有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」第23弾『鍵のかかった男』あらすじとネタバレ感想

「鍵の掛かった男」は、ひたすら一人の人物の過去に潜っていく話でした。中之島という町をアリスと一緒に散策しているような心地にもなり、少し贅沢をしたホテルに泊まりにいきたくもなります。

火村が参戦するまでの間、あちこち出向いて奮闘するアリスの姿を楽しめる長編ものの、あらすじと感想をまとめました。

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「鍵の掛かった男」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズ23冊目。長編もので大阪の中之島を舞台にしている。

  • 鍵の掛かった男(2015年10月/幻冬舎)
  • 鍵の掛かった男(2017年10月/幻冬社文庫)

著者インタビュー

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大阪 中之島にあるプチホテル「銀星ホテル」で一人の男が死んだ。ベッドの手すりにカーテンのタッセルをくくりつけ首を吊ったのだという。警察は自殺と断定したが、銀星ホテルで男と交流のあった作家・影浦浪子はそれに納得せず、アリスと火村に個人的に調査を依頼する。

男の名前は梨田稔。5年前の65歳の頃から銀星ホテルのスイートルームに住み続けており、ボランティアや読書などをしながら静かに日々を暮らしていた。死亡時、通帳には2億円以上の預金が残っていたが、生前男と親しくしていたホテルの従業員や常連客は、彼が昔酒の量販店で成功したのを本人から聞いた以外ほとんど男の過去を知らなかった。

大学の入試対応で京都から動けない火村に代わり、アリスが単独調査に乗り出した。

登場人物

銀星ホテル関係者

  • 桂木鷹史:銀星ホテルの若き支配人。婿養子。
  • 桂木美菜絵:銀星ホテルのオーナー。両親の後を継いでホテルを経営している。鷹史の妻。
  • 丹羽靖章:銀星ホテル副支配人兼レストラン長兼営業部長。有能。
  • 高比良和機:銀星ホテル従業員。
  • 水野由岐:銀星ホテル従業員。
  • 影浦浪子:銀星ホテル宿泊客。402号室を定宿としており梨田とは茶飲み友達。
  • 日根野谷愛助:銀星ホテルの宿泊客。呉服商。事件当夜、梨田と夕食をとっていた。
  • 鹿内茉莉香:銀星ホテルの宿泊客。ミュージカル・ソウ演奏者。部屋で演奏してほしいという梨田の依頼を断ったことがある。
  • 露口芳穂:銀星ホテルの宿泊客。美菜絵の友人で東京在住。遺産相続の話し合いのため大阪へ帰省していた。梨田のお気に入り。
  • 萬 昌直:銀星ホテルの宿泊客。自宅リフォーム中の仮住まいとして銀星ホテルに宿泊中。
  • 萬貴和子:昌直の妻。同上。
  • 梨田稔:銀星ホテルの長期宿泊客。夜の11時から翌午前2時の間に401号室のスイートルームで首を括っているのを、翌朝発見された。

調査開始

警察が自殺と結論を出した事件を調査するといういつもとは勝手の違う状況で、銀星ホテルのオーナー夫妻の全面協力下のもと、アリスはホテルに宿泊しながら事件関係者らの話を聞き梨田の人となりを知ることから調査を開始した。その過程で分かったことは、梨田稔の過去を知るものがほとんどいないということだった。自然、調査は梨田の過去を知ることへと向けられていく。

ホテルに乗り込む前に事件を担当した刑事に聞いたところによると、他殺を疑うような不審な物は何も見つかっていないという。70を目前に控えた身寄りもない寂しい男が、孤独を募らせた結果自死を選んだのだろうという合理的な解釈を疑う者はいなかった。死ぬ直前に飲んだと思われる睡眠薬の包みや容器が見つかっていないこと、亡くなる数日前、梨田が歌でも歌いだしそうなほど機嫌が良かったことなどを拠り所に、アリスは他殺を前提とした調査をスタートさせた。

