有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『狩人の悪夢』あらすじとほんのりネタバレ感想

火村英生(作家アリス)シリーズの長編「狩人の悪夢」のあらすじや感想をまとめました。

この本は、終盤の火村准教授の犯人を圧倒させるほどの推理と、物語の合間合間に入るほのぼのとしたアリスのつっこみや、火村に対する思いやりや気づかいが印象的な一冊です。

事件が起きた時間帯に落雷によって孤立した町、というミステリーファンなら目が輝くクローズドサークルものです。

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「狩人の悪夢」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズの24冊目となる長編作品です。

  • 狩人の悪夢(2017年1月/KADOKAWA)
  • 狩人の悪夢(2019年6月/角川文庫)

 

人気ホラー作家・白布施正都との対談をきっかけに家に招かれたアリスは、白布施の担当編集者の江沢とともに京都の亀岡市郊外にある白布施の邸宅「夢守荘」を訪れることになった。その部屋に泊まると必ず悪夢を見るという「悪夢の部屋」で寝ることになったアリスは、翌朝事件に遭遇する。

登場人物

【夢守荘周辺の人々】

  • 白布施正都:人気ホラー作家。「ナイトメア・ライジング(ナイライシリーズ)」がヒット中。
  • 光石燎平:オーベルジュ「レヴリ」のオーナーシェフ。
  • 光石静世:その妻
  • 光石由未:姪。料理人になるため修行中。
  • 弓削与一:レヴリの宿泊客。ゲームクリエーター。
  • 矢作萌:白布施の隣人のイラストレーター。
  • 渡瀬信也:故人。白布施の持ち物である通称「獏ハウス」に住み、白布施の身の回りの世話などをしていた青年。2年前、心筋梗塞のため獏ハウスで亡くなる。見た悪夢をネタとして白布施に提供していた。

【やってきた人々】

  • 沖田依子:渡瀬信也の高校の同級生。帰国後、渡瀬の死を知り獏ハウスを見たいとやって来た。
  • 大泉鉄斎:沖田の元恋人。別れた後も付きまとっていたらしい。
  • 江沢鳩子:珀友社の編集で白布施の担当。白布施がホラー小説を引退しようとしているのを止めたがっている。20代後半。レヴリに泊まっている。

第一の事件

白布施、江沢とともにレヴリでの夕食に舌鼓を打ち、小さな悪夢を見るだけで終わった翌朝、アリスがのんびりと近所の森の散策を満喫し、夢守荘でのだんらんを楽しんでいると、白布施の隣人・矢作が「獏ハウス」の様子がおかしいと興奮状態でやってきた。だが白布施によると、獏ハウスにはアリス達が訪れる前日に沖田依子がやってきて泊まったが、すでに帰宅して空き家に戻っている筈だという。白布施、江沢、矢作の4人で獏ハウスに確認に向かうと、リビングのソファの上で、右手首を切り落とされ首に矢が刺さった状態で息絶えている沖田の姿があった。

第一発見者となったアリスは現場保存をするとともに、警察の到着を待つ間、火村にメールで一報を入れる。凶器は白布施がファンからプレゼントされたという実用には向かない装飾用の矢で、弓と一緒にリビングに飾ってあったものだった。

火村の到着を待つ間も捜査が進む。現場となったリビングには、沖田の血で汚れた左手で壁に手をついたと思われる跡がくっきりと残っており、遺族の証言などから手形の正体は沖田のストーカー・大泉ではないかと思われた。また事件当日の最寄り駅の防犯カメラに大泉が映っているのが見つかり、大泉を乗せたというタクシー運転手からも彼が沖田を追いかけてこの町にやってきたことが確定する。

事件当夜、激しい落雷とともに倒木が道をふさいで車では外部との行き来ができない状態だったが、徒歩の大泉なら犯行後倒木を乗り越えて逃走することも可能であり、火村が推理をするまでもなく事件は解決したかに見えた。

