東川篤哉『中途半端な密室』あらすじとネタバレ感想

東川篤哉さんの「中途半端な密室」のあらすじと感想をまとめました。

初期短編集5作品です。表題作の「中途半端な密室」と、残り4作品が大学生が探偵役を務めるシリーズもの短編という構成になっています。軽い文体ながらもトリックは結構凝っていて、初期と言えど面白さは抜群の一冊でした。

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「中途半端な密室」書籍概要

テニスコートで、ナイフで刺された男の死体が発見された。コートには内側から鍵が掛かり、周囲には高さ四メートルの金網が。犯人が内側から鍵をかけ、わざわざ金網をよじのぼって逃げた!?そんなバカな!不可解な事件の真相を、名探偵・十川一人が鮮やかに解明する。(表題作)謎解きの楽しさとゆるーいユーモアがたっぷり詰め込まれた、デビュー作を含む初期傑作五編。「BOOK」データベースより

  • 中途半端な密室(2012年2月 光文社文庫) – 初期短編集
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中途半端な密室

いきつけの喫茶店へと行った小説家の片桐は、ライスカレーを食べていた十川に最近頻発している黒覆面の婦女暴行魔について話していた。夜遅い時間帯に帰宅したり外出する女性ばかりが狙われており、ここ一か月で分かっているだけで5件の被害が出ていた。そしてつい先日、6件目が起こった。20日の夜の11時半頃パトロール中の警察官が路上で裸足でうずくまっている若い女性を保護した。女性は未遂だったものの精神的ショックからか一時的な失語症に陥っているという。だが十川は暴行事件の特集記事の下に書かれている、不動産会社社長の変死事件に関心を抱いている様子だった。その不動産会社は社長自らが広告塔となりポスターや看板をだしているため、社長の顔は町の誰もが知る所となっていた。

社長は21日の午前8時頃、運動公園内のテニスコートの真ん中あたりで腹部をナイフで刺されて死んでいるのをテニスコートの管理人によって発見された。テニスコートの周囲は高さ4mの金網のフェンスで囲まれており、1つしかない出入口には鍵が掛かってたため管理人はわざわざ事務所に鍵を取りに戻ったという。完全な密室と思われる事件だがテニスコートには屋根がない。

普段は鍵が掛かっておらず出入り自由、やろうと思えば誰もがフェンスをよじ登って出入りできるテニスコートになぜわざわざ犯人は鍵をかけたのか。中途半端な密室を作った犯人の意図について、十川は情報が足りない部分については適当に想像力を働かせればいいと言い、喫茶店のコーヒーをかけてその謎を推理していった。

 

想像力である程度補っているとはいえ最終的には婦女暴行事件にも繋がる理路整然とした推理でした。短編なのに伏線の張り方が凄いです。この本1冊まるまる探偵・十川のシリーズと思いきや、この1作品のみの登場で少々残念です。

南の島の殺人

お盆が近づく夏休み、大学生の七尾幹夫は、友人の柏原則夫の彼女から一通の封筒を渡された。幹夫と友人の山根敏の2人が宛先となっており封筒の中は手紙ではなくフロッピー、タイトルは「S島の殺人」とあった。2人がいる岡山から遠く離れた南の島でバカンス中だという出だしで始まった柏原の手紙は、島で巻き込まれた全裸殺人事件について綴られており「被害者はなぜ裸で死んでいたのか」という謎を解き明かしてほしいとあった。

舞台はゴツゴツした岩石で出来たような小さなS島。島の中央部には高い山がそびえ立ち、向いのK島からは海上にお椀を伏せたような形に見える島だった。柏原は土産になりそうな形のいい岩石を採集するため島を歩き回っていた。死にそうなほど暑い午後で、一雨欲しいと思っていた矢先に雷のような爆音が響くと上空にみるみる雷雲のような灰色の塊が立ち込めてきた。パラパラとした細かい粒がザアザア降りになった頃、柏原はある白い洋館のカーポートに避難していた。そこに住人が戻ってきた。恰幅の良い中年のイギリス人・ビルは流暢な日本語で話しかけると柏原を洋館に招待した。傘を持っていれば良かったのにと言われその時ようやく柏原は鞄の中に傘を入れていたことを思い出した。

