の殺人』『水族館の殺人』に続き、“若き平成のエラリー・クイーン”が贈るシリーズ第三弾は、連作短編集。「BOOK」データベースより

  • 風ヶ丘五十円玉祭りの謎(2014年4月/東京創元社)
  • 風ヶ丘五十円玉祭りの謎(2017年7月/創元推理文庫)
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もう一色選べる丼

生徒数に対して席数が足りない学食では、きちんと返却することを条件に食堂以外に持ちだしてもいいことになっていた。だが返却率が悪いため怒った食堂のおばちゃんによって、返却し忘れを見つけたら食器の持ち出しを禁止するという決まりが設けられた。食堂のすぐ外、焼却炉との間のデッドスペースで、ごみ捨てに行ったおばちゃんによって丼鉢が放置されているのが見つかった。おまけに中にはソースカツが半分くらい残ったままトレーごとほったらかされていた。激怒したおばちゃんによって持ち出し禁止が発令されかけたが、犯人を見つけたら発令中止・食券20枚進呈を条件に、学食に居合わせた天馬に犯人捜しが託された。

トレーに残っていたレシートによると犯人が注文したのは、好きなもの2つを組み合わせて丼にできる人気メニュー・二食丼。親子丼とソースカツ丼を選んだらしい。そして親子丼と、キャベツとソースカツだけを残して下のごはんは食べた。また丼や水の入ったコップが残されていたものの、箸はなかった。

柚乃やおばちゃんが見守るなか天馬は、短めの茶髪で左利き、身長180cm以下の男でやせ型か中肉中背の運動部所属、役職についていて今日部活のミーティングがあり、最近彼女ができたらしい二年生か三年生を探せと言った。

 

置き去りにされたトレーに残された痕跡からこれらのことを推理しました。犯人は謝ってトレーを返却しおばちゃんに大目玉をくらったものの、食器持ち出し禁止にはならず、天馬も食券20枚をゲットしました。

風ヶ丘五十円玉祭りの謎

神社の祭りの警備についているという保土ヶ谷署員たちを見舞いにいく兄について、柚乃も祭りにでかけた。そこは60もの露店が立ち並ぶ大きな祭りだった。途中、300円のたこ焼きを買った柚乃は、お釣りの200円をすべて50円玉で返されるという不思議な経験をした。仲間のいる社務所に入っていった兄を外で待っていた柚乃は高校生くらいの男兄弟が、何かを時計から抜いてきた、携帯よりまし、と言った会話を交わしているのを耳にした。

幼なじみの香織と妹の鏡華につれられて天馬も祭りに来ていた。彼も300円の釣銭を50円玉6枚で返されたという。兄からもらった柚乃の焼き鳥を狙う天馬は、焼き鳥との交換で50円玉の謎を解くと請け負った。50円玉の釣銭は、当日になって神社の息子たちによって「ご利益があるよう」に協力してほしいとお願いに回られたと露店の店主が教えてくれた。柚乃と香織、裏染兄妹の2手に分かれて露店を調べていくと、半数以上の店がお願いを聞き入れて釣銭に50円玉を使っていた。

天馬の妹・鏡華が、防犯のためではないかと推理した。財布の中に50円玉が増えればその分重くなる。重くなった分財布に注意が向きやすくスリなどに遭う可能性も減るというものだった。だが天馬の反応はいまいちだった。

その後巡回中の顔見知りの刑事から、祭が終わって提灯の灯りが消えれば警備も終了することと、柚乃が社務所前で聞いた兄弟の会話から、なぜ神社の息子が釣銭に50円玉ばかりを使うよう依頼して回ったのか、天馬はある推理をしてみせた。

 

とても感心できる理由ではありませんでしたが、推理は当たっていたようです。柚乃も天馬も見逃していましたが、普通に罰当たりですし犯罪です。こんな息子たちがいる神社とか、実際にあったら行きたくはないですね。悪い芽は早めに摘んでおく方がいいと思いますが。

