有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『暗い宿』あらすじとほんのりネタバレ感想

今作は「宿」をテーマにした短編を4つ集めたものとなっています。廃業した宿、リゾートホテル、温泉旅館に泊まる奇妙な客、密室殺人と今回も盛りだくさんで楽しんで読みました。

犯人の名前などの決定的なネタバレはしない程度に、あらすじや感想をまとめました。

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「暗い宿」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズ10冊目で、「暗い宿」「ホテル・ラフレシア」「異形の客」「201号室の災厄」の4つが収録された短編集。

  • 暗い宿(2001年8月/角川書店)
  • 暗い宿(2003年10月/角川文庫)

暗い宿

小旅行で廃線跡を辿っていたアリスは急な体調不良に襲われ、やっとの思いである宿に辿り着いた。そこはすでに廃業しており人を泊められる場所ではないという女将に必死に頼み込み、何とか一晩寝る場所を確保したアリスだったが、夜中、さくさくと地面を掘るような音を聞く。後日、アリスは新聞を見て驚いた。あの時泊った宿から人骨が出てきたというのだ。人骨は女将の義理の兄で、16年前に失踪したまま行方が分からなくなっていた男のものだった。骨の状態から、失踪時点で殺害されていたのではと推測される。

 

被害者の結婚相手である女将の実の姉もすでに亡くなり、時効も成立している。誰が犯人だったとしても罪に問える相手がいないという状況のなか、警察に自分の知る話をするため火村を伴って奈良を訪れたアリスは、火村がもう一つの人骨の存在を示唆したことに驚きます。

登場人物が極端に少ないので犯人自体はすぐに予測がつきます。なぜ取り壊し間際の宿にわざわざ骨を埋めに来たのか(別の場所に移すために掘り返しにきたのなら分かる)という謎を解く話でした。

ホテル・ラフレシア

石垣島の「ホテル・ラフレシア」にて夜通し犯人当てをするミステリーイベントにゲスト参加することになったアリスと編集の片桐。片桐の強い要望で火村も同行するが、火村はイベントには興味がなく、論文を書くためせっかくのリゾートホテルにも関わらず部屋にこもっていた。開始早々にイベントの問題を解いてしまったアリスが気まぐれに浜辺へと足を向けると、ふらふらの女性を抱えて歩く2人の男を目にする。昼間鍾乳洞で出会った夫婦で、夫人を支えている一方の男は火村だった。夫によると、夫人は自分のぜんそくの薬と夫の睡眠薬を取り違えて飲んだのだというが、火村は言動の怪しい夫から別の事実を引き出した。

 

ホテルで行われるミステリーイベントには何度か参加したことがありますが、クイズ形式のヒントを貰っても犯人を当てるのは結構難しいです。当てずっぽうで犯人を当てることはできても、論理的にはできませんでした。それをすらすらと解いてしまうのは、さすがアリスは推理作家だけあるといったところでしょうか。女性が睡眠薬を飲んだ件については既に問題が解決し、翌朝にも元気な夫妻の姿があったことから、見どころはミステリーイベントでのアリスのパーフェクトな回答かなと思っていたら、とんでもないラストが待ち受けていました。

後味が良くない短編ですが、その分印象に残りました。

異形の客

兵庫県の小ぢんまりとした温泉地に、包帯で顔を覆った奇妙な男が宿泊した。三日目の朝に包帯男が散歩に出かけた後、包帯男の部屋から見覚えのない男の絞殺死体が発見され、包帯男の行方も分からなくなった。よほど用心していたのか、包帯男が泊った部屋に指紋や髪の毛などは見つからない。偶然その宿に泊まっていたため事件に遭遇したアリスは、火村に連絡をとり事件の捜査協力をする。所持品などから被害者は、大学を休学して部屋に引きこもっていた男だと判明する。被害者は昨年末頃から徐々に様子がおかしくなり、人目を避けるようにサングラスをかけたり部屋に閉じこもるようになったという。まめに彼の部屋を訪れて面倒を見ているという友人の話を聞くうち、火村は今年に入ってから路上で起きた未解決の殺人事件に興味を持つ。

 

「金田一少年の事件簿」にも出てくるのですが、顔全体を包帯で覆った人間は、いかに怪しくても普通に泊まれるものなのですね。存在するだけで人の記憶に強く残るので、それが狙いかなと思っていたのですが、もっと裏がありました。

計画的に人を殺した犯人に対し「自首するな」という火村准教授の容赦のなさに、読んでいて気圧されました。自首を促したり犯人を指摘してあとを警察に任せることが多いイメージでしたが、目の前にいる殺人者を叩き潰すためにあえてその場は見逃し、自首するなとまで言う冷酷さが垣間見えた話でした。

201号室の災厄

普段なら泊ることのない高級ホテルに、お手頃な料金で1泊できることになったラッキーな火村は、翌朝はチェックアウトして帰京するだけという気楽さもあってかホテルのバーで酔い、301号室に戻るつもりが階を間違えて201号室へ行ってしまった。そこは来日中の大人気ロックスター・ミルトンの部屋で、部屋で倒れている女性の遺体を目撃してしまったことから火村の不運は始まった。

 

部屋で酔いつぶれ、目が覚めた時には窓も施錠され、ドアもチェーンが掛かった状態で遺体と二人っきりだったと主張するミルトンに暴力的に部屋に閉じ込められ、外部との連絡を絶たれた状況でミルトン以外の犯人を見つけなければならなくなった火村は、部屋の状況とミルトンの話から、あるトリックを用いた密室殺人を推理しました。

色々と無理がある気がしますが、説明は犯行動機も含め合理的で、理論上できなくもないといったトリックでした。密室の謎よりも、せっぱつまった状況で、火村がミルトンとのあれらの会話を全て英語で行っているということの方に気を取られました。格好いいですね。

 

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推理するのは火村で、事件に巻き込まれたり語り手であるのはアリスといういつものパターンですが、いつもより単独行動が目立った気がする短編集でした。

とんちんかんな推理で火村の補助をする損な役回りのアリスですが、ミステリーイベントでの謎解きはスマートで格好良かったです。

 

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