お茶は長男のジミーが運んできてくれた。妻ともう一人いる息子はK島に出かけておりもうすぐ戻ってくるという。傘を持っていることを言い出せなかった柏原は、ビルから傘を借りると洋館を出た。玄関先で帰宅した妻と次男とすれ違う。午後6時のことだった。翌日傘を返すため洋館を訪れた柏原は、警官が大挙して押し寄せているのに気付いた。ビルによると今朝方庭先で知らない男が死んでいたという。警察によると男の死亡推定時刻は前日の夜7時から9時の間、柏原が洋館を辞したあとのことだったが男は頭を殴られて死んでおり即死したとは限らない。つまり殴られた時間=死んだ時間とはならず、柏原が洋館にいた時間帯の犯行かもしれなかった。発見者は次男のトニー、未だ身元不明の男は庭にある休憩コーナー(テーブルとイス、キノコ風の屋根がある)のイスから転げ落ちたような格好で横たわっており、なぜか裸だった。殴られた時間が不明なためビルの家族は誰でも犯行可能と言える。

さっぱり謎が解けない幹夫に対し、敏は図書館へ行ってくると言い置き、帰ってくると謎は全て解けたといい、ヒントとして手紙を書いたのがノリが軽い柏原であること、バカンス先をS島とぼかしてあいまいにしていることを挙げた。

 

何故被害者は全裸だったのかという謎を真面目に解き明かしつつ、柏原の旅行先自体が叙述トリックになっているという構造でした。面白いです、すっかり騙されました。

竹と死体と

山根敏のアルバイト先の古書店へ行った幹夫は、レジ横に山積みになっている文庫本の上に無造作に置いてあった昭和11年の古新聞(売り物)を目にすると、その中に掲載されていた「竹の上にて老婆の首吊り死体発見される」という記事を見つけた。竹林の近所に住む老婆が、高さ約11間(約17m)の竹の上に首吊り状態で宙づりになっていたという記事だった。現場に不審な点はなく他殺として捜査継続中とある。幹夫と敏は宙づりの謎について推理しあうことになり、幹夫は古書店の蔵書の中から早ければ竹が1日で1m以上も伸びることを知った。つまり老婆は自殺で、竹で首をくくった後、ぐんぐん伸びていった竹により地上17mの宙づり状態になったというわけだ。しかし竹が生長する時期(春)と老婆の遺体発見時期(2月27日)が合わないことを敏に指摘され、推理はハズレとなった。

一方で敏は記事の載っていた古新聞の一面記事が何だったのかが重要だと口にすると、老婆の死因と状況について推理を進めていった。

 

昭和11年2月26日(新聞の前日)は2・26事件が起きた日でした。そこから分かる事実を元に老婆の謎をすっきりと解き明かしました。

十年の密室・十分の消失

未明から早朝にかけて岡山に大雪が降った日、幹夫は何か訳ありの様子の敏から彼のバイト先の古書店に呼び出された。雪のせいで店が閑古鳥のため、雪かきの手伝いをしろというものだった。汗だくになりながら雪を掻いて一息ついた時、敏が一通の手紙を出してきた。柏原から届いたのだという。まるで応募原稿のような分厚い紙の束に悪筆……敏は手紙を読むのが面倒だから幹夫に音読してほしいと言い放った。

柏原は島根と広島の県境にある秘湯へ行ったものの満員御礼で予約なしでは入れないと断わられた帰り道、ぬかるみにはまって困っている車を助けた。車の持ち主・中江美也子は柏原の事情を聞くとこれから向かうという緑雨荘へ招待した。緑雨荘は自殺した画家で父親の中江陵山の屋敷で現在は兄(美也子の伯父)が使用人らとともに暮らしており、美也子も訪れるのは10年ぶりらしい。陵山が亡くなってすぐ母親は一人娘の美也子を連れて屋敷を出たきり一度も美也子が緑雨荘を訪問することを許さなかったが、交通事故で亡くなったため彼女は里帰りを決意した。美也子は父の死が自殺だと信じられないのだという。

父親が死んだのは8月、親せきの見舞いで母親が屋敷を離れていたため、緑雨荘にいたのは陵山、伯父の孝太郎、美也子のほかは使用人の三浦夫妻の5人だった。日中アトリエで創作に励んでいた父親が夕方首を吊っているのが発見された。その日の事を美也子はぼんやりとしか思い出せないという。夕方、美也子と伯父は父親を呼びに連れ立って少し離れた所にある丸太小屋のアトリエへ向かった。玄関をノックしても返事がなかったため美也子と伯父は窓の方へと移動し中を覗くと、天井から垂れ下がったロープに真っ白なタキシード姿の陵山がぶら下がっていたのを見た。伯父と三浦夫妻が斧を使って玄関扉を壊すのを、美也子は近くで泣きながら見ていたという。

自殺と他殺では首に残る跡が違うため陵山の死は自殺とされたが、美也子は密室殺人の疑いもあると譲らない。アトリエを見に行った柏原は壊されたドア以外に人の出入りができそうにないことを確認した。唯一窓の下、足元あたりに掃き出し窓がつけられているが大の大人が通れるとは思えなかった。

