東川篤哉「平塚おんな探偵の事件簿」シリーズ第1弾『ライオンの棲む街』あらすじとネタバレ感想

「平塚おんな探偵の事件簿」シリーズの第1弾「ライオンの棲む街」のあらすじと感想をまとめました。平塚にある「生野エルザ探偵事務所」が舞台となっており、エルザと川島美伽のコンビが依頼人から持ち込まれるちょっと不思議な問題を解決していくというストーリーです。

ライオンというのは探偵役・生野エルザを指しています。トリックもそれほど難しいものではないので軽くて読みやすい短編集です。

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「ライオンの棲む街」書籍概要

「平塚おんな探偵の事件簿シリーズ」第1弾。「女探偵は眠らない」「彼女の爪痕のバラード」「ひらつか七夕まつりの犯罪」「不在証明は鏡の中」「女探偵の密室と友情」の5作品で構成されている短編集。

  • ライオンの棲む街 〜平塚おんな探偵の事件簿1〜(2013年8月/祥伝社)
  • ライオンの棲む街 〜平塚おんな探偵の事件簿1〜(2016年9月/祥伝社文庫)

女探偵は眠らない

仕事を辞め東京から地元平塚に戻った美伽は、高校時代の友人・生野エルザのやっている探偵事務所を訪れた。再会を喜ぶ間もなくやってきたのは、沼田一美という依頼人。6歳年下の婚約者に浮気の疑いがあるので、相手の女性の素性を調べてほしいという依頼だった。数日後、婚約者の秘密の隠れ家を突き止めたエルザと美伽は、浮気の証拠を得るため向いのビルの屋上で張り込みを行っていた。夕方頃、隠れ家であるアパートの廊下に女が現れた。花柄のワンピース、白い帽子、大き目のサングラスをかけ肩には赤いトートバッグを下げている黒髪女性だった。

とうとう浮気の現場を押さえたと思った20分後、女が警戒した様子で部屋から出てきた。寒いのか青いストールを羽織り足早にアパートを去っていく。エルザが女の後を追う一方、美伽は隠れ家の玄関に立っていた。鍵の掛かっていない部屋を覗くと、浴槽で死んでいる婚約者を見つけた。男の背中には一本のナイフが突き刺さっていた。

 

隠れ家は男の幼馴染兼友人女性の部屋で、人形やアンティーク家具を収集しておいてある趣味部屋でした。男の秘密の趣味を共有する場として鍵を渡していたようですが、彼女にはしっかりとしたアリバイがありました。状況から考えて犯人は花柄ワンピースの女性なので、解き明かすのは女性の正体ということになります。読みながらだいたい分かりますが、動機はなるほどというものでした。

彼女の爪痕のバラード

エルザの元に、山崎という男が恋人・優菜の行方を捜してほしいという依頼にやってきた。スナック「紅」に勤めていてそこで仲良くなったのだが、一か月ほど前からぷっつりと連絡が取れなくなったのだという。「紅」のママ、常連客で山崎の同僚・菅谷や同じく常連客で女好きの市議会議員の息子・前島などの話を聞くがなかなか手掛かりが見つからない。そんな時、優菜の部屋を調べてみると連絡してきた山崎が翌朝、相模川の河川敷で溺死しているのが発見された。2人は事故死ではないと断定し、優菜の家へと向かった。

エルザと美伽は優菜の母親に頼み込み、1時間という約束で彼女の部屋を調べることを許された。だが山崎が15分ほどで見つけたらしい「何か」を2人は見つけ出すことができない。約束の午後4時が近づき美伽が捜索の延長の交渉をしている時、優菜の部屋からエルザの叫び声が聞こえてきた。

 

優菜の部屋に山崎を殺害した犯人を示す手掛かりが残されていました。手掛かりというか犯人そのものですが、エルザはおそらく優菜自身も殺害されているだろうと推測します。そして証拠を消しにやってきた犯人を無事に取り押さえることに成功しました。

ここで初登場したスナック「紅」は、看板メニューの焼きうどんとポテトサラダとともに、その後たびたび登場します。毎回登場するのに惹かれて、ひんやりとしたポテトサラダと醤油の香りが香ばしい焼きうどんが食べたくなってしまいます。

