東川篤哉「烏賊川市」シリーズ第1弾『密室の鍵貸します』あらすじとネタバレ感想

烏賊川市シリーズ第1弾の「密室の鍵貸します」のあらすじと感想をまとめました。

この話は鵜飼探偵事務所の助手・戸村流平がまだ大学生の頃、自身が巻き込まれ容疑者となってしまった2件の殺人事件の火の粉を振り払う話です。

シリーズを追うごとに遠慮のないやり取りになっていくのですが、この頃は比較的鵜飼と流平の会話も控え目なところがまた初々しくて面白いです。

気軽に本格物が読みたい人にとっては、うってつけの一冊になるかと思います。

「密室の鍵貸します」書籍概要

烏賊川市シリーズ第1弾となる長編小説。大学生・戸村流平が巻き込まれた2つの殺人事件を、鵜飼らが解く。

密室の鍵貸します(2002年4月/光文社カッパノベルス)

密室の鍵貸します(2006年2月/光文社文庫)

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烏賊川市大の映画学科の3年生・戸村流平は、オスカーやパルムドールを狙うような才能は自分にはないと悟り、先輩・野呂のつてを頼って地元の映像会社に内々定をもらい無難な社会人人生を歩むはずだった。

ところが恋人の紺野由紀からは、そんな人だとは思わなかったという言葉とともに別れを告げられ、友人らとの飲みの席で我を忘れるほど飲み、バス停やタクシーの中で由紀に対しぶっ殺すなどの悪態をつきまくるという失態を演じていたらしい。

そんな突然の別れに落ち込む流平に、野呂が声をかけてきた。自慢のホームシアターで映画でも見ようという誘いだった。何度か野呂の家へと遊びに行っている流平は、「殺戮の館」をレンタルし野呂の家を訪れた。

登場人物

  • 戸村流平:映画科3年生。地元への就職を決めたことで彼女に振られる。
  • 紺野由紀:元流平の彼女。
  • 野呂耕作:流平の先輩で映像会社勤務。借りている部屋を完全防音のホームシアターにリフォームした。
  • 鵜飼杜夫:私立探偵。流平の姉の元夫という縁で、流平から助けを求められる。
  • 二宮朱美:野呂のアパート「白波荘」のオーナー。
  • 砂川警部・志木刑事:事件の捜査にあたる

あらすじ

1977年に制作されたという「殺戮の館」は2時間半に渡る長編映画で、評判は芳しくなかった。観た人はもれなく退屈だったと口を揃えるが、映画科の流平としては一度見ておきたい代物だった。

野呂宅を訪れた流平はいつものように風呂を借り、午後7時半からホームシアターでの鑑賞を始めた。シアター内の機器はすべて野呂が扱う事になっており、他人は手を触れてはならないというルールがあった。また上映中に携帯電話などが鳴ると罰金を取るので、あらかじめ切っておくようにと注意も受ける。野呂は退屈そうにしていたが、流平はテンポよく進む「殺戮の館」を思いのほか楽しく鑑賞した。

午後10時に上映は終わり、酒盛りをするため野呂が買い出しに行ってくると部屋を出ていった。すぐ戻ると言った割になかなか戻ってこない。再び野呂が姿を見せたのは、ビデオデッキの時計が10時15分を指した時だった。防音で流平には何も聞こえないが、外では救急車や警察がやってくるほどの騒ぎが起きていて、つい野次馬に混じって見てきてしまったという。

白波荘から1分ほどの距離にあるアパートから誰かが転落死したらしい。その話を聞いて流平は落ち着かなくなった。そのアパートは由紀が住んでいるからだ。酒が進まない流平に野呂が風呂に入り忘れていたからとシャワーを浴びに行ってしまった。酒を飲んで眠くなる前に汗を流しておきたいらしい。10時半のことだった。

しばらくは雑誌を読んで時間を潰していた流平だったが、さっとシャワーを浴びるはずの野呂が11時になっても戻ってこないのを心配して様子を見に風呂場へと行くと、服を着たまま風呂場で絶命した野呂を見つけた。わき腹を刺されたらしく、薄手のナイフがそばに落ちていた。

流平はその場で気絶した。目が覚めると朝の9時半だった。近くの交番に駆け込もうと玄関へ行った流平は、ドアチェーンがかかっていることに気が付く。風呂も含め家中の窓を確かめると全てロックがかかっていた。つまり密室の中に被害者である野呂と流平しかいない。

状況は極めて不利だと思った流平は、自分の痕跡を消すためとっさに家中の指紋を吹き消し、酒やつまみなどをひとまとめにして部屋を飛び出し公園のごみ箱に捨てると、姉の元夫が私立探偵をしていることを思い出し、助けを求めて公衆電話に駆け込んだ。