緑雨荘には孝太郎と三浦夫妻が今でも住んでいる。屋敷に泊まった柏原は翌朝7時頃、窓の外に雪が降っているのを見た。次第に勢いを増す横殴りの雪で視界が遮られること10分、ようやく止んだ雪が地面を白く変えた時、柏原はさきほどまで窓の外に見えていたアトリエが消えているのに気付いた。慌てて部屋を飛び出し家人らに状況を伝えてアトリエへと向かう最中、柏原は何者かに頭を殴打され気を失った。目を覚ました柏原が美也子とともにアトリエに向かうと、昨日まであったアトリエは跡形もなく消えていた。たった10分でアトリエが消えた謎について、柏原は敏に挑戦状ともいえる手紙を送ったのだった。

 

結構大掛かりな建物消失トリックでした。加えて敏は、美也子の記憶から陵山の死の真相も解明しました。

有馬記念の冒険

2,500mを2分30秒で走り抜ける有馬記念並みの事件が岡山で発生した。師走の大賑わいのカツ丼屋で働いている鶴岡は、午後3時過ぎようやく客足も落ち着いたので休憩に入った。店を出て外階段で2階の自室に戻った鶴岡がテレビをつけるとちょうど有馬記念が始まる所だった。いよいよ発走という瞬間、後頭部に激痛を感じテーブルに突っ伏した鶴岡は朦朧としながらもダウンジャケットの男が猛烈な勢いで部屋から逃げていくのをなすすべもなく見るしかなかった。

岡山県警の深山警部は、白昼堂々箪笥の中の50万円を盗んでいった事件を調べていた。後頭部をフライパンで殴られた鶴岡によると事件発生は有馬記念の発走時刻である3時20分に間違いなく、箪笥預金のことを知っていた店の常連で金に困っていた安田が犯人だと言った。実際の出走時刻は馬のゲート入りが滞ったため3時25分だと分かった。トラック運転手だった安田は不況のあおりを受けて現在無職、カツ丼屋から安田の住居である葵荘までは車で10分、歩けば30分かかる距離にあった。一人暮らしの安田のアリバイは証明されなかったものの、本人は3時25分頃は家にいたと主張した。

葵荘の向かいの楓荘の一室から安田の部屋が見える。深山が楓荘を訪ねると酒盛りで顔を赤くした2人の大学生が出てきた。そのうち1人が3時22分30秒すぎ(実際は3時27分30秒すぎ)に安田を見たという。有馬記念の生放送をテレビで見ており、ちょうどその時刻に優勝馬がゴールしたので覚えているという。大学生の部屋には外見にはそぐわない豪華なAV機器が揃っているのが見えた。大学生の証言により、犯行時刻の数分後には安田は葵荘にいたことになりアリバイが成立した。その後カツ丼屋の近所の文房具屋から、事件が起こった時刻にフライパンで殴る音を聞き直後に安田がカツ丼屋の2階から駆けおりてくる姿を見たという証言が出たが、そうすると2,500mの距離を安田は2分30秒ほどで走り抜けたことになる。深山は頭を抱えた。

その後大学生の一人を見かけた深山が後を尾けると、ある古書店へと入っていた。客を装って店内に入ると、彼はバイトと思われる同年代の若者2人と談笑している。彼は敏ちゃんと呼ばれるバイトの友人から3万円借りるらしく、彼女のためのクリスマスプレゼント資金だと幹夫にからかわれ、それとは無関係だと言い返している。そのうち3人の話題は鶴岡の事件の話になって行った。顛末を話し自分のアリバイ証言が大いに役に立ったと自慢する大学生に対し、敏ちゃんはその証言さえなければ安田が犯人でもおかしくはなく、安田が正真正銘の犯人かもしれないと口にする。敏ちゃんは大学生に、➀遊びに行った楓荘の部屋にDVDがあったかどうか、②有馬記念が出走する前、部屋の主はずっと大学生と一緒にいたかどうか、③彼女からプレゼントされた「もったいないほど高級な時計」をつけていないのはなぜかを問う。

大学生の答えは、➀なかったと思う、②10分くらいトイレのため席を外していた、③無言(返事をしない)だった。敏ちゃんは更に3万円の使用意図を問い大学生を困らせている。3人の前へと出て行った深山警部は、どうやら事件の真相が分かったらしい敏に説明を求めた。

 

犯人の安田にアリバイトリックがあったのではなく、目撃証言にトリックがあったという話でした。

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最後の有馬記念の話だけがプロ作家デビュー後に書かれたものとのことです。クオリティーが高くバラエティーに富んだ謎ばかりを当初から書かれているなんて凄い作家さんです。