有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『長い廊下がある家』あらすじとほんのりネタバレ感想

「長い廊下がある家」は短編集ですが、舞台設定が少々大がかりな作品が集まっていると思います。日常の謎というより、特殊状況下で不可解な事件が起きたというものが多いです。

いつもと違った趣向のミステリーを楽しみたいという方に、おすすめの一冊です。

スポンサーリンク

「長い廊下がある家」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズ20冊目の短編集。「長い廊下がある家」「雪と金婚式」「天空の眼」「ロジカル・デスゲーム」の4編で構成されている。

  • 長い廊下がある家(2010年11月/光文社)
  • 長い廊下がある家(2012年8月/光文社カッパ・ノベルス)
  • 長い廊下がある家(2013年7月/光文社文庫)

長い廊下がある家

とある山奥の廃村に、地下で2つの家を繋ぐ長い長い廊下を持つ屋敷があった。その屋敷と廊下は曰く付きの心霊スポットして知られている場所で、限界集落の調査にきて道に迷った学生が何とか人の気配のするところへと歩き続けて辿り着いた場所でもあった。取材で幽霊屋敷に訪れていた男女3人組に混ぜてもらう形で一晩そこで過ごすことになった学生は、彼らとともに地下の廊下を体験することになった。東と西の屋敷を繋ぐ廊下には真ん中にスイング式の閂のかかる扉がついており、夜に歩いた時は異常がなかったのに、朝になると扉には鍵が掛かっており、足元には扉の下から流れてきた血だまりが出来ていた。どうやら反対側の廊下で異変が起きているらしい。3人とともに無人の西の屋敷へ出向き、窓ガラスを割って侵入し家内から地下へと向かうと、そこには昨晩諍いがあって怒って帰っていったはずの第4の男が胸に刃物が刺さった状態で息絶えていた。

 

学生は、火村の大学の教え子でした。一人山道をさまよい、何とか人のいる家を見つけたら心霊スポットで、親切にしてくれた取材班と一晩飲み明かしたら翌朝には人が殺されていて、と何かと巡り合わせの悪そうな感じです。事件の方は、無人の屋敷の地下の廊下で人が殺されていた。容疑者は取材班のメンバー3人ですが、東の屋敷で飲んでいる最中に一人抜け出して西の屋敷へと向かい犯行を行うことは時間的にも不可能だった、という状況です。

アリスは地下廊下に大がかりな仕掛けがあるのでは?と推理しますが、人が住まなくなるような過疎の集落にそんな仕掛けを施す人はもちろんいませんでした。

とっさのこととはいえ、急ごしらえで今回のトリックを思いつくなんて、ものすごく頭の回転が早い人だと、事件を解決した火村よりも犯人側に感心してしまいました。

雪と金婚式

金婚式を迎えた老夫婦の離れに住んでいた男が、金婚式の翌朝、首に紐が巻き付いた状態で殺されているのが見つかった。昨晩遅く、結婚の思い出でもある雪が降っているのを老夫婦が窓から眺めていた時は何事もなかったため、離れに向かってついている足跡はおそらく被害者がその後、雪がやんだ後に帰宅した時のものだろうと推測された。犯人は離れそばのフェンスを乗り越えて侵入し被害者を待ち伏せ、犯行に及んだ後再びフェンスを乗り越えて逃亡したものと思われ、離れとフェンスの間は犯人が箒で足跡を掃き消した痕跡があった。この事件に関し老夫婦の夫に何か思い当たることがあったらしく、警察へ行こうとしたタイミングで転倒して記憶を一時的に失ってしまった。火村が依頼されたのは、犯人を見ていないにも関わらず、夫には犯人が判ったという謎を解明してほしいというものだった。

 

今回は犯人を捜すというよりも、記憶を失った夫の事件当夜の行動をトレースすることに重点が置かれていました。ポイントは、お互いを思いやる仲の良い老夫婦の金婚式の夜だったということです。事件後すぐに警察へ連絡しなかったのは、犯人が自首してくれるのを願って待っていたため。犯人にはアリバイがあったのですが、優しい夫の行動がアリバイを崩し、事件を解決しました。

