国名シリーズの長編「スウェーデン館の謎」のあらすじと感想をまとめました。まだスマートフォンはおろか携帯電話すら一般的にそれほど普及していない時代の話なので、写真はデジタルではなくアナログで、いちいちお店に現像に出していたなぁなどと懐かしさを感じながら読み返しました。
このあたりは推理の本筋とは無関係なので、ストーリーは今でも楽しく読んでいます。
「スウェーデン館の謎」書籍概要
火村英生(作家アリス)シリーズの5冊目、国名シリーズ2冊目で長編ものである。
- スウェーデン館の謎(1995年5月/講談社ノベルス)
- スウェーデン館の謎(1998年5月/講談社文庫)
- スウェーデン館の謎(2014年11月/角川ビーンズ文庫)
バレンタインデーも近づく頃、雪深い裏磐梯のペンションに取材のため訪れていたアリスは、そこの主人から隣家に建つ「スウェーデン館」と呼ばれるログハウスの存在を知らされた。住んでいるのは童話作家の乙川リュウとその妻・スウェーデン出身のヴェロニカ、乙川の実母とヴェロニカの実父。偶然ヴェロニカと知り合ったことからお茶会に招待されたアリスが館を訪問すると、そこには乙川夫妻の友人たちも集まっていた。
登場人物
【スウェーデン館の住人と招待客】
- 乙川リュウ:童話作家。海豹のような体躯の持ち主。
- ヴェロニカ:乙川リュウの妻で帰化している。幼い頃から日本にいたため日本語は堪能。
- ハンス・ヨハンソン:ヴェロニカの実父で乙川の義理の父。日本語は堪能。
- 乙川育子:乙川の実母。
- 乙川ルネ:乙川夫妻の息子。三年半前の7歳の時、五色沼に落ちて亡くなった。
- 葉山悠介:乙川のいとこでスウェーデン館の居候。失業中。
- 等々力末臣:乙川夫妻の友人。建設会社を経営。
- 綱木淑美(姉):乙川夫妻の友人。画家で、挿し絵の仕事をしている。
- 綱木輝美(妹):乙川夫妻の友人。画家で、挿し絵の仕事をしている。
【ペンション】
- 迫水春彦:アリスが泊っているペンション「サニーデイ」のオーナー。
- 迫水倫代:春彦の妻
- 迫水大地:迫水夫妻の息子。人見知りなのか暗い雰囲気を漂わせている。
事件勃発
ジャンルは違えど同じ作家同士、乙川とお茶会で会話も弾み、楽しい気分でペンションに戻ったアリスが夕食を済ませた頃、乙川がお酒を手土産に訪ねてきた。ペンションのオーナー夫妻を交えて4人で話に花が咲き、乙川がペンションを辞したのは夜中の12時を回ってからだった。
翌朝、綱木淑美が普通ではない死に方をしたと等々力が知らせにやってきた。離れの部屋で頭を割られて倒れていたという。興奮している妹の輝美から、ミステリー作家であるアリスが怪しいと指摘を受け、昨晩の乙川の行動を証言するためにもアリスはスウェーデン館へ向かった。
事件の概要
被害者は綱木淑美、死亡推定時刻は昨日の午後10時半~12時までの間。
翌朝早朝、母屋から30メートルほど距離のある離れの煙突が折れ、出入り口のドアが半分ほど開いていたことに不審を覚えた乙川が裏口から外に出ると、離れに向かって雪の上に一筋の足跡がついていた。昨晩、酔っぱらった淑美が引きあげて行った時のものだろうと見当をつけて様子を見に行くと、リビングには誰もおらず、きっちりと閉まった寝室の床に淑美が倒れていた。
離れの宿泊客は綱木姉妹。関係者の証言から、姉の淑美は午後10時半~45分の間に離れへ向かっただろうと推察されるが、はっきりと姿を見た者はいない。妹の輝美は日付が変わる頃までヴェロニカと酒を飲みそのまま酔いつぶれたため、ヴェロニカが母屋の2階にあるルネの部屋のベッドへと運んでいた。輝美が記憶をなくすほど飲んでダウンすることはよくある様子で、それを知っている人も多かった。
雪の上に残った足跡は、警察により一つは淑美の靴であると証明された。もう一つも、雪を踏みしめた深さなどから離れへ向かい戻ってきたという乙川の靴跡であることが証明されている。また乙川は誰かの足跡を巨躯の自分の体重で消すように歩いたことはないと主張し、その主張も警察の調べで間違いないことが分かっている。
