有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『白い兎が逃げる』あらすじとほんのりネタバレ感想

有栖川有栖さんの火村英生(作家アリス)シリーズ、短編集です。今回もアリバイ崩し、ダイイングメッセージ、時刻表トリックなど盛りだくさんの内容で楽しみました。

それぞれのあらすじと感想を簡単にまとめました。

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「白い兎が逃げる」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズの14冊目。「不在の証明」「地下室の処刑」「比類のない神々しいような瞬間」「白い兎が逃げる」の5つの短編で構成されている。

  • 白い兎が逃げる(2003年11月/光文社カッパ・ノベルス)
  • 白い兎が逃げる(2007年1月/光文社文庫)

不在の証明

ひったくり犯・梶山は、逃走中、潜んでいる工事現場から見えたビルに、小説家の黒須俊也が入っていくのを目撃した。その黒須に殺人容疑が掛かった。黒須の双子の弟が、そのビルで殺害されたのだ。現場となったビルの一室は、翻訳家の蓑田芳恵の仕事部屋であり、元々兄弟仲が悪かった黒須兄弟は、蓑田を巡って三角関係になっていたという。だが黒須にはアリバイがあった。犯行時間、黒須は取材旅行で小豆島を訪れており、証人もいるという鉄壁のアリバイを持っていたのだ。また事件当時、蓑田もビルから1分ほどの離れた自宅に帰っていたという。

 

アリスは時刻表を手に黒須のアリバイ崩しに腐心し、私は姿かたちがそっくりな一卵性の双子ということで、巧妙な入れ替わりトリックを予想しつつ読み進め、見事に騙されました。事件について話を聞いた人たちのちょっとした証言の矛盾や、言動の不自然さ、聞き込み結果の積み重ねから推理を進め、犯人にたどり着く准教授はさすがです。アリスの見当違いな推理が火村の思考のサポートになるのなら、私の推理も十分サポートできそうな気がしました。

地下室の処刑

新興宗教から派生したテロリスト集団「シャングリラ十字軍」の指名手配犯の一人を見かけた大阪府警の森下刑事は、彼の後をつけたところ背後から襲われ気を失った。目が覚めるとどこかの地下室で手足を拘束された状態になっていた。テロリストたちにこれから処刑を行うと宣言され死を覚悟したが、処刑されるのは嵯峨という男で、森下はそれを見届けろと告げられる。銃を向けられた嵯峨だったが、最後にとワインを飲んだとたん苦しみだし死亡した。その死はテロリストたちにとっても予定外だったようだ。ワインを用意した男女とともに拘束されたまま地下室に残された森下は、何とか部屋を抜け出し大阪府警に連絡をとった。嵯峨の死因は青酸カリ。ワインが置いてあった部屋の砂糖壺の中から、毒物の入ったカプセルが見つかった。犯人は男と女、どちらなのか。

 

警察での取り調べ中、お互いを犯人だと言いあう男と女の証言と森下の話から、ある不可解な言動をキャッチした火村が、事件の真相を見抜きます。犯行動機に人間味が感じられないのが、サイコパスっぽくって少しぞっとしました。

比類ない神々しいような瞬間

カレンダーがまもなく21世紀を迎えようとする頃、テレビにも出演する評論家・上島初音が、仕事場であるマンションで殺害された。発見者は彼女の秘書の金城直哉と編集者の飯星真紗子。死因は刺されたことによる失血死だが、被害者が書いたと思われる「1011」とも読める血のダイイング・メッセージが残されていた。火村は「明石」という人物の心当たりを関係者に訪ねて回ったが該当者はおらず、火村の20世紀最後の事件は解決することなく21世紀に持ち越された。事件から数か月後、ホームレスの男性の他殺体が発見された。名前は明石峻郎で、なぜか新札の千円札を握りしめたまま死亡していた。

 

あらすじをまとめただけではこの短編の良さが全然伝わらないという、もどかしい事件です。また時事問題に詳しくないと難しい話でもありました。著者のあとがきにもあるように賞味期限があるネタですが、あっと思わず声を上げるような巡り合わせの妙を感じるオチでした。確かに目の前でこれが起これば目に見えない力の存在を信じてしまいそうです。

ホームレスの男性を手に掛けた犯人は「夏目」という偽名を使っていたので、男性は死ぬ間際にとっさに千円札(この当時のデザインは夏目漱石)をダイイングメッセージとして握りしめたのですが、犯人はそこから自分に辿り着くことはないと高をくくっていました。ですが偶然にもその千円札から別のメッセージが発せられていたという、犯人にとっては最大級に運の悪いタイミングで犯罪を犯したことが分かりました。

白い兎が逃げる

小劇団「ワープシアター」の看板女優・清水伶奈はストーカー・ハチヤの存在に怯えていた。先輩女優の真亜子、脚本家の亀井とともに一度は撃退したものの懲りる様子のないハチヤに対し、亀井の発案であるゲームを仕掛けることになった。鳥取へ行く予定の伶奈だが、ハチヤには北海道へ行くと思わせて後をつけさせ、ぎりぎりで引き返して撒こうというものだった。当日朝、自宅を出た伶奈は後をつけてくるハチヤの姿を確認し計画通り必死に逃げた。ゲームは成功したかに思われたが、数日後、小学校の校庭からハチヤの遺体が発見された。ちょうど伶奈たちがゲームを仕掛けている時間帯の犯行だった。

 

時刻表トリックですが、アリバイを崩すことよりも「なぜハチヤは殺されたのか」という動機の方が謎でした。登場人物自体が少ないので、本文によほど隠された描写がない限り、消去法で何となくこの人かな?というのは思い当たりますが、理由が分かりません。ある程度読んだところで、「それがそこに繋がるのか」という伏線の回収で動機が判明するといった流れでした。それ以外にも細かい伏線というかミスディレクションに気持ちよく騙されました。

 

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