知念実希人『リアルフェイス』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「リアルフェイス」のあらすじと感想をまとめました。

天才的な腕前を持つ美容形成外科医・柊と、柊のクリニックで法外なバイト料で雇われた麻酔科医の朝霧明日香、クリニック唯一の看護師・一色早苗を中心に、美容形成を希望する客たちの悩みを解決していく話ですが、話が進むにつれ柊自身の謎というところに焦点が当たっていくという二段構えの長編ものでした。

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「リアルフェイス」書籍概要

美を創り出す芸術家のように、依頼者の顔を変える天才美容外科医・柊貴之。金さえ積めばどんな要望にも応える彼のもとに、奇妙な依頼が舞い込む。いまの妻の顔を前妻の顔に変えろ、ある男を別人にしてほしいなど。さらに、整形美女連続殺人事件の謎が…。予測不能の一気読み医療サスペンス×ミステリー!「BOOK」データベースより

  • 改貌屋 天才美容外科医・柊貴之の事件カルテ(2015年5月/幻冬舎文庫)
  • リアルフェイス(2018年6月/実業之日本社文庫)【改題】
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第一章 芸術を刻む外科医

研究のため大学院に入学した麻酔科医の朝霧明日香は、お洒落なビルの15階にある「柊美容形成クリニック」の院長・柊貴之に腕を見込まれ月収100万円のアルバイト料に釣られて働くことになった。自らを天才と称して憚らない柊は、美容形成は自由診療のため値段は自分で決められるから儲かると言い放ち、明日香が初めてクリニックで担当する顧客に対し3千万円という値段を吹っ掛けた。しかも引き受けるかどうかは未定だといい、美容形成手術を受けるに至った詳しい話を求める。

顧客は巨大企業の会長で70歳は超えていると思われる二階堂彰三、依頼内容は孫と間違えそうなほど年の離れた妻・莉奈を若くして死別した元妻の顔に変えてほしいというものだった。莉奈と元妻の幸子は顔立ちは似ているがそっくりにするのはおかしいと反発を覚える明日香だったが、柊は2回目の面談のため莉奈の家へと向かう。莉奈は彰三の家族に結婚を猛反対されているため本邸には住めず、私邸で暮らしていた。実は凄腕の実業家だった莉奈は最初の面談時の従順さを脱ぎ捨て遺産目当てだと告白した。彰三は末期がんに侵されており余命がほとんど残っていない。彼は莉奈が顔を変えてまで自分の願いを叶えようとしていることに罪悪感を覚え、5等分するはずだった遺産の半分を莉奈が受け取れるように遺言を書き換えようとしていた。自分の持っている物の中で今最も価値があるのが顔だと言い切った莉奈に対し、柊は手術を引き受けることにした。

柊の考えには納得できないものの、天才だと豪語するだけあって彼の手さばきは芸術的だった。2週間の入院後、元妻そっくりの顔を手に入れた莉奈は、本邸で命が尽きかけようとしている彰三のもとに向かい、苦労を掛けた末病死した元妻に詫びたいという彰三の最期の願いを叶えた。

 

遺産目当てだと言い切った莉奈でしたが、本意は別の所にありました。結果的に柊に嘘をついた形になったのですが、それも含めて胸の内をさらけ出した莉奈を美しいと称した柊は、手術を引き受けることに決めたようです。

第二章 仁義なきオペ

3年前に開業したという柊美容形成クリニックの最初の客が早苗だったとお茶を飲みながら本人から聞いた明日香は驚く。なかなか柊の価値観が理解できない明日香に対し、早苗は院長の手術で幸せになった人間は多くいると話す。

今回の客はやくざの組長・鷲尾竜之介、一緒に連れてきた鈴木という男の顔を変えてほしい、手術をする場所は鷲尾が指定する病院でという依頼だった。すごむ鷲尾に対し顔を変えようと思った背景を聞いてからでないと受けるかどうか判断しないと平然と返した柊に鷲尾は負けた。鈴木の正体は、鷲尾が愛人に産ませた息子・浜中竜也だった。愛人は出来た女性だったが竜也はろくでなしで、母親が死ぬや否や楽をできると踏んだのか鷲尾のもとに息子だと名乗り出てきた。だが鷲尾には既に息子たちがいるため竜也の存在は危険でしかない。仕方なく知り合いの組の経理として潜り込ませたものの竜也はそこで2億円の横領をして水商売の女につぎ込んだ。普段なら見捨てる鷲尾だが、竜也には5歳になる娘がいて非常に父親に懐いていた。孫娘を路頭に迷わせないため、鷲尾は秘密裡に竜也の顔を変えて逃がそうとしていたのだった。柊は2千万で引き受けた。

