知念実希人「天久鷹央の推理カルテシリーズ」第5弾『悲恋のシンドローム』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「悲恋のシンドローム」のあらすじと感想をまとめました。

小鳥遊が派遣されて部下になるまでは統括診断部はさほど機能していなかったようですが、今では大活躍です。院内の騒動・事件から始まり、今は外部の事件(殺人事件含む)の取り扱いが多くなってきた印象です。統括診断部の活躍の噂が広がりつつあるようです。

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「天久鷹央の推理カルテIV 悲恋のシンドローム」書籍概要

天医会総合病院の看護師、相馬若葉から友人の殺害事件について相談をうけた天久鷹央と小鳥遊優。喜び勇んで謎の解明にあたる鷹央だったが、その過程で“事件から手を引く”と宣言する。なぜ、彼女ではこの謎を解けないのか。そして、死の現場から“瞬間移動”した遺体に隠された真実とは―。驚きのどんでん返しと胸を打つクライマックスが待つ、メディカル・ミステリー第4弾。「BOOK」データベースより

  • 天久鷹央の推理カルテIV 悲恋のシンドローム(2016年1月/新潮文庫nex)

迷い込んだ呪い

呼吸器内科からの紹介で、自分には元恋人の呪いが掛かっているという患者・大山秋恵が統括診断部にやってきた。8年前に恋人を亡くして以来、別の男性との縁談が進むと頻繁に腹痛に襲われるようになり、破談になると症状が治まるという。今回は激しい腹痛や吐き気に加えか喀血までしてしまい、受診にやってきた。ストレスから来るものではないかと検査はしたが、血を吐くよう潰瘍の痕跡は見つからなかった。

秋恵が病院に来たのは治すためではなく、治せないという確信を得るためだった。身の上に起きる症状を呪いだと信じている秋恵はある霊能力者にお祓いをしてもらうつもりでおり、現代の医療では症状を解明できないことが分かれば、300万円という大金を霊能力者に払う決心がつくのだという。秋恵と霊能力者の面談に鷹央と小鳥遊が立ち会うことになり、秋恵のマンションで霊能力者だと言う佐山香織と顔を合わせる。香織はいきなり小鳥遊の職業や乗っている車の車種、空手をしていることなどを当ててしまう。だが鷹央は、香織を詐欺師だと言い切った。鷹央と香織が言い合いをしている最中、秋恵が咳き込み血を吐くとその場に倒れた。気胸と判断した小鳥遊は救急車を要請し、秋恵は入院することになった。

主治医の鷹央によって、鷹央と小鳥遊が同行することを条件に秋恵の外出許可が出た。秋恵は香織に呪いを解くよう依頼するつもりだった。その前に鷹央は香織に相談したことがあるという。病院の近くで知り合った中年に一目惚れしてしまったが、相手には妻も子どももいるから中々会えないという恋愛相談だった。小鳥遊も初耳の話をマンションでしながら待っていると、ようやく香織がやってくる。開口一番鷹央は相談を香織に持ち掛け、香織も快く相談を引き受ける。だがそれは、鷹央が香織に仕掛けた罠だった。

 

秋恵の症状は呪いではなくれっきとした病気でした。彼女の生活習慣や症状などから鷹央は病名を診断し、適切な治療が行われたことで秋恵は退院後に延期していた結婚をするようです。鷹央から詐欺師だと暴かれた香織は隙を見て逃げ出し、鷹央に可愛らしい報復の手紙を寄越していました。

ゴミに眠る宝

統括診断部にやってきた堺佐恵子は、座ると同時にゴミ屋敷の話を始めた。患者ではなく鷹央の「依頼人」らしい。アパートの経営と管理をしている佐恵子は、近所に敷地から溢れんばかりのゴミをため込んでいる屋敷があるせいで入居率が下がっていると言う。その店子の一人が市ノ瀬という大学生だった。市ノ瀬は礼儀正しい青年で、しばらく留守にする時は必ず大家の佐恵子に連絡があるのだが、ここ一週間ほど姿を消していた。佐恵子はゴミ屋敷の主・沼田が市ノ瀬を殺したのだと主張した。市ノ瀬はゴミ置き場を漁る沼田を何度か注意しており、沼田の家へと入る姿を目撃されて以降行方が分からない状態だった。警察は当てにならないため、どんな事件でも解決してくれるという診断統括部を思い出したと佐恵子は話した。

ゴミ屋敷に興味をかき立てられた鷹央によって、小鳥遊は休日を返上してゴミ屋敷へと付き合うことになった。沼田の職業は芸術家らしい。家にゴミをため始めたのは2年前、ちょうどその頃に奥さんに愛想をつかされ離婚されたのか、沼田以外の家族の姿を見なくなった。悪臭に耐えつつゴミ屋敷を訪問すると、半ば強引に鷹央は居留守を使っていた沼田との面会を果たす。沼田は市ノ瀬のことを覚えていたが、行方不明になっていることは知らなかった。ゴミにあふれた部屋からガラクタがいくつか姿を消している痕跡に気付いた鷹央が、ここで人が死に置いてあったガラクタに証拠が残ったのかもしれないと鎌をかけると、激昂した沼田に追い出されてしまった。

