知念実希人「レゾンデートル」あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「レゾンデートル」のあらすじと感想をまとめました。

主人公の岬雄貴のほか、様々な登場人物へと目まぐるしく視点が変わりながら話が進むという形式になっていて、それぞれの立場から見ているものが最終的に一つになっていきます。

最初に読んだ作者の著書が「天久鷹央シリーズ」だったので、知識を活用した医療系ミステリーというイメージが強かったのですが、割とバイオレンスなものも多く書かれるのを知りました。今回はシリアルキラーを追うということもあり、かなりの数の死者がでています。

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「レゾンデートル」書籍概要

末期癌を宣告された医師・岬雄貴は、酒浸りの日々を送っていた。ある日、不良から暴行を受けた岬は、復讐を果たすが、現場には一枚のトランプが―。そのカードは、連続殺人鬼「切り裂きジャック」のものと同じだった。その後、ジャックと岬の奇妙な関係が始まり…。最注目作家、幻のデビュー作! 「BOOK」データベースより

  • 誰がための刃 レゾンデートル(2012年4月/講談社)
  • レゾンデートル(2019年4月/実業之日本社文庫)
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第1章 否認

外科医としての経験も積みこれからという時期、胃の不調から軽い気持ちで診察を受けた岬雄貴は、もはや手術ができない末期癌の宣告を受け、茫然自失のまま同僚で元恋人の真琴の入院治療のすすめも断り病院を休職し、自宅に引きこもってアルコール浸りの日々に陥っていた。そんな時酒を購入したコンビニで、赤毛と銀髪の2人組の不良に絡まれボコボコにされる。なぜ自分なのか、自分の人生と一体何だったのかと癌宣告以来空虚に過ごしていた岬は、2人への憎しみの気持ちが生きる目的となり、爆音を立てながらバイクで去って行く2人組への復讐を決めた。

両親が亡くなり引き取られた親戚から疎まれた南波沙耶は、東京に出てきたもの生活にも困りネットカフェで何とか生き延びつつバイト先で知り合った恵美の誘いで、きわどいモデルのバイトをして食いつないでいる日々だった。恵美はお姉さんのような存在で、気持ち悪いカメラマンの佐川から沙耶を守ってくれる。ある日佐川はバイト代は上げないけれど瑪瑙のペンダントをしばらく預かってくれれば5万円出すという。複雑な事情のあるペンダントについて訊かないことも5万円のうちに含まれていた。うさんくさいペンダントの保管を引き受けた恵美だったが、それは沙耶の生活費を稼ぐためだった。帰り道、恵美は報酬全額は沙耶のものだといいペンダントを沙耶に預けた。

刑事の松田はここ半年で10人以上の被害者を出しているシリアルキラーを追っていた。殺人鬼は何らかの犯罪に関与しつつも法律で裁かれなかった人間をターゲットにしており、世間の一部では英雄視されていた。現場にはスペードのジャックに赤字でRと書かれたトランプが残されているが、それは警察だけが知っているものだった。ターゲットの頸部を切り裂くという手口でJack the Ripper(切り裂きジャック)を彷彿させる事件から、マスコミは犯人を「ジャック」と呼び始めていた。

復讐のため体を鍛えた岬はあちこちで不良狩りをしつつ目的の2人組を見つけ出す。銀髪に逃げられつつもリーダー格の赤毛との格闘の末何とか復讐を果たす。岬の足元には首筋から大量の血を流す男がいた。

第2章 怒り

赤毛殺害現場で警察や野次馬が大勢集まるなかにジャックがいた。人目につかないようトランプを現場に置くと、ジャックは銀髪の住むアパートへと向かう。格闘の際岬が落とした財布を拾った銀髪は、赤毛を殺した人間を知っているとジャックに白状する。銀髪を殺しジャックは岬の財布を手に入れた。

