知念実希人「天久鷹央の推理カルテシリーズ」第9弾『火焔の凶器』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「火焔の凶器」のあらすじと感想をまとめました。

今回は人体自然発火現象という呪いなのか人為的なのか判然としない不可解な事件に挑みます。最終的には人の手によるものと分かるのですが、どうやって発火させたのかはぎりぎりまで分からず、集中力が途切れることなく一気読みしてしまいました。

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「火焔の凶器」書籍概要

安倍晴明と同時代に生きた平安時代の陰陽師・蘆屋炎蔵の墓を調査した大学准教授が、不審な死を遂げる。死因は焼死。火の気がないところで、いきなり身体が発火しての死亡だった。殺人。事故。呪い。さまざまな憶測が飛び交う中、天医会総合病院の女医・天久鷹央は真実を求め、調査を開始する。だが、それは事件の始まりに過ぎなかった…。現役の医師が描く本格医療ミステリー! 「BOOK」データベースより

  • 火焔の凶器 天久鷹央の事件カルテ(2018年8月/新潮文庫nex)

プロローグ

陰陽師の呪いだと体調不良を起こした共同研究者の教授らが次々とおりていく中、准教授の内村秀典は自宅で論文を書いていた。5月だというのに寒くてセーターと小型の赤外線ヒーターを引っ張り出すが焼け石に水だった。空になったコップにウィスキーを注ごうとした時、手が滑りセーターに掛かってしまった。その時下半身に違和感を覚えた。ズボンが炎に包まれていた。皮膚が焼け激痛が走る。ウィスキーに濡れたセーターに炎が映り一気に上半身まで燃え上がり、炎に包まれた内村の意識は遠のいていった。

第1章 呪いの墓

陰陽師の呪いを解いてほしいと翠明大学日本史学の教授・室田宗春からの依頼があった。室田は肺気腫で在宅酸素療法をしなければならないほど重症で、付き人だという研究室の加賀谷正志が簡単な世話やスケジュール管理を行っていた。室田には妻が亡くなったあと仕事を辞めて戻ってきたという娘の春香が家での身の回りの世話をしている。

室田は、碇という帝都大学の教授らとともに呪詛を行って金と権力を手に入れたという陰陽師・蘆屋炎蔵の研究を行っており、とうとう子孫と炎蔵の墓の存在を突き止めた。蘆屋家では炎蔵の墓をあばけば呪い殺されると代々言い伝えられており調査は進まなかったが、当主の代替わりをきっかけに炎蔵の墓を調査できるようになり、室田・碇とともに翠明大学准教授の内村、帝都大学准教授の倉本の4人で墓のある洞窟へと入った。その後、内村が自宅で焼死し、室田は呼吸器感染症を起こして重症化したり口内炎ができたりと体調を崩し、碇からは「炎蔵に呪い殺される」という電話がかかってきたという。室田は、蘆屋炎蔵の呪いを解いてほしいと言った。文献によると炎蔵に呪われた相手は、全員焼け死んだという。

陰陽師の呪いに興味を惹かれた鷹央は碇に会いに行くが、碇の状態は一目で異常と分かるほど酷く「外に出たら呪い殺される」と自宅の書斎に閉じこもったまま喚くだけで話を聞くことができず、すぐにでも入院が必要だという説得にも応じず鷹央たちには手出しできない状態だった。2人は問題の炎蔵の墓を調べることになり、碇の下で研究をしており墓の調査をした中で唯一元気な倉本葵とともに洞窟へと向かった。当主の大反対を振り切り炎蔵の墓を暴いた鷹央たちは、碇や室田の異常な体調不良は呪いではなく湿度と密封性の高い洞窟内で繁殖したカビなどの真菌が引き起こしたものだと判断した。碇の状態は特に酷く、命に係わる状態だとして鷹央は法的な手段をとって碇をむりやり入院させた。だが碇の体内で爆発的に増殖した真菌により多臓器不全に陥っており、治療の甲斐なく碇は死亡した。

鷹央の診断によって正しい治療を受けた室田は呼吸器が外れ、沖縄での学会に参加できるほど回復し、元々体力もあり健康だった葵は真菌感染症を発症することもなかった。

第2章 紅蓮の呪術師

小鳥遊は碇の通夜にきていた。受付には葵がおり尊敬する教授の死の悲しみに暮れていた。そこに蘆屋家の現当主・蘆屋雄太が姿を現すと墓を荒らした呪いだと騒ぎ始め、カビのせいだと説明しても聞く耳を持たない。興奮して殴りかかってくる雄太を小鳥遊が大人しくさせると、雄太は墓を暴いた小鳥遊も絶対に呪い殺されるなどと捨て台詞を吐きながら去って行った。その後やってきた加賀谷とともに焼香を済ませ遺族らと挨拶を交わしていると、カチカチという時計のような規則正しい音が棺の方から聞こえてきた。次の瞬間、爆発音が鳴り響き祭壇に炎の柱が上がった。炎はスプリンクラーでは役に立たないほどの勢いで、小鳥遊たちは成すすべもなく遺族らとともに脱出口から逃げるのが精いっぱいだった。炎蔵の呪いと茫然と加賀谷が呟いた。