犯罪者を庇うような行為の柊に対し反発を覚える明日香のところに、フリージャーナリストの平崎信吾が柊貴之について話を聞きたいと接触してくる。そして柊が「4年前の事件」に関わっていると仄めかしていく。

明日香たち3人は鷲尾の指定した病院へと向かい院長に出迎えられる。手術を始めようかというタイミングで鷲尾から連絡が入った。鷲尾の長男が竜也のことをかぎつけ殺し屋を差し向けたから逃げろというのだ。だが間に合わず竜也は腹部を撃たれた。救急車で別の病院に運ぶ時間がないと判断した柊は、自分が執刀すると言い院長にありったけの輸血用血液製剤を集めるよう指示し、茫然とする明日香を叱咤し手術を開始した。形成外科医の柊だったが、高度な外傷手術もこなし竜也は一命をとりとめ、ついでにそのまま顔も変えた。

報酬も上乗せされ孫娘も路頭に迷わずに済んだ。だが病院ぐるみで証拠隠滅をはかるのに明日香が納得できない。早苗はルールから外れる柊のやり方を認められないのも仕方ないと言った。病院からの帰り際、明日香は平崎から言われた言葉を思い出し柊にぶつけてみた。「弟子みたいな人はいないのか」と。予想外の動揺を見せる柊に、明日香も驚くばかりだった。

その頃、亀村真智子という女性看護師が行方不明の末遺体で発見され捜査本部が立った。発見時の状況は4年前の連続猟奇殺人事件そっくりで、当時犯人と目されている人物は未だに逃亡中だった。模倣犯の可能性も捨てきれないものの4年前の事件を追っていた黒川は、神楽誠一郎が戻ってきたと確信していた。

第三章 虚像の破壊

手術の腕は天才的だがそれ以外は壊滅状態の柊が、風邪で休んでいる早苗に代わり紅茶を煎れてくれたが見るからに不味そうなものだった。そんな自分の紅茶を棚上げし美味しいものを煎れろと明日香に命じ、やってきた客に応対する。今回の客は芸能会社社長の藤井舞子とそのマネージャーの草柳だった。

舞子は天城舞という芸名で女優をやり一時期売れていたものの、今ではすっかり鳴りを潜めている。舞子はデビュー時に事務所社長に顔が地味だから売れないと言われたのがトラウマになっているのか、今までに大掛かりな美容形成手術を何度も受け、パーツは美しくなっているがどこか不自然な印象を受けた。舞子は腕の良い医者を探し求め柊のもとに辿り着いたのだった。麻酔科医を明日香以外にしろと要求する舞子を突っぱねた柊は、手術は失敗する可能性もあることを伝え合意のうえ受けるように言い草柳も今のままで十分だと手術に反対するが、舞子は受けると即答した。

面談を終え舞子と草柳が帰っていったあと、柊は舞子が醜形恐怖症という精神疾患にかかっていると指摘する。どんなに顔を美しく変えても本人には醜いと映ってしまい際限なく手術を繰り返す。治療はかなり難しいが治せないとは言っていないと柊は明日香に言う。そんな時、2人組の刑事がクリニックにやってきた。黒川と名乗った刑事は、柊に神楽誠一郎について尋ねる。日本で神楽が頼れるのは師匠である柊くらいだと言うのだ。神楽は4年前、悪質な医療過誤を起こしたと訴えられたあと、4人もの女性を次々に殺して世間を震撼させタイに逃亡したのち、現在も行方が分からないままの男だった。明日香が平崎にそのことをぶつけると、彼は柊も4年前にタイに渡ったことを教えてくれた。平崎は柊がタイで神楽の顔を変えた可能性を示唆し、事件解決のために力を貸してほしいと頭を下げた。

柊のクリニックでは手術後2週間の入院とその間鏡を見てはいけないという決まりがあった。2週間後、顔の包帯を取った舞子の顔は見るも無残な状態に変貌していた。鏡を見た舞子は悲鳴を上げた。病室に飛び込んできた草柳も舞子の顔に驚愕し、怒りを浮かべ平然と報酬を要求する柊を殴りつける。だがあれほど美しさを求めていた舞子の心は、絶望を通り越したのか不思議と何も感じなかった。醜い顔を受け入れ始めた舞子に対し、柊は「天城舞」は消えたと言う。その瞬間、舞子の肩の荷が下りた。

草柳からの唐突なプロポーズを舞子が受けたことで一件落着となった柊たちだったが、クリニックが放火されたと連絡を受け茫然とする。消火の終わった部屋の奥の壁から、神楽の署名入りの柊の命を狙っているかのようなメッセージが見つかった。消防隊員から神楽という名前に心当たりはないかと聞かれた柊は、まったくないと答えると同時に明日香にクビを言い渡した。

