有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『高原のフーダニット』あらすじとほんのりネタバレ感想

今回収録されている短編2作品は、事件自体はありきたりなのですが、火村准教授が呼ばれるほど犯人をなかなか絞り切れない厄介な事件でもありました。元刑事というある種の先入観を抱かせる人物も登場し、短編でも読みごたえは十分です。

そんな短編集のあらすじと感想をまとめました。

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「高原のフーダニット」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズの20冊目で、2つの短編「オノコロ島ラプソディ」「高原のフーダニット」の間に「ミステリ夢十夜」という10編のショートストーリーを挟んだ中編集となっている。

  • 高原のフーダニット(2012年3月/徳間書店)
  • 高原のフーダニット(2014年11月/徳間文庫)
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オノコロ島ラプソディ

淡路島で廃品回収業を営む男が殺された。容疑者は2人、被害者から借金をしていた男と女。男の方は事件当時、引退して山奥に引っ込んでいる元刑事と酒を酌み交わしていたとアリバイを主張、元刑事もアリバイの証言者となっている。また1等の宝くじに当選して返済の算段がつくので被害者を殺す理由がないと言う。女の方はネットで知り合った男性と会っていたとアリバイを主張。彼女の証言から当日の行動を追ったところ、アリバイに間違いないことが分かった。一体、誰が犯人なのか。

 

オノコロ島というは淡路島(正確には沼島らしいです)のことで、男側のアリバイの証言者である元刑事の住む庵・オコノロ庵にも掛かっているようです。多忙な火村先生は自分のオンボロベンツを酷使し、京都と淡路島を行き来しながら推理をする一方、原稿からの現実逃避を試みたアリスは取材という方便で淡路島で(結果的に)のんびりしています。その対比が気の毒ですが面白くもありました。

この話の始まりが原稿の依頼に来た編集者とアリスのやりとりでスタートするのですが、2人の会話のテーマが「叙述トリック」なのです。なので、この事件もどこかに叙述トリックが仕込まれているのだろうと思いつつ読んでいたら……作者の仕掛けたトリックというより犯人の仕掛けた叙述トリックでした。

ラプソディ(狂詩曲)の名にふさわしいドタバタもので、突拍子もないトリックでした。小説ならではの面白さですね。現実にこれを使う人はいなさそうです。

ミステリ夢十夜

シリーズに登場するキャラを総動員させた、アリスが見た夢の話です。

夢の中なので何が起きても不思議ではない、ということでしょうか。1つ1つの話はまとまっているのですが、ミステリーとしてはとりとめのない感じです。ファンサービスも兼ねているのかなという印象です。

全部で10個の掌編で出来ていますが、1つ1つは全て原稿用紙12枚分の長さとのことです。あとがきを読んでこちらの方に驚きました。作家さんって凄いです。

高原のフーダニット

以前、容疑者にされかかっていたところを火村が救った双子の片割れ(兄)から火村に電話がかかってきた。弟を手にかけてしまったという仰天の告白のあと一方的に通話を打ち切られアリスと2人で心配していたところ、警察から兄と弟の両方ともが殺されていると連絡が入った。現場へと駆けつけ関係者らに話を聞いてまわるうち、風谷人(フーダニット)というカフェの常連客たちに容疑が絞られていく。また兄の胃からは、弟を殺めたことに対する脅迫めいたメモが見つかった。

 

フーダニット(誰がやったか) といえばミステリー界ではおなじみの単語で、他にもハウダニット(どうやってやったか)やホワイダニット(なぜやったのか)などありますが、今回はタイトル通り犯人当てがメインでした。なので動機などから犯人に当たりをつけるのは難しく、現場の状況などから地道に犯人を導いていかなくてはなりません。もちろん私には分かりませんでした。容疑者を一人ずつ消していったり、犯人はあの人しかなりえないというような頭を使う作業は苦手ですので、苦手分野は探偵にまかせて作品の空気や探偵コンビや警察関係者たちの人となりを楽しみました。

犯人に自首をすすめるためとはいえ、火村准教授の思い切った行動には驚かされます。本人もやり方自体はあまり本意ではないようでしたが、犯罪者を追い詰めるのに容赦ない人です。

 

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どちらも兵庫県警の管轄の事件でした。火村とアリスが捜査をするのを快く思っていない野上刑事も登場。仕事中は真面目で堅物な顔を崩さないこの人も、プライベートで案外親しみやすいのかもしれないと思わせられるエピソードが立て続けに飛び出し、ギャップにほんわかしました。

今回は2作品とも動機から犯人を見つけ出すのは難しいと思います。地道に推理を重ねて、犯人を見つけていくという正統派のミステリーでした。「オノコロ島ラプソディ」の方はとんでもトリックだったので、最後の最後は推理というよりひらめきが大事だった気もします。

 

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