有栖川有栖『壁抜け男の謎』のあらすじとネタバレ感想

有栖川有栖さんの「壁抜け男の謎」のあらすじと感想をまとめました。ミステリーだったりそうでなかったりとバラエティー豊かというか、「ジュリエットの悲鳴」よりも更にごった煮感の強まった短編集でした。

「壁抜け男の謎」書籍概要

短編集。「ガラスの檻の殺人」「壁抜け男の謎」「下り『あさかぜ』」「キンダイチ先生の推理」「彼方に?」「ミタテサツジン」「天国と地獄」「ざっくらばん」「屈辱のかたち」「猛虎館の惨劇」「Cの妄想」「迷宮書房」「怪物画趣味」「ジージーとの日々」「震度四の秘密」「恋人」の16作品を収録。

  • 壁抜け男の謎(2008年5月/角川書店)
  • 壁抜け男の謎(2011年4月/角川文庫)
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ガラスの檻の殺人

大学時代の同級生を付け回すストーカーの正体を知って撃退するため、私立探偵の俺は仕事帰りの彼女の後を追ってストーカーを見つけた。だが不意をつかれてストーカーに殴られ昏倒してしまう。2分ほどで目を覚ました時、ストーカーは何者かに刺され死亡していた。ストーカーを中心に十字になった道の上端には交番、右端にはラーメン屋台、下には殴られた俺と介抱する同級生、左端には煙草屋の親父とそれぞれ道を塞ぐ形で人の目があり、全員が誰も通っていないと証言した。まるで見えないガラスでふさがれた檻の中での犯行だった。檻の中にいたのは俺たち2人を含め、宴会帰りの文句が多い男と、アルバイト帰りの若い男性の4人だけ。凶器のナイフはどこからも見つかっていない。一体犯人はどこに消えてしまったのか。

 

犯人当てと凶器の隠し場所を見つけるミステリー。意外なところに凶器が隠されていました。警察も見つけられないはずです。凶器の隠し場所は犯人しか細工できない場所でした。

壁抜け男の謎

絵画コレクターの屋敷でアンリ・プレサックの名画「壁抜け男」が盗まれた。当時屋敷にいたのは当主の松原、その甥、画商、女性画家、美術館館長のほか住み込みの家政婦や料理人だった。犯人はギャラリーにいる松原を眠らせて絵を盗んだ後、警報ベルが鳴って人々が駆けつける5分ほどの間に、当主が趣味で作った庭の迷路に逃げ込んだらしい。高さ2mほどの迷路はどんなに慣れていても抜けるのに10分はかかるものだった。だが出入口を塞がれ迷路に閉じ込められているはずの犯人の姿はどこにもなく、盗まれた絵画だけが迷路の入口と出口の真ん中あたりに残されていた。犯人はどこに消えてしまったのか。

 

まるで壁を抜けるように消えてしまった犯人の謎です。見つかった絵画は本物でした。消失トリックよりも絵画を盗んだ動機の方が面白かったです。アンリ・プレサックというのは架空の人物とのことです。

下り『あさかぜ』

午前4時半頃、岡山駅のトイレで保津川警部が殺されダイイングメッセージが残されていた。そこから割り出した犯人は亀岡刑事。だが彼は保津川とは別に「あさかぜ1号」にのって博多に向かっていたと主張。亀岡が持っていた時刻表を確認すると、あさかぜ1号が岡山駅に着くのは午前4時36分、4時半前には死んでいた保津川の死亡時刻にわずかに間に合わなかった。亀岡があさかぜ1号に乗っていたことは東京、大阪、博多とそれぞれで信頼できる目撃者がいた。一体亀岡はどんなトリックを使って保津川を殺したのか。

 

