降田天『すみれ屋敷の罪人』あらすじとネタバレ感想

降田天さんの「すみれ屋敷の罪人」のあらすじと感想をまとめました。

旧紫峰(しほう)家の敷地内から発見された二体の白骨死体の身元を当時の関係者らの話をもとに解き明かしていくと言うストーリーになります。

証言者が増えるたび白骨の候補者も増えていき、最終的に紫峰家の人々にまつわる真実に辿り着くという読み応えのある一冊でした。

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「すみれ屋敷の罪人」書籍概要

長らく手付かずだった戦前の名家・旧紫峰邸の敷地内から発見された白骨死体。そこで暮らしていた屋敷の主人と三人の姉妹たちは、終戦前に東京大空襲で亡くなったはずだったが…。死体は一体誰のものなのか。かつての女中や使用人たちが語る、一族の華やかな生活、忍び寄る軍靴の響き、突然起きた不穏な事件。二転三転する証言から、やがて戦下に埋もれた真実が明らかになっていく―。「BOOK」データベースより

  • すみれ屋敷の罪人(2018年12月 宝島社)

第一部 証言

栗田信子

息子も独立し一人暮らしをしている信子の元にX県警の刑事だという西ノ森が訪ねてきた。旧紫峰家の敷地内で発見された2体の白骨が誰のものなのか特定するため、当時紫峰家で女中をしていた信子の話が聞きたいという。信子は1枚だけ持っていた紫峰家の家族写真を西ノ森に見せる。そこには65年前の昭和11年当時に紫峰家で暮らしていた人々・当主の太一郎、長女の葵、次女の桜、三女の茜、太一郎の弟の玲二、医学部生で書生の市川時生、御園春彦の7人が写っていた。三姉妹の母親は茜を生んでまもなく亡くなっていた。

17歳の信子は庭に色とりどりのすみれが咲くお城のような屋敷・紫峰家の女中としてやってくると、執事の神山、男性使用人の有働、相楽、女中頭の霜妻、姉さん女中の豊子、千代子とともに住み込みで働くことになり、その後誠という13才の少年が使用人に加わった。通いでは料理人の山岸とその妻がいた。信子が女中を辞め故郷に戻ったあと、東京での山手大空襲に巻き込まれ太一郎と三姉妹が亡くなったと豊子から手紙をもらったので二体の白骨に心当たりはない。が、西ノ森に促され信子は当時の思い出を語っていった。

紫峰家の三姉妹は18歳の葵を筆頭に、17歳の桜、15歳の茜と全員が美しく信子の憧れだった。葵は絵画、桜がピアノの才能を発揮したが桜は特段の才を見せることはなく楚々として大人しい性格だった。奔放な性格で洋装を好む葵に反発してか、桜はいつも和装だった。葵には母方の従兄の間宮顕臣という陸軍エリートの婚約者がいたため、書生の御園とチェスをするのを桜は良く思っていない様子だった。顕臣と葵の婚約披露パーティーの日、葵は唐沢ヒナという顔に刃物で切り裂いたような傷がある14才の少女を屋敷に連れてきた。芸者の卵だという。父親の激しい反対にも負けず葵はヒナを自分付きの世話係にすると、絵のヌードモデルなどもさせていた。信子とヒナは相部屋だったがヒナは周囲となじもうとはせず、三姉妹の中で葵に最も心を寄せていた信子はヒナを快く思っていなかった。

昭和12年、書生の市川が軍医として入隊、御園もどこかの病院に就職するため紫峰家を出て行った。三女の茜も東京の音楽学校に入学するため屋敷を出たが、夏の終わりに突然学校を辞めて戻ってくると、真夜中に大音量でピアノを弾きならし始めた。音楽学校に問い合わせても茜が変わった理由は分からずじまいだった。天真爛漫だった茜が精神を病み屋敷に引きこもって昼夜を問わずピアノを弾き始めるため、太一郎は茜専用の防音のピアノ室を設けた。気の毒な紫峰家に精一杯仕えようと思った信子だが、この年の冬に母親が倒れたと言う知らせを受け実家に戻ることになった。

