知念実希人「天久鷹央の推理カルテシリーズ」第7弾『神秘のセラピスト』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「神秘のセラピスト」のあらすじと感想をまとめました。

シリーズ7冊目ですが短編としては5冊目なので、タイトルには「Ⅴ」とついています。今回は医療VS宗教あり、以前鷹央と対決した人も再登場と読み応えのある一冊でした。

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「天久鷹央の推理カルテⅤ 神秘のセラピスト」書籍概要

白血病が再発し、骨髄移植でしか助かる見込みがない少女・羽村里奈。だが、複数回に及ぶ化学療法を経ても病気が完治しなかったことで医療不信に陥った彼女の母親は、移植を拒否し、左手に聖痕を持つ預言者の言葉に縋るようになってしまう…。少女を救えるのは、医療か、奇蹟か。神秘的な現象を引き起こす“病気”の正体とは。天医会総合病院の天才女医・天久鷹央が奇蹟の解明に挑む。「BOOK」データベースより

  • 天久鷹央の推理カルテⅤ 神秘のセラピスト(2017年3月/新潮文庫nex)

雑踏の腐敗

外に出ると体が腐ってしまうと怯え外出できなくなった宮城辰馬が統括診断部に紹介されてきた。だがやってきたのは姉の椿で、辰馬はすでに3回、渋谷のスクランブル交差点の雑踏の中で自分の指先が変色し腐っていくのを見てすっかりおびえてしまった。辰馬は東京で働く姉の家に居候する予定で地元から出てきたところで、姉の部屋は最寄りの渋谷駅から20分ほど離れた場所にあるため、スクランブル交差点を通らなければ来ることができない天医会総合病院には来院できなかった。椿によると家の近所のスーパーや、受診した病院の待合室くらいの人ごみなら平気だったとのこと。体が腐り始めたあとは急いでその場を離れると症状は消え、腐り始めた部位も正常に戻ると言う。病院で検査を受けたものの異常はなく本人の見間違えではないかと精神科を紹介されたが、本人が拒否して鷹央たちに白羽の矢が立った。

来られない辰馬に代わり、鷹央と小鳥遊が椿のマンションまで出向くことになった。本当に体が腐り出すかどうか観察するという鷹央の言葉に従い、辰馬、椿たちとともに渋谷駅に向かった小鳥遊は、スクランブル交差点に差し掛かった時、隣にいた辰馬の指先や耳の辺りがじわじわと青黒く変色していくのを目にした。確かに耳と指が腐っていたと雑踏の中迷子になっていた鷹央を小鳥遊が回収して伝えると、鷹央には辰馬の症状を説明できる仮説があるというが、実証が必要だと詳細は教えてもらえなかった。

部屋に戻った辰馬の体は元に戻っていた。自分が何の病気なのか早く知りたいという辰馬に対し、鷹央はマンションの屋上で夜空の下の診断をしようと言った。春前の屋上は寒かった。なぜかしばらく屋上で待たされた小鳥遊の耳に、辰馬のうめき声が聞こえてくる。見ると、雑踏の中ではないにもかかわらず、辰馬の指先が青黒く変色しはじめていた。

 

東京に出てきた途端、雑踏の中で体が腐り始めるという病気を発症した辰馬でしたが、その理由は彼の出身地にありました。症状と姉弟の苗字からその病名を言い当てる鷹央は医療以外の分野においても博識です。

永遠に美しく

72歳になる母親が鍼灸院をやっている恋人の「若返り治療」を受け始めた半年くらい前からどんどん若返り、今では50歳前後くらいの見た目になっているという。その鍼灸師は気を使った特別な治療で細胞を若返らせているらしく、母親は2~3か月前から知人をその鍼灸師に紹介しはじめ、治療を受けた人たちも全員若返っている。美奈子は、高額の治療費をとる鍼灸師が何らかの法に触れる行為をしていた場合、母親が共犯者になってしまうことを恐れ、鍼灸師の正体を暴いてほしいと依頼した。

鍼灸師の腕に興味を持ったので話を聞きたいという触れ込みで母親に面会した鷹央は、実際の治療の見学を希望すると快くOKが出た。神尾鍼灸院の院長、神尾秋源は見学は大歓迎だと2人を出迎え、春江という70代の女性の施術の様子を見せてくれることになった。春江は何度か治療を受けており見た目は50代といっても差し支えないほど若返っていた。春江は、肌の張りが変わってきて更年期障害も良くなったと喜んでいた。秋源の施術はマッサージから始まった。筋肉のこわばりがあると気が全身に伝わらず効果が半減するらしい。念入りに腕と背中のマッサージを終えると、最後に春江の手を取り何やら全身に力を籠め気を送った。鷹央も自分に施術してほしいと頼んだが、秋源に中学生に間違われて怒り、暴れ始めたため小鳥遊が慌てて取り押さえることになった。

