知念実希人「天久鷹央の推理カルテシリーズ」第2弾『ファントムの病棟』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「ファントムの病棟」のあらすじと感想をまとめました。

診断医としては天才だけれど人間関係の構築には難のある鷹央とその部下の小鳥遊とのコンビも、小鳥遊が振り回されつつも上手に鷹央を補助していくなど、なかなかいい形になっているようです。

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「天久鷹央の推理カルテII ファントムの病棟」書籍概要

炭酸飲料に毒が混入された、と訴えるトラック運転手。夜な夜な吸血鬼が現れる、と泣きつく看護師。病室に天使がいる、と語る少年。問題患者の巣窟たる統括診断部には、今日も今日とて不思議な症例が舞い込んでくる。だが、荒唐無稽な事件の裏側、その“真犯人”は思いもよらない病気で…。破天荒な天才女医・天久鷹央が“診断”で解決する新感覚メディカル・ミステリー第2弾。「BOOK」データベースより

  • 天久鷹央の推理カルテII ファントムの病棟(2015年2月/新潮文庫nex)

甘い毒

トラック運転手の香川が単独事故を起こして小鳥遊が当番中の救急室に運ばれてきた。事故の直前に飲んでいたコーラに毒が入っていたと主張しており、最近連続して起こっている清涼飲料水のペットボトルに農薬が混入されているという事件と関連して顔なじみの成瀬刑事もやってきていた。また鷹央も興味を惹かれたらしく姿を見せると、迷惑そうな香川の主治医にものともせず診断統括部として関わっていく。

香川は100kgを優に超える巨体だった。毎日コーラを4~5リットルは飲みお菓子も良く食べている。入院中も病院食では足りないようでベッド周りには山のようなお菓子とコーラがあった。だが会社の健康診断で肥満以外に引っかかったことはないという。数年前から過食と肥満が始まり常にイライラするようになり妻に当たりだすが、一人娘の葵だけは溺愛していた。運送会社の社長が交代して以降折り合いが悪く、今回の事故で責任を問われると家族を養っていけなくなる。コーラには明らかに違和感がありその直後から体が痙攣して動かなくなった。絶対に毒が入っている筈だと香川は言い張っていた。おまけに毒入りコーラを用意したのは妻や会社の社長ではないかと疑いをかける始末だった。

だが回収したコーラからも香川の血液検査の結果からも毒物は検出されなかった。香川の主治医は異常なしと判断して香川を退院させた。そのことを知った鷹央は激怒し、すぐに香川を連れ戻せと小鳥遊に指示すると主治医のいる病棟に乗り込んでいった。主治医と鷹央が言い合いをしている最中、タクシーで帰宅中の香川が意識喪失になり救急搬送されてくると連絡が入った。鷹央の処置で意識が回復した香川は、またコーラの味がおかしかったと言う。タクシー内ではさすがにお菓子は食べなかったようで、そのことを確認した鷹央は、香川が意識を無くす直前に飲んでいた味のおかしいというコーラをみんなの前で飲んで見せるよう小鳥遊に言った。

恐る恐る飲んだ小鳥遊だったが普通のコーラだった。やはり毒は入っていなかったが、鷹央はコーラは確かにすり替えられており、香川の症状は腹部のCTを撮ればはっきりと分かると言い切った。

 

鷹央によって香川の病気が判明しました。稀な病気だったようで、急に甘いものを飲み食いしたくなったりイライラし始めたのも病気が原因のようでした。コーラのすり替えは善意によって行われていました。すり替えによって結果的に香川の病気が判明し、適切な治療が行われるようです。

吸血鬼症候群

生活保護の人たちを積極的に受け入れている療養型の病院・倉田医院で看護師をしている倉田美由紀からメールで鷹央に相談がきた。輸血用の濃厚赤血球液が相次いで3回窃盗にあい、その後歯形のようなギザギザの穴を残したパックだけが見つかっているせいで、誰かが血を飲んでいるのではないかという噂になっているという。倉田病院の院長の許可は取ってあるらしく、鷹央は運転手も兼ねて小鳥遊を連れていく。

倉田病院は1階が外来スペース、2階がナースステーションと病室、3階も病室になっている。血液パックが見つかった3階の部屋には認知症の田中マツがおり、鷹央を孫だと思い込んで話しかけてくる。マツは一見元気そうにみえるものの肝硬変を患っており、慢性的な貧血もあることから定期的に輸血を行っていた。盗まれた血液パックは夜勤の看護師が、翌朝一番に輸血するため常温に戻そうと点滴台の上に置いていたものだった。血液パックが盗まれたことにより、予定していた輸血患者のうち緊急性がないと院長が判断した患者には輸血が行われなかったと美由紀は説明した。3回のうち2回がマツで1回がマツの同室の鎌谷秀子だった。どちらも一人で歩き回る体力はある。次の輸血は明後日の予定、鷹央は小鳥遊を巻き込みその日の当直医として倉田病院に潜り込むことに成功した。