話の途中、信子は息子の結婚式にいたという屋敷に出入りしていた家具職人の息子・広瀬竜吉(当時は9才か10才)に会ったと口にした。今は家具屋の社長をしているらしい。竜吉は信子に、市川、御園、ヒナが行方不明になっていると言ったが信子には詳しいことは分からない。

実家の母を理由に女中を辞めたという信子だったが、西ノ森の言葉で本当は窃盗で解雇されたことを思い出した。ヒナに嫉妬し屋敷から追い出すために葵の持ち物をヒナの行李に隠したのがバレたのを機に窃盗も知られ、太一郎の厚意で母の病を理由に辞めることになったのだった。

岡林誠

岡林は13才から19才まで紫峰家で働き、その後は百貨店に勤めるかたわら中学で美術の特別講師として60才まで働いていた。水彩画を描いており個展を開いたり作品集も出している。西ノ森に向かい、当時の思い出を話していく。

岡林は川で溺れていたのを太一郎に助けられたのをきっかけに、人助けが好きな太一郎に紫峰家の使用人として雇われることになった。有働と相楽にはこき使われたが書生の市川や御園は岡林を気遣ってくれた。勉強はした方がいいと新聞を読むことを勧めてくれた。そして庭仕事の空き時間に土に絵を描いていたのを葵が目にしたのをきっかけに、彼女は岡林に美術を教えてくれる先生になった。太一郎と葵は岡林の命の恩人だった。

茜が学校を辞めて戻ってきた翌年の春、太一郎は紫峰製薬の社長を弟の玲二に譲ると軍医として志願し満洲へと旅立っていった。これを機に葵と桜の対立は激しくなった。ある日憲兵が御園の行方を捜して屋敷を訪ねてきた。アカ(共産主義者)の疑いがあるという。当時一般的な考えで御園を嫌悪する桜に対し、葵が軍人は嫌いだと言い放って激しい喧嘩が始まり、葵が桜の髪の毛を切るという事態に発展した。その夜、岡林は桜が憲兵に電話をし葵にアカの疑いがあると密告するのを目撃した。葵が逮捕されてしまうと心配した岡林が知らせると、葵は反体制的と取られる絵があるとして自分の描いた物を全て焼いてしまった。だが紫峰家のお嬢様で陸軍エリートの婚約者に手を出すわけにはいかなかったのか、憲兵がやってくることはなかった。

昭和14年、太一郎が戦地から戻ってきた。有働は戦争へ行き豊子、千代子は嫁入りして紫峰家を出ており、屋敷に残っていたのは神山、相楽、霜妻、ヒナ、岡林と通いの料理人の山岸夫妻だけだった。太一郎は姿かたちがすっかり変わっていた。げっそりとやせ細って老人のようになっており、足を負傷して車いす姿、おまけに視力も失っているという。太一郎は屋敷の人々に、寝室と書斎を1階に移す事、表階段の立派なステンドグラスを普通の硝子にする事、庭のすみれを残らず抜いて焼く事の3つを命じた。葵と桜も手伝い庭のすみれは根こそぎ燃やされた。杖をつけば歩けるようになったが太一郎は部屋に引きこもるようになった。また葵の婚約者、顕臣が戦死したと言う知らせも届くと彼女の嘆きようは深く絵を描かなくなってしまった。

ある晩、屋敷の一角に火の手が上がった。葵が衝動的に自殺を図り自室に火を付けたと判明した。使用人総出で消火にあたり葵は救出できたものの、桜と茜も大やけどを負った。三姉妹の顔のやけどは酷く、茜の両手も重傷でピアノを弾けなくなった。三姉妹は頭巾で顔を覆い、茜は手袋をはめて生活するようになった。外出もほどんどなくなり紫峰家は世間から隔絶した暮らしをするようになった。

その後は相楽、山岸も出征し、山岸の妻も辞めた。岡林も7年働いた屋敷を離れることになり地元で働き始めたが、食べていくことに精一杯で屋敷に心を向ける余裕はなかった。一家が亡くなったという知らせを受けた時、命を恩人を見捨てたという後悔に苛まれた。