天空の眼

アリスは隣人の女子高教師・真野早織から、元教え子の撮った心霊写真について相談を受けた。この写真を撮って以来不幸が起き続けているという。火村の受け売りで何とか彼女らを励ますことに成功した頃、とある会社社長の無人の別宅から大学生が転落死した。転落した屋上の手すりが故意に壊されていたことから警察は殺人も視野に入れて捜査を進めていく。アリスは再び真野から相談を受けた。元教え子の写真を心霊写真だと指摘した大学の男友達が、写真の詳しい鑑定と処分を求めたのが転落死した学生であり、また男友達と転落死した学生が激しい言い争いをしていた姿を複数の人間が目撃しているため、警察の事情聴取を受けているという。アリスは、元教え子が写真を撮影したという東北へと単独出向いた。

 

学生が転落死した別邸は男友達の親族の家でもあったようで、警察ではなくても男友達へと疑いの目を向ける状況が揃っていました。心霊写真が撮られたとされる場所を特定したアリスは、そこで話しかけてきた地元の人たちにより、火村の手を借りることなく事件の謎を解いたのです。

隣人の元教え子が何の気なしに撮った写真が事件を引き起こしたことを知ってアリスはほろ苦い思いを噛みしめますが、元教え子の女子大生に非は全くありません。犯人が愚かでずる賢いだけです。

ロジカル・デスゲーム

火村の講義を熱心に受講していたもぐりの聴講生・千舟に騙される形で、とある家へと連れて来られた火村は、そこで千舟から死をかけたゲームを挑まれる。それは飲み物が入った3つのグラスの一つにだけ致死量の毒物を入れ、毒物を飲んだ方が死んで負け、勝った方が生き残るというデスゲームだった。

近頃起きている連続自殺事件の首謀者である千舟は、自殺志願者達に負けると死ぬが勝てば百万をプレゼントすると持ちかけ、今まで4回勝ってきた。5人目に選んだのが火村だった。自殺志願者ではない火村は怒りとともにゲームを拒絶するが、拳銃を持っていた千舟によって強制的にゲームはスタートした。

 

ゲームのルールは単純です。火村には分からないように千舟が1つのグラスに毒物を入れ、最初のグラスを火村が選ぶ。3つのグラスのどれが当たり(毒物入)かを知っている千舟は、残った2つのグラスのうち、毒物が入っていないグラスをまず飲み干す。その後、火村にはもう一度グラスを選びなおすチャンスが与えられる。火村が最終的に選んだグラスを、選ばれなかったグラスを千舟が同時に飲み干す。毒物が効いてくる20分前後で勝敗が決まる。

緊迫した雰囲気の中、自由な時間もほとんどない中で、火村は2人ともが助かる方法を考え出し実行に移します。頭の良さよりも、それをためらいなく実行に移す思い切りの良さと覚悟に感服しました。

無事に生還した火村は、後日アリスに対し毒物の代わりに砂糖水を使ったデスゲームを再現し、みごとアリスは砂糖水を引き当ててゲームオーバーになってしまいます。しかし火村は「アリスはゲームの勝者だ」と謎の発言をしました。

今回のデスゲームは確率の問題とのことです。本文で分かりやすく解説してありますし論理としては理解できるのですが、毒物混入の確率が低いグラスを選んだアリスが砂糖水を引き当てことを考えると、確率を駆使したロジックよりも運がモノをいう恐ろしいゲームだと思います。

火村准教授の機転が素晴らしい短編でした。

 

□□

「ロジカル・デスゲーム」は2016年にテレビドラマ化もしているので、そちらの方が映像として見ることができ分かりやすいかもしれません。

本を読む手をとめ、確率のロジックを真剣に考えてしまった一冊でした。確率の問題は苦手だったせいか、毒が入っている可能性は、頭では1/3と2/3と理解していても、1/2と1/2ではないだろうかという感覚が全く抜けませんでした。

 

その他の感想はこちら

有栖川有栖の人気シリーズ「火村英生シリーズ(作家アリス)」を読みたくなった時のおすすめの順番