東川篤哉「烏賊川市」シリーズ第6弾『はやく名探偵になりたい』あらすじとほんのりネタバレ感想

烏賊川市(いかがわし)シリーズの短編集です。推理部分以外は探偵以下、犯人も含めて登場人物たちがだいたいいい加減なので、気を抜いて読めるミステリーとも言えます。

気楽に読みたい時におすすめの「はやく名探偵になりたい」のあらすじと感想をまとめました。

スポンサーリンク

「はやく名探偵になりたい」書籍概要

「烏賊川市」シリーズ6冊目となる短編集。「藤枝邸の完全なる密室」「時速四十キロの密室」「七つのビールケースの問題」「雀の森の異常な夜」「宝石泥棒と母の悲しみ」の5編から構成されている。

  • はやく名探偵になりたい(2011年9月/光文社)
  • はやく名探偵になりたい(2014年1月/光文社文庫)

藤枝邸の完全なる密室

若い頃イカ釣り漁船で活躍したという資産家の藤枝喜一郎に最近新しい女ができたかもしれない。唯一の相続人であった甥の修作26才は、危機感を覚えさっさと喜一郎を葬ることに決めた。もちろん自殺に見せかけてだ。叔父を地下室で殺して首吊り自殺に見せかけ、念を入れて緻密で繊細な密室トリックを施す。修作の作戦はうまくいったかに思えたが、そこに叔父に調査を依頼されていたという探偵・鵜飼杜夫がやってきた。

 

探偵なのに密室のトリックを解きません。ある状況から犯人は修作であるとさくっと指摘し、あとは警察に丸投げ。密室の謎など知らないと言い放つ姿は清々しいです。省エネかつ本来の正しい探偵の姿かと思いますが、もうちょっと頑張ってみてもいいんじゃない?と言いたくなります。修作のバタバタぶりと、あっさりと犯人だと見破られてしまった台無しの苦労を楽しむ話でした。

時速四十キロの密室

小山田幸助の依頼で妻の浮気調査のため密会先を張っていた鵜飼と助手の流平は、その別荘から座椅子部分に人が隠れられる箱型のソファが運送会社によって運び出されるのを目撃した。おそらくソファの中に不倫相手の男が隠れているのだろうと推測し、流平がトラックを尾行した。時速40キロで走るトラックの尾行は簡単だった。だが交差点の手前、急ブレーキをかけたトラックに対応できず流平の体はソファのある荷台へと放り出された。気が付くと荷台は血の海で、ソファの中からは頸動脈を切り裂かれて絶命した不倫男の遺体が出てきた。妻の友人の運送会社の女社長によると、不倫男は自らソファに隠れたのだという。尾行する流平の目を盗んで、誰がどうやって不倫男の首を切り裂いたのか。

 

登場人物たちのふざけた言動はともかく、結構まじめな推理でした。まじめですが、ものすごい偶然が重ならないと起こらない事件でもあり、有栖川有栖さんの短編「雪華楼殺人事件(絶叫城殺人事件に収録)」を彷彿させられました。

七つのビールケースの問題

愛猫を探してほしいという田所誠太郎の電話を受けて彼の家へと出向いた鵜飼と流平だったが、なぜか依頼主は不在だった。陽もまだ高いというのに早々に仕事を終了させ酒店の軒先で乾杯した鵜飼だったが、酒店の娘から空っぽのビールケースが7つ盗まれてたという話に興味を持ち調べることになった。酒店のある通りに繋がる4つの似たような路地、夜中に割られた窓ガラス、タクシーが起こした小さな事故、消えた7つのビールケースといなくなった依頼人。鵜飼の中で全てが繋がった。

 

普通にまじめな推理小説でした。そして小難しい。本気で取り組めば殺人事件も解決できるのに、と思います。消えたビールケースはあるトリックの小道具として使われたのですが、そこに行きつくまでの推理が見事です。手書きの地図をカーナビと言い張りお礼(報酬?)のビールに喜ぶ鵜飼と、酒店に居ついた黒猫が可愛いです。

雀の森の異常な夜

老舗の和菓子屋「雀屋」の屋敷に友人として招かれた流平は、屋敷の住人・絵理に相談があると誘われ深夜に屋敷そばの雀の森を歩いていた。そこへ誰かがやってくる気配がした。物陰に隠れていると、車いすに座る誰かとその車いすを押して歩いているらしい人物が目の前を通り過ぎていく。「おじいちゃん」思わず絵里が声を上げる。その後しばらくして逆方向から空っぽの車いすを押して走り去る人物。最初に車いすが向かった先には崖があった。急いで屋敷に戻ると、絵理の祖父・庄三の姿が消えていた。屋敷に住む関係者は絵理を含めて男3人に女3人。この中に庄三を崖から落とした犯人がいるのか……流平は真夜中にもかかわらず師匠の鵜飼を緊急招集した。

 

ところどころゆるいものの、鵜飼がきちんと探偵しています。しかし夜中の3時にラーメン屋の出前の変装をしてやってくる探偵に、事件解決を依頼する雀屋の人たちも寛容です。

謎、トリック、推理とどれをとってもこの短編が一番面白かったです。

宝石泥棒と母の悲しみ

鵜飼の高校時代の恩師で資産家の花小路の金庫からルビーが盗まれた。特別製の金庫だと花小路は主張するが、金庫の鍵は普通の机の引き出しにしまわれており、鍵と一緒に必要なダイヤル錠の数字はメモされて鍵と同じ引き出しに入れられていた。つまり誰でも簡単に金庫を開けることができたのだ。容疑者は親戚の溝口と運転手の小松しかいないので、犯人よりもルビーを見つけてほしいと鵜飼は依頼される。

 

花小路家のペットのマー君視点です。お母さんは狩猟犬のビーグルで、同じペット友達にアイちゃんがいます。なぜペット視点……と思ったら、マー君が事件の重要なカギを握っていたからでした。叙述トリックです。

 

□□

その他の感想はこちら

コミカルなのに本格派、ユーモアミステリー作家・東川篤哉のおすすめ人気シリーズと順番