知念実希人「死神」シリーズ第2弾『黒猫の小夜曲』あらすじとネタバレ感想

知念実希人さんの「黒猫の小夜曲」のあらすじと感想をまとめました。

前作の「優しい死神の飼い方」で主人公のレオ(犬)の同業として登場した”道案内”が猫に身を変えて地縛霊化した魂の未練を断ち成仏させていきます。一つ一つの魂と向き合っているうち、彼ら彼女らが全員関係した一つの大きな事件に行き当たるというストーリーでした。

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「黒猫の小夜曲」書籍概要

黒毛艶やかな猫として、死神クロは地上に降り立った。町に漂う地縛霊らを救うのだ。記憶喪失の魂、遺した妻に寄り添う夫の魂、殺人犯を追いながら死んだ刑事の魂。クロは地縛霊となった彼らの生前の未練を解消すべく奮闘するが、数々の死の背景に、とある製薬会社が影を落としていることに気づいて―。迷える人間たちを癒し導く、感動のハートフル・ミステリー。「BOOK」データベースより

  • 黒猫の小夜曲(2015年7月/光文社)
  • 黒猫の小夜曲(2018年1月/光文社文庫)

第1章 桜の季節の遺言状

友人の同業者(レオ)の成功によって地上での任務が増員になり、なぜか”僕”が選ばれた。黒猫として地上に降りて数十分、僕は命の危険に晒されていた。ボスがカラスの巣の上に僕を落としたからだ。命からがらカラスから逃げる僕を助ける声があった。声の正体は淡く輝く球体……地縛霊化した魂だった。生前の記憶がないという魂は、生き返らせてくれたら何か思い出すかもというが僕にそんな力はない。魂は2か月前に事故に遭い意識が戻らないという20代くらいの女性の部屋に案内すると、この体を借りられないかと言う。他の地縛霊の居場所も知っているしごはんもあげるという交渉により、僕はその魂を眠っている女性・白木麻矢の体に移した。起き上がった女性は、つややかな黒毛の僕を「クロ」と名付けた。

毛繕いや猫集会とすっかり猫としての基本行動をマスターしたクロは、麻矢の案内で高級住宅街の屋敷の庭に漂う魂を見つけた。あまり言葉が話せない魂からは「か…じき」としか聞き取れない。魂がいた家には仏壇の前で虚ろな目でぼんやりしている初老の女性がいた。どうやら写真の人物が魂の主で、女性は魂の妻らしい。名前は南郷菊子。クロは菊子の意識とシンクロし死んだ夫のことを知ることにした。夫の名前は南郷純太郎。寡黙で研究一筋の男だったが、会社を経営する父親の死をきっかけに研究から離れ社長として会社を大きくしていった。3年前に長男に社長を譲って会長になってからも忙しくサポートで動いている。ある日、家にいる菊子に純太郎から電話が掛かってきた。何か伝えたいことあるのでそのまま家にいてほしいという。しばらく待っていたが夫は帰ってこない。息子からの電話で純太郎がトラックに轢かれて死んだことが分かった。警察は夫の死は自殺だという。純太郎の方からトラックに飛び込んでいったという目撃情報もあり、遺書のようなものも持っていたからだ。遺書の文字は滲んでかすれていたが、菊子を恨んでいるような文句が読み取れた。菊子は、夫を自殺するほど追い詰めてしまったとずっと自分を責めていた。

夜中、再び屋敷にきたクロは菊子の夢に侵入すると、純太郎は菊子を恨んでいたのではなく感謝していたことを証明してみせた。純太郎がトラックに飛び出したのは、自殺ではなくひったくられた自分のバッグを追いかけたものだと結論づけた。きっとその中には菊子へのプレゼントが入っていたに違いない。目を覚ました菊子は確かめなきゃと呟くとまっすぐに河川敷へと行き一心不乱に探し始めた。「か…じき」は河川敷だとクロは気づいた。河川敷で見つかったバッグにはプラチナの指輪と菊子への感謝を綴った手紙が入っていた。菊子の誤解も解け未練が解決した純太郎の魂は、しばらく菊子に寄り添ったあと道案内に連れられて天上へと昇っていった。