その後佐恵子の所へ行き沼田が車を持っていないことを知ると、鷹央は遺体はまだ運ばれておらずゴミ屋敷内にあるのではないかと言い出す。顔なじみの刑事・成瀬を呼び出して3人でゴミ屋敷を見張ることにした。だがちょうどその時、アパートから市ノ瀬が姿を現した。実家の母が事故に遭ったと聞いて、佐恵子に連絡する間もなく家をずっと空けていたという。沼田が市ノ瀬を殺したという話は佐恵子の勘違いで終了し、鷹央たちは成瀬に嫌味を言われる羽目になった。だが鷹央は、ゴミ屋敷で何か事件があったのは間違いないと言う。

疑ったことを謝りたいと沼田の家へ行った鷹央は、彼にいますぐ治療を受けるように言う。以前家に上がった時に拾ったガラクタを齧った形跡を見たという鷹央は、沼田は異食症だと言う。ゴミ置き場を漁った沼田は食欲をそそるガラクタを持ち帰り、食べきれなかった分が積み重なって今のゴミ屋敷になった。治療については検討するとだけいい沼田は室内へと消えていった。

その夜、小鳥遊は鷹央に言われるがまま訳も分からず車を走らせていた。何を聞いても事件の真相を知りたくないのかとはぐらかされてしまう。道幅の狭くなった山道を進みようやく目的地についたらしい。鷹央に言われるがまま息をひそめて車から降りて歩いていくと、前方に渦中電灯の光が見えた。誰かが埋められた遺体を掘り起こしていた。

 

市ノ瀬は無事でしたが、別の人間がゴミ屋敷で奇禍に遭っていました。鷹央は犯人だと目星をつけた人物の車にGPSをつけ追跡していたようです。

瞬間移動した女

小鳥遊が気になっている女性・相馬若菜が鷹央に相談があるという。看護学校時代からの親友・関原桜子が先月、港で遺体となって見つかったという事件で犯人は未だに捕まっていない。若菜はこの事件の「瞬間移動の謎」を解いてほしいと依頼した。

桜子は別の病院で働いていた。若菜たちの同期で桜子と同じ病院に勤務している、桜子の真上の部屋に住む藤本に話を聞きに行くことになった。マンションは勤務先の病院のすぐそばにあった。そばの国道では真夜中に爆音を立ててレースをする連中がいて警察の取り締まりのおかげかしばらく鳴りを潜めていたものの、最近になってまたレースを再開したらしい。藤本によると事件の起こった深夜0時過ぎ、どこからか女性の悲鳴と大きな音が聞こえたという。複数の証言があり悲鳴は桜子の部屋から起きたものだと断定された。桜子の部屋には大量の血痕があり、翌朝10キロ離れた港で遺体が発見された。藤本は、桜子を殺したのは元恋人ストーカーの仕業だというが、桜子の口は堅く元恋人を知る者はいなかった。瞬間移動については、聞き込みに来た刑事が呟いたのが聞こえただけで詳細は知らないという。

詐欺まがいの方法で桜子の部屋に入った鷹央と小鳥遊は警察に通報され連行されてしまう。だが顔見知りの桜井刑事のとりなしで身の潔白も証明され、担当刑事から事件の概要を聞くことに成功する。遺体や部屋の状況から、何者かが桜子をDVDレコーダーで殴って昏倒させたあと腹部を殴る蹴るなどしたあと刺した。そして息のある桜子を10キロ先の港に運んで遺棄したと思われた。遺体はテトラポッドに引っかかって腹部から下が海に浸かって損壊していたため、詳しいことまでは分からない。マンションには正面玄関と非常階段にカメラが付いており、深夜から犯人が出ていっただろう午前5時頃までの間に十数人の出入りが確認されたものの、桜子を詰めて運ぶような大荷物を抱えた人物は映っていなかったことから、誰がどうやって遺体を運んだのか分からない=瞬間移動という呟きになったらしい。

担当の寺田によると、桜子をストーキングしている元恋人は既婚者で同じ病院に勤務している人物と考えられていた。桜子の爪から他人の皮膚が発見され男のDNAが検出されたため、ある程度容疑者を絞ってから鑑定にかけヒットした人物が犯人だと言う。

翌日、桜子のマンション近くの横断歩道でほんの少し残る血痕を鷹央が見つけた。桜子の部屋が第一の事件現場で、横断歩道が第二の事件現場だと言う。いつも通り理由も知らされないまま4時間以上張り込みに付き合わされた小鳥遊の目の前を、爆走する車が走り抜けていった。あとを追うよう鷹央に言われ車をスタートさせる。爆走する車は、国道でレースをしているという若者たちのものだった。彼らが桜子を国道で撥ね、助けるどころかまだ息のある桜子を港に運んで遺棄した犯人達だった。かけつけた寺田たちの前で、鷹央は部屋で殺されたはずの桜子がどういう経緯をたどって港で発見されたのかという瞬間移動と思われる状況の謎を解明してみせた。

直接桜子を殺した犯人は捕まったものの、桜子を部屋で殴った元恋人は未だ見つかっていない。鷹央はこの件から手を引くと言い出した。そして事件を解決するのは、自分ではなく小鳥遊だと言う。鷹央とともに行動し同じものを見てきた小鳥遊は、謎を解いたお礼として若菜と一緒に食事に行ったレストランで、ようやく事件の真相に気が付いた。

 

終わってみれば、確かに小鳥遊でないと解決できない事件でした。いつも鷹央と行動をともにしているので分かりにくいですが、鷹央や鴻ノ池によると、小鳥遊は割と頻繁に院内で女性に声をかけているらしく、しょっちゅう失恋しているとのことです。

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事件の解明に難しそうな病名や医療用語が多く出てきますが、分かりやすく書かれているので、ミステリーとしても珍しい病気の豆知識(?)としても面白いシリーズです。