有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『絶叫城殺人事件』あらすじとほんのりネタバレ感想

「絶叫城殺人事件」は収録されている作品タイトルに全て「殺人事件」がついている珍しい短編集です。有栖川さんの本は思わず手にとってしまう魅力的なタイトルが多いので、古式ゆかしい感じがしますが、短編自体はどれも短めで読みやすいので、ジャンルを気にしなければ寝る前の読書にも最適です。

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「絶叫城殺人事件」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズの11冊目の短編集で、「黒鳥亭殺人事件」「壺中庵殺人事件」「月宮殿殺人事件」「雪華楼殺人事件」「紅雨荘殺人事件」「絶叫城殺人事件」の6作品で構成されている。

  • 絶叫城殺人事件(2001年10月/新潮社)
  • 絶叫城殺人事件(2004年1月/新潮文庫)

黒鳥亭殺人事件 こくちょうていさつじんじけん

アリスと火村の共通の知人から相談があると呼び出され、2人は彼の住む外観が真っ黒な館「黒鳥亭」へと出向いた。その建物は彼が住み始める以前に殺人事件が起こっていたという曰く付きで、夫婦喧嘩の末に妻を殺害した夫が、遺書を残して崖から投身自殺をしたというものだった。2年前の事件だったが、なぜか数日前、黒鳥亭の井戸から死後一週間ほどと思われる夫の他殺体が出てきたのだ。投身自殺は偽装だったことが分かったのだが、問題はなぜ今頃になって夫は黒鳥亭に戻ってきたのか、一体誰によって殺されたのかだという。

 

友人の5歳になる娘にイソップ童話の読み聞かせをしたり、20の扉ゲームをしたりと、アリスは子どもの相手をしつつ友人が火村に語る事件の概要を聞いています。かなり器用です。直接警察などは出て来ず、「火村の推理(想像)」という形で事件の全貌が明かされるのですが、イソップ童話の「賢いカラス」と絡めてくるところが、短編という短いページ数の中でアイテムを無駄なく使っているという印象です。

壺中庵殺人事件 こちゅうあんさつじんじけん

とある資産家が、地下室に作った壺のようなお気に入りの書斎「壺中庵」で、頭に壺を被せられた状態で吊るされていた。地下室の唯一の出入り口である跳ね上げ扉は内側から閂が掛かっていたらしく、発見者たちによって扉を壊して開けた跡があった。つまり犯行現場は密室だった。容疑者は二人、被害者と仲が悪いが隣家で親のすねをかじっている息子と碁敵の友人。犯人はどうやって密室を作ったのか、また何故頭に壺を被せたのか。

 

犯人は2人のうちのどちらかなので割と分かりやすいです。密室トリックは、発見時に密室に見えるように細工を施したというまさに正統派のトリックでした。一番の謎は「壺」です。なぜ犯人は被害者に壺を被せたのか。人を人とも思っていない所業なので、謎を解いた火村が不快な表情を浮かべるのにも納得です。

月宮殿殺人事件 げっきゅうでんさつじんじけん

一年前、アリスが偶然通りがかって見つけたとあるホームレスのごみの城。川原に建つその三階建ての違法建築は、周辺から「月宮殿」と呼ばれていた。火村の車でその川原を再び訪れたアリスは、月宮殿が火事で燃え落ちたのを知る。建物のことを教えてくれた顔見知りのホームレスを見つけ話を聞くと、近所の高校生達が放火するところを目撃したのだという。住人の男性は助からなかった。ただ放火犯とホームレスの証言が食い違っていた。放火犯は家に誰もいないことを確認してから火を付けたと主張し、また燃え盛る家に入っていく被害者を見たという目撃者も現れた。

 

こちらの方が先に書かれていますが、「菩提樹荘の殺人」に収録されている「アポロンのナイフ」に似ています。目撃者が必ずしも善意の第三者ではないということですね。「月宮殿」という名前自体がトリックになっていました。

