知念実希人「天久鷹央の推理カルテシリーズ」第8弾『甦る殺人者』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「甦る殺人者」のあらすじと感想をまとめました。

死者が蘇って再び殺人を行うという不可解な事件に挑んだ鷹央たちや警察でしたが、最後は医学的にも説明のつく形で収まりました。あっと驚く結論というより、そこに至るまでの展開を楽しむ一冊だと思います。

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「甦る殺人者」書籍概要

都内近郊で若い女性が次々と首を絞められ、惨殺された。警察は現場に残された血痕のDNA鑑定を行い、容疑者を割り出すが、それは四年前に死んだ男だった…。止まない殺人劇。メディアに送りつけられる犯行声明文。これは死者の復活か。あるいは、真犯人のトリックか。天医会総合病院の天才女医・天久鷹央は事件の裏に潜む“病”を解き明かし、シリアルキラーに“診断”を下す。殺人鬼は、何者なのか。戦慄の医療ミステリー! 「BOOK」データベースより

  • 甦る殺人者 天久鷹央の事件カルテ(2017年10月/新潮文庫nex)

プロローグ

深夜の工事現場に男はいた。目の前には自分が両腕に力を込めているせいでどんどん生気を失っていく女性。自分は怪物、生まれながらの殺人者なのだから仕方がない。女性に引っかかれた時の傷から血がしたたり落ちるが男は気にしなかった。なぜなら自分はもう死んでいるからだ。

第1章 真夜中の絞殺魔

統括診断部に警視庁捜査一課の桜井と綾瀬署の三浦がやってきた。4年前、研修医時代の鷹央が死亡宣告した男が、本当に死んでいたのかどうかの確認だった。指導医と研修医2人で確実に死亡は確認済みだと返す鷹央に、桜井は奇妙な話をする。

4年前、3件の連続女性絞殺事件が発生したが、犯人は慎重に行動しほとんど証拠を残していないため未だに至っていない。そして今年、ここ3か月の間に3人の女性が深夜人気のない場所に連れ込まれ絞殺されるという事件が立て続けに起きている。通称「真夜中の絞殺魔事件」だ。犯人は凶器のロープや血痕などを現場に残している。そして4年前の犯人が唯一証拠隠滅し損ねた皮膚片と、今回の現場に残されていた血痕のDNAが一致した。警察はローラー作戦を敷き被害者に少しでも関わりがある人物らからDNAの提供を受けた。その結果、複数の専門機関から4年前の最初の被害者の会社をよく訪れている営業マンの兄弟が犯人だという結果がでた。営業マンには年の離れた兄が一人いた。だがその兄は、4年前に鷹央が死亡宣告を出した春日広大だった。

広大の死亡が確認された際、母親はパニックに陥り入信している宗教団体「癒しの御印」に連絡をとり遺体を引き取っていった。その団体は死者を蘇らせるという教えがあり、母親は広大が死んだことを信じず生き返らせようとしていた。

4年前に死んだ人間が再び犯行を繰り返している。自分の診断を疑われた鷹央は、真実を確認するためこの事件に首を突っ込み始める。当然のように小鳥遊も巻き込まれることになり、件の営業マンこと春日広大の弟、現在は婿養子に入り苗字を変えた辻章介に連絡を取った。

死亡が疑問死されている春日広大は、小学生のころ遺伝によるⅠ型糖尿病を発症したのを機に父親から虐待を受けるようになり、プレハブで出来た離れで一人で暮らしていたという。教団に絡んで章介と母親の仲は壊れており、教祖が亡くなったことで教団は空中分解し、母親は実家に戻り一人で暮らしていた。実家も離れもハウスクリーニング済で広大のものは残っていないという章介だったが、離れからインシュリンを投与したと思われる注射器などが見つかり、母親は広大をかくまっているとして警察に連れていかれた。2人は教祖の息子に会いに行くことにする。彼から広大が生き返るのを待つ墓地(癒しの土地)を聞いた鷹央は小鳥遊に命じて夜中にも関わらず墓地へと向かう。広大が本当に埋められているか確かめるためだったが、そこはまるで何かが地中から出てきたかのように、土が堀り返され蓋がぽっかりと開いた空の棺桶があるだけだった。警察が大挙してやってくるなか鷹央は、教団の再興を目論んでいる教祖の息子・火野寛太が、死者が蘇ったと世間に知らしめるために棺桶の遺体を始末したと見抜く。寛太は広大の母親から唆され、死者の復活を演出したことを白状した。だが詳しい話を聞く前に母親は自宅で自殺してしまった。

