有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『スイス時計の謎』あらすじとほんのりネタバレ感想

「スイス時計の謎」は、ダイイングメッセージ、首なし死体、密室殺人ときて、最後にストレートな犯人当てと飽きる間もなく一気に読み進めてしまう一冊でした。

特に表題作である「スイス時計の謎」はかなり省略したあらすじのまとめになっていますので、ぜひ自身の目と頭でロジックを楽しんでいただきたいおすすめの短編です。

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「スイス時計の謎」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズの13冊目で、国名シリーズ7冊目となる短編集。「あるYの悲劇」「女彫刻家の首」「シャイロックの密室」「スイス時計の謎」の4編で構成されている。

  • スイス時計の謎(2003年5月/講談社ノベルス)
  • スイス時計の謎(2006年5月/講談社文庫)

あるYの悲劇

4人組インディーズバンドのギタリストが、自宅で自らのギターを凶器に殴殺された。バンド仲間で幼馴染の女性が発見した時にはまだ息があり、必死に何かを伝えようとしており、最期に自らの血で壁に「Y」と読めるメッセージを残した。メッセージを残す前に被害者はある名前を告げたと発見者は証言した。その名前「やまもと」は、被害者自身の苗字だった。

 

ダイイングメッセージものです。火村のセリフで壁に書かれた「Y」の意味はすぐにピンときますが、それがなぜ犯人や「やまもと」と結びつくのかは、謎解きをされるまで分かりませんでした。よほどのマニアでなければ、分かる人はいないのでは?と思います。

 

「Yの悲劇」競作・法月綸太郎さんの「イコールYの悲劇」の感想はこちら

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女彫刻家の首

ある女性彫刻家が殺害された。頭部が切り落され持ち去られた箇所に、彼女自身が製作中だった彫刻が置かれているという陰惨な現場だった。被害者の夫は、ご近所トラブルを起こした口うるさい隣人が犯人だと言い、隣人は夫婦間に問題があったと言う。警察と火村達が調べていくうち、夫には愛人がいたことが分かる。

 

話の中で犯人は示唆されているので、本題はどういう理由があって殺害したあと頭部を持ち去らなければならなかったのか、という謎でした。まもなく警察の手が犯人に及ぶという段になって犯人に思わぬ悲劇が襲い掛かり、読みながら「因果応報」という言葉が思い浮かんだのですが、無神論者の火村准教授は天や神の見えない力は許せないようです。人を裁くのは人でなければダメだということでしょうか。

シャイロックの密室

悪徳高利貸しで守銭奴の佐井六助が、自宅の書斎で拳銃による自殺をはかった。窓は格子によって人の出入りは不可能、ドアは紙一枚通さないほどきっちりと施錠されている密室状態での出来事だった。犯人は自殺に絶対の自信を持っていたが、警察は他殺として捜査を始める。なぜならば佐井は左利きだからだ。拳銃を右手に持って死んでいるのは不自然だった。

 

さいろくすけ=シャイロックです。弟夫婦を破滅に追い込んだ佐井を殺したいほど恨む犯人視点での話となっています。針や糸を使った密室トリックが使えない状況のなか、一体どうやって密室を作り上げたのか、という謎に火村たちが迫っていきます。

種明かしをされればヒントが露骨にばらまかれているのが分かるのですが、全然解けません。トリックの肝になる「ある物」をまず思いつきませんでした。火村の観察眼と発想がすごいです。

スイス時計の謎

アリスの高校時代の同級生が殺された。彼は高校時代の仲間6人でリユニオンという同窓会を2年に1度開催しており、事件当日が集まりの日だった。6人はサファイアガラスで出来たお揃いのスイスの時計を持っていて、リユニオンの時にはいつも身に着けていたのだという。だが被害者の近辺からある筈のスイス時計は見つからず、殺害現場からは犯人が必死に取り除こうとしたらしいガラス片が残っており、それは壊れたサファイアガラス(スイス時計)だと判明した。おそらく犯人が被害者と揉みあううちに自分の時計を壊してしまい、リユニオンに間に合わせるために被害者の時計を持ち去ったものと思われる。つまり犯人はリユニオンの5人のうちの誰かだと火村は言う。

 

現場の状況と犯人の取った行動から、火村が論理的に一人ひとり容疑者を消していく過程が見どころでした。AだからBという行動をとる、CだからBという行動をとる、残ったDが犯人だからスイス時計はこういった状況に違いないという流れで、証拠から犯人を見つけるというより、犯人を見つけてから証拠を確定させるという一風変わった手法をとっていたので、すごくパズル的に感じました。この思考の過程には穴がありそうなのですが、それがどこか分からないくらい綺麗に収まっていて、読み終わったあと狐につままれた気分に陥りました。

 

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表題作の「スイス時計の謎」は、論理的に事件を解決するというのはこういうことか思わせられるような鮮やかな話でした。この中で、同級生たちによってアリスの高校時代の恋愛に関する苦い思い出の後日談が分かるのですが、マンネリ地獄に陥っていたアリスが救われたようで良かったです。