保津川、亀岡、時刻表で西村京太郎さんの「十津川警部」シリーズが元ネタかと思いましたが、鮎川哲也さんトリビュートとのことです。盲点を突く時刻表トリックでした。

キンダイチ先生の推理

売れない作家・錦田一(にしきだはじめ)のところへ懇意にしている中学生・金田耕一が殺人事件の被害者の最後の目撃者になったと話しにやってきた。被害者はミュージシャンの佐久良恭平。夜の10時頃、ラフな格好で歩いていた佐久良は突然凄い勢いで電話ボックスに入っていった。そこで3回どこかに電話をかけ、ほぼ一方的に喋っていた様子だった。電話ボックスから出た彼の横顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。その後まっすぐにマンションへと戻った直後に殴られて殺されたらしい。容疑者はこき使われて恨んでいるマネージャー、佐久良とのコンビ解消が噂されている相方。その後の調べで、佐久良が公衆電話からかけていた電話は3件とも自宅だと分かった。

 

耕一の話を聞いてキンダイチ先生が推理をする安楽椅子探偵ものです。携帯電話がない時代の話です。犯人当てと、なぜ佐久良が自宅に3回も電話をかけていたのかという謎。

彼方に?

「凶鳥の黒影 中井英夫へ捧げるオマージュ」に寄稿したもので中井英夫さんに関する予備知識がないと作品の意図が見えにくいとあとがきにありました。あいにく未読のため、あとがき通り、とりとめのない小説、という印象です。

ミタテサツジン

元芸人のマネージャ―・大竹と、プライドだけは高い落ちぶれた俳優・一条真之介が当てもなく全国を回っている最中に滞在した平和な離島で、横溝正史の「獄門島」を真似た死体が続けざまに発見された。花香、月菜、雪海の美人三姉妹が、それぞれ自分の物ではない振り袖姿で木から吊るされる、釣り鐘の下で見つかる、萩の花を散らされた状態で発見されていた。真之介に疑いがかかるが、家に行ったのは三姉妹に招かれてプリンを食べただけだと言うし、姉妹の死亡推定時刻には部屋で寝ていたのを大竹が証言した。

 

誰が三姉妹を殺したのか、なぜ獄門島に見立てたのかという謎ですが、期待を高めるような舞台設定のわりに謎解きが唐突であっさりしていたので、薄味な読後感でした。

天国と地獄

「テーブルの上のご馳走に90センチ以上ある長い箸。地獄の亡者たちは食べることができず飢え苦しむが、天国の住人は互いに長い箸を使って食べさせ合うので満腹で和気あいあいとしている」完璧なアリバイを持つ容疑者がいる殺人事件が立て続けに起こった。込み合った喫茶店で一人の容疑者と向き合って座っていた刑事の一人は、隣の席の女性たちの会話を耳にした瞬間目を光らせ、容疑者は息をのんだ。

 

原稿用紙5枚のショートショートとのこと。テーマも刑事と容疑者の立場も天国と地獄です。短くスパッと決まって面白かったです。

ざっくらばん

ある電子研究所で機密情報の漏洩があり山形のもとに差出人不明の手紙が届いた。漏洩の件についてざっくらばんに話し合いたいという内容だったが、おそらく全員に同じものが送られ、指定場所にのこのこと現れた人物がスパイなのだろう。数日後、所長が殺された。彼が殺される前、同僚の敷島と二人で所長が最近の若者たちの言葉の乱れについて嘆いているのを聞いていた山形には、スパイをあぶり出そうとした所長が手紙の送り主であり、それをきっかけにスパイに殺されてしまったことが分かった。

 

ざっくばらんをざっくらばんだと思い違いしている人物の話でした。タイトルが最大のヒントになっていました。

屈辱のかたち

辛口評論家だが最近は丸くなったと言われる芥子野は、帰宅したところを殴られ、気が付くと両手両足を拘束され口もテープで塞がれていた。目の前にいたのは凪典彦という作家で、芥子野が凪を侮辱したと犯行の動機を語り始める。六年前に凪が書いた本は酷評したが、彼がこの二年で出した2冊の本の出来は素晴らしく、芥子野は高く評価していた。恨まれる理由がない。だが凪は自分が受けた屈辱を滔々と語っていく。

 

こういう屈辱もあるのだと納得はできます。説得力があって凄いです。ただ評論家の芥子野のやったことで非があるのは、強いて言えば6年前に酷評したことくらいですよね。他は悪くないです。完全に凪の逆恨みですし、後味もよくないラストでした。

