有栖川有栖『こうして誰もいなくなった』あらすじとネタバレ感想

有栖川有栖さんデビュー30周年の年に発行された「こうして誰もいなくなった」のあらすじと感想をまとめました。

長いのから短いのまで全14作品、改めて幅の広い作家さんだなと思います。

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「こうして誰もいなくなった」書籍概要

あの名作『そして誰もいなくなった』を再解釈し、大胆かつ驚きに満ちたミステリに仕上げた表題作をはじめ、ラジオドラマ脚本として描かれ、小説としては世に出ていない掌編や、自殺志願者の恐怖と悔恨を描く傑作ホラー「劇的な幕切れ」、書店店長の名推理が痛快な日常ミステリ「本と謎の日々」など、一作たりとも読み逃せない名作揃い。有栖川有栖作家デビュー30周年記念を飾る、華麗なる傑作作品集!! 「BOOK」データベースより

 

  • こうして誰もいなくなった(2019年3月/KADOKAWA)
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館の一夜

民俗学のフィールドワークからの帰り道、レンタカーを運転する大学院生の黒田は、助手席の美佳子に地図を渡しホテルまでのナビをお願いしていた。日も暮れる中、山を二つ越えなければホテルにたどり着けない。だが地図通りに進むものの道幅はどんどん狭まっていき、とうとう行き止まりになってしまった。雨も降る中引き返す勇気もなく、二人は目の前に建つ古い館で一夜を明かすことになった。館は空き家のようで人の気配はしない。なぜか食堂にあったカップ麺を食べ、一人でいるのが怖いという美佳子の頼みで同じ部屋で過ごすことになった。

誰かがこの館にいる気がすると怖がる美佳子の気を紛らわすためお喋りをし、何事もなく朝がやってきた。2人は館を出ると通ってきた道を引き返し、無事に町に到着した。

30年も前の出来事に黒田教授は思いを馳せる。当時は携帯電話やカーナビが普及していなかったので成り立つビジネスだった。妻の美佳子に今晩は遅くなるという連絡をし、黒田は車のエンジンをかけた。

 

館は特殊な目的のために使われるホテルでした。吊り橋効果を狙い、黒田はそのホテル(館)に美佳子を連れて泊まり、このささやかな冒険をきっかけに2人は親密になったのでした。

線路の国のアリス

「不思議の国のアリス」の鉄道バージョンパロディ。うさぎを追いかけて穴におちたアリスが、不可思議な列車体験をしながら女王の元へ行き、裁判を受けるというファンタジー。

鉄道に関する小ネタがふんだんに散りばめられているので、鉄道ファンは楽しめそうな短編でした。

名探偵Q氏のオフ

名探偵Q氏がF嬢に求婚するというショートショート。煙草が登場する小説をとJTに依頼されて執筆されたものだそうで、Q氏、F嬢それぞれの視点からワンシーンを描いています。ラストは「きゅう」にまつわる怒涛の言葉遊びがなだれ込んできます。

まぶしい名前

普通の名前をまぶしく感じる男、というショートショート。その男の名前は……あとがきでは一種のホラーとありましたが、コミカルな雰囲気でした。

妖術師

町はずれの公園で妖術師によるマジックショーが開かれるらしい。どんな出し物かと尋ねると、よそでは絶対に見られないものだと言う。3日間の興行で、もしできるならば明日も見に来るつもりだと教えてくれた男は、カップルに対しては大切な人とは一緒に見ない方がいいとも言う。興味を惹かれて入ってみると、ごく普通の手品ばかりが2時間ほど続いた。

最後の演目で、妖術師は深紅のカーテンで覆われたボックスに入る客を募るが誰も手を挙げようとしない。常連客が多そうなのに全員が怯えたように縮こまっている。とうとうある紳士が指名され観念したように舞台上へと上がった。最後のショーを見終わり理解した、常連客らは恐怖を味わうためにショーを見に来ているのだと。

 

ミステリーというよりファンタジーな話でした。ショーの最後を飾る観客は二度と帰ってきません。

怪獣の夢

男は幼い頃からたびたび怪獣の夢を見た。町を破壊する巨大な存在の夢に恐怖を抱きつつも、成長し社会的に成功していくにつれ夢の視点が変化していく。いつの間にか男は、逃げ惑う人間ではなく破壊する怪獣の視点の夢ばかり見るようになっていた。

理想的な都市を作るためには一度、徹底的に破壊しつくし更地にしなければならない。次期総理と噂されるまでになった男は、夢の中で容赦なく壊し続ける。理想の前では多少の犠牲も必要だ。そのうち怪獣の前に、黒い影のようなものが集まり始めた。それらは団結や連携といった言葉がふさわしい集まりとなって怪獣の前に立ちふさがろうとしていた。

 

