作家、有栖川有栖さんの2本柱というべき2つの人気シリーズ。
語り手がどちらも「有栖川有栖」のため、読み始めの頃は「どっちがどの話だったかな?」と混乱しがちでした。この2つのシリーズの違いなどを整理してみました。
江神二郎(学生アリス)シリーズの登場人物や概要などを紹介
まずは作者のデビュー作でもある「月光ゲーム」に登場する江神二郎シリーズから。メインキャラクター達が大学の推理小説研究会(通称EMC)の部員であることから、「学生アリス」シリーズとも呼ばれています。現在は長編4冊、短編1冊の計5冊発行されています。
アリスの先輩である江神二郎を探偵役とし、江神とアリス以外に3人のEMCメンバーがおり、この顔ぶれで話を回していきます。
クローズドサークルといわれる孤立した島や村を舞台としており、壮大なスケールで話が展開していくのが特徴です。まずは読みながらクローズドな舞台設定を頭に入れていかなければならないので、読むのに気合がいるかもしれません。
火村英生(作家アリス)シリーズの登場人物や概要などを紹介
シリーズとして最多の発行数で、舞台化・漫画化・ドラマ化などさまざまなメディア展開がされている人気の高いシリーズです。語り手のアリスの職業が推理作家であることから「作家アリス」シリーズとも呼ばれ、作者がエラリー・クイーンに影響を受けて本のタイトルに国の名前を入れているものに関しては、特に「国名シリーズ」といわれています。現在は長編11冊、中短編14冊の計25冊出ています。
大学時代からの親友で、母校で犯罪社会学の准教授をしている火村英生を探偵役とし、準レギュラーとして京都・大阪・兵庫の各警察関係者が登場しますが、基本的には火村とアリスのコンビで話が進んでいきます。
関西圏の警察が扱う殺人事件に携わることがほとんどです。
江神二郎(学生アリス)シリーズと火村英生(作家アリス)シリーズとの違いなど
探偵役の江神二郎と火村英生についての相違点です。
『江神二郎』
- 20代。大学生でEMCの部長(頭がいいのになぜか何度も4回生をしている)
- 家族構成(一家離散。「20歳まで生きられない」という母親の預言が的中したかたちで死別した兄がいる)
- 母親から「30歳まで生きられない。おそらく学生のまま死ぬだろう」と予言されている。
- 愛煙家:好きな銘柄はキャビン
- 性格:寡黙で穏やかで、推理をすることはそれほど好まない。
『火村英生』
- 30代。准教授(犯罪社会学で研究と称して実際の殺人事件現場へ赴く)
- 家族構成(両親とは死別。下宿先の大家の婆ちゃんとは家族同然の付き合いで、猫を3匹飼っている)
- 「人を殺したいと思ったことがある」、悪夢にうなされて夜中に飛び起きる、犯罪者を異常なまでに憎んで罪を明らかにするなど、殺人に関して強い関心を示す。
- 愛煙家:好きな銘柄はキャメル
- 性格:人によって柔軟に対応を変えられる(親友のアリスに対してはぞんざい)
発行数が少ないのと、語り手であるアリスが江神の後輩に当たるためか、江神の内面にそこまで深く関わっていないこともあって、江神二郎に関して分かる項目は少なかったです。
30年近く前から書かれているので、2人とも愛煙家です。当時は今よりも喫煙に関しておおらかでしたしね。とはいえ、最近発行された本でも火村が禁煙をする気配はないので、肩身が狭い思いをしながらも愛煙家を続けていくのでしょう。
次に語り手役の有栖川有栖です。
『江神シリーズ』の有栖川有栖
- 学生で江神の後輩。作家志望。
- 推理をするというより、巻き込まれ傍観者的立ち位置。
『火村シリーズ』の有栖川有栖
- 推理作家。
- 助手というポジションで火村に同行して事件現場へ赴き、好き勝手な推理を披露しては否定されている。
探偵役に対する立ち位置と、事件に対するスタンスが異なります。江神シリーズの方は、実際に事件を解決するのは江神ですが、EMCの他のメンバーたち(主に先輩2人)があれこれと推理を披露します。彼らが火村シリーズにおけるアリスの役割を果たしています。
私の中では、作家アリスが「一緒に事件を解決しようとする人」、学生アリスが「記録を取る人」というイメージが強いです。
キャラクター以外で特筆する違いといえば、
- 作品中で時間が流れているかどうか
かなと思います。一応火村シリーズも初登場から現在の間に32歳→34歳という差はありますが、ほぼ時間の経過がないサザエさん方式です。一方、江神シリーズでは作品を追うごとに時間が経過しています。
どちらから読み始めるのがいい?
壮大なスケールでがっつり推理の過程を楽しみたい、という本格派は「江神シリーズ」。
ライトな雰囲気で事件解決まで辿り着きたい、という人は「火村シリーズ」がおすすめです。
どちらもすっきり事件は解決するのですが、ひたすら推理推理…と推理の応酬で頭を使うのが江神シリーズ、殺人事件を扱っておきながらライトというのも語弊がありますが、火村&アリスのコンビネーションと親友ならではの明るいやりとりが魅力の一つなので、あえてライトと表現しました。
ちなみに「火村シリーズ」はどの本から読み始めても話に齟齬が生じることはほぼないですが、作品内で時間が経過している「江神シリーズ」は発行順に読み始めるのがおすすめです。
【江神二郎(学生アリス)シリーズ】
- 月光ゲーム Yの悲劇’88
- 孤島パズル
- 双頭の悪魔
- 女王国の城
- 江神二郎の洞察(短編集)
【火村英生(作家アリス)シリーズ】
- 46番目の密室
- ダリの繭
- ロシア紅茶の謎(短編集)
- 海のある奈良に死す
- スウェーデン館の謎
- ブラジル蝶の謎(短編集)
- 英国庭園の謎(短編集)
- 朱色の研究
- ペルシャ猫の謎(短編集)
- 暗い宿(短編集)
- 絶叫城殺人事件(短編集)
- マレー鉄道の謎
- スイス時計の謎
- 白い兎が逃げる(中編集)
- モロッコ水晶の謎(中編集)
- 乱鴉の島
- 妃は船を沈める(中編集)
- 火村英生に捧げる犯罪(短編集)
- 長い廊下がある家(中編集)
- 高原のフーダニット(中編集)
- 菩提樹荘の殺人(中編集)
- 怪しい店(短編集)
- 鍵の掛かった男
- 狩人の悪夢
- インド倶楽部の謎