梨田の過去を探るうち、彼にはとんでもない過去があったことが分かる。

  • 毎週木曜日にボランティアで電話相談を行っていたが、16日だけは休んでいた。
  • 30年前、飲酒運転で70代の老人をひき逃げし死亡させていた。その直後知人男性から車と金を奪い、大けがを負わせ逃走した。
  • 数日後に出頭し、裁判の結果6年半の間岡山の刑務所にいた。
  • ひき逃げをした当時、「カコちゃん」という恋人がいた。
  • カコちゃんは梨田が刑務所に入っている間、別の男性との間に子どもができたらしい(時期的に梨田の子ではないとのこと)。

16日はひき逃げの起きた日で、おそらく墓参りに行っているのだろうとアリスは推測する。その後銀星ホテルの従業員から梨田が16日に墓参していたという証言を得るが、梨田が手を合わせていた墓はひき逃げの被害者のものではなく、ホテルの支配人・鷹史の母親の眠る墓であることが確定した。カコちゃん=鷹史の母だったのだ。鷹史は自分の父親について何一つ知らないという。父親の写真は一枚もなく、誰に聞いてもはぐらかされたらしい。

梨田は元恋人の忘れ形見のそばで暮らしたかったのだろうと思われる。梨田と鷹史には同じような身体的特徴があり、それもまた梨田の郷愁と共感をあおったのだろう。少しずつ梨田の過去が分かっていく。だが依然梨田の死が自殺か他殺かははっきりとしない。

火村登場

試験監督を終えた火村が銀星ホテルに到着した。早速401号室へと赴き、事件当時梨田が履いていたスラックスの汚れに着目する。左すねの辺りの引きずった跡のような小さなチョコレートの染みだった。また梨田が付けていた時計に指紋が残っていないことにも引っ掛かりを覚えていた。2人の血縁関係を疑っているのか、こっそり梨田と鷹史のDNA鑑定を依頼するという。

自殺か他殺かはっきりしなかった事件について、火村ははじめて他殺と断言した。火村とアリスの話を聞いた大阪府警の船曳警部と担当刑事も、その方向で動きだすことを約束した。

他殺とはいえ犯人に繋がる手掛かりが何一つ見つからない。梨田がひき逃げ事件を起こした日、カコちゃんと旅行中だったという彼女の友人の話を聞きに行ったり、事件当時の常連宿泊客らが再びタイミングよく銀星ホテルに集まり改めて話を聞いたり、オーナー夫妻に子どもができていたりというおめでたい事実が飛び出してくる中、事件が動いた。梨田の遺書が銀星ホテルに郵送されてきたのだ。おそらく梨田を手に掛けた犯人によるものと思われる。

遺書の内容はすでにアリスと火村が調べた事が正しかったことを証明するものばかりで、特別なことといえば遺産の半分を鷹史に、残りを交通遺児育英会に寄付するというものくらいだった。

他人の手で遺書が送られてきたことでようやく他殺の物的証拠が出たというアリスの隣で、火村は犯人も分かったという。送られてきたこと自体がとんでもない情報の塊だと言うのだった。

犯人は

二重三重の動機を持っていました。殺すほどの強い動機は1つですが、それに明確な悪意と自分でも説明のつかない梨田に対する複雑な心理が重なって犯行を実行したとのことです。

火村やアリスたちの前でほぼミスも失言もなかった慎重な犯人ですが、最後の最後に梨田の遺書を郵送したことが命取りになりました。

被害者と加害者、どちらに対しても同情できる面があるし、同情できない部分もあるというやるせなさの残る事件でした。

 

□□

長編ものによくあるような派手で奇抜な不可能殺人ものではなく、自殺が本当に自殺だったのかというスタートラインが地味なものだったので、深く静かに深海に潜っていくようなストーリーでした。

本文のほぼ2/3くらいはアリスの単独調査で話が進むのですが、調査すること自体が事件を解く手掛かりになっているという惚れ惚れするような構想です。いつもはとんちんかんな推理ばかりしているのですが、アリスの捜査能力は火村が手放しで褒めるほど高いものでした。

アリスの頑張りによって梨田稔という男の鍵は開いたわけですが、火村英生の鍵はいつ開くのでしょうか。早く知りたいような分からないままでもいいかというような複雑な気持ちです。

 

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