若返り治療の見学から2週間、話題にのぼることもなく、すっかり興味を失ったと思っていた鷹央が再び鍼灸院へ行くという。秋源のトリックを暴く準備が整うを待っていたらしい。秋源を逮捕するためにはしっかりとした証拠が必要で、見学時にはまだ証拠がなかったのだと説明する。翌日の昼、鷹央の運転手を務めて鍼灸院へと向かった小鳥遊たちを、顔なじみの成瀬刑事とその仲間が待ちかまえていた。鷹央に言われ家宅捜索令状もとってきたという。鷹央によって大変な犯罪を暴かれた秋源は、成瀬らに逮捕された。

秋源は違法な治療を認めたものの、恋人である美奈子の母親にだけは治療をしていないと言い張っていた。彼女は自ら若返っていったと主張する。まもなく美奈子から統括診断部に電話がかかってきた。母親が秋源の子どもを妊娠している、一か月ほど前からお腹も大きくなっているなどと変なことを口にしているというものだった。そして15分ほど前から急に腹痛がすると苦しみだし、どんどん痛みが酷くなっていっているという。話を聞いた鷹央はすぐに救急車で天医会総合病院に母親を運ぶよう指示すると、産婦人科の部長に連絡をとり手術の準備をするよう伝えた。鷹央によると、母親だけは自ら若返ったのだといい、その原因となった病気について説明を始めた。

 

秋源の行為はうさんくさいプラシーボ効果的な施術かと思っていたら、若返りのトリックには本格的に人の命を危険にさらす犯罪行為が行われていました。依頼人の母親については、手術が必要な病気のせいで、若返り効果のあるホルモンが体内で分泌されていたことが分かりました。

聖者の刻印

小児科の医師・熊川となぜか皮膚科で研修中のはずなのに首を突っ込んできている研修医・鴻ノ池舞から、神様の正体を暴いてほしいという話が診断統括部の鷹央のところにやってきた。

急性リンパ性白血病で一度は寛解したものの再発して入院中の羽村里奈についてだった。2回も再発したことで医療不信に陥った母親が、奇蹟を起こす預言者から骨髄移植をしなくても里奈は完治すると言われてすっかりそちらを信じ込み、里奈への治療を拒否していた。鷹央の見立ては骨髄移植をすれば完治する可能性は高く、逆にすぐにでも治療しなければ数か月もたないかもしれないという。ドナーも見つかり移植の準備も整えてあるが、母親の了解がなければ手の打ちようがない。リミットが迫っていると熊川たちは、預言者のお告げが偽物であると証明してほしいと頼む。

里奈の病室から、かつて鷹央と対峙した詐欺師・自称霊能力者の佐山香織が出てきた。里奈の母親から頼られた時、香織も里奈は病院で治療を受けるべきだと伝えたが母親は納得せず次を探し預言者を見つけた。香織は里奈を心配して見舞いに来ていたのだった。里奈を治したいと目的が一致した鷹央と香織は一時的に協力体制をとることになった。

預言者はカトリック教会におり神父によって保護されていた。香織の手引きで礼拝堂での会合に潜り込んだ鷹央と小鳥遊は、天草炎命と名乗る預言者が目から赤い涙を流し、こちらへ向けた手のひらにじわじわと十字架が浮かび上がっていくのを見た。空気が読めない鷹央は、信者たちが集まる前で炎命の奇蹟を調べさせてほしいと言い募り、案の定たたき出された。会合には里奈の母親も参加していた。預言者の奇蹟にすがる母親は、鷹央に対しこれ以上は迷惑だから構わないでほしいと言い切った。

一度は落ち込んでいた鷹央だったが、小鳥遊に促されて里奈と面会し彼女に生きる意志があることを知ると、改めて預言者の化けの皮を剥がすと決意する。鷹央は鴻ノ池と香織を呼び出し、小鳥遊をのけ者にして何やら動き始めた。そして、ようやく全てのピースが揃ったといい小鳥遊を伴い再び協会へと忍び込むと、礼拝堂の隅の普段は椅子などがしまわれている収納スペースへと身を潜めた。すっかり炎命に心酔している神父は、バチカンに奇蹟の申請をしていた。ちょうどこの日、バチカンから奇蹟調査官が来日し彼らや信者たちが見守る中、炎命の血の涙と聖痕について奇蹟かどうかの判定が行われることになっていた。炎命のパフォーマンスが始まり奇蹟が出現した時、鷹央は収納スペースを飛び出し高らかに炎命が偽物であることを叫んだ。

 

バチカンから来たという神父たちの目の前で、みごとに鷹央は炎命のトリックを解いてみせました。炎命の2つの奇蹟ともが自分の病気を利用したものだと証明され、炎命自身の正体も暴かれました。鷹央の言葉は、頼るものを失った里奈の母親だけでなく、信仰に迷っていた神父も救ったようです。里奈は骨髄移植を受けることに決まりました。

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全方向に対して傍若無人な鷹央ですが、今回はそれがいい形で犯人の懐に切り込むという非常にすっきりした展開になって現れました。やはり探偵役にはある程度の図々しさが必要ですね。