猛虎館の惨劇

タイガースファンを突き抜けて行き過ぎた虎コレクターになった男の黄色と黒の縞模様の屋敷の庭から、首のない男の遺体が発見された。彼は虎に入れ込むあまり巨人ファンとの間でご近所トラブルを起こしていたが、巨人ファンのアリバイは成立した。男の屋敷はタイガースと虎に関する物、虎を彷彿させるグッズなどで埋め尽くされる虎尽くしの館だった。事件が起こった夜は雨が降っていたが、庭にある遺体の側からは傘が見つかっていない。捜査に当たっていたある刑事が、この虎尽くしの屋敷の中においてあるものがないことに気が付いた。

 

阪神ファンのための短編といっても過言でないくらいとにかく虎尽くし。そして犯行にも虎が関わってきます。虎に関連する物って探せば結構たくさんあるのですね。事件はたしかに惨劇と呼べるものでした。

Cの妄想

Aメンタルクリニックに、Cという男が患者としてやってきた。Cは不安で眠れないといい、自分がいつから存在するのか、自分は過去の記憶とともについさっき作られたものではないのか、不特定多数の人間に見られている、読まれている気がするといい、同調しない医師に失望してクリニックを出て行ってしまった。

 

ミステリーというよりメタ小説です。Cは自分が作られた登場人物であるという不確かな存在に苦悩しています。不特定多数というのは私たち読者のことだと思われます。新聞に掲載された短編との注意書きがあるとおり、なるほどと思う描写も見つけられて面白いです。本と新聞では違いますしね。

迷宮書房

山奥で見つけた本屋にはどんな物語でも揃うらしい。奥に向かって廊下を歩いていくと、希望の物語をリクエストするコーナーがあった。指示通りにして扉を開けると、眩暈がするほどの広大な空間に本が並んでいた。すると突然黒ずくめの男が現れ、銃を撃ってきた。一人ではない。追手は増えてくる。逃げ惑う中、自分たちが物語の登場人物になったことにようやく気が付いた。手に汗握る冒険活劇……さきほどリクエストした内容だった。

 

「注文の多い料理店」の本屋バージョンといった風です。この本屋から出られる方法を知っていれば、一度くらい試してみたいところです。余談ですが、ドラえもんの長編映画に、絵本に入って冒険する話(ドラビアンナイト)があったことを思い出しました。ドラえもんの中で一番好きな映画です。

怪物画趣味

若い女性が襲われ、猟奇的な遺体が発見されるという事件が続けざまに起きていた。刑事である俺は、怪物画を好んで集めている古河という男に注目していた。だが古河との面会は不発に終わった。捜査本部に戻った俺は署長室に呼ばれ、そこにいた得体の知れない男に古河とのやりとりを再現させられた。男は公安部外事三課の人間だった。

 

確たる手がかりも残さず猟奇殺人を行い続ける犯人やそのトリックを見つけるものかと思い込んでいたら、全く違うテイストの話でした。一応犯人も分かりましたが……ミステリーだと信じで読み始めたら肩透かしを食う短編です。

ジージーとの日々

近未来設定の子育てロボットとその子どもとの交流の日々を書いた短編で、特に謎解きなどはありません。平坦な短編だなと思っていたら、最後の最後でちょっとした驚きがありました。ジージーというのは、とある家庭の子育てロボットの愛称です。

震度四の秘密

婚約者に大阪に出張だと偽って名古屋で過去の女性関係を清算した男はその夜、彼女に電話を掛けている最中に関西で地震が起きたことをテレビの速報で知り、とっさに揺れを装った。これで完璧と自信を持つ一方、女性の方は……。

 

ショートショートで結婚を控えた男女の話。女性の方が一枚上手でした。

恋人

ミステリーではなく官能小説とのことです。精神面側に針が振っている官能小説でしょうか。なまめかしい描写はそれほどでもないですが、好き嫌いが別れそうな気がします。ほかの官能小説もすべてこうなのか分かりませんが、主人公の行動に共感しがたく、私は生理的に受け入れられませんでした。