有栖川有栖「火村英生(作家アリス)シリーズ」『火村英生に捧げる犯罪』あらすじとほんのりネタバレ感想

「火村英生に捧げる犯罪」のあらすじと感想をまとめました。いかにも挑戦的で、手に取って読みたくなるような素敵なタイトルです。

犯人を直接示すようなネタバレは避けているつもりですし、長めの短編はだいぶ端折った部分もあるので、ぜひ本書を読んでいただきたいです。

「火村英生に捧げる犯罪」書籍概要

火村英生(作家アリス)シリーズ18冊目となる短編集。「長い影」「鸚鵡返し」「あるいは四風荘殺人事件」「殺意と善意の顛末」「偽りのペア」「火村英生に捧げる犯罪」「殺風景な部屋」「雷雨の庭で」の8編から成る。

  • 火村英生に捧げる犯罪(2008年9月/文藝春秋)
  • 火村英生に捧げる犯罪(2011年6月/文春文庫)

長い影

廃工場から縊死と見られる他殺体が見つかった。死亡時刻は午後10時頃。被害者は両手両足を縛られ口もテープでふさがれた状態でドアノブから紐で首をくくられたらしい。証言者は3人いた。工場のすぐそばに住む夫婦で、夫が午後11時過ぎに工場から出て足早に去る人影を見たといい、妻は夫の言葉で窓の外へ視線をやり長い影が路上に伸びているのを1、2秒見た程度だという。3人目は帰宅途中の近所の男性だが、夫妻の言う影に該当する人間とは誰ともすれ違わなかったと言う。

10時頃に被害者を殺めたはずの犯人がなぜ11時過ぎまで現場にとどまっていたのか。被害者の過去を洗っていた警察は、16年前に迷宮入りしたまま公訴時効が成立した事件の容疑者として被害者の名前が挙がっていたことに気づく。だが、被害者の仲間だと思われる男には今回の犯行時アリバイがあった。

 

アリバイ崩しの短編です。大学時代意気投合していた仲間が、社会的成功者と落伍者に分かれる。それに過去の未解決事件やら時効やらが絡んでくると、だいたい話の筋は読めます。なので目撃者の証言とアリバイ崩しが問題です。

鸚鵡返し おうむがえし

怨恨と思われる殺人事件が起きた。現場には目撃者がいて犯人の名前を繰り返し口にするのだが、それはなんとオウムだった。「ハンニンハ、タカウラ」。捜査が開始されると高浦という人物が存在し、犯行動機もありアリバイはないことが分かった。調べを進めるうち、もう一人容疑者の名前が挙がった。犯行動機、アリバイともに高浦と同じレベルで決め手がない。一体どちらが被害者を手に掛けたのか。

 

ショートショートです。オウムを調教して嘘のダイイングメッセージをでっち上げようと画策した犯人が、そのオウムによって犯行がバレるという何とも間抜けな話です。

あるいは四風荘殺人事件

社会問題などを背景にした骨太の推理小説を書くことで知られる重鎮・里中の病死後、彼の娘からアリスにとある依頼がきた。自分の手に負えないと判断したアリスと編集の片桐は、火村の研究室を訪れ事件の概要を話す。それは円形の庭の四方に母屋と離れを3つ配置した「四風荘」と呼ばれる資産家の家でクリスマスに起きた2つの殺人事件の謎だった。

 

実際の事件ではなく、里中の残した原稿の下書きが途中で終わっていて肝心のトリックが分からないままとなっているので、彼の考えていただろうトリックを教えてほしいという依頼でした。小説を読んで未完成の部分を補強するという問題です。そのままを火村に依頼しても断られるかもしれないので、実際に起きた事件として話すことに決めたようです。その画策はあっさりバレるのですが、その辺りのやりとりをする火村、アリス、片桐がそれぞれいい味を出していて個人的一番の見どころでした。

小説のトリック自体も二重三重に小さく仕込まれていて、単純な消去法では犯人は特定出来ませんでした。

殺意と善意の顛末

同じマンション内の203号室から901号室に引っ越しをした男が殺害された。203号室には招かれたことがあるが、901号室には一度も入ったことがないという犯人の指紋が901号室から見つかった。手袋をしていたので絶対に901号室に指紋が付くはずがないと主張する犯人だが、火村は被害者のある善意によるものだと指摘する。

 

ショートショートです。被害者が善意で行ったことが、結果的に犯人を追い詰めることになったという話。付くはずのない指紋の謎でした。

偽りのペア

京都の女子大生が、マンションに待ち伏せていた男に刺殺された。生前被害者は、旅先で知り合って付き合い始めた男に愛想を尽かし別れようとしていた。被害者の部屋には、南の島でお揃いのTシャツを着た彼女と男が映っている写真が飾ってあった。犯人は自分の素性が分かるものを処分していたので、警察は写真を手掛かりに男を探すが一向に見つからない。火村の助言で別の角度から男を探すとすんなりと見つかり、証拠や目撃者の証言から逮捕に至った。