聞き込みで情報を得た警察は、何らかの事情で存在が表になっていない広大の双子の兄弟を探し始めた。真夜中の絞殺魔は広大ではなく双子の兄か弟だとすれば、特段おかしな事件でもない。一卵性双生児なら同じくI型糖尿病を発症している確率も高かった。犯人は広大の兄弟、もしくは広大のどちらかと思われるため、あとは警察だけで事件が解決できると桜井は言う。警察からの情報が得られず鷹央が焦るなか、第4の殺人事件が起きた。

第2章 溶けた怪物

4人目の被害者が出たことで桜井と三浦がが改めて鷹央の協力を求めて病院に来た。警察は4年前の事件が起きるもっと前に広大と章介の父親が「この人殺し」「お前は人間じゃない、怪物だ」と叫ぶ声を近所の住人が聞いていたことを教える。

広大と章介が生まれた産婦人科は高齢を理由に10年以上前に廃業していた。院長は存命だがカルテはすでに処分しており、2人のことは覚えていないという。警察では埒があかなくても同業者なら話が聞けるかもしれないと鷹央と小鳥遊が彼ら兄弟を取り上げた元産婦人科医・中本の家を訪ねる一方、三浦は彼らの母親が双子を生んだという情報を証言した母親の友人の所へ改めて話を聞きに行く。

中本は職業倫理をしっかりと持っている医者で、広大のことは何も覚えていないと繰り返したが、鷹央から真夜中の絞殺魔の話と「怪物」という言葉を聞いたとたん態度が変わった。何か思い出すことがあったのか、犯人を知っているかもしれないとまで言いだす。だが中本自身が確認したいことがあるので、情報は明日まで待つよう言われる。その晩、中本の家が火事になり、表向きは処分していたというカルテと中本ごと全てが燃えてしまった。

雨に濡れて読めなかった犯人が第4の現場に残した犯行声明文が復元された。だが油性ペンで書かれた本文と違い、犯人の血で書かれた署名だけは4文字のカタカナと推察される以外読み取れなかった。絞殺魔→首を絞める→シメールではないかと思いつきを口にする小鳥遊を鷹央はくだらない親父ギャグだと怒り一蹴すると、桜井達に犯行声明文の公表を控えるよう要請する。犯人はだんだんと大胆に自己顕示欲も露わになってきている。このまま警察が情報を隠していれば、犯人はマスコミ宛に犯行声明を送るだろう……つまり署名の部分に何と書かれていたのかが分かるというのだ。

三浦が母親の友人から正確な話を聞いて持ち帰った。友人は彼らの母親から「双子を妊娠したのが超音波検査で分かった」と聞いたらしい。妊娠の超音波検査の導入は広大が生まれた後に始まったものだ。つまり双子なのは広大ではなく章介の方だと鷹央は言う。このことから広大と同じDNAを持つ人間は存在しないことになり、4年前に亡くなったのは間違いなく広大であり、真夜中の絞殺魔は章介の二卵性双生児の兄弟だと確定したもの、全く手掛かりがない状態だった。

鷹央の予想通り犯人はマスコミ宛に声明文を送り付けた。だがテレビで流れる犯人からの手紙に署名は書かれていなかった。当てが外れてがっかりする小鳥遊とは裏腹に、鷹央は喜んだ。犯人は署名が全国で流れることの危険性に気づき署名が書けなかった。つまり署名さえ解読できれば犯人に行きつけるというのだ。雨に濡れてにじんだ文字はやはりシメールとしか読めないと失言した小鳥遊だったが、鷹央はそれに目を光らせ食いついた。犯人の正体が分かったと言う。桜井と無理やり駆り出した田無署の成瀬の協力の元、鷹央たちは犯人を罠にかけて捕まえるため、囮を立て第5の犯行を誘導した。

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犯人は捜査状況などを容易に手に入れられる立場の人間で、自分は絶対に捕まらないという確信のもと、犯行現場に証拠を残していました。ですが自己顕示欲が大きくなりすぎて署名を残した結果、鷹央にしっぽを掴まれることになりました。

DNAが事件の決め手という展開上、ミステリー好きや勘のいい人ならすぐに犯人にピンとくる話だったと思います。