倉田医院は鷹央たちのいる天医会総合病院からマツを含め多くの患者を受け入れているが、美由紀によると身寄りのない人間が多いため文句を言う家族などもおらず医療環境はあまり良いとはいえないらしい。当直日、火災警報が病院に響き渡った。慌てて駆けつけた小鳥遊らは誤報だと知るが、鷹央に言われて見張っていた輸血用の血液パックは、小鳥遊が見張りから離れた隙にどこかへ消えていた。吸血鬼の仕業だという鷹央はマツの病室へと向かう。空の輸血パックが点々と赤い染みを作り、ベッドの上には口元を赤く染めたマツがいた。鷹央の指示で院長が呼び出された。

皆が集まる中で、鷹央に渡された深紅の液体をマツは美味しそうに飲み干した。異食症だといい鷹央はマツを天医会総合病院で受け入れると伝える。だが真実は違った。マツの入院手続きが終了した後、鷹央は吸血鬼騒動を起こした本当の犯人を指摘し、なぜ犯人がそのようなことをしたのかを解き明かしていった。

 

犯人にとっては苦肉の策での吸血鬼騒動でした。真意を読み取った鷹央は一芝居打って吸血鬼騒動を終結させ、犯人の願いを叶えました。

天使の舞い降りる夜

小児科病棟で同じ病室に入院している退院間近の3人の患者が立て続けに原因不明の急変を起こし、退院が延期になった。またそれとほぼ同時期に別の入院中の子どもが何度か天使を見たといい、夜勤のナースもその子の病室の壁が光っているのを目撃していた。小児科病棟での異変の噂が広まれば病院自体の評判に影響すると、院長が直々に統括診断部に事態の解明と収束を命じた。だが「甘い毒」事件の際に入院中の小児科の患者・三木健太と再会して以降鷹央の様子がおかしく、小児科病棟に近づこうとしない。直接診察はしなくても電子カルテ自体は統括診断部でも見ることができる。仕方なく小鳥遊は一人で話を聞きにいくことになった。

容体が急変した3人はいわゆる悪ガキと言われる中学生たちだった。彼らは大人たちには分からないよう入院中のほかの子どもたちをからかったり虐めたりしているらしい。リーダー格の冬本淳は不整脈、虫垂炎で入院した関原勝次は嘔吐、マイコプラズマ肺炎で入院の作田雄一は喘息発作がそれぞれ起きていた。3人の急変はいじめに対する報復の可能性もあると研修医の鴻ノ池は小鳥遊に話した。

天使を見たという患者は三木健太だった。健太は末期の白血病で現在は緩和治療に入っているという。彼もまた中学生3人組に治療による脱毛をからかわれており、健太の母親は3人を激しく憎んでおり、健太が大事にしている絵本が無くなりバラバラに切り裂かれた状態で発見されたのも、3人の仕業ではないのかと疑っていた。

小鳥遊は小児科の熊川から、明らかに健太と会うことを避けている様子の鷹央の理由を聞く。研修医時代の鷹央は健太と友達になった。健太は鷹央にとても懐いており、周囲とのコミュニケーションがうまくいかず苦労していた鷹央は自分の話を嬉しそうに聞く健太に癒されていたのだろうと熊川は言う。いったん白血病は寛解した健太だったが再発し、今は小康状態を保っているもののいつ急変してもおかしくない状況だった。そんな健太に会うのが辛いのだろうと熊川は言う。健太は鷹央に会いたがっているが、鷹央は人の気持ちが分からない自分が不用意な発言をして健太を傷つけるかもしれないと会うのを躊躇っていた。

鷹央の気持ちを汲んだ小鳥遊は、健太が一時退院をするのを知りその間に鷹央を小児病棟へ連れていく。中学生3人がいる病室、その隣の天使が出たという健太の病室を見た鷹央は、いったい何が起きたのか目星がついたらしい。

一時帰宅する予定の健太の体調が悪くなり再び小児科に戻ってくることになった。免疫機能が低下している健太は、下手をすればこの数日で病状が急激に悪化する恐れがあるという。夜勤中、ナースコールを受けたベテラン看護師は淳が苦しそうに助けを求めるのを聞き病室へと向かう。そして部屋の小窓から黄色い光に照らされた天井に天使のような影が浮かんでいるのを目撃した。光が消えた直後、病室のドアが向こうから開けられた。そこに立っていた淳はいきなり崩れ落ちるようにその場に倒れる。慌てた看護師が脈が診ると淳は心停止していた。病院中に緊急事態を告げるSOSの放送が響いた。

看護師の心臓マッサージのおかげか20秒ほどで淳の心拍が再開したのが当時淳に着けられていた心電図の記録から分かった。統括診断部の外来に集まった院長をはじめとした関係科の医師らが集まる中、鷹央は淳が心停止したのは犯人がミスしたからだと言うと今日中にこの件を解決すると宣言し、入院中の中学生3人全員に翌日の退院を告げた。そして小鳥遊らとともに小児科のナースステーションを見張りはじめた。

 

3人の中学生の容態を急変させたのにはある目的があり、天使が現れるという事件とも密接に関係していました。犯人は犯人なりに強い思いがあったようで、その動機を考えると何とも言えないやるせない気持ちにさせられました。

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3話目の「天使の舞い降りる夜」がとても印象深いかったです。舞台が病院である以上、死からは避けられない場面もありますね。ミステリー小説ではありますが、人が死なない話を求めたくなりました。