岬の所に免許証だけが抜かれた財布とトランプ、封筒が送られ、ジャックを名乗る人物から電話が掛かってきた。ジャックは岬の殺人の証拠を握っていると脅迫し、封筒の人物をジャックとして殺すよう求めてきた。最初は拒絶した岬だったが、最終的にはジャックの要求を受け入れた。

恵美のおかげで沙耶は部屋を借りるお金もでき普通のバイトも始めた。シンガーソングライターになるという沙耶の夢のため電子ピアノも購入した。休日、何気なくつけたテレビから、カメラマンの佐川が山林で射殺体となって発見されたというニュースを目にする。恵美の家へと向かう途中、恵美から電話がかかってきた。ペンダントを持ってすぐに来てほしいと言いながらも様子がおかしい。殺されるからすぐに逃げてという叫び声とともに電話の向こうで銃声が響いた。訳が分からないまま自宅へと逃げ帰る沙耶だったが、白いバンに乗った男たちに囲まれ車の中に引きずり込まれようとしていた。

最初はぎごちなかったもののジャックから送られてくる指示をこなすうち、岬はスムーズに殺人を行えるようになっていった。ジャックからの指示の帰り道、岬は得体のしれない男たちに拉致されようとしている大学生くらいの女性を助けた。マンションに帰れないし田舎にも戻れないという沙耶をごはん作りを条件に成り行き上家に置くことになった岬は、沙耶から友人が殺されたと告白される。ニュースでは、顔に殴られ跡のある恵美が椅子に縛られた状態で胸を撃たれて殺されていたと流れていた。

松田と石川のコンビは赤毛の男を殺害した犯人が乗っていたというバイクを追って岬のマンションに来ていた。岬から話を聞いた石川は、医者だという岬は犯人ではなさそうだと感想を漏らしたが松田の目にはそうは映らなかった。

沙耶がいつも身に着けているペンダントが恵美からの預かり物で依頼人の佐川も殺されたと聞いた岬は、ペンダントの中からSDカードを発見した。2つのフォルダが入っており1つはパスワードでロックされて見れず、もう1つは飲食店らしき場所で隠し撮りした写真数枚と数字とアルファベットが羅列したメモだった。

ジャックの記事を専門に書いている記者・宇佐美に正体不明の男から電話がかかってきた。自分の持っている情報を教える代わり調べてほしいことがあるという。男が指定した日の時間帯、予告通り被害者が出た。自分はジャックではないという男を信じ切れずにいる宇佐美に対し、男は警察がまだ発表していない情報として犯行現場に赤字でRと書かれたトランプが残されていると教える。

宇佐美との取引が成立した岬は、人目を避けた喫茶店で宇佐美から情報を受け取る。1つは宇佐美の持つジャック事件の情報、もう1つは時効成立後に犯人が判明し、かつその犯人が殺されている事件についてだった。後者は1件しかなかった。

SDカードの写真の情報から、沙耶は援助交際を行っているカフェを順番に当たっていた。その一つでようやく写真に写っていた少女を見つけて話を聞くことができた。少女は佐川から頼まれてコオロギという名前の男を誘いわざと制服姿でホテルに入っていく写真(SDカードに入っていた物)を撮られていた。その後佐川からコオロギが首を吊って自殺したと聞かされたらしい。少女が自分ならパスワードのロックが解除できるかもしれないというので、また会う約束をした。

第3章 取引

だんだんと体が病魔に侵されていくのを感じながらも、岬は宇佐美から手に入れた坂本光男が殺された事件がジャックの最初の犯行だと考えた。坂本は「茨城女子高生殺人事件」が時効を迎えた後、未解決事件を取り上げるTV番組に自ら電話をして取材を受け、それが残虐な殺人者の身勝手なざれごととして番組で流されたためネットで個人情報が晒されたりマスコミや野次馬に糾弾されていた。それらの騒ぎが収まった頃、自宅近くの路上で首を切られ殺されていたのが発見され犯人は未だ見つかっていなかった。

