知念実希人『神酒クリニックで乾杯を』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「神酒クリニックで乾杯を」のあらすじと感想をまとめました。

天久鷹央シリーズともリンクしているのでファンにとってはちょっと嬉しいお愉しみ、なシリーズです。

スポンサーリンク

「神酒クリニックで乾杯を」書籍概要

医療事故で働き場所を失ってしまった外科医の九十九勝己は、知人の勧めで「神酒クリニック」で働くことに。そこでは院長の神酒章一郎を初め、腕は立つが曲者の医師達が、世間に知られることなくVIPの治療を行っていた。彼らに振り回されつつも、新しい職場に慣れていく勝己。しかし神酒クリニックには彼が知らない裏の顔が。秘密のクリニックで勝己が請け負う「仕事」とは!?個性的過ぎる医師達が贈る、メディカル・エンタメミステリ、ここに開幕!! 「BOOK」データベースより

  • 神酒クリニックで乾杯を(2015年10月/角川文庫)

勝俣病院で当直中に泥酔状態で緊急手術を行い患者を死なせるという医療事故を起こしたとしてマスコミなどで叩かれ病院を辞めたあとどこにも就職先がなかった外科医の九十九勝己は、知り合いを頼って三森教授から「神酒クリニック」を紹介され面接にやってきた。高級住宅街の外れにある巽ビルの地下、面接会場に指定されたバーで勝己が会ったのは院長の神酒と、見た目は少年のようだが妖怪並みに人の考えを見抜く精神科医・天久翼だった。

登場人物

  • 九十九勝己:若手外科医。趣味は格闘技
  • 神酒章一郎:院長。凄腕の外科医
  • 天久翼:童顔で少年のような容姿ながら精神科医。黒宮の主治医でもある。
  • 夕月ゆかり:産婦人科、小児科医
  • 黒宮智人:内科、麻酔科医。
  • 一ノ瀬真美:ナース。運転が荒い
  • 三森教授:勝己に神酒クリニックを紹介した白泉医科大学の教授
  • 新庄雪子:大学時代からの勝己の先輩女医
  • 小笠原:末期癌患者。神酒達にある依頼をする

第1章

クリニックは巽ビルの5階にあった。国の要人などの”治療を受けたことを知られてはならない患者”を主に相手にする神酒クリニックでは国家レベルの守秘義務が課せられており、翼の面接をクリアした勝己は外科の実技試験も終え、神酒クリニックの一員となった。神酒、ゆかり、翼、黒宮と超一流の腕を持つ医師たちの集団に気後れする勝己に対し、ゆかりはメンバー全員が勝己と同様行き場を失った人たちの集まりで、神酒の「冒険仲間」だという。早速その「冒険」のため全員に収集がかけられた。

大手ゼネコン小笠原建設の創始者・小笠原雄一郎は末期のすい臓がんに侵されており、主治医の黒宮とサポートの翼が小笠原の家へと往診に行っていた。治療の緩和ケアはうまくいっていたが急に癌がないはずの場所まで痛みを訴えるようになり、小笠原は神酒に相談したことがあると言い出す。小笠原には戸籍上息子はいなかった。だが愛人との間に息子が一人生まれており、彼女は小笠原の反対を押し切って姿を消しこっそりと生み育てていたため、小笠原が息子の存在を知ったのは彼女が亡くなって5年以上経ってからだった。必死の息子の行方を調べた小笠原は、数か月前足立区の公園で切断された腕が見つかった事件の被害者・川奈雄太がその息子だと知る。小笠原は自分にはもう時間がないので捜査が進まない警察には頼れないといい、息子を殺した犯人を見つけて欲しいと神酒に頼んだ。小笠原が精神的に安心して治療を受けられるよう神酒は依頼を引き受けた。

バラバラ殺人事件の調査に本格的に乗り出すことになった神酒クリニックは、懇意にしている警視庁の桜井刑事から、死因は不明な事、闇金からかなりの借金があり逃げ回っていた事、才能はないがギャンブル依存症だった事などとともに雄太と懇意にしていた人物の名前を聞く。ゆかりと翼によってその人物から違法カジノのオーナー・藤原の存在を聞き出すと、カジノに潜り込んで大金を荒稼ぎすると追いかけてきた男たちを叩きのめし藤原の居場所を聞き出した。そこでようやく勝己は、面接時に格闘技歴を尋ねられた意図を知った。藤原のマンションでは運転担当の真美と勝己が駐車場待機となった。そこで暴行を受けてボロボロになった金髪の男が3人の男たちに引きずられるように車に乗せられ連れ去れていくのを目の当たりにし、追いかける。恐ろしいカーチェイスの末何とか金髪男を救出した勝己たちは、その男が藤原だと知る。藤原の状態はかなりひどく一刻を争う状況だったため、神酒クリニックで治療することにした。

第2章

先輩女医の雪子と呑んでいた勝己は、彼女から三森教授が暴力団と付き合いがあるのではないかという悪い噂を聞く。大学病院の給料は低いため、非合法で臓器売買に関わっていると言う内容だった。

