有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『海のある奈良に死す』あらすじとほんのりネタバレ感想

地理は得意ではないので「海のある奈良」のことを知らなかったのですが、福井県を指すそうです。現代ほど流通も発達しておらず、冷蔵や冷凍の技術も乏しかった昔、都である京都や奈良に日持ちするよう加工した魚などを運ぶ拠点となったのが福井だったそうです。

今作は、今と昔を繋げるような旅の情緒たっぷりの一冊でした。

あらすじと感想をまとめた中に多少のネタバレも含まれていますので、気になる方は自衛をお願いします。

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「海のある奈良に死す」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズの4冊目で、1冊まるまる同じ事件を扱う長編ものとなっています。

  • 海のある奈良に死す(1995年3月/双葉社)
  • 海のある奈良に死す(1998年5月/角川文庫)
  • 海のある奈良に死す( 2000年5月/双葉文庫)

 

半年がかりで書き上げた長編がようやく日の目を見る時が近づいてきた。ミステリー作家のアリスが東京の出版社で近々書店に並ぶという自作の見本を受け取ろうとしている時、作家仲間の赤星楽が顔をのぞかせた。彼に一冊進呈すると「セイレーンの沈黙」という本のタイトルが気になっている様子だった。どうやら赤星も次作に人魚(=セイレーン)を題材にする予定らしく、これからその取材旅行に出かけるところだという。「海のある奈良へ行く」という言葉をアリスと編集の片桐に残し、赤星は旅立っていった。

登場人物

【出版関係者】

  • 片桐:珀友社のアリスの担当編集者。
  • 塩谷:珀友社の赤星楽の担当編集者。
  • 赤星楽:アリスの作家仲間。次回作「人魚の牙」の取材に出かける。
  • 朝井小夜子:ミステリー作家でアリスの先輩にあたる。京都在住。

【シレーヌ関係者】

  • シレーヌ:映画やビデオの製作を行っている会社で、今までに赤星や朝井の小説の映像化を手掛けている。アリスに作品の映像化を打診している。
  • 穴吹美奈子:シレーヌの社長。45歳だが20歳前後に見える美貌の持ち主。
  • 霧野千秋:シレーヌのプロデューサーの男性。
  • 大茂拓司:シレーヌの脚本家。
  • 近松ユズル:赤星のいとこ。赤星の口利きでシレーヌでアルバイトを始める。

第一の事件勃発

福井県の若狭湾、「海の見える奈良」の小浜で紐で絞殺された男性が発見された。推理小説家の赤星楽だという。警察が被害者が事件に遭うまでの足取りなどを追うが、珀友社が関係者だけに配ったというテレホンカードが公衆電話で見つかった以外、全くと言っていいほど手掛かりが掴めない状態だった。

一方アリスは東京で、作品を映像化したいと連絡をとってきた映像制作会社「シレーヌ」の社長・穴吹と面会していた。途中、全国各地をロケハンで回るという多忙なスケジュールのため遅刻してきたプロデューサー・霧野も加わり、話は良い方向へと進みそうな手ごたえがあった。翌日に新刊の発売を控えたアリスは、ふと自分の著書に重大なミスがあったのではと思いにかられ、それを確かめるために編集の片桐に電話をすると、慌てた様子の片桐に先日顔を合わせたばかりの赤星が亡くなったことを知らされる。

事件当日、関係者のうちで小浜へ行けた人間はいなかった。

警察の許可を得て赤星の部屋を訪ねたアリスは、福井に関するガイドブックや人魚に関する本などを目にするが、赤星が作っていたらしい次作用の創作ノートがないことを指摘する。また、先輩作家の朝井が赤星に宛てた手紙も何通か見つかっているのを知り意外に思った。

京都へ向かったアリスは火村と落ちあい、かねてより火村と会いたがっていた朝井と3人で飲むことになった。話題は自然と赤星へと向かい、そこで一時期朝井と赤星が付き合っていたことが分かる。2人を引き合わせたのは塩谷、2人が別れた原因は、赤星の気持ちがシレーヌの穴吹に移ったことだという。