岬は坂本の被害者となった女子高生の住んでいた地域の当時の噂話などを集め、警視庁の松田と偽って母校を訪ねて当時の教師から話を聞いた結果、ジャックの正体は女子高生の兄ではないかと見当をつけ兄の住む部屋に忍び込んで待ち伏せしたが、詰問の結果、兄はジャックではないと分かった。

松田は捜査本部の中で冷遇されていた。「ジャック複数犯」説を唱えたが、その直後に複数犯を否定する物証が見つかり、ジャックの一人だと目する外科医の岬のアリバイも証明されたからだ。おまけにその物証を見つけたのが、ライバルである田中という刑事だったのも屈辱だった。慇懃無礼、気障な口調の田中の背中を睨みつけることしか松田にはできなかった。

殺された女子高生の兄がジャックではないと知った岬は、彼女の交際相手がジャックではないかと考え、当時の女子高生と仲の良かった女性に電話をする。そして被害者と同じ剣道部だった先輩・川原丈太郎の存在を知り勤務先、連絡先を聞き出す。聞いたばかりの番号に184の非通知で掛けた岬は、応答する声に川原こそがジャックだという確信を得た。

第4章 抑うつ

援交カフェで知り合った少女にロックを解除してもらった沙耶は、細かい字の書かれた書類の画像を手に入れた。目を凝らして「レピシエント」「ドナー」「最終確認」「青陵医科大学付属病院」「楠木優子」などを読み取る。そして少女が探してくれたコオロギの名刺を確認すると、そこには「移植コーディネーター」と書かれていた。

少し前から岬は麻薬性の鎮痛剤を飲み始めた。痛みが治まるのをじっと耐えていると部屋をノックする音が聞こえた。慌ててぶちまけた薬を集めて隠すと、沙耶を招き入れる。最近疲れているように見えると心配する沙耶を誤魔化し要件を促すと、一緒に病院へ行ってほしいという。青陵医大は休職中の岬の職場だった。

白衣と自分のカードでICUに忍び込んだ岬は、楠木優子という患者を見つけ出しカルテを読んでいった。慢性骨髄性白血病の優子は、一度は寛解しドナーを探しながら経過観察を行っていたが症状が悪化、その後は急速に状況は悪くなる一方だった。ドナーが見つかり最終合意後に移植を行う予定だったが、合意には至らず移植も中止、カルテの情報によると既に手遅れで移植もできない状況に陥っているという。ICUに優子の身内と思われる人間が姿を見せたが、白衣姿の岬が診察中だと思ったのか一礼をして部屋を出ていった。その男に見覚えがあった。沙耶を拉致しようとした男だった。

ICUに入れない沙耶は岬を待つ間、岬の部屋で拾った薬が気になり、看護師に落とし物だと偽って届けつつさりげなく薬のことを聞き出すが、癌患者に処方する痛み止めの麻薬だと知りショックを受ける。

自宅へ戻った岬はICUに侵入して分かったことを今までの情報と合わせて沙耶に話して聞かせる。おそらく佐川と恵美を殺し沙耶を拉致しようとした男達は、楠木優子の兄とその部下達だった。兄は骨髄移植に最後の希望を託していたが、最終合意前にドナーの妊娠が分かり中止となった。だが合意に至らなかった理由やドナー自身の情報は厳重に保護され楠木側には伝えられない。兄は移植のため何としてもドナーに会って説得を試みようとし、どういう経路をたどったのか佐川が依頼されコーディネーターのコオロギに接触した。佐川は隠し撮った援交の写真でコオロギを脅してドナーの情報を手に入れた。コーディネーターとしての禁忌を破ったコオロギは罪悪感から自殺し、佐川はドナーの情報料を楠木(兄)にふっかけた。荒事を厭わない楠木達は佐川を痛めつけドナー情報の隠し場所を知ると佐川を射殺し、恵美の部屋へ押しかけるとペンダントのありかを吐かせ沙耶を呼び出させたが土壇場で恵美は沙耶へ逃げるよう伝えた。たとえドナーが見つかっても優子の状態はすでに手術に耐えらないところまで来ているが、楠木の暴走は優子が死ぬまで止まらないだろうと岬は言った。