第四章 二枚のペルソナ

唐突に明日香をクビにした柊と早苗がぷっつりと姿を消した。大学院の論文をまとめようにも明日香の手はすぐに止まり、気持ちは柊たちへと向いてしまう。平崎に頼まれ、明日香は伝手を頼って柊貴之について調べると同時に、神楽が医療過誤を起こしたという手術に立ち会った病院の院長を探していた。平崎は亀村真智子の事件も神楽が犯人だといい、自分が立てている仮説が立証されれば4年前の真相を明らかにして神楽を逮捕することができると言ったが、仮説については教えてくれなかった。

研究室からの帰宅中、明日香は誰かに尾けられている気がした。マンションに戻るとポストに茶色い封筒が入っているのに気付く。中には4年前の連続殺人の被害者4人の手術記録が入っていた。執刀者の欄には柊貴之のサイン。神楽は、柊の美容形成手術を受けた女性を次々に殺していたのだ。それが事実なら、莉奈や舞子、早苗を始めとした柊の顧客たちが危ない。茶封筒が郵送ではなく直接ポストに入れられたことに気づいた明日香は、震える手で平崎に電話をかけた。平崎は出張中ですぐに明日香の所には行けないといい、警察に届けるようアドバイスした。だが肝心の警察に軽くあしらわれ恐怖の一晩を過ごした。

翌日黒川刑事らの訪問を受けた。黒川は警察の対応を詫びたあと柊の行方を知りたいと言うが、電話すら繋がらない明日香にも彼らの所在は分からない。出張から戻ってきた平崎がビジネスホテルを取ってくれ、明日香はそこに避難することになった。家で着替えをまとめている最中、早苗から電話が入る。尾行は明日香の身を心配した柊が探偵を雇ったものだと分かったが、手術記録については覚えがないと言う。明日香が2人の居所を聞く前に、早苗は誰も信じず誰にも知られず一人でどこかに隠れるよう伝え電話を切った。

平崎が探していた院長が見つかり、誰にも他言しないと約束したうえで明日香だけが面会が叶った。院長は神楽を幼い頃から知っており、彼の親が亡くなった後、後見人になったという人物だった。神楽が医療過誤を起こして幼い子どもを死なせたというのは雑誌や視聴率が欲しいマスコミのでっち上げで、事実は異なると主張し続けたが黙殺されたという。車にはねられた我が子を母親がすぐそばの病院に自ら運んできたがほぼ手遅れの状態で、他の病院に搬送しても間に合わないと分かった。美容外科が専門だがアメリカで修業し外傷手術も数こなしてきた神楽は、自分が処置を行うといい執刀したが駄目だった。その時の神楽の様子をまさに魔法のような手際だったと院長は称した。

明日香の頭に嫌な考えが浮かんだ。柊貴之こそが神楽誠一郎ではないか。4年前にタイに渡った神楽はそこで顔を変え柊と入れ替わった。その考えは、平崎の仮説と一致していた。平崎は自分は貴之の甥の柊真一だと明かした。自分のDNAと柊貴之のDNAを鑑定して血縁関係がないと証明されれば、柊=神楽として告発できるといい、改めて明日香に協力を依頼した。

明日香の知っている柊は金の亡者で違法な行為も厭わない人間だが、確かに彼の手によって幸せを手に入れた人々は存在する。早苗から電話がくることになっていた明日香は、自分はどうすべきなのか決められないまま着信音が鳴り響くスマートフォンを手に取った。2日後、明日香は柊真一の運転する車で、柊と早苗がいる森の中の隠れ家のそばまで来ていた。

エピローグ

隠れ家は神楽誠一郎=柊貴之の仕掛けた罠で、一人で隠れ家へと入っていった明日香も爆発に巻き込まれたが何とか無事だった。神楽誠一郎は怪我を負い病院に搬送されたものの、最終的には刑事の黒川らに追い詰められ自殺した。一連の事件は犯人の自殺で決着がついた。

柊から4年前の事件の真相を改めて聞いた明日香は、二か月後、元の状態に戻ったクリニックで改めて迎えられることになった。

 

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美容整形外科手術を利用した、顔だけでなく人生そのものも入れ替えてしまうという大胆なトリックでしたが、最終的には良い形で落ち着いたようで良かったです。

メインの事件は解決しましたが、クリニックにやってくる客が抱える美容形成にまつわる様々な事件を扱うという短編ものあたりでシリーズ化してほしいです。