西ノ森に、岡林が屋敷を辞めた年に葵が全国各地を巡回している戦争画展で入賞したことを尋ねられたが、生活に手いっぱいで観に行っていないと答えた。また葵の専門は油絵だったが、岡林は水彩画しか描かない。加えて岡林には隠してきたが識字障害があって読み書きができず苦労したことも西ノ森に知られていたが、情報源については教えてもらえなかった。

その後信子からかかってきた電話で西ノ森という刑事はいないらしいと教えられ不安にかられていた岡林の目に、旧紫峰家の敷地で3体目の遺体が見つかったというニュースが飛び込んできた。

山岸皐月

皐月は紫峰家の通いの料理人をしていた山岸夫妻の娘で、山猫亭という料理屋を夫婦で切り盛りしている。西ノ森にカレーを提供しながら、皐月は当時の思い出を語っていった。

父親が専属料理人になったのを機に引っ越しを余儀なくされた小学生の皐月は、転校した先でいじめにあい辛い日々を送っていた。東京へ戻ると家を飛び出したものの道が分からず困っていたところに声を掛けてきたのが紫峰桜だった。優しい桜を皐月はたちまち好きになった。桜はとてもしっかりしていて、葵はお湯も沸かせないのに、彼女は皐月の父親の山岸に料理を習っていた。葵と顕臣の婚約披露パーティーの日、華々しく盛大な宴をこっそり覗いていた皐月は、桜が密かに顕臣を想っていたことを知った。

皐月が11才の時、屋敷で火事があった。消火のため屋敷へ向かった両親の後を追いかけた皐月は執事の神山に冷たく追い払われたが、桜の様子が気になり忍び込んだ。息を潜めて様子を伺っているうち、使用人たちが焼けこげたピアノを運んでいるのに気が付く。その時ヒナに声を掛けられ飛び上がるほど驚いた。「何も見ていない」とヒナに念押しをされた皐月は、見てはいけないものを見たと知った恐怖で家に逃げ帰ると布団の中で震えていた。その後、葵が自室に火を付けて自殺を図ったと両親に教えられたが、皐月には燃えたのがピアノ室だと分かっていた。両親は皐月に嘘をついた。

当時警察の調べがあったはずだという西ノ森に対し、皐月は紫峰家と使用人たちが全員口裏を合わせて全焼したのは葵の部屋だったとしたと答える。葵はおかしくなってしまった妹の茜を道連れに無理心中を図るため、茜のいたピアノ室に火をつけたと皐月は推理する。その後皐月は、ヒナにかくれんぼが見つかったのは火事の日が二度目で、最初は桜が憲兵に葵がアカだと密告した時だと話す。密告場面を目撃して動揺する岡林に対し、ヒナは冷静に憲兵に電話をかけると桜と葵の声色を真似て喧嘩のはらいせに根も葉もない事を言ってしまったと謝罪した。ヒナは芸者時代に声帯模写を身に着けており、電話のそばに隠れていた皐月はヒナに見つかり内緒だと唇に人差し指を立てて示された。

話し終えた皐月は、父親の形見だと言い紫峰家の寄せ書きの書かれた日の丸の旗を見せてくれる。出征前に太一郎から送られたものだという。太一郎、葵、桜、神山、霜妻、相楽、ヒナ、岡林と当時の屋敷にいた全員の名前がある。太一郎と神山の筆跡が同じなのは、目の見えない太一郎の分を神山が代筆したものと思われる。両手にやけどを負った茜の代筆は霜妻が行ったらしい。

戦争画展について西ノ森が尋ねると、葵の作品タイトルが「祈り」という以外は分からないが、岡林がその絵を見て泣いていたのを目撃したと話した。また展覧会の翌年、結婚のため戦地から一時帰国した市川が母を訪ねてきたことを思い出す。市川は挨拶のため紫峰家に立ち寄ったようで太一郎と葵には会えたらしい。無理を言って葵に頭巾をとってもらったが手の施しようがなかったという。一週間ほど皐月の家に滞在した市川は、朝早く出かけていき夜遅くまで帰ってこなかった。そして自分が不在の間の紫峰家の様子をあれこれ皐月に聞きたがった。また4、5日目に霜妻と言い争う市川を見かけた。7日目の夜、市川が外にいる誰かと話したあと一緒に出て行ったのを見た。それが市川を見た最後だった。翌朝、母親に市川は始発で出て行ったと告げられる。ほどなくして市川らしい軍服姿の男が汽車に乗り込むのをみたという目撃情報が皐月の耳にも届いた。市川は紫峰家の使用人たちに殺され敷地内に埋められた、と皐月は疑惑を抱き続けていた。

