知念実希人「天久鷹央の推理カルテシリーズ」第4弾『スフィアの死天使』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「スフィアの死天使」のあらすじと感想をまとめました。

大学病院で外科から内科へと移った小鳥遊が、天医会病院の鷹央のもとに派遣された当時の話、2人での出会い編です。なぜ小鳥遊が外科医をやめたのか、その理由も明かされていました。

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「スフィアの死天使」書籍概要

外科医を辞め、内科医としての修業を積むべく、天医会総合病院の門を叩いた小鳥遊優は、そこで運命的な出会いを果たす。天久鷹央。空気を読めず、人とのコミュニケーションに難がある彼女は、しかし日本最高峰の頭脳を持つ天才女医だった―。宇宙人による洗脳を訴える患者。謎の宗教団体。そして、院内での殺人。鷹央と小鳥、二人の出会いを描いた長編メディカル・ミステリー。「BOOK」データベースより

  • スフィアの死天使 天久鷹央の事件カルテ(2015年8月/新潮文庫nex)

第1章 邂逅

とある事情から5年間務めた外科から内科へと移った小鳥遊優は、研修の一環として天医会総合病院の統括診断部へと派遣されることになった。新しく上司になるという統括診断部部長で副院長の天久鷹央は変わり者で、過去に何人ものドクターが統括診断部に派遣されたがすぐに大学病院へと戻っていったという。副院長室兼統括診断部の医局は、なぜか病院の屋上に建てられた一軒家とその隣のプレハブ小屋だった。うず高く積まれた本の数々で森のようになっている家の中にいた高校生のような少女が、小鳥遊の年下上司になる鷹央だった。

統括診断部には入院患者がおらず、回診も鷹央が電子カルテを見てコメントを書き込むだけ、小鳥遊のすることといえば他科から送られてきた”訳あり”の患者を40分間という時間を使って”診察”することだったが、やってくる患者は問題のある病気を抱えているというより、本人の性格や言動に問題があり、小鳥遊はひたすら患者の愚痴や病気に関係ないおしゃべりを聞き流すだけだけで、その間鷹央は衝立の向こうで読書に勤しんでいる。内科医としての経験が積めず戸惑っていたところ、母親が医療過誤に遭ったため訴訟を検討しているという女性が凄い剣幕でやってきた。聞く耳を持たずひたすら病院に悪態をつく女性の話の中から、鷹央は女性の母親が患っている病気を正しく言い当て適切な治療を行った結果、病状はみるみる回復した。

今度の患者は「宇宙人に誘拐され頭に何かを埋め込まれた」という男性だった。元暴力団で覚せい剤の使用歴があったため、幻聴や幻覚など覚せい剤依存症ではないかと考える小鳥遊だが、鷹央は脳のCTに映っていた梗塞巣の形を気にする。今までに誰にも信じてもらえず嘘つき呼ばわりされたが、鷹央だけが信じてくれたという男は、自分が死んだら解剖して嘘を言っていなかったと証明してほしいと言うと、止める間もなく窓から身を投げた。周囲の反対を押し切り鷹央は病理解剖を敢行した。病理医によると何かが脳に埋め込まれていたことはなく、前頭部と後頭部に頭蓋骨の表面に達する小さな刺し傷があったものの、それが何なのかまでは分からなかった。

今まで培ってきた外科医の腕が落ちると訴えた小鳥遊は、猫の手も借りたいほどの人手不足に陥っているという救急部で大歓迎を受け週に2回の勤務と、月4回の当直をすることになった。救急部部長の沖田は投身自殺した患者の件で小鳥遊を慰めてくれるが、宇宙人という言葉を聞いたとたん様子が変わった。その後、路上で倒れていた薬物使用の疑いのある若い男が救急車で運ばれてくる。男はうわごとのように沖田の名を繰り返していたが、沖田には覚えのない患者だという。男は沖田の存在を認識すると同時に豹変し、驚くほどの俊敏な動きで沖田に襲い掛かった。我に返った小鳥遊たちがどうにか沖田から男を引きはがした時、沖田の心臓には深々とドライバーが突き刺さっていた。その後救急室を飛び出し屋上から身を投げようとする男を、小鳥遊はどうにか阻止した。沖田は助からなかった。

第2章 最小の密室

沖田を殺害した犯人を屋上で半殺しの目に遭わせたこともあり、桜井と名乗る捜査一課の刑事と、所轄の田無署の刑事・成瀬が小鳥遊にも話を聞きに来た。犯人は沖田と個人的なつながりはなく、宇宙人の命令でやったと供述しているらしい。過去に何度か秘密裡に事件解決をしているという鷹央のコネを使い、2人は大宙神光教の存在を聞き出す。大宙神光教は「宇宙人」を神様としており、奥多摩にある本部施設で出家信者らが集団生活を送っている。沖田の一人娘が大宙神光教の出家信者になって以来、沖田と大宙神光教の間ではトラブルが起きており沖田は訴訟も視野にいれて動いていた。だが確たる証拠もないまま教団に強制捜査には入れないという。桜井と成瀬の帰り際、犯人が留置所で自殺したという連絡が入った。

