有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『モロッコ水晶の謎』あらすじとほんのりネタバレ感想

「モロッコ水晶の謎」のあらすじと感想をまとめました。ショートショートの「推理合戦」が箸休め、それ以外の3編が誘拐殺人、連続殺人、毒殺と日常から離れた特殊な設定となっており、読みごたえがありました。

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「モロッコ水晶の謎」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズの15冊目で、国名シリーズ8冊目。「助教授の身代金」「ABCキラー」「推理合戦」「モロッコ水晶」の4編で構成されている。

  • モロッコ水晶の謎(2005年3月/講談社ノベルス)
  • モロッコ水晶の謎(2008年3月/講談社文庫)

助教授の身代金

出演した映画の配役にちなんで「助教授」というニックネームで親しまれた俳優・志摩征夫を誘拐したと、出張から帰ったばかりの妻・恵里香の携帯に電話がかかってきた。資産家の実家に頼んで身代金を用意し、警察が警戒するなか指示された電車に乗った恵里香だったが、犯人は現れず連絡もそれっきり途切れてしまった。翌日、廃墟で征夫の遺体が見つかった。死亡したのは誘拐されてすぐと思われた。つまり誘拐犯は、征夫を殺した後に誘拐の脅迫電話をかけ、身代金を要求したにもかかわらず受け取りにこなかったという不可解な行動をとったことになる。

目的はお金ではなく征夫自身なのか。征夫の周りの怪しい人物といえば、別居中だった妻の恵里香、恵里香の実父、恵里香の勤める会社社長で征夫と喧嘩しているところを目撃されている宇田川温子、征夫の仕事仲間で志摩家の事情にも詳しい城戸誉。隠し部屋から見つかった凶器の指紋から犯人は分かったが、協力者がいるはずと火村は睨む。

 

今なら「准教授の身代金」というタイトルになるのでしょう。シリーズが長くなってくると、初期の作品は今となってはあまり使わない言葉や小物が多く登場しますが、トリック自体は今でも普通に通用するものでした。私は1時間前に自分が喋った言葉なんて全然覚えてもいませんが、火村准教授は当たり前のように覚えているようです。犯人を推理した過程より、こちらの方に驚いています。

初めて読む時と、再読する時では出だしの印象が180度変わって見える短編です。

ABCキラー

アガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」を真似たかのように、アルファベットのAがつく地名でイニシャルがAの男が射殺された。同じ日の夜、B町でイニシャルBの女が射殺された。線条痕が一致し、凶器は同じ拳銃だと判明するものの、被害者2人に接点はまるで見つからない。そうこうするうち、C町でCのイニシャルを持つ男が射殺された。犯行後にはそれぞれの管轄の警察宛に、AからZまでの連続殺人を匂わせる文書が届いていた。警察はもちろん、アリスと火村もさまざまな可能性を挙げては潰していくが、まるで犯人の目星がつかない状況だった。とうとうDの殺人事件が起こった時、はじめて被害者やその周辺の人物に接点が見つかったと火村は言う。「犯人は3人いるが、逮捕できるのはそのうち1人だけ」

 

D以降、怒涛の展開になるのですが、3警察にまたがるほど事件の規模が大きく謎も大きかった分、真相はちょっと拍子抜けする感じがしました。実際にこんな事件が起こったら大事件ですし不謹慎なのですが、エンターテイメントとして読むという前提で書くと事件や謎に対する期待度に対し、結末が少々不発な感が否めないです。犯人の小物感というか、動機が俗物的すぎて犯人像にふさわしくないと思ってしまいました。

推理合戦

先輩作家の朝井小夜子と火村、アリスの3人で飲んでいる最中、朝井の最近の行動に対し火村がある推理を披露した。お返しに朝井も、火村のベンツが修理中だろうと推理する。2人の会話に全くついていけなかったアリスは、火村が推理で指摘した朝井が行ったという町へ足を運んでみた。

 

ショートショートで軽めの話です。屈託のないやり取りが軽快で、この3人が飲んでいる話はどれも好きです。

モロッコ水晶の謎

波多野書林の社長・波多野弘資の誕生パーティーの乾杯の席で、阿江泉が突然苦しみだし間もなく死亡した。パーティーの参加者は波多野、波多野の妻と娘、息子、娘の恋人で被害者の阿江、波多野の部下の有働と及川、波多野家の離れに住み家族同然の扱いを受けている美苗と姪の明海、家政婦、そしてアリス。出版社の企画で水晶占い師・畝美苗との対談をきっかけに、作家志望だという高校生になる波多野の息子・弘俊にアドバイスをすることになり、その流れで主のパーティーに招待されたアリスは、苦しむ阿江に対し何もできず現場保存をするのでいっぱいだった。

未成年の弘俊と明海、アルコールが飲めない阿江のために用意された3つのオレンジジュースのうちの1つだけに、致死量を超える農薬が入れられていた。誰がどのグラスを取るのかは分からず、手に取ったグラスに毒を仕込む隙がなかったのは、関係者の証言で明らかになった。もしも無差別殺人をもくろんでいたならば、3つともに毒を入れればいいと火村は言う。

一体誰が、どのようにして阿江のグラスにだけ毒を入れることができたのか。

 

話が進むにつれ、将来有望な若者という印象だった阿江のことを、野心家と見る人間やよく思わない人間がいることも分かり、美苗の水晶占いを信じている人、懐疑的な人も明らかになり登場人物も多めということもあり、読みながら混乱してきました。

犯人の動機は分からないでもありませんが、毒を飲ませた方法は常識的に考えればとんでもない方法でした。普通なら一蹴されそうなトリックですが、そこをうまくタイトルのモロッコ水晶や占い師と結び付けたといった感じで衝撃を受けました。

 

□□

犯人の凄まじさという点で、表題作の「モロッコ水晶の謎」が最もインパクトが強かったです。人気のあるミステリーものの宿命でしょうが、よく殺人事件に巻き込まれるのも主人公の才能ですね。

 

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