有栖川有栖「ソラシリーズ」第1弾『闇の喇叭』あらすじとほんのりネタバレ感想まとめ

2つのアリスシリーズで人気の有栖川有栖さんの3番目のシリーズです。女子高生が主人公で、「探偵行為が禁止された世界」というワクワクした設定の長編ものなので、期待度も高いです。

ミステリー部分に重点を置いたあらすじと感想をまとめていますので、ぜひ実際に読んでソラシリーズの世界観に浸っていただきたい一冊です。

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「闇の喇叭 やみのらっぱ 」書籍概要

奥多岐野に住む女子高生・空閑純(そらしずじゅん)を主人公としたシリーズ。北海道が日ノ本共和国として独立してしまったパラレルワールドを舞台にしている。

  • 闇の喇叭(2010年6月/理論社)
  • 闇の喇叭(2011年9月/講談社)
  • 闇の喇叭(2013年3月/講談社ノベルス)
  • 闇の喇叭(2014年7月/講談社文庫)
闇の喇叭/有栖川有栖

 

第二次大戦後、沖縄はアメリカの、北海道はソ連の統治下に入った。その後北海道は独立して日ノ本共和国と称し日本と敵対し、日本には徴兵制度が作られた。また方言やむやみに外国語を使うことが禁じられ、警察類似行為=私的探偵が法律によって禁止された。

探偵をしていたソラ(空閑純)の両親も探偵の看板を下ろさざるを得なくなり、表向きは翻訳家と助手という仕事を得たが水面下でひそかに探偵家業を続けており、そのせいで中央警察に目をつけられていた。

ソラが13歳の時、母が失踪した。単独で受けた依頼をこなしている最中、困ったことになったというメールを残してぷっつりと消息を絶ったのだ。連絡は母の実家である奥多岐野にするという言葉を頼りに、ソラと父は大阪から奥多岐野へ引っ越した。それから4年、いまだに母の詳細は全くつかめていない。

登場人物

  • 空閑純:女子高生。通称ソラ。父とともに奥多岐野で母からの連絡を待つ。
  • 空閑誠:ソラの父親で元探偵。家の中でだけ大阪弁を話す。
  • 空閑朱鷺子:ソラの母親。事件を追いかけて行方不明。生死もはっきりとしない。
  • 有吉景以子:ソラの親友
  • 有吉すゞ子:景以子の母
  • 小嶋由之:ソラの親友で景以子の幼馴染。ニックネームはガンジス。推理小説を読む。
  • 大山七海:ソラたちの同級生で遅刻常習犯。
  • 伊敷紀彦:奥多岐野で酒屋を経営。北(北海道)からのスパイを警戒して町を徘徊している変わり者。
  • 伊敷黎子:紀彦の妻。紀彦の奇行を冷めた目で見ている。
  • 白石庸助:東京から奥多岐野に越してきた新参者。農家。
  • 福永彰一:多岐野鉄道の運転士。東京から就職のためやってきた。古民家をリフォームして暮らしている。
  • 古井巡査:奥多岐野の駐在
  • 明神警視:重大犯罪や北海道が関与した可能性が濃厚な事件を県をまたいで捜査する中央警察の人間。

天使の足跡とスパイ

過疎の進む鄙びた町・奥多岐野から多岐野鉄道に40分揺られて高校に通うのは、ソラ、景以子、ガンジスの3人だけだった。全員が偶然合唱部に所属したせいか仲も良い。ソラたちの通う高校で、ある写真が話題になった。「天使の足跡」だ。遅刻常習犯の大山七海がたまたま早く登校したところ、校庭に変わった足跡を見つけたという。ある地点から突然始まった足跡がだんだんフェイドアウトしていき、10メートルほどで消えるように途切れている。まるで天使がふわっと浮いて飛んで行ったようなので「天使の足跡」なのだという。

部活のない放課後、三人が鉢伏山の山頂でお喋りをしていると、伊敷紀彦が姿を現した。普段からスパイを警戒して不審者がいないか見回りをしているという変わり者で、昨日多岐野鉄道沿線で見慣れない人物を見かけたという。鍔の大きい帽子を目深にかぶり、サングラスをした女性で町をふらふら歩き回っていたらしい。見ていると駅のらくがき帳に何かを書いていた。自分探しという文言を見てただの旅行客かと警戒を解いたが、雰囲気が普通でなく秘密めいていたそうだ。