ひらつか七夕まつりの犯罪

エルザと美伽は女子大生・悠木茜の依頼で、彼女の後輩兼ルームメイトの元山志穂を尾行していた。志穂は赤いハイビスカスが描かれた黒いTシャツに紫のパーカーという格好で「湘南ひらつか七夕まつり」へと出向き、宝箱やチョコバナナを購入したあと午後6時にファミレスの入るビルへと入っていった。かと思うと後を付けていた2人を階段で待ち構えていた。2人は尾行に気づかれていたのだ。そんな失敗をしていた頃、七夕まつりからほんの少し離れた路上で女子大の講師の男が殺されていた。通報者らの話から死亡推定時刻は午後6時頃、容疑者は男との別れ話がこじれてトラブルになっていた元山志穂。だがその時間帯はまさにエルザと美伽が志穂を尾行していた。

 

おまつりという大勢が集まる場所、露店の宝箱売り、チョコバナナ売りの証言を利用したアリバイトリックです。容疑者=犯人とするとどうしても単独では難しいですし、探偵の2人がアリバイの証言者として利用されたのはすぐに分かりますので、エルザが犯人の仕掛けたトリックを見破る過程を楽しむ話でした。漫才のような会話の中にしっかりと伏線を張ってくるのはさすがです。

不在証明は鏡の中

当たると評判の占い師・金剛寺綾華に心酔して家を出てしまったという姉・良美を救いたいと妹の美紗が依頼してきた。早速占い希望者として金剛寺の家へと乗り込むと、そこに良美がいた。翌日、なじみの平塚署の刑事・宮前が探偵事務所にやってくる。殴られたあと屋上から墜落死した男の捜査をしているようで、容疑者である金剛寺綾華のアリバイを調べているという。犯行時刻、綾華はちょうどエルザを占っている最中だった。

綾華から犯行をなすりつけられていると感じた良美が目を覚まし逃げてきた。良美から心酔する原因になった「鏡の間」での特別な占いの話を聞いたエルザは、美伽に大金持ちの財閥令嬢のふりをさせ占いを受けさせることにした。金に目がくらんだ綾華に未来が見えるという鏡の間での占いをさせることに成功した美伽は、占いが始まると同時に頭がぼんやりとしはじめ、自分の姿だけが写っていない鏡を見せられた。鏡の間で良美と全く同じ体験をしたのだ。

 

「鏡の間」での自分だけ姿が写らない鏡のトリックを解くことが、男を墜落死させた金剛寺綾華のアリバイトリックを解くことにもなりました。占いや呪いにかこつけた殺人事件のトリックと鏡は相性がいいですね。昔テレビドラマの「TRICK」でやっていた天誅の回を思い出しました。あれにも鏡を利用したトリックが使われていました。

女探偵の密室と友情

ほぼ密室状態の中で自殺したと思われる夫・日高玄蔵の死に納得できない妻・静江に家まで来てほしいという依頼を受けて、2人は夫妻の住むマンションの706号室へと出向いた。静江は足を不自由していて外を出歩くのが困難だった。2人の来訪を不審がる甥で主治医だという岡野を返し、2には事件の詳細を聞いた。

自殺の現場となったのは静江の寝室だった。夜中、玄蔵は鍵のない部屋のドアを内側からガムテープで目張りしたあと、濡れたタオルで自分で自分の首を絞めて亡くなっていたのだという。その間ぐっすりと眠っていた静江は、泊りに来た岡野が叔父の姿が見えないドアを叩く音で目が覚め、亡くなっている玄蔵に気が付いた。夏場だったので窓は開けていたが7階から出入りできる構造ではなかった。警察は、酔っぱらった玄蔵が衝動的に死にかられ、妻を道連れに心中を図るため練炭を部屋に持ち込み目張りまでしたが、思いとどまって自分一人だけ死んだと結論づけていた。

 

玄蔵が自殺するとは思えないという静江の言葉通り、夫の死は他殺でした。自殺に見せかけるためのトリックが手が込んでいて大がかりな気がしますが、うまくいけば確かに密室状態にできるものでした。犯行動機は夫妻の持つ財産でした。

 

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トリックは分からなくても犯人は(何となくでも)分かる短編集です。犯人に行きつく過程と登場人物たちの軽妙なやりとり、スナック「紅」の看板メニューを楽しむ本でした。美味しいポテトサラダが食べたくなる本でもあります。2019年6月時点で3冊出ていて読みやすいので、ぜひ手に取ってみて下さい。

 

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