針宮理恵子のサードインパクト

周囲から不良と見られている理恵子には内緒の恋人がいたが、付き合い始めてしばらく経つもののあまり恋人らしいことはしていなかった。夏休み中も吹奏楽部に入っている早乙女は部活に忙しくめったに会うこともない。図書館で時間を潰していた理恵子が校内を歩いていると、早乙女とばったり出くわした。王様ゲームで買い出し係になったらしく、飲み物やアイスが入った袋をさげていた。

吹奏楽部では3年生が引退し、1年の早乙女もコンクールに出場できるようになった。次回の演奏曲では短いながらも前半のソロを任されたらしい。後半の長めのソロは2年の女子生徒が担当する。買い出しから戻った早乙女だが、部屋から閉め出されていた。部活に戻る早乙女と別れて歩き出した理恵子だったが、部屋をどんどん叩く音と開けてほしいという声が聞こえてくる。練習場所として使っている部屋まで戻った理恵子は、2年生の女子数人が掛けていた鍵を開けドアをひらくのを見た。カーテンまで閉め切った蒸し暑い部屋には、制汗スプレーや顔ふきシートが転がっていた。早乙女によると前にも同じことがあったらしい。

早乙女のとりなしでその場はおさまったものの、ふたたび理恵子は同じような現場に居合わせてしまった。いじめかと憤る理恵子だったが、早乙女は先輩部員たちをかばうような姿勢を見せ、2年の吹奏楽部員たちも何でもないと相手をしない。早乙女と理恵子が言い合いになった時、天馬が通りがかった。「体育館の殺人」で彼の推理力を知っていた理恵子は、いじめを解決するよう天馬に頼み込んだ。

彼は、翌朝新聞部の部室に早乙女を寄らせるよう連絡しろと言う。それですべてが解決すると。

 

結果的に早乙女が何度も部屋を閉め出されていたのは、いじめではありませんでした。ちょっとした女心からなる行動でした。理恵子と早乙女がろくにデートもしていないことを知った天馬は、報酬として丸美水族館のフリーパス券を2枚渡し、夏休み中に水槽前で理恵子と早乙女の2ショット写真を撮って自分に送ることと言いつけました。

天使たちの残暑見舞い

夏休み明けのだるい放課後、突然1年の教室に現れた天馬によって理由も明かされないまま柚乃と友人の早苗は3階にある教室に引っ張ってこられ、窓際で抱き合えと命令された。髪の短い別の友人は不適合で、髪の長い柚乃と早苗ではなければダメらしい。演劇部の梶原によって理由は明かされた。卒業した先輩が残していった脚本ノートに、不思議な光景を目撃したという日記が綴られており、その謎を解くために天馬は2人に実演させたのだった。

先輩の残した日記の日付は9月1日になっていた。放課後、演劇部の部室内で脚本を書いていた先輩は居眠りを始め、2時間ほど深い眠りについていた。目が覚め教室に忘れ物をしたことに気づき取りに行くことにした。校舎内は静まり返っていた。自分の教室、3階の一番端にたどりつきドアを開けようとして先輩は気が付いた。ドアのガラス部分から中を覗けたのだ。窓際に2人の女子生徒がキスをするかのように抱き合っていた。時折吹き込む風で長い髪が揺れていた。髪のせいで顎から上は隠れて顔までは見えない。そのままドアを開けることなく忍び足で後ろ向きに廊下を戻っていった先輩は、離れた場所で10分ほど待ってみたが誰も出てこない。あれは幻だったのか。ふたたびナメクジのような速度で教室へと行ってみた先輩は唖然とした。2人の女子生徒は教室のどこにもいなかった。窓際まで行って確認したが、窓から出られるようなスペースはなかった。

消えた2人の少女役を柚乃たちはやらされていた。その後も検証に協力させられた結果、消えた少女はキスをしていたのではなく、抱き合って窓の外を見ていたのだと分かる。天馬は日記を見返すと、謎が解けたと言った。その次の瞬間、校舎内に非常ベルが鳴り響いた。