翌日、火村のオンボロベンツを駆って福井へと向かったアリスと火村は、赤星が行きそうな場所を回ってみたが取り立てて収穫はなかった。火村がホテルのチェックインの手続きをしている間、片桐に電話をしたアリスに再び驚きのニュースをもたらされる。

第二の事件勃発

赤星のいとこの近松ユズルが、自宅で致死量の青酸カリが入ったウィスキーを飲んで亡くなった。一報を聞いた火村とアリスは、編集の片桐や塩谷、シレーヌのある東京へと駆けつける。

  • ウィスキーは出版社からお歳暮として赤星に送られたものであるが、出版社は送っていない。
  • 節酒を決めていた赤星は、贈られてきたウィスキーをいとこの近松にあげた。
  • 近松はウィスキーがそれほど好きではなかったため、ずっと飲まずに自宅に置いていた。
  • 近松は近所のレンタルビデオ店から、スプラッタホラー映画を借りてみていたらしく、巻き戻されたビデオテープがデッキに入っていた。
  • どうやら近松は、社長の穴吹と関係があったらしい。

警察は他殺も視野に入れており、赤星から近松へとウィスキーの移動があったことを知っている、シレーヌの穴吹と霧野も容疑者のうちとなる。

なかなか犯人に繋がる手掛かりを見つけられなかった火村とアリスだが、赤星がお土産にほのめかしていた「お守り」が福井では見つからなかった件に関連し、関係者から話を聞くうちに、赤星は福井ではなく和歌山へ向かったのではないかと推測する。

アリス達の推測を元に、編集の片桐が和歌山へと有給休暇をとって調査に行くことになった。目的の駅へと降り立った時、片桐は赤星の「人魚の牙」に関するあるものを見つけて驚愕した。

一方東京では火村が、近松にウィスキーを飲ませたトリックを解明し、警察関係者の前で自説を披露していた。

犯人は

火村に糾弾されることもなく、また警察に捕まることもなく、自ら追い詰められて小浜の海に身を投げた。遺書は残されていたが、自分が犯人であることを告白し、犯行の手順を詳しく記してはいたものの、動機については書いていなかった。

 

あちこち引っ張りまわされた挙句のあっけない幕引き、という印象でした。「海のある奈良=福井」「人魚=八百比丘尼の出身地=小浜」と福井へと意識を向けさせつつ実は福井以外だったという赤星本人の仕掛けによって、真相にたどり着くまでが長かったです。福井に赤星の痕跡が残っていないとおり、彼は別の場所で殺害され犯人によって小浜まで運ばれましたというのが第一のトリックで、こちらは犯人も手間暇かけていますが、第二のトリックについては粗が目立つ気がしました。あれで確実に好きでもないウィスキーを飲むとは限らない気もします。

計画的な犯行の割には不確実なトリックを実行したり、2人の人間を手にかけるほど躊躇がないくせに勝手に追い詰められたりと雑な犯人です。

「海のある奈良に死す」は初版が1995年ということもあり、携帯やスマートフォンは出てこない代わりに公衆電話で使うテレホンカードが登場したり、レンタルビデオ屋ではVHSテープが一般的であったりと、時代の流れを感じながら読み返しました。今は著作権なども厳しくなりコピーガードが掛かっていますが、この当時はレンタルしたビデオやCDは一般家庭でも普通にダビングできました。懐かしいです。

 

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取材旅行先で奇禍に遭ったので、今回は被害者の赤星の辿ったであろう足跡をたどるように火村とアリスがあちこちへ出かけます。内田康夫さんの旅情ミステリー(浅見光彦シリーズ)を彷彿させるような雰囲気に満ちた話でした。犯人の仕舞い方(片の付け方)もどことなく浅見シリーズっぽいです。

 

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