奥多岐野には何もない。観光できる場所も軍事施設もないので、スパイも近寄らないだろうと3人は呆れるが伊敷は不審な女とやらに狙いを定めたようだった。

帰宅後に父親の誠に天使の足跡事件の話をして推理をしろと迫るソラに、足跡の写真やそれを撮影した大山七海の人物像などから謎をあっさりと解いてしまう。元探偵の脳は全くさび付いていないのだ。そしてソラもまた天使の足跡の謎を解いていた。

事件勃発

奥多岐野の山中に全裸の男性の遺体が発見された。山菜取りに来ていた老夫婦が見つけ警察に通報した。徴兵制度をとっている日本では、成人男性の指紋は必ず登録されている。身元はすぐに判明するだろうと楽観視されていたが、男の指紋は登録されていなかった。もしや日本人ではなく北海道の人間ではないかと噂が広まりざわつく中、中央警察から明神警視が奥多岐野に派遣されてきた。

数日後、ソラたちは合唱部の朝練のため始発の多岐野鉄道に乗っていた。運転士は福永で、彼を気に入っている景以子が喜んでいる中、ソラは同じ車両に白石の姿を見つけた。親戚の結婚式に出るため、これから東京へ行くのだという。

その日の夜9時過ぎ、奥多岐野の海慧鼻(かいけいばな)という断崖で伊敷紀彦の遺体が見つかった。転落死したものと思われる。崖の上には伊敷の車があり、スパイ捜索中の事故かと思われたが体内から不審な睡眠薬が検出されたため何者かによって投げ落とされた他殺と断定された。死亡推定時刻は朝の5時から8時頃だった。

容疑者は3人、妻の黎子、怪しい融資話で700万を被害者から受け取っていた白石、被害者から金を借りていた景以子の母・すゞ子。

また伊敷が殺害されたことで、彼が吹聴していた怪しい女の話がクローズアップされた。怪しい女=全裸で発見された男ではないかという明神の推測を裏付けるように、女が使った多岐野鉄道の切符の指紋と全裸男の指紋が一致した。そしてなぜか駅のらくがき帳が盗まれたことが判明する。

景以子の母にかかった容疑をはらすため、ソラが動き出す。周囲に注意を払いながら父の誠と一緒に現場を見て回り、伊敷事件で使われたであろうトリックを検証する。ソラの推理を誠はほぼ正しいと言った。

一方警察でも動きがあった。全裸男と思しき人物と一緒に暮らしていたという女性からの電話だった。女性から男の名前を聞いた警察は一気に色めきだつ。それはほぼ犯人を指摘したも同然の名前だった。

犯人は

警察の組織力でもってソラと誠の動きを監視していた明神は、誠が大阪時代に「調律師」という名の凄腕探偵で国家を翻弄したこと、今回の事件で探偵行為をしていたことを理由にソラの目の前で誠を逮捕した。

連行される前、誠とソラ、明神で今回の事件の答え合わせを行う。ソラの思い描いたトリックは警察ですら思いつかなかったものだったが、想定していた犯人は間違っていた。ソラのトリックを不自然なくやり遂げられる人物は他にもおり、もっとシンプルに考えればいいという助言で、ソラはようやく真犯人を見つけた。

犯人は見つけたものの父親は国家権力によって理不尽に逮捕され、母親は以前行方不明。ソラは誓った。「わたし、探偵になる」

 

犯人は2つの事件に関わっていました。全裸で発見された男がそもそもの元凶なので犯人には同情の余地がある気がしましたが、伊敷に対しては明確に殺意を持って計画的にやったとのことなので、同情は必要ないことが分かりました。

 

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前半は世界観と舞台設定、後半に2つの事件の謎解きという構成でしたが、探偵行為を禁止されているという制限上、ソラと誠が動くのはほんの少しでした。田舎の女子高生の他愛ない生活描写が多かったように思います。

誠に目を付けて過去を調べ、ソラを動かして探偵行為をさせて逮捕した明神にはやり方が汚いと腹が立ちますが、中央警察の人間としては非常に有能で頭が切れる人物でした。

母親の失踪の謎が全く明らかになっていませんので、続編ではそちらに焦点があたっていくのでしょう。楽しみです。