男のポジションと夢が連動しているというストーリーでした。

劇的な幕切れ

ネットで自殺相手を募っていた内村は、美礼と出会った。彼女も自殺志願者で、廃業した親戚のメッキ工場から青酸カリも手に入れており、いくつか死に場所の候補もあるという。理想的な同志を得た内村は、彼女の自殺候補地の一つである山へと向かう。ハイキングコースをそれて山奥へと分け入り、夕方を待ってコーヒーに溶かした青酸カリを2人で呷るという計画だった。

死後の処理も完璧に手配した美礼が用意してくれた最後の晩餐となるサンドイッチやコーヒーを味わいながら、内村は最後の最後に突発的な出来事が起きて自殺を取りやめ、手に入れた青酸カリを使って大事件を起こすという妄想をしてみる。だが冴えない自分の人生にそんな劇的なことが起こるわけがない。コーヒーのお代わりを渡された内村は、ぬるいコーヒーをじっくりと味わうように口にする。一口飲んだ瞬間、喉に違和感を感じ内村は信じられない思いで美礼へと視線をやった。彼女に死ぬ気はなかった。騙されたと思っても、もう遅い。

今際の際、内村の胸の内には愚かに生きてきた自分への反省が浮かんだ。

 

ラストに救いがあるのかないのかは読者次第という趣旨のことがあとがきにありましたが、私はない方でした。結局美礼はこれから先も自殺志願者を騙して殺し続けることでしょうし。

出口を探して

ふと気が付くと「私」は小さな部屋にいた。赤いドアは開かない。青いドアの先には廊下があった。歩きはじめると廊下はいくつもの岐路に分かれていた。まるで巨大迷路のようだった。出口を求めてさまよううちに、男と出会った。2人で出口を求めて歩き続けるものの終わりは見えない。絶望に打ちひしがれ大声で叫んだ瞬間、目が覚めた。不思議な夢だった。

数週間後、仕事を終えて帰宅中、駅で一人の男がすれ違う人に声をかけて紙切れを見せていた。男の顔を見て驚く。夢の中の迷路で一緒に出口を探して歩いた人だった。男に見つからないようタクシーで逃げ帰った私だったが、今になって思う。あの男は自分にとって大切な運命の人で、夢がそのことを教えてくれていたのではないだろうかと。次にもしあの男と会うことがあれば、私の方から声をかけてみようか。

 

本当に運命の人なのかどうかは短編の中では分かりません。犯罪者だった場合、関わると最悪命の危険に晒されますし、そういった意味ではホラーでもおかしくないと思います。

未来人F

江戸川乱歩の少年探偵団シリーズのパロディ・パスティーシュ。

明智小五郎に捕まった怪人二十面相が脱獄した。だが明智はFBIの依頼で出張中で日本にはいない。脱獄から数日たっても二十面相の足取りはつかめず、事務所でラジオを聞いていた小林少年は、未来人Fをなのる人物が翌日のニュースの内容をまるで見てきたかのように当てるのを聞く。Fは東京国立博物館にある絵画をいただくと予告していた。明智が不在の今、小林少年は中村警部とともに二十面相かもしれないFを捕まえるため、博物館にきていた。

 

途中までは普通に面白く読んでいたところ、後半の未来人Fの種明かし後はメタ小説っぽくなりました。小林少年にとっては、作者や読者はたしかに未来人です。

盗まれた恋文

ある国民的女優が書いた恋文が公表されると、彼女の社会的地位はあやうくなるらしい。破格の依頼料で無事に恋文を見つけた探偵だったが、倫理的に問題がある探偵はその恋文を使って女優に対し邪な行動を起こそうとしていた。探偵にコーヒーを出した「ぼく」はため息をついて、冷たくなっていく探偵を見下ろした。

 

恋文をテーマにしたミステリーという依頼を受けてのショートショートとのことです。この短さで「恋文」「ミステリー」をクリアするのは確かに大変だったろうと思います。殺人が恋文というミステリーっぽく締められていました。

本と謎の日々

華谷堂書店でアルバイトを始めた詩織は、亡くなったとばかり思っていた老人が元気に本を買いに来たことに驚く。詩織から事情を聞いた店長は、あっさりと詩織の思い違いを訂正した。

一冊一万円以上する本を3冊取り寄せていた客が、入荷はしたが帯が破れていたり角が傷んでいるので再発注するというのを断り、むしろありがたいといって1冊ずつ購入していく。不思議な客の謎を、店長はいとも簡単に解き明かした。

同じ本をダブって2冊買ったという客が1冊返品にやってきた。返金に応じると「これからは気を付けてください」と呟いて去っていった。それはこちらのセリフだと釈然としない詩織に対し、店長がその客のあるこだわりを解説する。

同じPOPが2回無くなるというミステリーが起きた。POP自体に金銭的な価値はなく書き直せば済むものの、どうにもすっきりしない。店長にそのことを告げると、「アガサ・クリスティーの「親指のうずき」という本を調べてほしい」と言われる。店長の言う通り、その本にPOPが挟まっているのが見つかった。