雪華楼殺人事件 せっかろうさつじんじけん

建築がとん挫したまま放置されている建物、通称「雪華楼」で人が死んだ。当時現場にいたのは、無断で雪華楼に住み着いていた三人。家出をしてきた若いカップルと、ホームレスの中年男。被害者はカップルの男だった。ホームレスによるとカップルはよく喧嘩をしていたらしい。事件の晩は、悲鳴が聞こえて男が女性の元へ行くとすでに被害者が建物の外に倒れていたという。警察の捜査の結果、男が屋上から自殺を図ったことは間違いないのだが、遺体には殴殺されたあとも残っているという不可解な状況だった。詳しい事情を聞こうにも、よほどショックなことが起こったのか女性は事件当夜の記憶を失っていた。

 

人為的なトリックも何もなく、こんな偶然があるのかという事件でした。小説の中だけかと思いましたが、作者のあとがきによると実際にこのような事件が起きたこともあるようです。被害者は運が悪いというか、逆にすごく当たりがいいと言えばいいのか、複雑な事件です。

紅雨荘殺人事件 べにさめそうさつじんじけん

映画で使われたことで有名になった「紅雨荘」の持ち主、資産家の飯島粧子がもう一つの「紅雨荘」で絞殺されたあと首を吊られている状態で発見された。本来の紅雨荘には粧子のみが住み、映画版の紅雨荘には彼女の3人の子ども達が住んでいた。また幼いころからそりの合わなかった粧子のいとこの人形師も近所に住み、たびたび映画版紅雨荘を出入りしていた。この4人の容疑者のうち人形師だけが、完璧なアリバイが手に入れられるはずの目撃者の証言を否定していた。

 

首を吊るのに使ったテーブルから関係者以外の指紋が見つかっており、火村はある人物のものと照合してほしいと警察に依頼します。その時点で火村にだけは事件の全体像が見えているようですが、そこから明らかになる偽装の動機がまたなんとも言えない気分になります。保身の塊です。アリスが自分の住むマンションで管理人とちょっとしたやりとりをするシーンが出てくるのですが、普通の日常の一コマかと思っていたら最後は見事に繋がりました。犯人の動機には全く共感できませんでした。

絶叫城殺人事件 ぜっきょうじょうさつじんじけん

大阪で「絶叫城」というホラー系のアドベンチャーゲームを模したと思われる連続通り魔殺人事件が起きた。被害者はいずれも女性ばかり4人。犯人が故意に残したと思われる紙片から、犯人はゲームに登場する怪物「ナイト・プローラー」と呼ばれている。3人目までは同じような殺害状況だったが、4人目の被害者だけは絶命するのを見届けずに逃げたらしく、被害者本によって110番通報されていた。迅速な対応をしたにも関わらず、警察はナイト・プローラーの影さえ見つけ出すことができずにいた。また4人目の体には凶器のナイフがそのまま残されており「ゲームオーバー」と書かれた紙片が口の中から出てきた。ゲームの登場人物と同じ4人で、ナイト・プローラーは犯行をやめることにしたのか。

 

最初の3人と最後の被害者では状況が違うというところから、火村は犯人像を探っていきます。架空とはいえホラーゲームをモチーフにしているだけあり、おどろおどろしい雰囲気の事件でした。事件の真相もぞっとするようなものであり、被害者の絶望も頷けるものがあります。犯人が火村に言った犯行動機、ヴァーチャルとリアルの世界の境目が分からなくなるというものがどういう感じなのか知りたかったというのに虚しさを感じます。

 

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表題作「絶叫城殺人事件」はエンターテイメントとしての謎解きの驚きや面白さもさることながら、社会派でもあるミステリーだと思います。テレビなど大衆の目に触れるところでインパクトのある自説を口にするのは構わないのですが、だれも責任を取らない世の中が続くと、いつか本当にこういう加害者が出てもおかしくないと考えさせられます。

 

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