第2章 ドッペルゲンガーの研究室

2つ目の魂は「人食いの廃墟」と呼ばれる建物で見つけた。通りがかった人を中に誘い込んで食べてしまうらしい。魂は千崎と名乗る元刑事だった。

千崎は小泉昭良という男を追っていた。容疑は妻殺し。学生結婚し同じ会社に就職した妻の沙耶香が何者かに背中を一突きされ、橋の上から遺棄された。刑事の勘で昭良は犯人ではないと考える千崎だが、何か隠していると釈放した後もペアを組んだ久住とともに尾行を続けていた。昭良は職場であるサウス製薬の研究棟に入ったまま出てこない。久住に見張りを任せて紗耶香が遺棄された河川敷へと向かった千崎は、そこで昭良を見た。いつのまにどうやって研究棟を抜け出したのか。昭良の尾行を始めた千崎だったが路地だらけの民家が立ち並ぶ辺りで見失った。久住は絶対に昭良は研究棟から出て行っていないと断言し、千崎の見間違いがドッペルゲンガーではないかと笑う。夜が明け社員たちが出勤しはじめる。まもなくパトカーがやってくる。研究棟で昭良がサバイバルナイフで首を切り死んでいた。昭良の死は自殺と処理され、昭良を追い詰めたとして千崎一人が責任を取らされることになった。直後千崎は倒れた。末期のすい臓がんだった。退院後警察を退職した千崎は独自に事件を追い続けた。サウス製薬の会長・南郷純太郎が小泉夫妻が入社した頃から自費で様々な研究機器を購入して研究棟に持ち込み「秘密の研究」をしていたことを知る。小泉夫妻の死から1年後、南郷純太郎がトラックに撥ねられて死亡し、それとほぼ同時期に「秘密の研究」の参加者とおぼしき男が行方をくらました。千崎の体は限界に近付いており、丘の上の病院に入院した夜に昏睡状態に陥りそのまま息を引き取った。

沙耶香が発見された河川敷でクロは弱々しい魂を見つける。沙耶香かと尋ねるとわずかに反応する。家に戻ったクロは麻矢に見聞きしたことを話し対策を考える。そして再び千崎の魂の所へ行くと、昭良が死んだ夜に何があったのか教えると告げた。千崎が昭良を見失った辺りには昔南郷夫妻が暮らしていた家があった。その家とサウス製薬の研究棟が繋がっており、昭良はその秘密の通路を使って外に出入りしていた。昭良には協力者がおり、その協力者が昭良を殺したとクロは考えた。昭良の首を切ったナイフには沙耶香の血痕も検出されており、つまり昭良を殺した犯人は沙耶香も殺したと思われる。自分が昭良を追い詰めたのではないと知った千崎は、クロに事件をメモしたノートを託し成仏していった。

千崎を迎えに来た同業者から、南郷純太郎は自ら車道に飛び出したのではなく背後から誰かに押し出されたという衝撃の事実を聞く。ひったくりというクロの推理は間違っていた。そして「秘密の研究」に関わっていた3人、南郷、小泉昭良、沙耶香は全員殺されていた。

第3章 呪いのタトゥー

麻矢の運転でクロはホスピスにやってきた。千崎の遺品・事件ノートを探すためだ。千崎は犯人の目星がついたらしくノートを見ればその人物のことが分かると言い残していた。秘密の研究には、小泉夫婦のほか、阿久津一也と柏村摩智子も参加していた。阿久津は沙耶香たちの後輩、摩智子は沙耶香の妹で、全員が晴明大学薬学部の教授・峰岸の研究室出身だった。千崎が言い残したのは行方不明中の阿久津のことだと思われた。

久住に催眠をかけ峰岸に会いに行ったクロだったが、峰岸は阿久津のことは知らぬ存ぜずを通し何も得られなかった。阿久津の住んでいたアパートへ行ったクロは桜井知美と出会う。知美は阿久津の恋人だった人物で”道案内”時代に何度も嗅いだ身に覚えのある腐臭がした。知美には死が近づいていた。

