知念実希人「天久鷹央の推理カルテシリーズ」第10弾『魔弾の射手』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「魔弾の射手」のあらすじと感想をまとめました。

目に見えない凶器(魔弾)の正体を探る医療ミステリーです。魔弾の真相に迫るまでは普通のミステリーなのですっかり忘れて読み続け、最後の最後で「あ、これ医療ミステリーだった」と思い出す一冊でした。

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「魔弾の射手」書籍概要

西東京市に聳える時計山病院。十一年前の医療ミスで廃院に追い込まれたこの場所で、一人の看護師が転落死する。死亡状況や解剖結果から自殺が有力視される中、娘の由梨だけはそれを頑なに否定した。天医会総合病院の副院長・天久鷹央は彼女の想いに応え、「呪いの病院」の謎を解くことを決意する。死体にまったく痕跡が残らない“魔弾”の正体とは?現役医師が描く医療ミステリー! 「BOOK」データベースより

  • 魔弾の射手 天久鷹央の事件カルテ(2019年9月/新潮文庫nex)
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新潮社
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第一章 廃病院の呪い

研修医の鴻ノ池舞にいつものごとくからかわれながら救急部の当直をしていた小鳥遊のところに、転落したと思われる心肺停止状態の女性患者が運ばれてきた。必死の救命にも関わらず助からなかったのは、所持品より時山恵子という40代の女性だった。彼女は小鳥遊たちの勤める天医会総合病院の受診票を持っており、診療歴を検索すると末期のすい臓がん患者だと分かる。救急隊員が漏らした言葉が気になった小鳥遊と舞が調べたところ、恵子が転落した建物は過去に10人以上が飛び降りたと言われる廃病院、通称「時計山病院」だった。

時山病院は11年前、医療ミスにより被害者の女性が屋上の時計台から飛び降り自殺をした。院長であり主治医だった時山剛一郎はマスコミによって徹底的に叩かれ続け、事件の半年後、被害者の後を追うかのように時計台から身を投げた。患者が激減した時山病院は廃業となり、その後廃病院に幽霊が出るという噂が流れ始め、自殺の名所となった廃病院では何人もの自殺者がでることになる。それらは自殺した女性の呪いだと脚色を加えたようなオカルト専門サイトにはあった。

翌朝、看護師に呼ばれた小鳥遊は、顔なじみの刑事・成瀬が恵子の遺族と言い争っている場所に引っ張られ仲裁役を押し付けられる。恵子の兄で名古屋で開業医をしている小太りの時山文太、恵子の娘で高校生の由梨の2人だった。屋上にのぼる鉄梯子に脱いだ靴とバッグが揃えてあり悲鳴を聞いたという通報もないことから、恵子は末期がんを悲観して自殺したという警察の見解を由梨は納得していなかった。また恵子と文太の父親は時山剛一郎、つまり父親が飛び降りた場所で恵子も自殺をはかったと考えられる。事件性がないため司法解剖はしないという成瀬に対しもっとよく調べて欲しいと由梨は言い募る。修学旅行先から駆け付けた疲労も相まってかバランスを崩して処置台の金属トレイを落とした由梨は、急に力を失って倒れた。そこに午前中の回診に小鳥遊が来ないとやってきた鷹央が、「自殺者の頻発する『呪いの廃病院』」に興味を示し由梨に恵子に何が起こったのか調べると約束すると、由梨の許可を得て恵子を解剖することになった。

文太によると恵子は3兄弟の末っ子として剛一郎に可愛がられていたらしい。名古屋にいる文太とは年に1、2度電話をする程度の付き合いだが、シンガポールにいる長兄の一志とは結構やり取りをしているとのこと。11年前の医療ミスの慰謝料で時山家に財産はなく、廃病院は兄弟に1/3ずつ分割されたが売ろうにも23区から離れた丘の上という不便な場所柄高値はつかず、建物を取り壊す費用で逆に損をすると放置されていた。また恵子はシングルマザーで経済的には苦しかったらしい。由梨は自分たちを捨てた父親を憎んでおり実父の所へ行くとは思えず、文太自身も三年前に離婚して一人暮らしをしているが由梨との交流もほぼない状態、一番良いのはシンガポールにいる長兄が引き取る形だという。

早速時計山病院へ行って現地を調べると意気込んだ鷹央だったが突然倒れてしまう。診察の結果インフルエンザと診断され最低5日間は家から出てはならないと、実の姉であり病院の事務長である真鶴に厳命される。時間が経つと証拠が劣化するという鷹央のため、舞は自分が時計山病院へ行きビデオ撮影してくると言い出す。事件を解決するのは警察の仕事だと一旦誘いを断った小鳥遊だったが、精神的にも耗弱し鷹央の患者として統括診断部に入院中の由梨を見舞ったあとは舞に同行することに決めた。