 

2人の少女たちが消えた理由は日付と先輩の居眠りにありました。解かれてみれば全てが納得というすっきりした謎でした。

その花瓶にご注意を

私立緋天学園の中学3年生、裏染鏡華がいた1階の空き教室に、生徒会の雑務係の友人・仙堂姫毬がやってきた。生徒自治に比重が置かれている学園内において、雑務係は学園内のトラブル解決の役目を負っていて、校舎内の落書きや売れ残った花火の転売などの問題を抱えていた。

開け放した空き教室で2人が話をしていると、後輩がやってきて廊下の花瓶が割れているという。空き教室の前に置かれていた花瓶が割れ、廊下が水に濡れていた。だが姫毬が教室に来たときは花瓶は割れておらず、後輩がやってくるまでの間、開け放されたドアの前を通っていた人間はいなかった。3人は割れた花瓶を片付け掃除に取り掛かった。水を吸った雑巾は冷たく、集めた破片と一緒にキャンペーンシール付きのペットボトルのキャップが1つ見つかった。

空き教室のすぐ横には非常扉があり、外には自動販売機が設置されていた。また窓の外ではソフトボール部員2人がキャッチボールを行っており、鏡華が尋ねたところ髪の長い男が非常口から出て自動販売機でペットボトルを買って校舎内に戻っていったことが分かった。自動販売機で扱っているペットボトルは1種類、鏡華が購入した水のボトルには蓋にキャンペーンシールが貼られていた。

1階を通った人間がいない以上犯人は2階にいると鏡華は言う。空き教室のちょうど真上、美術準備室に髪の長い男がいた。学園内でも評判が悪く「いやがらせの矢烏」というあだ名がつく男だった。矢烏に話を聞くと絵を描いていたという。廊下に置かれてぬるい筈の花瓶の水が、片付ける時にまだ冷たかったこと、空き教室のすぐそばだったにも関わらず花瓶が割れる音を鏡華と姫毬ともに聞いていないこと、つまり花瓶は矢烏によって2階まで運ばれた後割れ、それをごまかすために破片を1階の廊下に置き急いで買ってきたペットボトルの水を撒いた。鏡華が推理によって矢烏を追い詰めるものの、証拠がないといって反抗的な態度をとり認めようとしない。

姫毬を侮辱するセリフを吐いた矢烏に怒った鏡華は証拠を見つけると宣言し、割れた花瓶を片付けた時、手では拾いきれない細かい破片も一緒に掃除していたことに気が付いた。そこから花瓶が割れた時すでに花瓶内に水はなかったと推理し、雑務係の姫毬の手を煩わせるあるトラブルの犯人が矢烏であることに行き当たる。

姫毬との連携で鏡華は決定的な証拠を掴んだ。割れた花瓶から別の犯罪を見破られた矢烏は逆上し、そばにあったモップを手に鏡華に襲い掛かってきた。

 

姫毬の父親は体育館、水族館の事件で指揮を執っていた仙堂警部でした。いかつそうなお父さんなのに娘に付ける名前はかわいいんですね。彼女は父親から護身術を習っていました。結局、割れた花瓶の件も含め、矢烏の起こした3つの事件を解決しました。

天馬たちと一緒の時は甘えんぼう気質の妹な鏡華ですが、学校内では下級生からの人気も絶大なお姉様でした。

世界一居心地の悪いサウナ

おまけのショートショートで、天馬と勘当しているらしい父親が温泉施設のサウナに偶然居合わせるという話でした。父親と天馬の関係はあまり明かされていませんが、お互いに忌み嫌っている雰囲気がうかがえます。

 

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学園ものだけあって短編ではさすがに殺人事件は起こらず、物騒な事件はあったものの基本は日常系ミステリーでした。事件当時の関係者たちの細かいタイムスケジュールが重要になってくる長編と違い、気楽に読めました。