就職活動も終えた頃、知美は自分が難病に冒されていることを知る。絶望する知美だったが一つ下の阿久津から何度もアプローチを受け付き合うことになった。阿久津は明るくて少し子どもっぽくて彼のおかげで知美は前を向くことができた。阿久津はボランティアサークルに所属しており、アフリカで井戸を掘る活動に参加中だった。ネットのテレビ電話を通じて知美は、阿久津が現地の魔除けだというヘビのタトゥーを腹部に入れたことを知る。3か月後、帰国した阿久津の様子がすっかり変わっていた。目は虚ろで暗い影を背負っている。知美と一緒にいても心ここにあらずといった雰囲気だった。阿久津がいたアフリカの村では衛生状態が悪く子どもが次々に亡くなっていたという。おまけに医療がなく祈祷師が病人が診るような土地で、子どもが亡くなるたび呪いだと騒いでいた。呪いは親から子へと受け継がれるといい、その呪いが自分にもかかったと阿久津は言う。あれは魔除けではなく呪いのタトゥーだったと阿久津は叫んだ。阿久津はせっかく決まっていた東京の製薬会社を蹴りサウス製薬の研究員になった。すっかり変わった阿久津を励まそうと、知美は自分の薬の量が減り妊娠も可能になった、二人で家族になろうと伝えるが阿久津はその場で知美に冷たく別れを告げ部屋を出ていった。以降阿久津とは連絡が取れなくなり、未来を失った知美は治療を怠るようになり病状が悪化していった。

家に戻ると警察が家を訪れていた。麻矢を轢いた車の目撃情報が出たらしい。赤い車は背後から麻矢を撥ねると、彼女のバッグを拾いそのまま逃げていったという。麻矢はただのひき逃げではなく強盗目的で轢かれと考えた刑事があらためて話を聞きに来たのだが、麻矢本人の魂は眠り続けているため答えられなかった。今の麻矢によると、事故で意識を失ったままの麻矢は身の危険を感じていたらしくスタンガンを持っていたという。眠っている麻矢の記憶を取り込めないかという今の麻矢に頼み込まれ、最終的にクロは了承した。だが事故に遭った衝撃で眠っている麻矢の記憶も飛んでいた。

クロから知美や阿久津の話を聞いた麻矢は、「秘密の研究」が「呪いを解く研究」だと考え、研究室に連続殺人事件の秘密が隠されているとして2人で忍び込むことになった。研究室へは数字による暗証番号のロックが掛かっていたが、麻矢が試しに力を込めてみると扉は開いた。麻矢はパソコンを操作しはじめ、クロは机の上に置かれている英文の論文を読み始めた。そして「呪い」の正体を知った。

知美の夢に忍び込んだクロは、タトゥーを彫るのに利用したのが使いまわしの針でそのせいで阿久津がHIVに感染したことを伝える。アフリカではエイズで亡くなる子どもが多く、感染症ではなく呪いとして受け止められている。阿久津は呪いを解くためサウス製薬に研究員として入社し、知美を守るために自分の病気をカミングアウトすることなく冷たく振った。阿久津は未来を託してHIVの新薬研究に没頭したが、南郷や小泉夫妻らと何らかのトラブルが起こったと思われた。クロは知美に、阿久津のことを忘れず前を向いて歩き幸せになるよう伝える。

知美の地縛霊化を救った夜、秘密の研究室へと繋がる家が火事に遭い何もかもが燃え尽きた。

第4章 魂のペルソナ

「白木麻矢」を轢いたのは誰か。阿久津一也はどこにいるのか。誰が何のために研究室に放火したのか。行方が分からない柏村摩智子はどこにいるのか。猫集会に顔を出したクロは新参の猫の記憶を読み、麻矢を轢いたと思われる赤い車が山の中に池に沈んでいくのを見た。翌朝、峰岸の研究室で大量の峰岸の血痕が見つかり、峰岸自身も行方不明になっているというニュースが流れる。血液の量から考えると生きている可能性は低いらしい。クロは、阿久津が秘密の研究に関わっていた人間を次々に殺し、峰岸も手にかけた可能性が高いと考える。捜査に訪れていた久住を催眠にかけ柏村摩智子の行方を聞いたが、久住は存在すら知らなかった。