昨夜は午後10時半を過ぎてスウェーデン館にいたほとんどの人間が自室に引き上げたため、はっきりとアリバイを証明できるのが、隣家のペンションで酒を酌み交わしていた乙川一人。妻のヴェロニカと輝美が12時過ぎまで飲んでいたが、輝美が泥酔して記憶がないためアリバイとしては微妙なものになっている。
離れは林のすぐそばに建っている。またログハウスに隠し通路などの細工がないことは、ハウスを建てた等々力が証明している。雪に残る足跡から、スウェーデン館の誰かが離れで淑美を襲ったとは考え難い。スウェーデン館の関係者たちは、足跡の残らない(枝木に積もった雪を落とすことで痕跡を消すことができる)林から来た外部犯の仕業ではないかと考える。
火村英生登場
アリスからの電話で事のあらましを聞きヘルプを受けた火村は、その日のうちに電車に飛び乗ってペンション「サニーデイ」へと駆けつけ、アリスが撮っていた現場の写真などを見る。
アリスから話を聞いただけで犯人の目星をつけたらしい火村は、現場を見に出かける。
今までに分かっていることは以下の通り。
- 輝美が倒れていた寝室の枕にカバーがついていない。犯人が持ち去ったものと思われる。
- ほかに現場(離れ)から無くなっているものはない。
- 淑美の所持品も、無くなっているものはないと妹の輝美が証言している。
その後、ペンションのオーナー夫妻の息子・大地から重要な証言が飛び出す。
- 三年半前のルネが沼に落ちた事故でなくなった時間帯、輝美が沼の近くにいたこと。
- 当時4歳だった大地に見つかった輝美は、鬼のような怖さで大地に口止めをしたこと。
- 輝美の他にも誰か沼に人がいたかもしれないが、はっきりとは分からない。
ずっと輝美の脅迫におびえて暮らしてきた大地ですが、彼女が亡くなったことを知り、両親にさえ秘密にしていた出来事をようやく火村に促されて吐き出すことができたのでした。
バレンタインデー当日、事前に用意していたチョコをスウェーデン館の人々に渡して回っていた輝美が、何者かに頭部を殴られ離れで昏倒していたところを発見された。息はあるが脈が弱いという。
その後葉山悠介が、チョコレートを渡しに来た輝美が『何かついてる』とチョコレートの箱を見て呟いていたことを証言する。どうやら箱についている薔薇の飾りに血液が付着していたことを指しており、それは輝美自身が指をひっかけて傷つけた時のものではないかとアリスは考える。他の住人たちも輝美が指を怪我していることは知っていた。
犯人は
火村の理路整然とした推理により、はじめは抵抗を示していた関係者たちも次第に口を噤んでいき、最後は犯人も犯行を認めました。
時間のトリック、雪の上の足跡のトリック、どちらも解明されれば「なるほど!」となりますが、真相を知るまではなかなかその発想は出てきませんでした。
アリスがスウェーデン館の人たちとお茶を飲んだ翌日に事件が起き、その日のうちに火村がやって来て輝美が奇禍に遭い、その翌日には事件解明、とスピード解決でした。
ペンションの息子の証言から、「ルネ君は淑美がもしかして…」とも思ったのですがこちらは事故のようで良かったです。とも言い切れない話でした。ルネ君が足を滑らせて沼に落ちた時、淑美はすぐそばにいて音も聞いていたはずなのに知らんふりをしたということは、つまりは見殺しにしたということですし。三年半が経ち立ち直りかけていた家族にとっては、とても残酷な事実だったと思います。
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淑美が事切れた時、正直に警察に連絡しておけば輝美の事件は起こらなかったかと思うと、雪の上の足跡トリックを弄すことを考え付いた人間の自己中心的な思考に憤りを覚えます。
犯行を隠そうとすることは誰かを守ることにはならない、と知らしめた事件でした。
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