有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『ペルシャ猫の謎』あらすじとほんのりネタバレ感想

「ペルシャ猫の謎」は、いつもと趣向が違う短編がいくつか収められた1冊です。シリーズものも長くなってくると、様々な角度からアプローチされた話が読めるので嬉しいです。

1話ごとに簡単にあらすじと感想をまとめてみました。

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「ペルシャ猫の謎」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズ9冊目で、国名シリーズ5冊目。「切り裂きジャックを待ちながら」「わらう月」「暗号を撒く男」「赤い帽子」「悲劇的」「ペルシャ猫の謎」「猫と雨と助教授と」の7編で構成されている。

  • ペルシャ猫の謎(1999年5月/講談社ノベルス)
  • ペルシャ猫の謎(2002年6月/講談社文庫)

切り裂きジャックを待ちながら

クリスマス公演「切り裂きジャックを待ちながら」を目前に控えた小劇団の主演女優・摩利が何者かに誘拐されたらしい。椅子に拘束された状態の彼女が身代金一千万を用意してほしいと懇願するビデオを見せられたアリスは火村に連絡をとる。劇団に一千万を用意する余裕はなく、役者である摩利の狂言ではと見る向きもあり、劇団の主宰者兼脚本家の鳴海の意向で舞台は代役を立てて開演することとなった。ゲネプロの最中、舞台セットの大きなクリスマスツリーに脚本どおりにぶら下げられた摩利の遺体が見つかった。

 

読みながら頭の中に派手な映像が広がるのでビジュアル向きな話だと思っていたところ、有栖川さんが書かれたテレビの推理ドラマの原作を、ノベライズしたものとのことです。2016年にもテレビドラマのアナザーストーリーとしてHuluで放映されていましたが、小説とはまた設定が違っていたので、1作品で二度、三度と楽しめる話です。タイトルが好きです。

わらう月

オーストラリアのシドニーである日本人貿易商の他殺体が見つかり、大阪府警が協力要請を受けた。シドニー市警が容疑者と見ている男は、犯行の直前に被害者と険悪な雰囲気で言い争う姿が目撃されている。しかし犯行時間帯、男にはアリバイがあった。シドニーで偶然再会した女性とずっと夜を一緒に過ごしていたというのだ。提出された証拠の写真はデート中にビーチで写されたもので、居場所をはっきりと特定できるものは何もなく、海辺に浮かんでいる月の月齢から場所を推測するしかなかった。

 

火村とアリスが1枚の写真に隠されたトリックを暴く話です。写真の知識や月齢の話が出てくるので、苦手な人にとっては読みにくいかもしれません。大分読み飛ばしたので、あまり印象に残っていません。

容疑者の男と一緒にいたという女性視点で話が進んでいくのと、月がテーマになっていたのもあり、幻想的な雰囲気のある話でした。

暗号を撒く男

広い家で一人暮らしをしていた男が殺された。事件自体は単純で犯人はすぐに逮捕されたが、家の中にはいくつかの不可解なものがあった。家とはそぐわないセンスの漫画調のエンゼルフィッシュの玄関マットや、何も生けられていない花瓶、廊下に置いてある使わない黒い鞄、リビングのテーブルにあった2本のハサミ、ペアのこけし、寝室の破魔矢……まるで暗号のように家中に散らばった小物は、どうやら被害者自身が細工したものらしい。一体彼は何のためにこのようなことをしたのか。

 

ヒントは真面目で不器用な被害者は婚活中だったということです。不可解な暗号は全部で11個あるので、頭の中で想像するよりビジュアル化した方が断然分かりやすいです。実際、テレビドラマ化された中にもこの話が出ていた記憶があります。答えが分かってしまえば、なるほど不器用な人らしいと納得するような工夫でした。

赤い帽子

赤いハンティング帽をかぶった男が、大雨で増水した川に浮かんでいた。被害者の足取りを追う大阪府警の森下刑事は、彼が被害に遭った夜、二人連れで大阪ドーム近くのスナックに居たことを掴んだ。野球観戦を終えた客が多くやってくるスナックは賑やかで、被害者たちの会話が聞こえてくることはほぼなかったが「ビオラはやっているのか」と被害者が連れに尋ねる言葉はママの耳に残っていた。また男の泊ったホテルには、被害者が書いたらしいクラシックの曲名のメモが残っていた。だが誰に聞いても、赤い帽子をかぶった男が音楽をやっているようには見えないという。

 

今回の主人公は森下刑事で、火村准教授とアリスは出てきません。地取り(周辺の聞き込み)、鑑取り(被害者の人間関係など)、遺留品捜査と警察の地道な捜査で犯人が犯人である証拠を掴んでいく、という組織捜査の流れみたいなものが丁寧に書かれていました。ミステリーらしいところは「ビオラ」の謎です。「ビオラ」の謎が解けた時、森下刑事は一気に犯人に辿り着きました。若手刑事ということで普段はひよっこ扱いですが、きちんと刑事やってるのですね。

悲劇的

編集の片桐との打ち合わせ中、火村はミステリーを書かないのかという話題になったアリスは、火村が初めて書いた小説ともいえない作品(ラストに一行付け加えただけ)のエピソードを披露する。

 

ショートショートなので話自体も短いですし、ミステリー要素はありません。日常の一コマという体の箸休め的な話でした。無神論者の准教授らしいオチだったと思います。

ペルシャ猫の謎

会社は倒産し同棲していた恋人は出ていった。喜多嶋一允に残されたのは、彼女が置いていったペルシャ猫と両親から引き継いだ一軒家だけだった。まるで気の進まなかった猫との生活が、目に入れても痛くないほどの愛猫家になった頃、事件が起きた。何者かに殴られたうえ、ガスの栓を開けられたのだ。一度は気を失ったがなんとか自力で警察を呼んだ一允は、ある証言をした。目を覚ました時、犯人はまだ部屋にいたという。肩に猫を抱いたその男の顔は双子の弟・一孝で、猫を抱いたまま逃げていったと。弟とは兄弟仲が悪く、先日も借金の申し込みを断ったので恨まれていたはずだという。

だが、その日の一孝には完璧なアリバイがあり、借金も恋人が出してくれたので問題はなくなっていた。またペットの猫も、犯行時間帯、他所の家にずっといたことが分かった。警察はまともに取り合ってくれないので、アリスたちに弟のアリバイ工作を見破ってほしいと一允は希望するが。

 

分かってみると、何だか拍子抜けするような真相でした。ミステリーというより猫好きをこれでもかというほどアピールした話でした。

猫と雨と助教授と

火村の下宿先の大家の婆ちゃんとアリスとの電話で、火村が3匹目の猫を飼うエピソードを聞く話。

「悲劇的」よりも更に短い話です。猫好きのほほえましい一コマでした。

 

□□

「ペルシャ猫の謎」という作品名だけあり、後半は猫が多く出てくる短編でした。猫好きの人なら、きっと読んでいて顔が緩んでくる一冊です。

 

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