体調を崩し麻矢の部屋で体力回復に努めていたクロは、外出する麻矢を見送り昼寝に勤しんだが人の声で目を覚ます。久住達が家に来ていた。話を聞きに行ったクロは、麻矢を轢いた赤い車が匿名の通報により池の中から見つかり中から遺体が出てきたと聞く。車の持ち主は阿久津で、遺体も阿久津と判明した。そこでクロは沙耶香が麻矢の姉だと知った。沙耶香の妹は柏村摩智子ではなかったのか。クロは麻矢が千崎のノートを細工する機会があったことを思い出した。麻矢は「白木麻矢」を「柏村摩智子」へと書き換えていた。思い返せば麻矢が案内した魂はすべてサウス製薬に関わるものばかりだった。記憶を無くしたという魂を麻矢の体へと入れたのはクロだ。言葉遣いから女性の魂だと思っていたが、正体は阿久津一也かもしれない。そう考えれば全ての事象に説明がついた。クロはホスピスへと急行すると、レオの協力を仰ぎ消えた麻矢の行方を追った。麻矢の匂いは晴明大学に続いていた。そこで麻矢と再会したクロは、麻矢に入れた魂の正体が沙耶香だったと告白される。沙耶香は地縛霊化していた時、夫の昭良が殺され、妹の麻矢がひき逃げに遭い、南郷も死んだことを知った。そしてさ迷っていたところカラスに追いかけられているクロを見かけた。成仏するよう説得されると思った沙耶香は記憶喪失を装い、妹の体へと入り込むことに成功した。クロは沙耶香の言葉を信じた。HIVの新薬を途中まで完成させたところで資金的に挫折した南郷達は、全世界に情報を公開して安価で薬を作ってくれるところにあとを託そうとしていた。その際喉から手が出るほど新薬を欲していた阿久津と対立し決別した。その後続けざまに研究員が殺されたため、南郷は新薬のデータを麻矢と半分ずつ分けて管理していたが、その南郷も殺されデータが奪われた。沙耶香はデータを奪い次々に人を殺していった犯人を大学に呼び出していた。奪われたデータを取り返し、麻矢の持つデータと合わせて全世界に公開するためだ。

だがやってきた犯人は、非常に狡猾かつ残忍で新薬開発にともなう莫大な金を手に入れるため南郷、小泉夫妻だけでなく阿久津も殺していた。沙耶香を殺し残りのデータを自分のものにすることが犯人の目的だった。沙耶香とクロは犯人相手に健闘するがピンチに陥るが、クロの様子がおかしかったことを気にして引き返してきたレオの協力により、沙耶香はデータを全世界に向けて公開することに成功した。

エピローグ

事件が終結して二週間後、阿久津の魂も河川敷にいた昭良の魂も、それぞれパートナーとの時間を過ごしたあと天に昇っていった。昭良との別れを済ませた沙耶香がクロのところへやってきた。沙耶香はクロと友達になれたことを感謝し、宝石みたいな綺麗な魂になって上へと向かい消えていった。

沙耶香が消え、目を覚ました本物の麻矢はそばに黒猫がいたのに驚きつつも、どこかで沙耶香が残した気配を感じたのか涙をこぼす。その涙を舐めとりつつ、クロは沙耶香につけてもらった名前を胸に誇らしく鳴いた。

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第1弾はホスピスが舞台でしたが、今回はすでに死んでしまった魂を救う話だったので、切なさ度は薄まっていて精神的に読みやすかったです。シュークリームに目がなかったり刺身が大好きだったり、レオもクロも可愛すぎるので動物好きにもおすすめのシリーズです。