鷹央が自分なりの弔いをするので沖田の葬儀には出席しないといい小鳥遊と口論になる。いくら変わり者とはいえ副院長で部長の鷹央が出ないのはおかしい。勢いに任せて小鳥遊は天医会総合病院を辞めると口にし別れたが、その直後、鷹央の姉から鷹央が人の多いところが苦手で過去に葬儀中にパニックを起こしたという話を聞き、空気が読めず比喩が理解できない、光に過敏だったり異常な知識量を誇る鷹央のことに気が付いた。自分はアスペルガー症候群で広い意味のサヴァン症候群だと鷹央はカミングアウトした。それが自分の個性だと誇る鷹央は、沖田の弔いとして一人娘を教団から引っ張り出し、事件の真相を暴くと宣言した。

顔なじみになった脳神経外科部長の蔵野によると、脳にある意思の中枢や感情の中枢を破壊されると心がなくなると教えてもらう。自分では何もしなくなる代わり命じられたことには忠実に従う。感情も消えるので善悪の判断がなくなり、倫理的におかしな命令にでも従うようになるという。躊躇することなく命を断った2人の患者を思い出し小鳥遊はぞっとする。蔵野は頭蓋骨に囲まれ守られている脳を破壊する=人間の心を殺すとすれば、世界最小の密室殺人だと言う。

鷹央に呼び出され行き先も目的も分からず車を走らせた小鳥遊は、奥多摩の教団本部に辿り着いた。夜中にも関わらず忍び込んで何をするのかと問えば、宇宙人との交信を見ると言う。2人はそこで「神羅」と呼ばれる教団の代表を見る。やけどを負って以降宇宙人の声が聞こえるという女性の顔半分には酷いやけどの跡が残っていた。鷹央によると教団の運営は神羅の兄で元精神科医の大河内が行っている。大河内は睡眠障害の治療薬で覚せい剤に似た作用を起こす薬を横流したとして、医業停止処分を受けている。

その後、鷹央と小鳥遊は大宙神光教の1泊2日の体験生活に参加する。日中は農作業などの労働、夕食に収穫した野菜を使ったカレーを食べた後、いよいよ宇宙人との交信というメインイベントが待っている。プラネタリウムのような施設で最初に配られる体をリラックスさせるという霊茶と岩塩のカプセルを飲んだ後、小鳥遊はリクライニングの椅子に横たわる。昼間の労働で睡魔に襲われかけた小鳥遊を、赤や青の原色や光の洪水が襲い幻想的な光景が降りかかり、吐き気を覚えるほど気持ちが悪くなってきた。神羅の声を聴きながら小鳥遊の意識は途切れていった。意識を失った小鳥遊を鷹央が部屋まで運んだらしい。さんざん文句を言われながらも全ての日程が終わり解散という頃、大宙神光教に警察の捜索が入った。

隙を見て接触を禁じられていた出家信者に話を聞くと、沖田の娘・恵美はすでに施設を出ているという。施設の裏手の林へと行った2人は崖の下に人骨を見つけた。

第3章 無限の果て

強制捜査の甲斐はなく教団からは薬物の類も一切見つからず、小鳥遊が飲まされた霊茶もただのまずいハーブティーだった。桜井は、教団への強制捜査の機会をうかがっていたところLSDが使用されたという証拠を持ったタレこみがあったため踏み切ったが、おそらくそれは大河内が仕組んだ偽の情報だったと話した。鷹央たちが見つけた人骨は沖田恵美とは一致せず、若い女性のものという以上のことは分からないらしい。教団関係で恵美以外の行方不明者の届もなかった。その他、軍が使うような本格的なガスマスクが見つかった以外特筆するようなものは出てこなかった。

小鳥遊を伴い再び鷹央は教団施設に忍び込んだ。信者たちが着て生活をしているジャージまで手に入れる念の入れようだった。体験生活者用の食堂へと忍び込んだ鷹央は夕飯がカレーだったと報告すると、最初の時と同様、宇宙人とのコンタクトの様子をのぞき見する。何のためにここに来たのか説明しろと求める小鳥遊に対しては、もうすぐ分かるとだけ答える。今までは小鳥遊も含め、神羅による交信が始まると熱にうかされたような行動をとる人間が多かったが、今回は誰も幻想を見ていないらしくきょとんとしている。小鳥遊が体験したあの不可思議な現象は幻覚剤を飲まされていた作用だと鷹央は言った。大河内は見つからない場所、見つかっても良い場所に薬を隠していたのだという。鷹央はその薬の正体と隠し場所を突き止めあらかじめ除去していたため、今回の体験者たちは幻覚を見なかった。

鷹央と小鳥遊は警察が見つけ出せなかった場所へとたどり着くが、大河内とその取り巻き達に見つかり取り囲まれる。そんな中で鷹央は、崖下で見つかった人骨の正体や、沖田恵美の所在、大河内たちの企みを全て暴いて見せた。そして録音していたICレコーダーで、大河内のすべては金のためで信者なんてどうでもいい、ただの金づるだという告白を大勢の信者たちの前で聞かせ怒りの矛先を鷹央たちから大河内へと向けた。

第4章 死天使のナイフ

詐欺が暴かれ大河内の海外逃亡の計画は潰えて逮捕された。小鳥遊はメールの確認中、殺害される数日前に沖田が送ってきていたメールに気が付いた。添付されていた資料のデータに目を通しているうち、ある大変な事実に気が付く。データの一部に誤りがある……いや誤りでなければ裏で恐ろしいことが起こっていることになる。それを確かめるために小鳥遊は院内電話を取り上げた。

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事件の大元は天医会総合病院にありました。大宙神光教を隠れ蓑にした恐ろしい殺害計画でした。小鳥遊も毒牙に掛かりかけましたが、鷹央によって危機一髪助かりました。

こうして小鳥遊の天医会病院で遭遇した初めての事件は終わりました。