第二の事件

血でスタンプされた手形が大泉のものだと鑑定され、大泉がここへやって来てから事件を起こすまでの間に潜んでいただろうと思われる空き家を捜索したところ、地下室で左手を切り落とされた大泉の遺体が発見された。

大泉が犯人という前提が崩れ、本格的に動き出す火村とアリス。火村は、大泉を殺害した凶器は獏ハウスの弓であり、地下室で見つかったビニール紐は犯人の細工だろうと推測する。

  • 沖田と大泉はほぼ同時期に殺害されたが、鑑定により沖田の方が先だと判明。
  • 事件当夜、レヴリのオーナー夫妻と姪は自宅(レヴリ)にいた。
  • 客の弓削は車でレヴリに戻る途中、そばの木に雷が落ち道をふさぐのを目撃しており、そのことをレヴリで話した。
  • レヴリのオーナーは道が使えないことを、翌日客(アリス達)を迎えに行く白布施にはその晩のうちに、矢作には夜遅かったため遠慮して翌朝連絡した。
  • 倒木は自治体の素早い対応により翌日午前には取り除かれたため、アリス達を迎えに行くのに影響はなかった。
  • 事件当夜、矢作は雷に対抗するかのようにもの凄い大音量でクラシックを流しており、レヴリへ戻る途中に矢作宅のそばを通った弓削も証言している。
  • 白布施は翌日の来客にそなえ部屋の掃除をしていた。

その他

  • 沖田の右手、大泉の左手とともに、古い携帯電話2機と沖田のスマートフォンが念入りに壊された状態で見つかった。沖田の指先のみ焼かれていた。
  • 古い携帯電話は沖田のものらしいが壊されていて中のデータを見ることはできない。沖田の自宅から更にもう一台古い携帯電話が見つかり、高校卒業後、渡瀬と再会してから連絡が途絶えるまでの短いやりとりの記録が残っていた。
  • 渡瀬の死を悼んで獏ハウスにやってきた沖田だが、庭の巣箱に手を突っ込んだりと何かを探している様子だったという証言もある。
  • 亡くなった渡瀬には痛ましい過去があったが、白布施を含め誰もそのことを知らなかった(高校が同じ沖田は知っていた)。

犯人は

今回の事件は犯人にとって思い通りになったことは一つもないだろうという火村の言葉通り、その場しのぎで考え出したトリックでした。一番の誤算は沖田を手に掛けてしまったことでしょうが、落雷で町と町を繋ぐ道がふさがれてしまったのは、犯人にとってアンラッキーでした。

若くして病死してしまった渡瀬信也ですが、獏ハウスへ来て、悪夢を見続けるものの穏やかで満足した日々を過ごしていただろうことが伺えます。犯人にとって、渡瀬の何かを掘り起こしに来ただろう沖田の存在こそが悪夢のように映ったことと思います。

 

追う側(警察・読者)が持つ情報を元にした推測と、犯人の言動が一致しないため、ばらばらでちぐはぐな印象を受ける事件でした。

当日の状況(落雷による倒木で道がふさがれた)を把握し、その時間帯のそれぞれの登場人物が置かれていた状況や行動から一人ひとり容疑者を消していき、犯人の動きと思考を正確にトレースしていかなくてはならないので、ややこしいです。読みながら何度も混乱しました。

それをやってのけた火村は自らを「あなたにとっては喧嘩かもしれないが私にとっては狩り」「狩りの相手は人間」など不穏なセリフとともにじわじわと犯人を追い詰めていきます。逃げ道を全部ふさいでじっくりと確実に包囲網を狭めていく姿はえげつないほどの狩人っぷりで、犯人側にとってはどれほどの恐怖だったろうかと思われます。

物語終盤、今でも悪夢を見る火村にかけるアリスの言葉や、アリスの編集・片桐の報告には心が温まりました。

これから少しずつ火村の悪夢の正体も見えてくるのかな?と期待させられた一冊でした。

 

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