紛失したポケベルが見つかった頃、小鳥遊の所に田無署の成瀬が火災のことで話を聞きに来た。同席した葵とともに当時の様子を話す小鳥遊たちに、成瀬は情報は一切渡さないという。だが鷹央は、成瀬が来たことで通夜の火災は何者かによる放火でその証拠も警察は見つけているはずだと指摘する。碇の遺体に火がつけられたのは大きな事件の一部にしか過ぎないと説明して情報提供を求めるが、鷹央たちに反感を抱いている成瀬は交渉に応じず帰っていった。

小鳥遊が当直の夜、体調不良を訴え自ら病院に連絡してきた室田が救急搬送されてきた。運ばれてきた室田は寒くてたまらないといい「呪い」「陰陽師」などと呟いている。電気毛布やダウンジャケットを外し小鳥遊が聴診を終えた時だった。室田の胸元から火が出ると酸素マスクからの酸素を得て勢いよく燃え上がった。小鳥遊や付き添いの春菜の目の前で室田は焼死し、ショックで春菜は倒れてしまった。

警視庁の火災犯の刑事が小鳥遊に話を聞きに来たが何故か鷹央の態度が悪い。自分たちで事件を解決する必要があり、そのためには警察の捜査を進ませるわけにはいかないという。室田が燃えた時の監視カメラの映像を手に入れた鷹央たちだったが、特に細工された様子もなくまるで人体が自然発火したかのようだった。目の前で燃えるところを見た小鳥遊にも不審な箇所は何もないように思えた。

葵を誘って夕食を共に過ごしたあと、小鳥遊は誰かに尾行されている気がした。待ち伏せると火災犯の刑事だった。その後すぐに研修医の鴻ノ池舞から電話がかかってくると、病院で火事が起き小鳥遊の相棒が亡くなったと連絡が入る。慌てて天医会病院へ行くと駐車場に停めていた愛車が丸焦げになっていた。炎蔵の墓を暴いた呪いではなく、明らかに放火だった。被害者として落ち込んでいた小鳥遊だったが、鷹央の一言で碇の遺体放火、室田の焼死事件のどちらにも現場のすぐそばにいた自分こそが警察から放火犯だと疑われているのだと気が付いた。また鷹央も共犯だと疑われている。2人が逮捕されれば統括診断部に医者はいなくなり消滅する。

第3章 炎の終幕

こっそり情報提供を求めた成瀬から、警察が数日中にも小鳥遊と鷹央の家に捜索に入る準備を進めていることが分かった。警察は呪いや放火の方法を追求するより、容疑者を逮捕する方を優先するらしい。

材料が足りず人体自然発火の謎が解けないと鷹央が寝る間も惜しみ考え続けていた。尾行の気配を感じつつも自宅へと戻った小鳥遊は、エントランスの集合ポストの脇に「たかなしことり様」と書かれた怪しい封筒を見つけた。中は発火装置の材料だった。誰かが自分に放火の罪を擦り付けようとしている。鷹央に連絡をいれた小鳥遊は、すぐに病院へととんぼ返りした。その動きが警察には証拠隠滅を図っていると判断されたらしく家宅捜査の日程が翌朝に早まった。タイムリミットが迫るなか小鳥遊はずっと感じていた違和感の正体を探り、ようやく気が付いた。小鳥遊は鴻ノ池の協力を取り付けると警察の尾行を撒くと、まもなく取り壊される予定の無人の研修医時代の寮で、小鳥遊はある人物を待ち構えた。数時間後、一度紛失した小鳥遊のポケベルに盗聴器をしかけていた蘆屋雄太が姿を現した。追い詰められた雄太は小鳥遊の車を燃やしたことを認めたものの、内村と室田の殺害は否認し呪いだと繰り返していた。

警察は一件落着したと見ていたが鷹央は納得していなかった。室田が焼死する直前、鴻ノ池が採血をしていたのを知るとすぐに検査に出す。検査結果はあらゆる数値が酷いものだった。室田は多臓器不全に陥り失血死しかけていた。結果を見て何やら考え込んでいた鷹央は、一連の炎蔵の呪いと人体自然発火現象のからくりが解けたと言った。雄太は真犯人にスケープゴートにされただけで、犯人にとっては雄太の逮捕は予定外だった。急いで行かないと手遅れになるとある場所へと向かった。

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犯人は呪いとは無関係に被害者に殺意を抱いていました。それが偶然蘆屋炎蔵の事件と絡み合ってしまったため、摩訶不思議な人体発火現象になってしまったようです。

途中は普通のミステリー(?)っぽくなっていましたが、最終的に事件の謎を解くのが鷹央の医療知識(診断)というのがこのシリーズらしくて面白かったです。