有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」第26弾『カナダ金貨の謎』あらすじとネタバレ感想

有栖川有栖さんの「カナダ金貨の謎」のあらすじと感想をまとめました。

国名シリーズで換算すると10冊目となります。まもなくTVドラマ化第2弾も始まりますし、息の長いシリーズです。このままずっと続けていただきたいし、早く火村准教授の過去も知りたいし……でなかなか焦らされるシリーズでもあります。今回は短編集ということで、あっという間に読み終わってしまいました。

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「カナダ金貨の謎」書籍概要

民家で発見された男性の絞殺体――殺害現場から持ち去られていたのは、一枚の「金貨」だった。“完全犯罪”を計画していた犯人を、臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖がロジックで追い詰めていく!表題作「カナダ金貨の謎」ほか、切れ味鋭い中短編「船長が死んだ夜」「エア・キャット」「あるトリックの蹉跌」「トロッコの行方」を収録。待望の〈国名シリーズ〉第10弾! 「BOOK」データベースより

  • カナダ金貨の謎(2019年9月/講談社ノベルス)
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船長が死んだ夜

アンソロジー「7人の名探偵」へ

エア・キャット

アンソロジー「猫が見ていた」へ

カナダ金貨の謎

友人と温泉に行くと聞いていた芳原彩音から太刀川公司に電話があった。友人と喧嘩して家に戻ってくると同棲中の恋人・楓丹次が倒れていたという内容で、どうしていいか分からないからすぐに来てほしいという。全ての計画が崩れるのを感じつつも体制を立て直すべく彩音の家へと向かった太刀川は、警察車両が何台も来ているのを知り愕然とする。どうしていいか分からないと言いながらも彩音は通報は済ませていたらしい。どうにかしてこの場を切り抜けるしかなくなった太刀川は、彩音に呼ばれた何も知らない善意の第三者として事件に関わっていくことにした。

楓はコードで首を絞められ殺された。部屋は荒らされたおらずテーブルの上に財布も置かれていて強盗の仕業とは思えない。彩音から温泉行きを中止にしたいきさつや、出発前に丹次と喧嘩していたことから自分が警察に疑われるかもしれないという不安を聞きながら、太刀川は自分が大きな過ちを犯していないことを確認していた。彩音が帰宅したことは計算外だが、気になる部分の指紋は消したくらいで、犯行後にやろうとしていた細工の方が失敗のリスクは高かった。

彩音から自分の無実を証明してほしいという突然の電話を受けた火村は、時間的な余裕と犯行現場に気になる点があったことからアリスとともに捜査に首を突っ込むことになり、担当の伏見署で捜査資料に目を通していた。現場から、被害者が自分の名前に通じるラッキーアイテムとして身に着けていた本物のメイプルリーフ金貨に枠とチェーンをつけたネックレスが無くなっていた。亡くなる少し前までネックレスをしていたと言う証言もあることから、犯人が持ち去ったものと思われる。元ミュージシャンの楓はいつもパーカーのフードをかぶりサングラスをするという格好を好んでしていた。またライブハウス経営を目指していたらしく二千万弱の預金があったが、祖母が相続することになる。火村とアリスは依頼人の彩音、楓の後輩だという太刀川と会うことになった。

一人だと心細いと彩音に頼まれた太刀川は、捜査の進捗が知りたいこともあり火村とアリスとの面会に同席することにした。以前楓、太刀川とつるんで悪さをしていた三枝の話や、楓がメイプルリーフ金貨を手に入れた経緯、太刀川が自宅の鍵を落としたという不用心な話などを交えつつ、大学の先生と推理作家を前にそつなく返していく。最後に火村から「事件後に洗面所からなくなっているものがなかったか」という質問の意図が理解できなかったが、太刀川は不気味なものを感じた。

面会を終えた火村とアリスは、彩音と楓の部屋へと向かう。アリスから洗面所にこだわることを指摘され、火村は引き戸と洗濯機の蓋に指紋を消された痕跡があったことから、何のためにかと疑問を口にする。その後、部屋にあった紙マッチを配っていたバー「キャメル」へと行く。バーのマスターは楓のことを覚えていた。3週間ほど前に太刀川とともに一度だけ来た客だと証言する。物静かな客で、もっぱら太刀川が喋っていたらしい。個性的な格好とメイプリリーフ金貨が印象強かったようで、2人の写真を見せても間違いないと証言した。火村は、太刀川が鍵を落とした話と今回の事件を繋げられるかもしれないと言い、面会中に撮った太刀川の合鍵の写真を警察に送っていた。

火村から太刀川に電話が入った。依頼人の彩音が警察に任意出頭を求められたという。警察のガードが固くて詳しい状況は分からないが、楓の殺害時刻は自宅へ戻っている最中だったという彩音のアリバイが崩れたのかもしれないという。また太刀川が落としたという自宅の鍵が、親切な人に拾われて警察に保管されていると教えてくれた。事件が起きてから3日、ずっとそばにいた彩音には警察がはりついていて身動きがとれなかった。だが彩音が警察にいる今、太刀川はフリーになった。もし彩音が犯人だという証拠を警察がみつけようと必死になれば、事件後に彼女が一時的に身を寄せていた太刀川の自宅も捜索されるという、非常にまずい事態になる。証拠品……メイプルリーフ金貨のペンダントを処分するのは今しかチャンスがないのではないか。