広瀬竜吉

西ノ森泉と名乗った青年は、母方の祖父母が移民一世の日系アメリカ人だと名乗った。ある人物の依頼で、紫峰家で見つかった遺体について調べているという。太一郎の後を継いだ玲二が紫峰家の売却を許さなかったが、娘婿の代になって売り払われ整備のために重機を入れたところ白骨が見つかった。

広瀬は、市川が一時帰国をした後駅での目撃を最後に行方不明になっていると親戚が探していたこと、御園はずっと憲兵が探し回っていたこと、ヒナは母親と名乗る女が尋ねてきたことを根拠に行方不明だと信子に話したと説明した。市川とは一時帰国した時に会ったといい、その時彼は広瀬に「三姉妹は使用人たちに殺されている」と話したと言う。その後ヒナが三姉妹に成りすましていたというのが市川の説だった。

広瀬は子どもの頃、軒下で聞き耳を立てている茜と出会った。茜は音楽を愛していてさまざまな音に興味を抱いていた。その後何度も茜と会ううち、彼女が音楽学校入学後に聴力を失いつつあることを知る。音を完全に失った後どうするのかという問いに、茜は誰か死にたがっている人間を道連れに命を断つと言った。候補はいると言っていたが、しばらくしてダメになったので探し直しだと話す。だから火事が起きた時、広瀬はとうとう茜がやったのだと考えた。

その話を聞いた西ノ森は、婚約者を失い失意の底にいる葵と、太一郎の看護で疲れ果てている桜を道連れに心中を図ったと考えた。三姉妹の遺体を発見した使用人たちは、太一郎をだまして財産を奪うためヒナを姉妹に代役に仕立てた。ヒナは声帯模写が得意で竜吉や皐月をだますことは簡単だったと思われる。また葵の描いたという「祈り」は岡林が描いたと考えられる。紫峰家を調べていた市川も殺害され、駅での目撃情報は誰かの替え玉と思われる。

西ノ森の意見は竜吉に一蹴される。西ノ森の説だと遺体は4体になるはずだという。また使用人に流れた不審な金の動きについても不動産を売却した金の一部が渡っただけで、三姉妹に扮するためヒナが顔を焼いたり何年にも渡って三姉妹が生きているように見せかけるのはコストパフォーマンスが悪すぎるという。

西ノ森の説を否定する決定打として広瀬は、三姉妹の母親の姉、間宮伯爵夫人の容態が悪くもう先が長くないため最後に一目会っておきたいと、太一郎が三人の娘を連れて東京へ行く前に広瀬家へやってきた時の話を始めた。太一郎は家具職人の祖父に葵の婚約記念品として作った小箱の蓋の菫の種類を増やしてほしいとやってきた。その時の太一郎は目が見えていた。視力が戻りつつある太一郎が、ヒナのなりすましを見抜けないはずがなかったと広瀬は言った。

第二部 告白

西ノ森は電話の音で起こされた。相手はアメリカに住む祖母のルイコだった。彼女の依頼で西ノ森は、紫峰家に関わりのあった信子、岡林、皐月に話を聞きに行ったのだ。西ノ森の送った、広瀬に否定された仮説も添えた報告のメールを読んだ祖母は、火事以降の葵、桜、茜はおそらく偽装だが三姉妹が全員死んだと言うのは間違いで、少なくとも一人は生きていると言い西ノ森を驚かせると、事件の真相について語り始めた。

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二部は、紫峰家にまつわる秘密について丸々解説となっています。解決編としては結構長いです。一部の証言である程度の謎の解決に対する道筋ができ、二部の告白で道筋を補強しつつ意外な真実が明らかになるという構成になっています。

証言者が意図的に話していない事柄もあり、一直線に真実に辿り着けないモヤモヤ感が癖になる話でした。