起き上がれるようになった鷹央の調べによると、時計山病院には大きく分けて2つの噂があった。一つは自殺した女性が成仏できずに彷徨い、入院していた四階病棟に幽霊として現れるというもの、もう一つは太平洋戦争当時、敗戦を予感した当時の当主が時山家の莫大な財産を宝飾品に変えてどこかに隠したと言われる「時山家の埋蔵金」だった。

第二章 四階病棟の幽霊

夜の午後10時過ぎ、舞のバイクで小鳥遊は時計台病院へと来ていた。廃病院の裏手には恵子が転落した後が残っている。舞によるとネットに屋上まで行く方法と四階病棟へと行く方法が載っているらしい。またそのルート以外は扉が施錠されていて通れそうもなかった。ビデオ撮影を始める舞とともに恵子が転落したと思われる屋上の時計台の屋根を調べていくと、足元に時計台の内部へと続く扉を見つけた。跳ね上げ式の扉の内部は、時計を動かしていた大きな歯車や鐘が埃をかぶっていた。一通りの見て回った後は外階段を使って四階へと降りていく。ギシギシと音を立てる古い階段を慎重におりていくうち十階以上ある病院の何階にいるのか分からなくなってくる。錆び付いた扉にかろうじて浮かび上がっている「6」の数字を見て2つ下まで降りた小鳥遊と舞は、幽霊が出るという四階フロアに入っていった。しばらくして2人の耳にかすかに女性がすすり泣く様な声が聞こえてきた。背中に冷気を感じた2人が揃って振り返ると、室内だというのに濃い霧が立ち込めるなか入院着をきた女性の姿がぼんやり浮かび上がっている。一目で幽霊だと分かる雰囲気の女性から唸り声が聞こえた瞬間、2人は我先にと駆けだし外階段で一気に一階まで降りて行った。

ひとまず落ち着きを取り戻した小鳥遊は、あまりにも芝居じみた幽霊の登場に何かお化け屋敷のような仕掛けがあるのではと考え、嫌がる舞を説き伏せて再び外階段を上っていった。が、念入りに探索したもののどこからも仕掛けを見つけることはできなかった。

病院に戻った2人は、仲間外れにしたと拗ねる鷹央を宥めつつ舞の撮ったビデオを見ていく。見終わった鷹央は、幽霊の正体が分かったのかという小鳥遊の問い明けに曖昧に答えると一心不乱にパソコンに向かい何やらプログラムを打ち込み始めた。

インフルエンザで監禁中の鷹央に代わり、小鳥遊は由梨の病状を説明するために文太に来てもらったが、そこにはシンガポールにいるという長兄の一志も同席していた。恵子の話を聞いて帰国してきたといい、すぐにシンガポールに戻るという。一志は無理強いはしないが由梨にはシンガポールに来て自分たち夫婦の養子になってほしいと口にした。

日付が変わると同時に外出解禁となった鷹央は早速時計山病院へ行くという。舞を伴い3人で現地へと着くと前回と同じく一度屋上まで上がり、それから四階病棟を目指す。すると前回同様女の幽霊が現れる。驚きのあまりフリーズした鷹央を抱えて一階まで降りた小鳥遊は、硬直から復帰した鷹央に前回の行動をトレースすると言われ舞とともに再び四階病棟で仕掛けを探すが何も見つからない。幽霊騒動の種明かしをするという鷹央が向かったのは一つ下の三階病棟だった。そこで幽霊発生装置を見つけた鷹央は、おそらく隠しカメラで幽霊に驚く様子を見ているだろう犯人を自分で作ったプログラムを使って病院に呼び出すと、小鳥遊と舞に幽霊のトリックを解説した。

ネットの情報に誘われて廃病院にやってきて幽霊に驚く姿を動画投稿サイトにアップロードして金を稼ぐつもりだったと言う男は、屋上にもカメラを仕掛けており、恵子の転落を通報した人物でもあった。真相を知って怒り狂う有段者の舞からの身の保証と引き換えに、鷹央は廃病院の監視システムと恵子が転落した日のデータを入手した。隠しカメラのため時計台の屋根の様子は分からないが、事件当夜、恵子が一人で屋上にやってくると靴を脱いで屋根へと昇っていく姿は映っており、他に不審な人物などはいないことが分かった。

由梨の実父・甲斐原勝が見舞いに来ていたが激昂する由梨に追い返されていた。小鳥遊は彼から、当時恵子と結婚するつもりだったものの剛一郎から恵子と別れなければお腹の子ども(由梨)を堕ろさせると言われ身を引いたことを知らされる。養育費の援助も恵子に断られたらしい。会ってもらえなくてもできるだけ毎日見舞いに来るつもりだといい、甲斐原は帰っていった。

屋上の自宅で恵子が時計台へと昇っていく映像を見ていた鷹央は、恵子が転落したと思われる直前かすかにパンという音がしていたのに気付く。やってきた小鳥遊にその話をしていた時、突然赤色灯が部屋を照らしだした。幽霊騒動の犯人から譲ってもらったカメラが、誰かが時計台病院に侵入したことを知らせる合図だった。映っているのは由梨の伯父の文太。急いで時計台病院へと向かった2人は、時計台の上で文太が突然雷に打たれたように体を反らせ、両腕で胸を押さえるとぐにゃりと崩れて屋根から落ちていくのを目撃した。救急車を呼ぶ間蘇生術を施した小鳥遊だったが、文太は病院で亡くなった。