沙耶に問われ岬は末期癌であることを認める。長くてあと三か月でもっと短いかもしれない。岬は定期預金を崩した金を詰めたバッグを沙耶に渡すと感謝の言葉を述べ、楠木の暴走が止むまでの間どこかに隠れているよう促すが沙耶は拒否するとお互いの気持ちを確かめ合った。翌朝、ポストにジャックからの新たな指示が届いていたが、岬はターゲットを確認することもなくコンロの火で灰にした。残りの時間は全て沙耶を守るために使うことを岬は決めていた。

期限が過ぎてもターゲットが殺されないことに不審を抱いたジャックは公衆電話から岬に掛けるが、吹っ切れた様子の岬にもう仕事はしないと通話を切られる。直後にジャックの携帯電話に岬から着信がある。川原がジャックの正体であること、電話どころが職場も、坂本の殺害に加え茨城の女子高生事件のことも岬は知っていた。岬は自分の余命が残り少ないことを告げると、秘密を墓場まで持っていく代わりにこれ以上人を殺すなと取引を持ち掛けてきた。岬の提案を呑んだ川原は、どうやって岬を始末するか考え始めた。

松田は岬のマンションへ来ると沙耶に接触し、岬がジャックではないかと揺さぶりをかける。動揺した沙耶は部屋に戻ると岬の自室に侵入し、引き出しから血の付いたナイフとトランプを発見した。そして帰宅した岬を拒絶するとマンションを飛び出していき、街をうろつくうちにとうとう楠木達に捕まった。一方沙耶を追いかけようとした岬だったが階段を転がり落ち、血の混じった胃液を吐く。松田が救急車を呼ぶ声を聴きながら岬の意識は薄れていった。

第5章 受容

青陵医大に入院する岬のもとに川原から、恋人(沙耶)が拉致されたと連絡が入った。犯人は楠木優子の異母兄、楠木組の若頭の楠木真一だという。どこに拉致されたか分からないと川原が言うが、岬は沙耶を自分の命に代えても沙耶を助けると誓った。食事もとれないほど弱っていたが、ナースステーションから盗み出した薬で一時的に体力を回復させると、主治医の真琴を振り切り自主退院という形で病院を出る。そしてジャックに関する特ダネ、楠木真一に関する一連の事件などの情報と引き換えに、記者の宇佐美から楠木真一の潜伏先リストを手に入れ沙耶のいる場所を突き止める。

岬が退院したことを知らされた松田と石川は急いで岬のマンションに向かった。その途中、田中の居場所が分からないと連絡がきたがそれどころではない。岬の部屋は鍵がかかっていなかった。勝手に侵入し家探しをした松田たちは、ゴミ箱の中から長野にあるとある避暑地の住所が書かれたメモを見つけ、捜査会議を放り出してそちらへ向かった。

岬には隠したが、川原は沙耶や楠木たちの居場所を知っていた。そこに予想通り岬がバイクでやってくるのが分かった。岬が首尾よく沙耶を助けようが楠木達に返り討ちにされようが、川原にはどちらでも良かった。どう転んでもここで岬を始末し、岬に情報を提供している人間もどうにかするつもりだったからだ。暗い林の中、楠木達が潜伏する建物へと向かう岬を川原も追いかけた。

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最後の対決となった場所で、最終的に生き残ったのは沙耶と松田とコンビを組んでいた石川だけでした。岬の持つ情報を余すことなく手に入れた宇佐美は、2つのスクープをすっぱ抜き事件記者として名をあげました。その後はフリーになって活躍しているようですが、ジャックの共犯だった岬については公表しても構わないと言われていたのですが最後まで伏せたようです。沙耶も夢だったシンガーソングライターの道を進み始めたようです。

 

結構な厚みがある本でしたが、怒涛の展開に引き込まれ一気に最後まで読み終わってしまいました。余韻も満足感も十分でした。