流平をともなって野呂の部屋を調べに行った鵜飼は、シアター内にピスタチオの殻を見つけ、これに流平の指紋が残っているかもしれないし、野呂が酒屋で買い物したのは事実なので買ったものが部屋から消えているのは不自然だと流平のうかつな行動を責めた。また、野呂の凶器が薄手のナイフだったことから、彼が誰かに襲われてわき腹を刺されたもののナイフそのものが栓となってしばらくは歩くこともできた。暴漢から逃げるためドアにチェーンをかけ風呂場でナイフを抜いたため、そこで大量出血し絶命した、すなわち「内出血密室」だと推理する。

 

一方、砂川警部と志木刑事は転落死事件の現場に駆け付けていた。被害者は紺野由紀。第一発見者の目の前に落ちてきたため死亡時刻ははっきりとしていた。自殺かと思われたものの背中の刺し傷から他殺とみなされ、少し前に彼女と別れた戸村流平が酔っ払って物騒なことを口走っていたという証言が大量に得られたため、ほぼ唯一の容疑者として流平の行方を追っていた。

事件の日、流平が由紀のアパートに近い野呂の部屋でレンタルした「殺戮の館」を見ていた事を知った2人は、ますます流平への容疑を濃くして野呂宅へと出向き、白波荘オーナーの二宮朱美の協力を得て野呂の部屋の風呂場から、彼の遺体を発見した。流平は2つの事件の最重要人物になってしまった。

鵜飼とともに事件を調べた結果、

  • 7時30分、防音完備のホームシアターで「殺戮の館」の鑑賞を始める(流平、野呂)
  • 9時42分、由紀転落
  • 9時45分、由紀死亡、背中を刺されていたことから他殺と判明
  • 10時00分、「殺戮の館」終了、野呂が酒の買い出しに行くためアパートを出る
  • 10時15分、野呂帰宅。近所で事件があったと流平に話し酒盛りが始まる
  • 10時30分、野呂がシャワーを浴びるとシアターを出る。
  • 11時00分、様子を見に風呂場へ行った流平が、野呂の遺体を発見して卒倒する
  • 翌9時半、流平が目を覚ます。密室殺人の容疑がかかることを恐れ逃亡。

警察の調べで、由紀を刺したナイフは薄手のものと分かった。

また事件当時、白波荘の外でバイクの修理をしていた朱美の証言は、

  • 10時頃、バイクの修理を始める。野呂が酒屋に行くと言いながらアパートを出ていったが、戻ってくるときは無言で通り過ぎていった。
  • 10時35分頃、野呂の部屋からどすんという音を聞いた。
  • 11時半頃、修理を終える。

というものだった。朱美の証言から、野呂の死亡推定時刻周辺にアパートを出入りした人間はいなかった。

知り合いのホームレス宅に流平を託した鵜飼は、一人で事務所へ戻ったところを刑事2人に囲まれた。段ボールハウス内に一泊することになった流平は、新しくきたホームレスから献上されたという酒や未開封のピスタチオなどをふるまわれる。それは流平が朝方ごみ箱に放り込んで隠滅しようとした証拠の品に違いなかった。翌朝段ボールハウスを出て鵜飼事務所へと行った流平は、待ち伏せていた刑事らに捕まった。

 

流平から事件のあらましと鵜飼とともに調べた結果を聞き出した砂川警部は、ある推論を立て、それを実証するため流平がレンタルした「殺戮の館」を流平、鵜飼、志木とともに改めて観る事にした。

砂川の考えは野呂が由紀を殺した犯人だという説で、アリバイ工作のため「殺戮の館」と流平自身がトリックに利用されたというものだった。改めて「殺戮の館」を見始めた流平は茫然とする。それは確かに「殺戮の館」だったが、流平が見た「殺戮の館」ではなかったからだ。

 

まとめ

砂川警部は、「殺戮の館」という評価の低い映画を使って流平の感覚を狂わせた野呂のトリックを見事に暴きました。由紀を刺したナイフと野呂を刺したナイフは一致しており、おそらく由紀殺しの犯人は野呂だろうと思われます。

ですが、その野呂を殺害した犯人までは解明できませんでした。そこを野呂の部屋で見つけたピスタチオの殻をヒントに鵜飼が解き明かします。事件は2人の推理によって無事に解決しました。

野呂と由紀は流平の関係者ではありましたが、野呂と由紀の間に直接の接点はありませんでした。にも関わらず野呂が由紀を殺害した動機が、また意外なものでした。流平は巻き込まれた被害者でしたが、事件は流平を中心に回っていました。

 

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この頃は、まだ鵜飼も流平に対して遠慮も気づかいもあったようです。

今は「黎明ビル」の若きオーナーとして、家賃の支払いが滞っている鵜飼探偵事務所の上に君臨している朱美も、初登場時は白波荘のオーナーとして重要な証言をする一人だったのですね。それにしてもいくつもの建物のオーナーとは優雅な身分でうらやましいことです。