第三章 不可視の銃弾

鷹央と小鳥遊のタカタカペアが絡むと成瀬刑事の担当となるらしい。苦々しい表情で現れた成瀬に何をやっているんだと責められ、鷹央は警察は捜査をしていないのだから自分たちが動かなければならなかったと言い返し、小鳥遊は監視カメラの件と文太が何者かに狙撃され転落したらしいことを説明する。成瀬は過去10年程で文太を含め19人が時計山病院から転落死しており、その全ての人間を殺害した犯人がいるとは思えないという。成瀬が帰っていった後、鷹央はすぐさま一志に電話をかけ所在を確かめるとシンガポールにいることが確認できた。一志にはほんの3時間程で文太を殺害しシンガポールに戻れたとは思えなかった。また亡くなる直前に文太から電話があったといい、内容を確かめると「埋蔵金がある場所が分かった」「恵子はそのせいで死んだ」などと言っていたらしい。文太は恵子と同じ場所から転落死した、恵子ももしかすると殺人事件かもしれないと小鳥遊が伝えると、妹と弟が相次いで不審死を遂げ日本に行くのが怖いので文太の葬儀は別れた奥さんにお願いすると一志は言った。

文太が転落死する直前のビデオを確認していた鷹央と小鳥遊は、恵子の時と同様パンという小さな破裂音がするのに気が付いた。これは自殺ではなく殺人だと鷹央は断言した。

診断統括部に文太の元妻が訪れた。文太は銀行の融資を受けて開業医をしているものの毎月赤字でかなりの負債があったはずだという。回診を始めた小鳥遊は、一志が手配した弁護士の口から文太が恵子と同じ場所から転落死したことを知らされショックを受けていた。時山家の人間が狙われているのなら日本を離れた方が安全だとシンガポール行きを促し弁護士は帰っていった。

小鳥遊たちの証言により捜査が始まるかと思った文太の転落死だが、自殺とみなされ捜査はしない方向で決まったらしい。借金があること、文太が自ら時計台に登って行ったことが自殺説の補強をした。表立っての捜査はしないものの成瀬の協力を得ることができた鷹央は、時計台病院の19人の自殺者全員の現場の状況と自殺と判断した根拠を調べるよう頼んだ。

数日後の休日、小鳥遊、鷹央、舞の3人は初めて日中に時計台病院を訪れていた。民間業者に依頼して破裂音の正体を探ってもらった結果、音は火薬の破裂音だと判明した。だが恵子の死亡解剖の結果不審なものは何も見つかっていない。体を傷つけることなく被害者を失神させるような銃弾があるとしたら「魔弾」だと鷹央は言った。3には廃病院の屋上で持ってきた弁当を広げる。丘の上に立つ時計台病院は景色がとても良い。だが地元住民の反対で何年も揉めていた再開発の話が進んだらしく、工事の騒音と振動がうるさかった。

その夜、成瀬が調べた結果の報告に訪れた。剛一郎、恵子、文太の時山家の3人以外は明らかに自殺だと分かった。

一人で回診を終えた小鳥遊が鷹央の家へ行くと、「魔弾」のからくりは分かったが「射手」が誰かなのが問題だという。だがいつものごとく肝心の部分は鷹央は口を噤む。不満を抱える小鳥遊のところに、由梨が病室から姿を消したと連絡が入った。

第四章 弾空の魔弾

時山家の人間が狙われているなら、シンガポールにいる一志以外のターゲットは由梨しかいない。鷹央により24時間体制で病室が警備されていたものの、警備員がトイレで離れた隙に由梨が病室を抜け出した。病院内で見つからず焦る小鳥遊に、鷹央は由梨は時計山病院へ行った可能性が高いと急いで向かうことになった。

そして草むらに横たわる由梨を見下ろしながら、成瀬は20人目の犠牲者だと口にする。救命措置をしないのかと問う成瀬に、鷹央がそんなことをして何になるのかと返す。3日後、鷹央、成瀬とともに小鳥遊はある人物を待っていた。舞に案内されてやってきた人物に由梨の件については全面的にこちら側の責任だというと、改めて鷹央の口から恵子たちを狙撃し死に至らしめた「魔弾」の正体とその「射手」について、そして殺害の動機などの説明がなされた。

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鷹央により事故や自殺ではなく殺人事件だと証明され、真犯人も逮捕されました。特殊なトリックを使った犯人でしたが、動機は非常に俗物的でした。由梨を残して自殺するはずがないという主張の通り、恵子は死ぬ直前まで由梨のことを想っていたのが分かりました。

 

病気のことには詳しくないのですが、素人のせいか「犯人にとってはずいぶんと都合の良い疾患だった」という印象が強かったです。最近は長編が多いので、短編も読みたいシリーズです。