閉店間際にやってきた男がいた。彼は雑誌売り場を端から順に見て回ると、バイト募集や啓発チラシにも目を留め、平台の新刊を持ち上げて見たりと不可解な行動をし、最後に週刊誌を購入し帰っていった。店長に話すと、その男なら開店直後にもやってきてガムを買っていったと教えてくれる。死神だと店長はいい、男の行動の理由を話し始めた。

 

本屋さんにまつわるちょっとしたミステリーを扱った短編でした。へえと思うことが多く、面白かったです。

謎のアナウンス

ある男性がスーパーへ行くと「黄色い服に黄色いスカートのお嬢ちゃんが迷子になった」というアナウンスが流れた。別のスーパーでも「黄色い服の迷子」アナウンスが流れる。さらに別のスーパーでも同様のアナウンスが流れる。それぞれのスーパーは100キロ以上離れている。その男性はアナウンスを聞き頭を抱えたのだが、それはなぜか。

 

あ、なるほどという種明かしでした。スーパー同士の距離が離れていたところで気づくべきでした。

800字の小説という中でタイポグラフィクションの手法を利用して書かれたそうです。ビジュアル勝負ってことですかね?

色々な依頼があって大変です。

こうして誰もいなくなった

アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」を模倣するかのような事件が起きた。

現場は「海賊島」と呼ばれる赤座島。ネットを使って大富豪となったレジェンド・デンスケの招待を受け、8人の客と2人の使用人が島に滞在することになった。初日の晩餐時にデンスケの声によって暴露された10人の罪は、全員死罪。

  1. 黒瀬源次郎:ブラックと名高い人材派遣会社社長。パワハラで4人の自殺者を出す。
  2. 石村聖人:黒瀬の後ろ盾となり法の解釈を捻じ曲げている代議士。
  3. 早乙女優菜:医療過誤や労働災害のもみ消しを行う弁護士。
  4. 二ツ木十夢:友人の作品をパクった映像クリエーター。詐欺イベントで荒稼ぎ、リベンジポルノで自殺者を出す。
  5. 二ツ木慈夢:十夢の双子の映像クリエーター。女子高生に薬物を注射しショック死させる。
  6. 春山美春:モデル。酒に酔い老人をひき逃げし今も捕まっていない。
  7. 榎 友代:高級ケアハウス経営者。認知症の入居者への虐待が常態化、死者を出す。
  8. 有働万作:システムエンジニア。アゼルバイジャンの発電所をハッキングして大停電を引き起こし5人が死亡する。仮想通貨でデンスケの財産を毀損させようとした。
  9. 茂原勤:使用人。身寄りのない老人の家に入り込み死期を早め財産を横取り。
  10. 茂原カオリ:勤の妻。

慈夢のみ島へ送る遊漁船に乗らなかったので、9名が島での滞在を余儀なくされた。犯人と思われるデンスケは島のどこからも見つからなかった。

石村の毒殺をきっかけに、カオリの絞殺、美春の毒殺、勤の毒殺(崖からの転落)と次々に死者が増え、そのたびに10体用意された海賊の人形の首が落とされていた。

その後も2階にあてがわれたそれぞれの部屋で、友代、黒瀬の射殺体を見つけた優菜は、外で銃声が響くのを聞いた。また男が一人倒れている。護身用の鉄パイプを手にした優菜は、今日が自分が死ぬ日だと悟った。

建物の出入口に、射殺された十夢と優菜、撲殺された有働の遺体が転がることになった。

客人たちを島へ迎えに行く日、探偵の響・フェデリコ・航が、遊漁船の船長・小本に頼み込んで一緒に海賊島に渡った。生存者はいなかった。携帯も固定電話も繋がらないため小本が船でいったん戻って警察に連絡することになった。

その後、海を漂う慈夢の遺体が発見された。扼殺だった。黒瀬と優菜が残した日記や遺体の状況などから、響は石村→カオリ→美春or茂→友代・黒瀬・十夢・優菜・有働→慈夢の順で殺されたと推理する。また海賊人形の首が4体無事に残されていることから、犯人は人形の首を落とす前に殺されてしまったのだと言った。

 

10人全員が同じ犯人に殺されたのではありませんでした。1人は犯人なので、自殺でもしない限り無理ですし、実際に自殺ではありませんでした。原典の「そして誰もいなくなった」の詳細を忘れてしまったのですが、犯人までが死ぬに至った経緯を探偵が解き明かすというのがポイントなのでしょうか。立て続けにバタバタ死ぬ系は、どうにも感情移入しにくいです。

 

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なにこれ?と思うような作品も中にはあり、あとがきを読んでようやく理解できるという流れを何回か繰り返しました。

「本と謎の日々」が日常系ミステリーで面白かったです。王道のミステリー物がやはり一番楽しめました。