意識を取り戻し話せるようになった藤原は川奈雄太のことは知っていたが殺していないという。雄太はすでに借金を全額返済しているので殺害する動機もないらしい。また藤原は雄太からキシロカインという局所麻酔薬の入手を頼まれたので引き受けていた。藤原を襲い拷問を加えた男達については心当たりがなく、「荷物はどこだ」と執拗に聞かれたが何のことだか分からないと答え酷い目にあったらしい。違法カジノの情報を桜井に流した神酒達は、代わりにここ数年、拳銃や盗品とともにヘロインが東南アジアから国内に流通し始めているが密輸ルートが分からないと教えてもらう。雄太が失踪しバラバラになって見つかる前に東南アジアに一人旅をしていた事を知った面々は、違法カジノで多額の借金を負った勇太が密輸グループと関わり借金を返済したが何らかのトラブルで殺されたのではないかと考えた。雄太には芹沢久美子という恋人がいたらしいが、桜井達が探しているにも関わらず未だ見つかっていない。雄太の借金の督促で子どもとともにどこかに身を隠しているらしい。

無人の久美子のマンションに向かった勝己たちは、黒宮のピッキングで室内に入り、翼の精神科医としての観察力でパソコンのパスワードを突破し久美子の潜伏場所を探し当てた。久美子は雄太の子どもを身ごもっていた。妊娠を知った雄太は「もうすぐ借金を返せるので待っていてほしい」と辛そうにしていたが、失踪直前は「これで胸を張って結婚できる。子どもの父親になれる」と明るかったらしい。話を聞き終え一旦は久美子の家から出た勝己たちだったが、怪しい男達が久美子の家を探していたことを知り急いで向かう。そして久美子と息子を縛り上げ何かを強引に聞き出そうとした男達を追い払い、2人を保護した。男らと争った際、勝己はあるクラブの紙マッチを手に入れた。早速クラブへ侵入し従業員の女の子達から、久美子を襲った男の一人が後藤田貿易の鍋島だと知った。

後藤田貿易は東南アジアから果物や調味料、装飾品などを輸入している小さな会社だった。社長の後藤田は暴力団のフロント企業で雇われ社長を務めていた経歴がある。川奈雄太は後藤田貿易の密輸に手を貸し麻薬の運び屋をやって殺された疑いがでてきた。クラブに現れた鍋島を真美と勝己が尾行することになった。鍋島はクラブを出るとタクシーであるカフェに向かい、一人の男と会った。相手の男を見て勝己は動揺した。勝己を神酒クリニックに紹介してくれた恩師・三森教授だった。

第3章

雪子に頼んで三森教授の周辺を探ってもらった勝己は、三森が暴力団の依頼で非合法な手術を行い大金を手にしているという情報を得る。その帰り道、雪子と歩いていた勝己は雑踏の中で男とぶつかった後ジャケットのポケットに見知らぬ封筒が入っているのに気が付いた。神酒クリニックのメンバー達と中身を確認すると、「思い出せ」と書かれた若い男の写真が入っていた。写真を見た黒宮がバラバラ殺人の被害者・川奈雄太だと呟く。勝己はバラバラ殺人についてニュースにも新聞にも触れていないにも関わらず、なぜかその男が雄太だということだけ知っていた。何か大切なことを忘れていると考えた勝己は翼の催眠術で記憶を辿ることにし、川奈雄太が勝己が医療事故で死なせた患者だったことが判明する。また医療事故は勝己の飲酒が原因ではなく、看護師によって鎮静剤を打たれた勝己が意識を失ったために起こったことだと分かった。

勝己の記憶によると、雄太は覚醒剤依存症のため以前から自殺未遂を繰り返し色々な病院に入院していた。医療事故当日、雄太は腹部から血を流した状態で運ばれ、治療を行おうとした勝己に対し看護師が鎮静剤を打って気絶させ、勝己が気づいた時には雄太と違う男が被害者として死んでいたことになる。それらのことから、雄太は借金を返済するために後藤田貿易に協力して腹部に麻薬を隠して密輸を行っていた。だが手を組んでいる勝俣病院で麻薬の取り出しを行う前に、雄太は自ら腹を切って麻薬を取り出そうと試みて失敗、急遽勝俣病院に救助を求めたまたま当直していた何も知らない勝己が治療を行おうとした。事情を知っている看護師が院長に連絡をしたため、麻薬の密輸を隠ぺいするため勝己は気絶させられ雄太も死亡したと考えられた。

勝己の医療事故は冤罪だと分かったが、話を聞こうとした三森が姿を消した。そして勝己の所へ非通知で二人きりで話したいと三森から呼び出しの連絡が入る。指定されたマンションへ行くと、そこには明らかに殺害されたと思われる鍋島の遺体があった。少しずつ大きくなるパトカーのサイレンに、勝己は三森にはめられ鍋島殺害の容疑を掛けられたことを知り、マンションから逃げ出した。

神酒クリニックの入る巽ビルまで何とか戻ってきた勝己は、神酒クリニックのメンバー達から鍋島殺害容疑がかかっていることを指摘され、クリニックが動くタイミングに合わせて様々な事が起こるのは内部にスパイがいるからだとして、三森と通じて神酒クリニックに入り込んだスパイ容疑までかけられてしまう。必死に否定する勝己に対し、院長の神酒はどこかから手に入れたらしい拳銃を取り出すと勝己へと銃口を向け引き金を引いた。

□□

スパイ容疑等々はお芝居で、神酒クリニック内でのやりとりを盗聴している人間たちを油断させ一網打尽にするためのものでした。

また麻薬の密輸に関わっているとされた三森ですが、本当の黒幕は別にいました。知らず知らずのうちに勝己は今回のバラバラ殺人事件の中心にいたようです。最終的に事件は無事解決し、依頼人である小笠原も残り少ない時間を悔いなく過ごせそうです。

 

状況がスピーディーに展開し、めまぐるしく二転三転する読み応えのある1冊でした。続編もあるようなので楽しみです。