東川篤哉「烏賊川市」シリーズ第8弾『探偵さえいなければ』あらすじとほんのりネタバレ感想

東川篤哉さんの烏賊川市(いかがわし)シリーズには職業・探偵の鵜飼杜夫が登場します。が探偵は彼だけではありません。探偵以外のその場に居合わせた人が推理するという変則パターンで、おまけに冗談かと思うようなふざけた設定の事件なのですが、このおふざけ(?)が事件の鍵を握っているという真面目な推理小説でもあります。

笑って真面目に推理してまた笑う、5つの短編のあらすじと感想をゆるくまとめました。

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「探偵さえいなければ」書籍概要

烏賊川市シリーズの8冊目で、「倉持和哉の二つのアリバイ」「ゆるキャラはなぜ殺される」「博士とロボットの不在証明」「とある密室の始まりと終わり」「被害者によく似た男」の5編が収録されている短編集。

  • 探偵さえいなければ(2017年6月/光文社)

倉持和哉の二つのアリバイ

任されていた洋食屋のプロデュースに失敗した倉持和哉は、ガールズバーへの転向を図るために邪魔なオーナーの殺害をもくろんだ。酒に酔って川に転落し溺死したと見せかけるため、酔い潰れたオーナーを2Fの部屋に残したまま、アリバイ証人に仕立て上げるため探偵・鵜飼杜夫を1Fの店舗に迎える。だが倉持の計画に反して鵜飼は好き勝手に酒を飲んで酔っ払ってしまい、証人として何とも頼りない状況に。きちんと起きて時計を確認するよう何度も促し、トイレに立つと見せかけて2Fの風呂場でオーナーを溺死させた倉持は、事後処理もアリバイ作りもカンペキとほくそ笑んでいた。だがやって来た刑事2人にあっさりと犯行を見破られてしまい……。

 

殺害時刻のアリバイ作りに利用するつもりだった鵜飼が、探偵としてどうしようもなかったが為に足元をすくわれて犯行がバレてしまったという間抜けな犯人の話でした。

自分の言葉が命取り、まさに「探偵さえいなければ!」という叫び声が聞こえてきそうなコミカルな話でした。探偵は証言しただけで、探偵なのに推理はしていません。

ゆるキャラはなぜ殺される

烏賊フェスの「烏賊川市ゆるキャラコンテスト」、通称ゆるコンに出場するイカの剣崎マイカを補助しながら控え室のテントに向かう鵜飼と朱美は、ハリセンボンのハリー君が道端でひっくり返っているのを目にした。女の子に突き飛ばされたというハリー君はゴムで出来ているボール状の体型なので自力で起きることができないのだ。控室には川魚のヤマメちゃん、緑亀の亀吉くん、鷲のワシオさん、毛蟹のケガニンがいた。それぞれが愉快な個性を発揮している中、喫煙テントで悲鳴があがった。ハリー君が胸を刺されて死んでいたのだ。そばには凶器と思われるアイスピックが転がっていた。

 

ゆるキャラのキャラと中の人のギャップを楽しむ話であり、探偵がそばにいるのに推理はイカという烏賊川市のゆるさが前面に出ていたギャグ調の短編でした。推理部分は真面目なのですがそれ以外がゆるいので、全体的にゆるい話でした。ハリー君が殺された経緯は明らかになったのに犯人が捕まらないし動機も分からずであれ?と思っていたら、最後にあやしいのが出てきました。行間を読めば犯人はそのあやしい人です。笑えるミステリーというのも珍しいです。

博士とロボットの不在証明

AIロボット・ロボ太を開発した博士は、ロボ太にそそのかされて開発費として5千万円の借金をした相手・深沢を葬ることにした。ロボ太を深沢に変装させ、深沢が殺害後にも生きていたように見せかける作戦だ。深沢は規則正しい生活を送っているので犯行は簡単だと思われた。抵抗した深沢に小麦粉を投げつけられたり、ナイフで刺すつもりが首を絞めてしまったりと予定外のことが起こりつつも何とか成し遂げた博士は、証拠となるロボ太を解体し、周囲の人間に罪をなすりつけようと試みる。だがあることをきっかけに、あっさりと犯人だとバレてしまった。

 

ロボットを使って犯罪を犯してアリバイを作り、ロボットによって犯行が明るみにでるという何とも因果応報な話でした。探偵は出てこなかったので、探偵事務所が入るビルのオーナー、朱美さんが探偵役を務めていました。

ロボ太の他にお掃除ロボット・ルンバも登場したのですが、ルンバ、グッジョブです。

とある密室の始まりと終わり

息子の嫁の浮気調査を依頼された鵜飼は、嫁がノコギリを購入したこと、息子が高額の保険に加入したことなどを調べ、不吉な予感に駆られた依頼人とともに息子の家へと向かった。家は施錠されており窓を壊して侵入すると、真っ赤に汚れた風呂場に行きついた。浴槽のふたを開けるとバラバラになった息子の身体が浮かんでいた。念のため家中を調べた鵜飼と助手の流平は、この家が密室だったことを確認した。一体犯人はどうやって逃げたのか。

 

ホラーです。語り口が軽いのでコミカルな話なのですが、想像するとホラーでしかありません。よく犯人は正気を保っていたなと感心するばかりです。他の作家さんのミステリーではありえない展開をさらっと書いてしまうのが凄いです。

被害者によく似た男

バーでナンパした女性に犯罪を持ち掛けられた雅人は、彼女の殺害相手が自分の腹違いの兄だと知って驚く。兄と言っても交流は一切なく、実子の兄は豪邸住まい、認知されていない自分は30を過ぎてアルバイトという立場と女の甘言に乗せられて共犯を引き受ける。雅人のすることは、容姿がそっくりな兄に化けて兄の行きつけの喫茶店で犯行時間帯に兄がまだ生きているように見せかけるというアリバイ工作だけ。兄との違いは頭頂部が心もとない事と女性に言われ、魔法の粉を頭に振りかけてアリバイ工作に臨み、無事女性は兄を殺害し、警察も騙して完全犯罪を成し遂げたかに見えたが……。

 

ハゲ隠しの魔法の粉に足元をすくわれました。登場人物たちがやたらと雅人のハゲを強調するので、ただの笑いを取るための作者のサービスかと思っていたら、事件を解く重要なキーになっていました。今回も探偵は登場しません。凸凹コンビの刑事が、めずらしくスパッと最後を決めました。

 

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烏賊川市という舞台設定自体がゆるく、一つ一つの事件も現実味がなさそうな設定であるにもかかわらず、推理部分だけは真面目というマイナスとマイナスを掛けたらプラスになるという言葉を体現するような小説でした。

5作品とも殺人事件なのですが、5作とも人が死んでいるようには見えない一冊です。

 

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