 

こちらもショートショート。被害者の部屋に飾られていた写真は、犯人の細工でした。どうやって細工をほどこしたのか、なぜその写真のトリックに火村が気づくことができたのか。短いながらもすっきりとオチのついた話でした。

火村英生に捧げる犯罪

アリスの家に、アリスに盗作をされたという人間の代理人から電話がかかってきた。話し合いたいから東京まで出てきてほしいという。全くの事実無根であるためアリスは拒否する。一方、大学の試験監督で身動きが取れない火村准教授宛の挑戦状が大阪府警に届く。子どもに危害を与えるかのような予告をする内容で、用心してほしいと言われるが挑戦状の目的が分からないし、そもそも大学の仕事で自由がない。その頃、京都では首を切られた女性の遺体が発見され警察が捜査に乗り出していた。また大阪の小学校の校庭に、教室から持ち出された机が「5」という形に並べられるという事件が起きていた。2通目、3通目と大阪府警に届く火村宛の挑戦状、アリス宛にかかってくる身に覚えのない電話。挑戦状にある火村に捧げる犯罪とは一体何なのか。アリスが不愉快な電話の話を火村にすると、しばらくして火村から自分の代理で京都で起きた事件の捜査本部を訪ねろと言われる。

 

小さな事件が大阪と京都で立て続けに起こり、そのうちの一つが捜査本部がたつ殺人事件でした。事件の真相が分かると、何ともバカらしい気分にさせられます。小学校の捜査をする大阪府警の顔なじみの人たちのアリスに対する評価が垣間見えるシーンがあるのですが、こき下ろしながらも憎めないキャラという感じなんでしょうか。的外れな推理を披露するのでさんざんな言われようですが、大抵謎解く鍵はアリスから出てくるので縁の下の力持ちですね。

殺風景な部屋

打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた何もない地下室で、男の刺殺体が見つかった。亡くなる前に助けを呼ぼうとしたのか手に携帯電話を握り、仰向けに胸に凶器が刺さった状態だった。被害者は強請で金を稼いでいたらしく、容疑者は4人。大雨で列車が停まって足止めをくう火村に、現場の状況と容疑者のプロフィールを電話で伝えると、犯人の目星がついたという。なぜ火村は現場を見ることもなく、何もない部屋で見つかった遺体の犯人が判ったのか。

 

ショートショートです。「鸚鵡返し」「善意と悪意の顛末」「偽りのペア」とこの作品は、携帯の有料サイト用に書かれた物とのことです。どうりで短すぎると思いました。火村曰く、携帯電話は被害者なりのダイイングメッセージで、殺風景な部屋だが何もなくはないそうです。その後の警察の捜査で火村の読みが正しかったことが証明されます。すごい安楽椅子探偵です。

雷雨の庭で

神戸のタクシー会社の2代目経営者が、朝帰りをした妻によって自宅の庭にある天使像の足元で死んでいるのが発見された。頭を強打したことによる即死だが凶器は見つかっていない。昨晩は雷が鳴るような激しい大雨だったため、庭の足跡などはすべて消されていた。また被害者は雨合羽を着用しポケットからは軍手が見つかったが、妻には屋外で作業するような心当たりはないという。

被害者は隣家とたびたびトラブルを起こしていた。妻の不貞が発覚して以来被害妄想で一方的に隣家にクレームを入れるという迷惑極まりないもので、クレームの内容が言いがかりや濡れ衣であることは被害者の妻も証言している。隣家は、東京にいる女性とコンビを組んでいる人気の放送作家だった。事件当夜、彼は相方の女性とパソコンを使って互いの顔を見ながらの打ち合わせをしていた。またお使いに出したアシスタントが帰ってからは、3人でずっと打ち合わせを行っており怪しい素振りはなかったとの証言があった。

 

容疑者が妻と放送作家しかいないので、どちらかが犯人ではあります。妻は大阪、放送作家は大雨が降りしきるなか打ち合わせを抜けて何事もなく隣家の庭を往復することは不可能という状況で、火村の推理が冴えます。現場検証をして様々な状況証拠などから推理して真相を突き止める。王道のミステリーでした。

 

□□

2007年の学校教育法改正によって、助教授は准教授と呼び名が変わりました。この本から火村の肩書が准教授に統一された記念すべき一冊でもあります。

「火村英生に捧げる犯罪」と華やかなタイトルで盛大に期待を持たせつつ(息をつかせぬやりとりがあるかと思いました)、犯人が思いのほか残念な感じだったのがもったいない一冊でした。

 

その他の感想はこちら

有栖川有栖の人気シリーズ「火村英生シリーズ(作家アリス)」を読みたくなった時のおすすめの順番