警察の目がないことを確認した太刀川はそっと自宅を抜け出し、倉庫に止まっていたトラックの荷台へとティッシュに包んだ証拠品を押し込もうとした。その瞬間、どこかで甲高い笛の音が響き渡った。誰もいないと思っていたのにワラワラと人が集まってくる。火村によって太刀川が犯人だと特定され、監視されていたらしい。彩音が警察にいるというのは、火村が仕掛けた罠だったのだ。

 

今回はなぜカナダ金貨が持ち去られていたのかという謎に挑んでいました。犯人視点で話が進んでいくという倒叙ものでしたが、秘密主義の犯人らしくなかなか事件の真相を呟いてくれないので、結局火村&アリスコンビに頼るしかないので焦れました。

あるトリックの蹉跌

ようやく仕上げた原稿を編集の片桐に渡したアリスは、若い頃にネタを書き溜めていた古いトリックノートを引っ張り出しパラパラと捲っていた。そこに「詩人探偵(1)」が出てきた。一次選考であっさりと落選したものだが、それは大学時代、授業中にせっせと原稿を書いてたところ隣に座った火村がのぞき込み勝手に読み始めたことをきっかけに、今に至るまで続く友人関係のはじまりの話だった。

 

14年前の5月7日の2人の出会いの詳細です。シリーズ1作目の「46番目の密室」にも登場するシーンですが、その時書いていたアリスのミステリー小説がどんなものだったのかわかりました。なるほど。今の2人の関係性はこの時からすでにあったのですね。

トロッコの行方

夜の10時過ぎ、吹田市の府道をまたぐ歩道橋から浮田真幸という女性が転落して死亡した。転落したところは誰も見ておらず、通りがかった発見者により救急車が呼ばれ、その直後警ら中の警察官2名が歩道橋を渡って駆けつけた。救急車が来るまでの間、真幸にはかろうじて意識があったらしく、「この集り屋って」「いきなり後ろからどんと突かれた」「髪の長い」と切れ切れに口にした。

現場は人通りも少なくてカメラもなく、車も赤信号で止まっていたため犯行時の様子や犯人らしき姿が映った映像はなかったが、警察によってかき集められた情報によって犯行時間は午後9時55分と推定された。真幸が向かいの道にあるコンビニを出て友人と電話で話してから転落して発見されるまでは凡そ5分間。3人の容疑者が挙げられた。

1人目は真幸が付き合っていたマンション経営者・矢野勇実の、大学生になる娘・由潤。真幸はネイリストで、自分の店を出すために矢野から三千万円の資金提供を受ける予定だった。集り屋という言葉とも一致する。矢野は所有しているマンションで手抜き工事が見つかったせいで三千万円を用立てるのが難しくなり、矢野の父親が生前に世話になった人に貸し付けたお金を返してもらうことで愛人の真幸に渡す金を工面しようとしていた。恩人に対してあまりにも理不尽な取り立てだと由潤は憤っていた。

2人目は取り立ての対象となった女性・富塚蝶子。矢野の恩人である亡父の残した土地で手芸教室を開きひっそりと生計を立てている。土地を売れば借金を返してもお釣りがくるものの、思い出の場所だった。

3人目は別居中の蝶子の夫でデザイン関係の仕事をしている富塚兼良。蝶子に未練たらたらで、彼女を襲う不遇の原因を取り除いたとも言える。

矢野は借金を返してもらう相手が2人いた。1人は蝶子でもう1人は家族5人を養わなければならない男。一人暮らしの蝶子か、五人家族の男かと迷った挙句、1人の蝶子に返済を求めた。まるで「トロッコ問題」だと火村は言う。

大阪府警の手配で順番に面会していき、由潤、兼良ともに犯行は不可能だと分かった。蝶子は犯行時間帯に一緒にいたという友人・白井美澄を呼んでいた。別々に話を聞くものの2人の証言は一致しており、また蝶子はリウマチで階段の上り下りに不自由しているという。また土地を売るのは仕方がないと納得もしていた。火村は、蝶子の何気ない一言から彼女が美澄と一緒にいたというアリバイは嘘だと暴いたものの、リウマチの蝶子が約5分間の空白の時間帯に歩道橋で犯行を終えるのは不可能だと火村は判断した。

容疑者3人ともが犯行が不可能だと判明してしまった。だが火村には真犯人が誰であるのか見当がついたらしい。

 

火村准教授曰く、犯人は1人か5人かではなく、トロッコを暴走させた張本人(真幸)へとレールを敷きポイント切り替えたそうです。真幸を撥ねたトロッコの暴走はそこで止まず、レールを敷きなおした火村によって方向転換して自分の元へ戻ってきてしまったとアリスは締めました。

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今回は再録の短編ばかりで書下ろしはなかったのですが、未読のものがいくつかあったので嬉しかったです。特に大学時代のエピソードはファン心をくすぐったのではないでしょうか。